軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勘弁してください

……また来たよ。

高らかに「ご機嫌よう!」と登場した美女に思わず抱いた感想はそれだった。思ったのは多分、俺だけじゃない。

「また来ましたの?」

あ、ほら。

アイリーンが呆れた様子でズバリ指摘したし。

「ラン様は?」

アイリーンの呆れなどなんのその、キョロキョロとお目当ての姿を探すアイーシャに、仕事で外に出てることを伝えればあからさまにガッカリされた。

「会えない時間が、また愛を燃え上がらせるのですね」

切なげに呟きながらちゃっかりソファへ着席なさった。

哀しいかな、俺の渾身のツッコミは届かず、恋する乙女と化したアイーシャはあれから時間を見つけては訪れている。

ランが居れば頬を染め恥じらつつ話しかけたり、居なくても周囲から少しでも情報をゲットしようと貪欲だ。

おっとり接するランの方にその気があるのかは不明。

体型的には好みど真ん中のナイスバディな筈だが、特に喜ぶでも拒むでもなく至って普通に接している。

まぁ、お互いいい大人だし、人の恋愛にとやかく首突っ込む気もないけど……問題だけは起こさないでほしい。相手は仮にも王族の一員、国際問題とかシャレにならん。

「でも、これで全てが解決すればいいわね」

膨らみはじめたお腹を撫でながらアイリーンが呟いた。

リリー嬢とアイーシャを監禁した 大臣(ワズィール) は現在、牢の中だ。

二人を 攫(さら) ったのは手下の突発的な行動だったけど、監禁にはバッチリ関わってるから言い逃れはできない。元々、余罪がわんさかのうえに今回の誘拐監禁。

さらには集落に毒をバラまいた件についても追及を受けてるし、ジュエラルに手駒を頻繁に行き来させてた履歴などから障害事件への関与も濃厚だったりする。

アイリーンが言うように、あのオッサンが捕まったことで色んなことが早期解決してくれれば有難い。

早くジュエラルに帰りたいしね。

切実なベアトリクス不足……。

「まったく!国の恥晒しにも程がありますわっ!!」

「そうねぇ。自国に不利益を 齎(もたら) して、同盟国との関係を悪化させて、挙句の果てに誘拐・監禁。一体何が目的だったのかしら?」

「リリー嬢を狙っていたようですが……彼はアンジェスの狂信者なのですか?」

「まさか!あの男が信仰など持つとは思えませんわ。わかりやすく自分の利しか考えてない小物ですもの。…………でもそうですわね、本気で信じていなくとも“その価値”が己の“利”につながると考えてた可能性はありますわ。国を混乱に陥れようとしたのも、その機に乗じて自分の権力を増す狙いだったのかも知れません」

真面目な話が終わった後は恋愛トークに突入した。

ロマンティックな運命の出会い(本人談)や溢れる想いを誰かに聞いてもらいたくて仕方がないらしい。

もうその話、二桁は聞いたよ……。

死んだ目で適当な相槌を打っていると、視界の隅に黒い影が過ぎった。

「ご歓談中申し訳ありません。ただいま戻りました」

シュタッ、と姿を現したのはサスケ君。

天の助け!!とばかりにアイーシャの相手をアイリーンに押し付け業務報告を聞く。特に目新しい情報はなかったけど、エンドレスリピートの恋愛トークよりマシだし。

報告を聞き終え席に戻るとキランッと光る瞳が獲物を定める。

「ねぇ、少年。ちょっと宜しいかしら?」

「俺、ですか?」

今まさにこの場を辞そうとしていたサスケが足を止めた。

「その服装、ラン様のお仲間よね?」

動き易い黒い装束と身のこなしなどから判断したアイーシャは前のめりだ。見事な谷間が超くっきり。

「ラン様のことを教えてくださらない?好きなモノ、嫌いなモノ、普段の様子や……あたくしのことを仰ってたりはしないかしら?なんでもいいのよ。少しでもあの方のことを知りたいのっ!」

熱量高く捲し立てるアイーシャの立派なお山には目もくれず、無表情ながら困惑を孕んだ瞳が助けを求めるようにこっちを見るが……いかんせん、俺にこのおねーさんを止めるのは無理だ。

すまん、とふるふる首を振れば鈍色の瞳が困惑を深めた。

それでも矢継ぎ早に投げ掛けられる質問に律儀に答えていたサスケがある質問にパチリと瞬いた。

「特別な人…………カイザー様です」

ゴフッと飲みかけていた茶が変な方に入った。

んでもって、アイーシャから射殺しそうな嫉妬と殺気の混じった視線を頂いた。

アイリーンは口元を覆ってあらまぁと愉し気だし、問題発言した当のサスケ君はいまいち状況を理解してない。

「サスケ、アイーシャ様がお尋ねの“特別”は恋愛感情を伴う方です」

苦笑いを浮かべたリフの言葉にサスケが目を見開く。

うん、キミに他意はないのはわかってる。

「ランはカイザー様とハンゾーを尊敬し心酔してますから。彼が言ったのはそういう意味での“特別”です」

幸い噴き出しはしなかったものの、すぐさまタオルを差し出してくれたリフのフォローに全力でこくこくと頷く。

「そうですよ。第一、ランはプロポーションのいい女性が好みですし」

嫉妬に満ちた視線から逃れたい一心でそんな一言を付け加えれば、喜色を浮かべたアイーシャが大袈裟なガッツポーズをかました。

「勝ちましたわっ!!」

いや、そんな俺の胸元じっと見た後で勝ち誇った顔されましても……。

ふふん顔でわざとらしく胸を張るアイーシャと、「なぁんだ、つまんない」と唇を尖らすアイリーン。

ナニ、コレ??

俺にどんな反応を期待してんの?

げっそりと疲れを感じていると救世主の声が響いた。

「特定の女性は今はいないようですよ。性格等の好みは詳しくは知りませんが、嫌いなタイプなら知っていますよ」

「それはどんなっ??」

ガッツリ喰いつたアイーシャにリフはにっこりと綺麗な笑みを浮かべる。

「カイザー様、ひいてはルクセンブルクの方々の敵です。先程申しました通りカイザー様はランの“特別”ですから。誰だって自分が好意を抱く方に反感を示されるのは好ましくないでしょう?」

一瞬の間を置き、アイーシャは綺麗に姿勢を伸ばして侍女を手招いた。

「遅ればせながら、本日は先般のお礼に伺いましたの。危ないところを助けて頂き、このアイーシャ心よりお礼申し上げますわ。これは心ばかりのお礼の品です。どうぞお納めくださいましな。ラン様やハンゾー様、弟君のガーネスト様方にも改めてお礼をお伝えする機会を頂ければ幸いですわ」

美しい姿勢で下げられた頭と、テーブルへと置かれる包み。

掌返しはっやっ!!

いっそ清々しいほどの変わり身だ。いやまぁ、お礼の品を持参してたってことはお礼をしにきたってのは本当なんだろうけど。

それにしてもリフの発言を聞いてからの態度の豹変がすごい……。

しかもリフが心なしかほくそ笑んでねぇ?

もしや俺が意味の分からん見下され方をされたのが気に喰いませんでしたか?

それともジャウハラの上層部に味方を作っとこうって腹ですか??

やだ、リフったら策士ー。

その後、雑談を経て話題はまた恋愛トークにループし、

「でもまぁ、わからないでもないわ。恋は堕ちるものだもの」

「あらっ、意外に話がわかるじゃありませんの!」

「理屈じゃないのよね、本能なのよ」

「ええ、ええ!!まさに運命ですわ」

まさかの面倒なお姉様お二人が意気投合した。うそん。