軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

正しい開閉方法は謎なまま

多数の脱落者を出しながらも盗賊たちは逃げ続けた。

出遅れた俺達がハンゾーたちに追いつく頃には、その数は当初の何分の一かという数まで減っていた。

だが馬上から反撃を試みる奴らを堂々と捨て駒にし、己が逃げることだけに重きを置いた数人とはそれなりな距離がひらいてしまっていた。岩場や天然の障害物が多く、地の利があちらにあったことも大きい。

「いたっ。あっちだ」

ガーネストが指さした方向に、洞窟らしき穴へと慌ただしく逃げ込む男たちの姿が見えた。大小の岩が行く手を阻む岩場は、馬に適さず仕方なく一度降りる。

「馬は私が繋いでおきますのでどうぞお先に」

あ、やっぱり今日も縄はお持ちなんですねリフさん……。

どこからか取り出されたそれらを横目に走り出す。

つか、ハンゾーたちはやっ!!待って、追いつかない。

盗賊の男たちが逃げ込んだ先、真っ二つに割れた大岩が音もなく閉じていく。最後の男が滑り込んだ時にはぎりぎり人ひとり通れるぐらいだった隙間は、ハンゾーたちが辿り着いた頃には閉まる直前だった。

これってアレでしょっ?!!

自動開閉する大岩。盗賊たちの隠れ家。と、くればお馴染のあの呪文を叫べば開くやつでしょ。絶対!!

叫ぶ?叫んじゃう??

「開け、胡麻ー!!!」って声、張り上げちゃう??

いや、でも、それで万が一にも違ったら……めっちゃ恥ずかしいんですけど!!

「突然どうなさいました?」とか聞かれたら居た堪れない。もし開いても「 何故(なぜ) 、開閉方法をご存じだったんですか?」ってならない?

完全に閉まる寸前の扉を前にあーだこーだと空回りする思考のまま辿り着き、「あーもー!!仕方ねぇ!!」と覚悟を決めて腹筋に力を入れたその時だった。

「退いて下さい、ハンゾーさん」

メイド服の裾を 翻(ひるがえ) し、真横を走り抜けたエリーゼが大岩の隙間に手を掛けた。

「はああぁ…………フンッッ!!!」

なんということでしょう。

大きく息を吸ったエリーゼが 喝(かつ) を入れると共に、ゴゴゴゴゴッッッ!!!とこじ開けられていく大岩。

両手で限界まで押し開き、それ以上手を伸ばせない位置までいくと左側の大岩をそれ以上開くのを諦めたようだ。エリーゼは右側の大岩に両手を添えて、そのまま体重をかけてググググッと押し切った。

まさかの力技で問題を解決したエリーゼは、ガガガッッガコッ!!と盛大な音を立てて動きを止めた大岩を前にぱんぱんっと手を叩くと、一瞬前の勇ましさなんて欠片も見せない優雅さで「さぁ、お通り下さい」と右手で洞窟の奥へと促した。

「かたじけない、メイド殿」

「 流石(さすが) です!エリーゼさん」

「エリーゼ、すごーい!!」

すたこらさっさと走り抜ける三人はちっとも動じない。すげぇな。

入口が開かれたことで日差しが差し込み、見通しが良くなった洞窟内では……逃げ込んだ盗賊たちが「うそん」って顔で口と目をあんぐり開けて足を止めてた。だよね。

ガーネストも 吃驚(びっくり) 顔だ。

可愛い弟がこっち側でお兄ちゃんは安心しました。

「その、エリーゼ?えっと……手、大丈夫??」

「はいっ!お気遣い、有難うございます」

ぎこちなく声を掛ければ、輝くような笑顔で礼を言われた。

某少年漫画の服がブチブチィッ!ってなって、筋肉がムキッと隆起するシーンを思い起こさせるような怪力を披露したエリーゼだが、どうやら服も手も無事らしい。

「はぁー、本当にいい職場だわ。報酬もだけど人材環境って大事。ドン引くだけならまだしも、女性に対して「ゴリラ」呼ばわりしてきやがるような男は頭握り潰してやりたくなるもの」

万が一、扉が再び動き出して閉じ込められるなんてことにならないように、入口で待機したエリーゼの独り言がやたら響く。

洞窟内だからね。反響いいんだ。

うん、エリーゼは優秀なんだけどね。

その心の声を声に出しちゃう 癖(くせ) 、直したらすごくいいと思うんだ。

あと「ゴリラ」は禁句なんですね。絶対言いません。

そして盗賊たちの捕縛はあっさりと完了した。

ハンゾーたちがサクサクッと意識を狩りとり、縄でぐるぐる巻きのみのむし状態にして洞窟内に放置(馬の数が限られてるし、人手を呼んでこないと運べないから)し、入り口を封鎖。

壊れて閉まらなかった入口は、エリーゼが適当な大きさの岩をゴロゴロと積み上げるという力技で封鎖された。

『怪力』の『異能』スゲー。

なにが凄いって、インパクトが凄い。

ちなみにみんなの意識が向いてない時に、ちっちゃな声で「閉まれー、胡麻」って言ってみてもダメだった。ちぇ……。

一旦村へと戻り、アレクサンドラたちと合流した後は、時間も時間だったので宿へ一泊した。ハンゾーが宮殿への遣いを申し出てくれたので、明日合流してから帰還予定だ。

エリーゼが居ないと岩、どかせないしね……。

案の定というべきか、宮殿は大騒ぎだった。

まぁ、国賓が襲われたとか大事だしね。全員まるっと無事だけど。

「捕らえた 賊(ぞく) どもをすぐに処刑をっっ!!」

国王直々に出迎えられ、安否を確認されたあと広い一室へと通され、お偉方を交えた事情聴取。

でっぷりとした腹を揺らした 大臣(ワズィール) が唾を飛ばしながら国王へと叫ぶ。

「まずは罪状と余罪も含め聞き取りを……」

「悠長なことをっ!!大事な国賓が襲われたのだぞっ?!ジュエラルとの国交を危険にさらすつもりかっ?!!すぐに誠意を示すべきですっ」

別の 大臣(ワズィール) が声を上げるも、それを打ち消すように喚き散らす声が煩い。

そしてそれ以上に聴こえる心の声が。

『早く、奴らを始末しなければ!!依頼時にワシの名は出してないし、証拠もない筈だが万が一……』

俺らの身を案じてだ、国の為だ……そう言い訳をつけているものの、結局は自分の保身の為に盗賊どもをとっとと始末したいのだろう。

他人の命を駒としか思わず、「殺せ!」「殺せ!」と喚きたてる男に、腹の内で何かがぐつりと沸き立つ。

喚き声が不愉快で、耳障りなそれがまるで呪文のように響く。

「カイザー殿?どうかされましたか?」

声を掛けられ、はっと顔を上げた。

いつの間にか、深く俯いてしまっていたらしい。

上げた視線の先には、じっとこちらを見る藍色に星屑のような金の燐光が浮かぶ瞳があった。ぼんやりとサヴィアスの瞳を見つめ、「いいえ」と緩く首を振る。

上手く働かない頭でぼんやりと現状を思い出す。

話し合いは既に終了し、「直ぐに処刑を!」というむちゃな要求が通らなかったオッサンは焦りと苛立ちを露わに腹をゆっさゆさ揺らしながら退出した。丁寧な謝辞を告げた国王や他の者も次々と席を立つ中、座り込んでしまっていたらしい。

相当ぼんやりとしていたのか、ガーネストやリフたちも心配気な顔を向けてくるのに気づき、やべっと焦る。

部屋へ帰るか……と、立ち上がろうと机に手を置いた瞬間、再び声を掛けられた。

「あの幼子は、随分と魔術の扱いに長けているようだ」

切り出された話題に自然、瞳が尖るのがわかる。

「大したものです。アレクサンドラは混血でも力が強く発現しましたが、私は攻撃魔術などにはとんと秀でていないので」

警戒を露わにするこちらを察してか、あくまで緩やかにサヴィアスは告げた。

穏やかなその様は雑談のようで、彼がやたらとマオの話題を出してくるのが 敢(あ) えてなのかそうでないのかわからない。

あの 大臣(ワズィール) と違い、理知的な彼は心の声も聴こえ難いから尚更だ。

帰りたいんだけど……。そう思いつつも上げかけた腰を中途半端に椅子へと下ろす。

「私では教えられないことも多いので。あの子が生きるのに必要なこともあるかと、アレクサンドラ様にも魔術の扱いなどを教えていただきました」

盗賊たちの身体に残っていた風の魔術の傷痕。

アレクサンドラが使うのは専ら火だし、マオが魔術を扱えることに気づいた者も多いだろう。わざわざ好奇の目に 晒(さら) したくはないからマオは部屋で待機中だ。

「確かガーネスト様も『炎』を操られるのだとか。『異能』というのでしたかな。ジュエラルの貴族が受け継ぐ特殊な能力。大変興味深いものです」

「叔父上」

咎(とが) めるようにアレクサンドラがサヴィアスを呼んだ。

それにもサヴィアスは「どうした?」とでも言いたげにアレクサンドラを見返すだけだ。

なんでもないような反応にアレクサンドラは口を噤む。

発言は深読みすれば『無能』な俺への当て擦りで、だけどサヴィアスの声音は嫌味なものではなく、ましてや『無能』の噂を知っているのかも定かでない。なので 迂闊(うかつ) に 窘(たしな) めることも出来ない。

下手に「失礼です」とでも咎めて「何故だ?」と聞かれたら、逆に人前で俺の説明をすることになるしね。別にいいけど。

ま、そもそもサヴィアスは知ってんだろうけど。

どっかの“若造”から聞いてるだろうし?

「いつまであの幼子を手元に置かれるつもりです?」

誰も口を開かない不自然な沈黙のあと、唐突に問いかけられた。

「いつまで、とは?」

「魔人と人間。先程、貴方自身が仰ったように教えられないことも、わかりあえない部分も多々ありましょう」

見据えた先の瞳は、まるで紺碧の夜空のようだ。

濃い藍色に浮かぶ星屑のような燐光。

ぼんやりと見つめれば、その黄金の星屑が揺らめいて見える。まるで瞬く星のように。

「あの幼子は貴方たちとは異なる存在だ。先行きの見えぬ未来を共に歩まれるおつもりか?」

くつり、と。

腹の底で、また一つ。

なにかが静かに沸き立った。