軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

浮気は反対派

「お具合でもすぐれませんか?」

心配気な声音で覗きこんでくるおねーさん。

さり気なさを装いつつ、視界にジャストで飛び込むように強調された胸の谷間と上目遣いが非常にあざとさ爆発ですね。

「まぁ、大変。香りのよい気付けのお水をどうぞ」

美しい 玻璃(るり) の杯へと注いだ水を差し出してくれるおねーさん、その2。

お水は嬉しいんですけど、手渡してくれた杯ごと俺の手を握りしめてらしゃるんで飲めないんですけど……。放して?

「あら、それより……私のお部屋でお休みになられたらどうかしら?」

しな垂れかかるように身体を預け、 妖艶(ようえん) な流し目を送ってくるおねーさん、その3。

いえ、ついてったら戻ってこられなくなりそうなんで遠慮します。

「大丈夫ですよ。慣れない異国の酒に、少し酔いが回ってしまっただけです」

「お口に合いまして?こちらもいかがかしら?」

そうして注がれた酒は、匂いからして度数が高い。酔わす気、満々か。

軽く手で制するも、おねーさんたちは悪びれもせず笑いかけてくる。

「本当に美しい 雪花石膏(アラバスター) の肌。羨ましいくらい。白く美しいこの肌が色づくところが見たいですわ」

「 眦(まなじり) の朱も、とても色っぽいですものね」

全然、さり気なくないボディタッチを加えつつ、クスクスとさざめくような声を漏らすおねーさんたち。

ここは、キャバクラかっ…………??!

やや清楚系にお嬢様系、ギラギラの肉食系にお姉様系とジャンルも様々な美女たちが侍ってはお酌をしてくれたり、料理を取り分けてくれたり。チェンジもあるよ!!

歓待っちゃ歓待なんだろうけど……あからさまに口説いてきたり、巧みな会話で情報を引き出そうとされている。

「お仕事、なにされてるんですかー?」

「えっ、社長さんなんですか?!すごーいっ!!」

「年収ってどれくらい??」

「ご結婚って、されてるんですかー?ええっー、独身?彼女さんは?私、立候補しちゃおっかなー」

そんなやたらと語尾伸ばし気味で、きゃぴきゃぴした会話が脳内で展開される。

会話内容に多少の違いはあれど、似たようなことが目の前で繰り広げられております。

紹介された公爵家の立場に瞳を輝かせたおねーさんたちは、 ガーネスト(弟) が当主ということもあってか俺の立ち位置を聞き出そうと必死だ。その流れで「円満ですよ、家督争いで仲違いとかないよ。めっちゃ仲良し!」アピールしたら「一緒に暮らされてるってことは……ご結婚はされてないんですか?」と独身であることがバレてしまい、一層大盛り上がりだ。

貴族で俺の年なら大抵はもう既婚者、そうでなくても婚約者いるもんね。

ギランッ☆と輝きを増したおねーさんたちの瞳に「やっべっ!!」と焦るも後の祭りで……ボディタッチと流し目が五割増しで増えました。

キャバクラこわい……(ガクブル)。

そもそもキャバクラじゃないし、実際に行ったこともないけどね(多分)。イメージ的に。

ちなみに、多分なのは前世の記憶が定かじゃないからだ。

いつどう死んだかも覚えてないけど、鮮明な記憶が随分と若い記憶ばっかだし、多分行ったことないんじゃないかなー。

それはそうと……この宴、いつになったらお開きになるのかなー?

もう深夜だけど、えっ、夜通し朝までとかそんなノリ??

こしこし、と手の甲で目元をこするマオ。

眠気をさまそうとでもしてるのか、自らの手で腕や足をぺちぺちぺちと叩いている。最近わりとよく見る動作だ。

「どうしたマオ?具合でも悪いか?」

抱き上げたガーネストが顔を覗きこめば、ふるふると横へ振られる小さな頭。

「へいき」

答えた声は、だけどどこか元気がなくて……。

近頃のマオはどことなく元気がない。

具合が悪そうというわけでもないし、痛みを訴えることもないのだが、ふとした時にぼぅっとすることが多い。お昼寝の時間も増えている気がする。

ガーネストに抱き上げられたマオに近づき、こてんと額を合わせるも特に熱もなさそうだ。

ほっと一息つき、額を離そうとすればちっちゃい紅葉みたいなお手てに頬を挟まれた。「んっ?」と瞳で問いかければじっと俺の瞳を覗きこんだマオがそのまま首筋に頭をぐりぐりと摺り寄せてくる。ちょ、首はくすぐったいっ!

お返しにとこしょこしょとくすぐれば、きゃらきゃらと声を上げたマオが身を捩る。

「早くベアちゃん達に会いたいね」

ぽつりと呟き、「ねー」と同意を求めるマオにめっちゃ大きく頷いた。

控えめにだけど、ガーネストもこくっと頷いたのを俺は見た!

ベアトリクスにめっちゃ会いたい!!

国を出立してから早、三週間ほど。

近頃、元気がないのはなにもマオだけじゃない。俺自身も可愛い妹が恋しくて仕方がないし、環境の変化が地味に堪えていたりする。

所謂(いわゆる) 、ホームシックってやつ。

待遇は破格とはいえ、慣れない環境ではやはり精神的な疲れが溜まるし、食事も微妙にストレスだった。

辛いモノは辛く、甘いモノは甘く。香辛料がふんだんに使われた食事は美味しくはあるのだが、さすがにそろそろ慣れ親しんだ味が恋しい。切実に!!

ふとした瞬間に「帰りたいなー」と思ってしまうのは仕方のないことだ。

ヤバい、「ベアトリクスに会いたい!」って思ったら、マジで元気がなくなってきた。

しょんぼりと沈みこんだ俺たちに「お茶にでもしましょうか」とリフが手早くジャスミン茶を淹れてくれ、エリーゼが流れるようにお菓子を用意してくれた。

用意された四角形のお菓子はパフラヴァ。

パイ生地を何層にも重ね、あいだにナッツ類を挟み込んで焼いたお菓子だ。すごく甘い。

外見三歳児と同様にお菓子で機嫌取られる俺、二十代後半……。

気遣いはとってもありがたいのだが、その事実にパリパリ食感の美味しいお菓子を口に運びつつ……微妙な気持ちになったのは内緒だ。

大きく手を振って歩くマオの横をゆったりした歩幅で歩く。

道の端に寄って、立ち止まり頭を下げる召使。俯いた彼らからも、そして周囲からも視線を感じる。大きく手を揺らしながら歩く可愛らしい幼児の姿に向く微笑まし気な視線。そこに時折紛れる好奇と、僅かな警戒や嫌悪を孕んだそれ。

“魔人”へと向けられる視線に繋いだ手に知らず力が籠る。

きょとりと上げられた無垢な瞳に「なんでもないよ」と笑いかけ、何事もないように歩を進めた。

元々、ジャウハラは“魔人”と縁の深い国だ。

他国と比べ遥かに“魔人”が受け入れられていることも、それでも根っこには完全には受け入れられていない部分があることも、アレクサンドラから聞いてはいた。

そしてサヴィアスの余計な一言の 所為(せい) で……それはマオにも向いていた。

一方で、俺やアイリーンも時折「魔人……?」ってひそひそされてるけどね。

違ぇし。

原因は見掛けですね。わかります。

明確な敵意まではいかないそれは放置しているものの、気分がいいかと問われれば否。不要な視線に 晒(さら) させる気もないので、王族やお偉い方が同席する場にはあまりマオを連れてはいかないようにしてる。

気持ちのいいことではないが、それでもこうして“魔人”への反応を知れたのはいいことでもあると思ってもいる。

マオがもし、今後も 人間(俺たち) と共に在るのを選ぶのなら、知らなければならないことが沢山ある。平和ボケしていた感性に 警鐘(けいしょう) を鳴らす良い切っ掛けにはなった。

……と、いうことで 折角(せっかく) の機会だ。

俺らも、そしてマオ自身も“魔人”の生態や特性を知っておくにこしたことはないと、暇を見つけてはシェヘラザードさんにお話をさせてもらってる。現在の目的地もそう。

マオもすっかり懐き、俺も子育てトークですっかり仲良し。

いやぁ、マジでいい人だわ、シェヘラザードさん。

アレクサンドラがめっちゃ微妙な顔するぐらい仲良しです!

まぁ、確かに……自分の母親が知り合いと仲良くしてるの微妙だよね。シェヘラザードさん、同年代にしか見えない銀髪美女だし。

あ、周囲に下手な誤解生む気は皆無だから、お部屋訪問するときは女性陣に付き合ってもらってますよ。なにせ王の妃の一人だしね。

人妻に手ぇ出す気はないから安心して!!

アレクサンドラも妙な心配すんなー!