軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺の知ってる遊びと違う

「待っ……!!」

無意識に伸ばした手。

開いた視界に映るのは、 縋(すが) るように伸ばした自身の手と 天蓋(てんがい) 。

意識的にゆっくりと呼吸をすれば、重力に従った腕が力なく落ちた。 鼓動(こどう) を落ち着けるように 瞼(まぶた) を閉じるも眠気は既に吹き飛んだ。だけどベッドから起き上がる気力はまだわかない。

夢を見て声を上げて目覚めるとか、子供か……と心の中で呟いて笑おうとしたけれど、中途半端に持ち上がった唇は歪に震えるだけで 自嘲(じちょう) さえも上手く作れなかった。

「かっこわる……っ」

夢の 残滓(ざんし) を抱きながら、ただ、瞳を閉じていた。

照り付く太陽は灼熱の名に相応しい。ギラギラとしたその日差しを受けながら、馬の背に揺られている。

「そういえばリリー嬢、あの後は大丈夫ですか?」

「はい。平気です」

真っ赤な顔で応えたリリー嬢は、どうやら今の状況の方が大丈夫ではないらしい。

並行する馬に跨るアレクサンドラ……と、その腕に抱かれるリリー嬢。

イケメンとの近距離は心臓に悪いらしい。真っ赤な顔で始終俯いている彼女が熱中症にならないか心配だ。

「あの 大臣(ワズィール) はあまり良い噂を聞かないからな。カイザー殿たちも充分気をつけてくれ」

眉を 顰(しか) めて忠言をくれるアレクサンドラに頷く。

先日、シェヘラザードさんのお部屋から帰る途中、リリー嬢を半ば強引に誘う 大臣(ワズィール) に遭遇した。シリウスも居たし、護衛の騎士も居たから平気だったんだけど中々にしつこかったらしい。

ちなみに、そのウザいオッサンこと 大臣(ワズィール) は 件(くだん) の悪役です。

立派に出っ張った腹と、偉そうな態度がトレードマークな彼は諸々の悪事に関与してる典型的な悪役。なんならいま向かってる村で 賊(ぞく) をけしかけてくる筈の御仁だ。なので元より警戒対象。

そしてアンジェスの末裔であるリリー嬢を狙ってるオッサンはともかく、単純に美少女に言い寄ってくる野郎どもにも「美しい女性と見れば 何故(なぜ) すぐ口説くっ?!」とアレクサンドラは憤慨と警戒を露わにしてる。

……が、言っとくがそれ、お前もやってたからな?お国柄か。

「アレク様。人の振り見て我が振り直せ、ですよ」

「ぐぬぬっ……」

はい、 シリウス(オカン) から教育的指導入りましたー。

ほのぼのする遣り取りを眺めながら、向かってる先は病が 流行(はや) っていた村の一つ。

水に関連する異能の持ち主や薬師など、使節団の一部はそれぞれの村へ派遣されていたが……俺らが直接出向くのは初めて。

先程ちらっと「村で賊~」発言した通り、これはゲームでもあったイベントだ。

村の現状を見に行って盗賊に襲われるんだよね。アレクサンドラやそのルートの攻略対象者の戦闘シーンがある見せ場の一つ。

怯んだ盗賊たちは逃げ去るんだけど「でもお頭っ、あの娘を連れて来いと……」「依頼より命が先だっ!!」って会話から襲撃が偶然じゃないことを悟って、調べるうちに 大臣(ワズィール) に行きつく、と。

つか、病が自然発生じゃなくて感染の危険がないこと判明してるし、今回は護衛もいるけど……ゲームのヒロインたちはよく伝染病が 蔓延中(まんえんちゅう) の村に行ったよね。

村人を救いたいっていう優しさなんだろうし、ゲームの盛り上がりの為に必要だったんだろうけど……現実的に考えると無謀極まりねぇな。

あ、今回はマオ同伴でーす。アレクサンドラたち以外にジャウハラのお偉いさん方の同行ないしね。

村がちょっと遠いから、お泊りになった時に備えてメイドのエリーゼも参戦。マオのお風呂要員だ。

ロリコンの汚名は御免なんでな!!

逆にちょっぴり遠出ってことで、アイリーンやカトリーナ嬢たちはお留守番。

辿り着いた村は簡素な村だった。

溜め水が必要な環境ということからも、 辺鄙(へんぴ) な所だろうと想像していたが予想以上だ。

薄い布団に横になった女の子がこほこほと咳き込む。

身体をくの字に折り曲げる少女をそっと抱き起こし、その背を撫でた。咳が落ち着いたところで口元に 椀(わん) を近づける。

緑色をした液体は色からして苦いだろうに、マオより少し大きいくらいの少女は素直にこくんと喉を動かした。

顰(しか) められた眉間に、リフが差し出してくれた砂糖菓子を一つ摘んで小さな唇に押し付ける。

「もうすぐ良くなるよ。だから少しだけ、頑張って」

予想外の甘さにか、熱に蕩けて焦点を結ばなかった瞳が 彷徨(さまよ) い……かっぴらいた。

えっ?!今のお菓子なんか入ってた?!

思わずそう勘ぐってしまう程の 覚醒(かくせい) だった。

「……わたし……、しんじゃった……の?」

なんでっ?!と思いつつふるふると首を振る。

「……天使さまがいる……」

『でも、くろい?』

ぽつりと聴こえた心の声で、天使さまがまさかの俺なことが判明した。ビックリ。

近くに金髪天使いるけど呼んでこよっか??

盛大に恐縮と遠慮をされながらも、在駐してる使節団の人間から食料や薬剤を受け取り各家に配る手伝いをしていれば、あっと言う間に陽が暮れた。

さっきの天使発言は熱に浮かされてたからだとしても、お年寄りたちに「有難うございます、有難うございます」と涙ながらに拝み倒された時はマジびびったわ。

しきりに頭を下げてくれたり、手を振ってくれる村人と別れてすぐ…………岩場から馬に跨った数十人の男たちが襲い掛かってきた。

「村人を家の中にっ!!!」

「皆様をお守りしろっ!!!」

指示を出す護衛の声に「殺せっ!!」「邪魔する奴らは斬り捨てろ!!」と盗賊の声と村人たちの悲鳴が混ざり合う。

盗賊たちとこちらを隔てるように炎の壁が出現した。

ガーネストの異能とアレクサンドラの魔術による炎に馬が 嘶(いなな) き、暴れる馬から男が数人転げ落ちた。

「きゃあっ!!」

上がった悲鳴に振り返れば、炎の壁を迂回した賊が幾人か馬で柵を強引にけ破り、村へと侵入しようとしているとこだった。

残像のように黒が過り、馬上の男が血が噴き出した腕を押さえながら転がり落ちる。

そして残像のように過ったのは黒だけではなく………、

「えいっっ!!」

真紅の髪を 翻(ひるが) したマオが、両手をY字を描くように斜め横へと払うと同時に、今まさに村へ侵入しようとしていた男たちは地へ転がっていた。

はいぃぃ???

愛用の剣を握りしめたまま、思わず間抜けに立ち尽くす。

「お馬さんは怪我させなかった。偉い?」

「ああ、だがちゃんと意識を狩るまで気を抜くな」

「そうですよ。止めは肝心です」

褒めて!と自信満々にハンゾーを見上げるマオと、そんなマオを頭を撫でながらも容赦なく男の首元を踏みつけるハンゾー。そして痛みに喚く男にナニかを投げて黙らせ、ついでに馬にひょいっと飛び乗ったラン。

現状把握が出来ずにいると、同じく現状が把握できなかったぽいガーネストとアレクサンドラの炎の威力が瞬時弱まった。

「退けっ!!ひとまず撤収だっ!!」

声と共に 蹄(ひづめ) の音が響き渡る。

「でもお頭っ、あの娘を連れて来いと……」

「依頼より命が先だっ!!」

テンプレ通りの会話が聞こえ、「あの娘?リリーのことか?」とアレクサンドラがリリー嬢を背に庇い、炎の壁の向こうを睨みつけた。

と、ゲームではこのイベントはひとまず終了なのだが……。

ランが乗った馬と、軽い動作でランとは別の馬に飛び乗ったハンゾー&その肩に肩車スタイルで飛び乗ったマオが盗賊を追跡しはじめた。

「ちょ……」

その背を追うように手を伸ばし、焦っていると……

「カイザー様っ、ガーネスト様!」

騎乗したエリーゼに名を呼ばれ、思わず反射で馬の背に手を掛け飛び乗っていた。

エリーゼが連れていた馬は二匹。彼女が騎乗している白馬に俺が乗り、ガーネストが栗毛の馬に乗って「私も行きます」と声を上げたリフの手を引いて引っ張りあげ、馬の背を蹴って走り出す。

「アレクサンドラ様たちは 此処(ここ) で待機していてくださいっ!!」

振り返って叫びつつ、ハンゾーたちの背を追う。

本当なら深追いする気は皆無だったのに…………。

馬上からバシュバシュと魔術やら飛び道具やらを放って、どんどん脱落者を出していってる前方を眺めながら相変わらず展開について行けない。

「そもそもマオ、なんであんな強いの?」

「普段の特訓の 賜物(たまもの) ですね。鬼ごっこ大好きですし」

呆然と呟けば、実に冷静なエリーゼの声が響いた。

鬼ごっこ??

狩りの間違いじゃなくて??