軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

運命を告げる祝福の鐘の音

いきなり押しかけた 来訪者(俺たち) に、 狼狽(ろうばい) をあらわにする男たちを半ば跳ね除け強引に押し入る。真っ先に訪れたのは 大臣(ワズィール) の別宅だ。

別宅とはいえ正式なものではなく、名義も別人なら密会などに利用している隠れ家的なモノ。

つまりは、めっちゃ怪しい。……とはいえ、証拠もなく押し入ることも出来ないから、王様より別件での捜査令状っぽいものを入手済み。権力万歳!!

「これが目に入らぬかぁー!」とばかりに国王からの書状を掲げる兵の脇をすたこら通り過ぎる。

急いでるんで先、行きますねー。

犯人も居場所も不明だったけど、門前で未だ争う私兵らしき男たちの狼狽っぷりを見るにどうやらビンゴだ。

「リリー!!どこにいるっ?!」

振り乱した髪もそのままにアレクサンドラが叫ぶ。

「……あちらです」

空中に視線を投げ掛けたハンゾーが一拍置いて答えた。

指された方向へと駆ける脚を止めないままに、なんでわかるのかを問えば「香水の香りが」とのお返事。

優秀すぎる警察犬……もとい、ハンゾーさんの指示の通りに、邪魔者を昏倒させつつ進んでいると怒鳴り声が聞こえた。

「ふざけないでっ!!」

リリー嬢の声に「あっちだ!」と叫んだアレクサンドラが一層その俊足に力を籠めた。

「怪我はありませんか?」

アレクサンドラにしがみ付いて泣きじゃくるリリー嬢に問えば、驚いたように顔を上げた。

どうやら俺たちには気づいてなかったらしい。

「あ、アイーシャ、様……地下っ…!」

「地下にアイーシャ様が?」

はっと瞳を見開いた後、 呂律(ろれつ) の回らないまま必死に訴える姿に聞き返せばコクコクと頷かれる。

「私たちはそっちに向かいますね。ここはお願いします」

若干(じゃっかん) 黒コゲのオッサンを確保したまま頷くシリウスを横目に身を 翻(ひるがえ) す。視界の端を淡い藤色の髪が過った。

「先行します」

「ああ、頼む」

ハンゾーは俺の護衛も兼ねてるため、一言断りを告げたランが白い羽織をひらめかせる。早っ!

ガタガタと争う音と呻き声が響き、部屋に足を踏み入れた時にはすでに乱闘は終了していた。三人ほどの倒れ伏す男たちとアイーシャを抱きかかえたランの姿。呆然と目を見張ってるアイーシャだが、見る限り怪我は無さそうだ。

突然の侵入者に階段をドタドタと駆け下りてきた男たちは、あっさりとハンゾーが無力化した。

おおっ、相変わらずお見事!!

そして俺、見事に居る意味ないですね!完全についてきただけだ。

全力疾走の疲労感だけを残しつつ近づくと、アイーシャが戸惑いがちに口を開いた。

「カ、カイザー様……?」

「ご無事で良かったです。リリー嬢と共に 攫(さら) われたのを覚えておいでですか?」

話しかけても、どこかぼんやりと反応の鈍い彼女に衝撃が大きすぎたのだろうかと心配していると……ランが抱きかかえたままのアイーシャに顔を近づけた。

声にならない声が洩れ、細い肩が大きく震える。

うん、俺も 吃驚(びっくり) した。

まぁ、当然ながらその動作は口付けなんかじゃなくて……顔を上げたランが淡々と告げる。

「薬の残り香が。意識を失わせるのに使われたのでしょう。痺れ薬の類も微量に含まれているようですね」

「人体への影響は?」

「平気です。効果もあと数時間もすれば完全に消えるかと」

残り香から使われた薬の特定まで可能ですか……。

マジ優秀ですね。

二人も無事救出したし、ひとまず撤収しますか。

当然ながら王宮は上を下への大騒ぎ。

国賓と王族の誘拐だからな。そりゃあ蜂の巣をつついた騒ぎにもなるだろう。

「この機会に存分に 膿(うみ) を出しましょう」

唇の端をクッと上げて、不敵なイケメンスマイルかました弟がやたらとヤル気満々です。影たちもヤル気満々で情報収集へ飛び回ってます。

リリー嬢の証言から、例の病の原因である毒を集落の井戸などにばらまいた主犯が 大臣(ワズィール) って判明したことも大きいかも。

彼女が攫われた原因は、なんでも言い争う男たちの会話を聞いてしまったらしい。

人気がない場所とはいえ屋外でそんな話すんなよって話だけど……。

大臣(ワズィール) が国に目をつけられてることもあって、抜ける抜けないで揉めた末にヒートアップして声が大きくなっちゃたみたいだ。それを聞いてたのを見つかって攫われた、と。

アイーシャに至っては完全にとばっちり。

「少しは落ち着かれましたか?」

長椅子に腰かけるアイーシャに問いかければ、焦げ茶のアーモンドアイがぼんやりとこちらを映す。

気を利かせたリフが温かな茶を淹れてくれた。アイーシャの侍女は彼女の無事に泣き崩れてそれどころじゃないしな。

ちなみにリリー嬢たちはここに居ない。泣きじゃくったままアレクサンドラにしがみ付いてた彼女は今は寝落ち中。

アレクサンドラは真っ赤になって悶えてんじゃねぇかな?離れようとしないリリー嬢に道中も顔色ヤバかったし。

一方、アイーシャはというと泣きも喚きもしないかわりにずっとぼおぉっとしたままだった。被害者二人がそんな感じなんで最低限のことだけ聞いて詳しい事情聴取は明日になった。

黒々とした長い睫毛をパチパチと瞬かせたアイーシャが、夢から 醒(さ) めるように小さく首を巡らす。なにかを探すような動作に「どうしました?」と問いかければ「あの方は?」という小さな声が聞こえた。

「リリー嬢ですか?ご無事ですよ」

「いえ、藤色の髪をした、私を助けて下さった方……」

ぎゅっと胸元を手繰り寄せてアイーシャが答える。

彼女が身に 纏(まと) ってるのはランの羽織だ。布面積少なめの攻め攻め宴衣装のまま攫われた彼女にランが貸した。かくいう俺も未だに着替えれてないけど。

「ああ、ランたちは情報収集に出向いてくれてます」

お気にの白い羽織を脱いで黒装束で向かったってことは……情報収集だけでなく戦闘もヤル気満々なんだろうけど。血塗れスプラッターモード発動ですね。

白いと返り血で汚れちゃうしね。

出来る弟、ガーネストの仕切りで皆さんヤル気満々ですよ。

あの隠れ家のことといい、諸々の悪事の情報といいジャウハラの方々がちょっと引いてた。

自国の自分達が掴んでないアレな情報、他国の国賓が掴みまくってるとか怖いもんね。めっちゃ顔、引き攣ってた。

「ラン様……」

胸の前で手を組んで夢見るように呟くアイーシャ。

およ??

これは、もしや…………。

「なんて涼やかなお名前。上品で整ったお顔に優し気な瞳。それなのにあっという間に暴漢を倒してしまわれたお強さと、あたくしを軽々と抱き上げて下さった頼もしさ……素敵♡」

上気した頬でうっとりと吐息を零す姿は、さすがはお色気担当。色っぽさがハンパない。

「これが……運命の出会い」

熱っぽい呟きがぽってりした唇から漏れた。

「あー……と、その」どう対応したらいいかわからず、無言でリフに助けを求める。

なんてこった、リフも困って固まってる。

「えっと、アイーシャ様。その、一旦落ち着きましょう?」

「落ち着いてなんていられませんわ!なんせ運命の出会いですのよ?!ああ、あたくしの白馬の王子様っ!!」

さっきまでの放心っぷりは 何処(どこ) へやら、急にテンション全開だなっ?!

そして「運命の出会い」とか「白馬の王子様」とか、意外と乙女趣味!!

いや、助けてくれたランにときめくのはいいんだ。

ランは中性的ではあるものの美形だし、アイーシャの言うように強いし頼もしいのも知ってる。男の俺を軽々抱きかかえて走れるんだからアイーシャなんて楽勝だ。

それはいい。や、俺がお姫様抱っこされたのは全然良くないけど……。

ただランはあれだ、ちょっと二重人格っていうか、外見詐欺っていうか。

仮にも一国の王族のお相手にはちょっと物騒といいますかね。

それとなーく、ほんとうにそれとなーくランが非常に優秀な人物だけど汚れ仕事とか荒事に関わる人物であることを伝えるも、恋する乙女フィルターの前では無力だった。

「この胸の高鳴りの前に、そんなことは関係ありませんわ!!」

「それって、吊り橋効果もあるんじゃ……?」

「瞳が会った瞬間、全身を襲った痺れがあたくしに運命を告げたのです」

「痺れ……痺れ薬の 所為(せい) では??」

「それに確かに聞こえました。運命を告げる祝福の鐘が……!!」

「祝福の鐘、ですか……?」

「ええ、シャランシャランという華やかな音がっ!!」

「それっ、祝福の鐘じゃないですっ!?」

思わず全力でツッコミを入れる。

それ俺だよっ?!!

今もシャララーン!って奏でられたこの装飾品の音だよねっ?!

ジャラジャラしたネックレスや邪魔になりそうなものは外したけど、髪の装飾は編み込んであって外す時間なかったからそのままだ。全力疾走にシャランシャランやかましいったらなかった。

ぶっちゃけハンゾーが倒した男たちとか、この音が引き付けたようなもんだと思うんだ。

「ああ、ラン様……」

ハート目で想いを馳せる恋する乙女に、俺のツッコミは微塵も届かなかった。