軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今は前より後ろを見てほしい

ビジュアル的にも性格的にもインパクトデカすぎなお姉様コンビが、まさかの意気投合を果たして数刻……俺は隣の部屋を訪れていた。

暴走転生者コンビのリリアとリリー嬢とはまた別の意味で「混ぜるな、危険!!」感満載のお色気お姉様コンビから解放され、切実に癒しを求めていた。

…………が、癒しを求めて訪れた弟の部屋には先客がいた。

どんよりとした暗雲を背負って背中を丸めるアレクサンドラと必死に彼を慰めるシリウスの姿。

即座に状況把握を果たし、その時点で出直したい気持ち満々だったのだが…… 踵(きびす) を返す前に彼らの向かいに座ってたガーネストにバッチリ見つかった。

天の助けっ!!とばかりに輝く瞳は……うん、非常に覚えがある。さっきエンドレスリピートに飽きた俺がサスケの登場にしてたのと同じだね。

可愛い弟を一人見捨てる訳にもいかず、ガーネストの横に招かれた。

それからこの世の終わりみたいに落ち込むアレクサンドラを適当に慰めた。

ぶっちゃけ、めんどい。

「避けられている」「嫌われたかもしれない」そう弱々しく漏らす彼は、落ち込んだ人間に有りがちな負の可能性を見つけては深みに嵌る無限ループ。いくら宥めても「いやだが……」「しかし……」の繰り返し。

むしろ逆だろ。

溜息とともにその言葉を飲み込んだ。

そして現在、俺はリリー嬢と向き合っている。

テーブルを挟んで正面に座ったリリー嬢は、俯いたり、キョロキョロと視線を 彷徨(さまよ) わせたり落ち着きがない。それはいい。

それよりなによりリリー嬢の背後、部屋を一つ挟んで開け放たれたドアにへばりつく存在が気になって仕方ない。

通路にしゃがみこんでひょっこりと半分だけ顔と金と銀の頭を覗かせる不審者の正体は、アレクサンドラとシリウスだ。

なんでも俺とリリー嬢が二人っきりになるのが心配だったらしい。

キノコが生えそうな程じめじめと落ち込んでたアレクサンドラに「宜しければ私が少し話をしてみましょうか?」って提案した時はめっちゃ喰いついてきた癖に。失礼じゃねぇ?

心配しなくても手ぇ出す気は皆無ですけどー。

まぁ、心外な心配はさておき、嫁入り前の女の子が密室で男と二人っきりというのは宜しくない。だが、話の内容的に人払いはしたい。ってことで、「疚しいことはありませんよー」の配慮のうえのドアオープンなんだけど……気になりすぎて我慢できなかったらしい。

それにしたってもうちょっと隠れようぜ?

「どうかしました?後ろになにか……?」

シュールすぎて二人を凝視していると、リリー嬢が不思議そうに振り返った。

あっ、頭ひっこめた。

素早く隠れた二人に気付かず、不思議そうに首を傾げるリリー嬢に「なんでもありません」と笑って誤魔化す。

正直、再びじぃっとこちらを眺める二人が気になって仕方がないが……まぁ、この距離なら話は聞こえないしいいだろう。気にしたら負けだ。

「急にすみません。ですがあの事件以降、お元気がないようなので気になって。皆も随分と心配しています」

「す、すいませんっ」

『いやぁぁぁ~~!バレてるっ!!挙動不審だったのめっちゃバレてる。いやうん、そりゃあわかるよね。明らか私の態度おかしかったし……も、もしや、私がアレクサンドラ様好きなのもバレて……』

カァァァと耳まで真っ赤に染まって、ちらちらと上目遣いにこちらを窺うリリー嬢へにっこり笑う。漫画なら頭から湯気が出そうな状態の彼女は非常にわかりやすい。

バレバレです。

「人に話すことで気持ちに整理がつくこともあります。言いたくなければ無理にとは言いませんが、私でよければ話ぐらいは聞きますよ?」

彼女が思い悩んでいることは大体知ってる。心の声が垂れ流しだし。

だからこそ余計なお節介を承知でこんな機会を設けたのだから。

同じ転生者として。

泣き出しそうに表情を歪めたリリー嬢がぽつり、ぽつりと語り出す。

恐かったこと、不安なこと、どうすればいいかわからないこと。

「……きっと私、危機感が足りてなかったんです……あんなことがあって、それを思い知っちゃって。色々考えちゃったらぐるぐる深みに嵌っちゃって」

あはは、と無理矢理に作った笑顔はあまりにもぎこちない。

「私、現実がちゃんと見えてなかったんです」

取り繕おうとした笑顔を捨てて、泣き出しそうな声が告げた。

核心をぼかした言葉達はどれも奇妙にわかりにくいけれど、とりとめのない言葉の欠片と彼女の心境はよくわかった。なにせ同じ想いを抱いたことがある身だ。

“知っている”ということはあまりにも大きい。

「この世界は現実だ」そう頭で理解したつもりになっていても、本当の意味ではそれを理解するのは難しい。目の前の相手が0と1で表せるデジタルの存在でないとわかっていても、見知った容姿や境遇に半ば無意識に設定を思い浮かべてしまうの仕方がないことだろう。

それは俺も同じ。

ただ俺の場合は幼い頃に命を狙われ半ば強制的に現実を痛感させられた。

だけどリリー嬢は数年前まで貴族社会に関わることもなく平和に暮らしていた女の子だ。

ましては姉さんに頼まれて仕方なくゲームをプレイしてた俺と違い、この世界やキャラに対する思い入れだってずっと強かった筈。

あれだ、ファンが好きな相手を前に冷静でいられるかって話だ。ましてやヒロイン。

ハッピーエンドが約束されない筋書きのない未来への恐れや不安、

幻想を重ねて彼ら個人をしっかりと見ていなかった自分への嫌悪、

アレクサンドラが好きなのは、自分が演じる ヒロイン(リリー) なのではないかという葛藤。

それらを今、リリー嬢ははっきりと自覚してしまった。

だから悩み、自分を恥じ、戸惑い、様々な感情を持て余してる。

「それはたぶん普通のことですよ」

微笑みを浮かべる俺の瞳は、きっと幼い子供を見るように優しいだろう。

だってその感情を、よく知ってるから。でもさぁ。

「日常的に危機感を抱ける人なんてそうそういないんじゃないですか?事故や病気、自然災害、ありがちな危険だっていざ自分の身に降りかかるまで切実な危機感なんて抱けませんし。未来なんて誰にもわからない」

ぱちりと瞳を見開いた彼女にこの言葉は届くだろうか。

「誰かの瞳に映る誰かには、必ずその人の主観や幻想が混じっているものですよ。それと、見られる側の取り繕いもね」

そう、結局は普通のことなのだ。

正直、ゲーム知識が通用しない展開に不安や焦りを感じてるのは俺も同じだ。

だけど俺ら自身が既に好き勝手してるうえ、こんだけ転生者がいっぱいいる世界だし。それにそもそも、先の展開を知ってることが異例で未来なんて本来はわからなくて当たり前なんだよね。

誰かに幻想や憧れを重ねてその人を正しく見れないことも、自分を演じることも誰だってある。

まぁ、程度の度合いはあるだろうけど……。

ああ、でも……。

本棚に凭れ掛かる一人と一匹を思い出して自然に表情が綻んだ。

「貴方に嘘はないと思う」

「えっ?」

「隠してるところや取り繕ってるところはあっても貴方自身には嘘がないと思う。以前、友人が私に言ってくれた言葉です」

あっちが友人と思ってくれてるかは謎だけどね……。

「私もそう思いますよ。リリー嬢が周囲に見せるその姿が全てはないとしても、それでも貴女自身に嘘はないと」

「リリー嬢は感情の起伏が分かり易い素直な方ですし」と茶目っ気を混ぜて付け加えればボフンっ!と顔が真っ赤に染まった。

「あのっ、その……私の気持ちって筒抜け、ですか?」

「わりと」

『いやぁぁぁぁぁ~~~!!やっぱりっ!!』

苦笑いと共に一言返せば、涙目なリリー嬢は両手で顔を覆った。

はるか後方では状況のわからないアレクサンドラが、ずるずると前に進もうとしてシリウスに押さえつけられている。

通りがかった使用人が見ちゃいけないものを見た顔してますよー。気付いてねぇな。

「でも本人はわかってないみたいですよ。「避けられてる」「嫌われた」って嘆いてましたし」

「なんでっ?!」

「わりと露骨に逃げてましたしね」

「あ、あれは恥ずかしくてっ!!」

ガバッと顔を上げたリリー嬢は叫んで、慌てたように言い訳をはじめた。

それは後ろでオモシロ行動してる、余裕のない王子サマに説明してあげてください。

同じ悩みを抱いた転生者としてお節介はしたけど、恋愛事にまで口出す気はないんでー。

「現実が見えてなかった。そうリリー嬢は言ったでしょう?現実を見るっていうのは、今と向き合うことですよ。結局、私たちに出来るのはそれだけです。貴方が抱いたその迷いや不安とどう向き合うか。逃げるのか受け入れるのか、それとも抗うのか……なにを選ぶかは貴女次第です」

「……はい」

小さく頷いて、噛みしめるようにもう一度「はい」と頷いた菫色の瞳は真っ直ぐに前を向いていた。