作品タイトル不明
たわわな果実は俺にはない
知らない展開に遠い目をしていた筈が、いつしか衣装選びに巻き込まれてた。
アイリーンたちのじゃなくて俺自身のね。
いや、まだお腹の膨らみが目立たないからって妊婦の癖に腹出しセクシー衣装を選ぼうとするアイリーンにダメだししたり、スチル画の衣装を再現しようと必死なリリー嬢に記憶力でお手伝もしてたけど。
いつの間にか俺の衣装選びもはじまってたんだよね。
アイリーンたちにつられたのか、なにやら気合いが入ったリフたちに衣装や装飾品をあれやこれやと選ばれた。
そして今、鏡の前でリフに仕上げを施されているところだ。
一足早く着替えが終わったのか、扉の向こうからは華やいだ声が響く。
「きゃあっ!!皆さんすごく素敵ですっ!!」
「でも……その、恥ずかしいですわね」
「確かに少し露出が、いや、でもよく似合ってる」
「あっ、ああ、 精霊(ジン) と見紛うばかりの美しさだ」
若い子たちの恥じらいを含みつつきゃっきゃっしてる声は聞こえるけど……おねーさん組の声がしない。ついさっき「ご機嫌よう!」って高らかにアイーシャが乗り込んできた筈なのに。
互いを値踏みしながらメンチでも切っているんだろうか?やだ、こわーい!!
この雰囲気の中、出て行きたくなーい。と思った瞬間「出来ました!」と無情にもリフの声が告げた。おぅふ。
鏡台に手を置き、重い腰を上げればシャラシャラと涼やかな音が鳴り響く。恭しく開かれた扉を潜れば、そこには……異国情緒あふれる装いをした美形たちの姿があった。
おおっ!!と思わず心の中で感嘆するほど、華やかな光景が広がっていた。
大人気だったスチルを再現したかのような踊り子姿のリリー嬢。ピンクのふわふわした髪に合わせたような薄っすらとピンク色をした薄布を纏った姿は、ヒロインの面目躍如とばかりに愛らしく、可憐という表現がぴったりだった。
同じくガーネストとアレクサンドラの姿もさすがはメインヒーロー!と言わざるを得ない見事な出来だ。
アレクサンドラは白地に青のラインが入った布を頭に巻き、ゆったりとした白い布を基調にした衣装は胸元が全開で、そこから褐色の逞しい胸板と黄金の首飾りが主張している。
一方のガーネストは 臙脂色(えんじいろ) に金の縁取りの衣装に、白いターバンを臙脂に金と白の刺繍が施された飾りで留めている。男らしい顔立ちの二人だけあって色気が凄い。
シリウスは衣装は控えめだけど、バッキバキの腹筋が見えてるし。
くっ、17歳のくせになんたる色気……と、年下たちに敗北感を覚えた。
カトリーナ嬢は露出が恥ずかしいのか、口元をベールで隠した露出控えめな踊り子風なんだけど、それが逆に清楚な容姿に似合わぬ膨らみを強調して……セクハラじゃないです、ごめんなさい。
……で、そんな美形集団よりさ・ら・に、目を奪うド迫力なお姉様方。
ほぼビキニじゃん!!っていいたくなる極彩色の派手で面積の小さい布地を纏ったアイーシャは、まさに女としての造形美を見せつけている。衣装だけでなく、括れた腰を強調する金の飾りや胸の谷間を主張する大ぶりの宝石に、小麦色の肌にはいた金のラメ。さすがはセクシー担当なだけある。
そして一方、アイリーン。「人妻で妊婦なんだから自重しろ!(意訳)」って注意したからか腹だしスタイルこそ回避したものの……口元から胸元を覆うベールはシースルーで紫の衣装から覗く谷間が 煽情的(せんじょうてき) だ。スリットから覗く白いおみ足や太腿の蛇を模したアクセも大人の色気を醸し出していた。
旦那に怒られてもしらないぞー。
アイツ、意外とやきもち焼きだし。
非常に目の保養ではあるのだが……同時に目のやり場に困る、そんなお二方はメンチ切りあうのをやめてポカンとこっちを見ていた。
「お待たせしました。待たせて申し訳…………」
一歩足を踏みだすたび、シャラン、シャランと鳴り響く音色。
謝罪の言葉に被せるように、奇声を上げて詰め寄ってきた美女二人にのけぞり、思いっきりドン引く。
「な、なななっ、だっ、誰ですのっ?!あ、あり得ませんわっ、あたくしが負けるなどっ!!?」
「ちょっ、なんなのカイザー様っ!!?伏兵っ?伏兵なのっっ??!」
えっ?やだ、なになに、なになにっ??
ちょ、怖いっっ!!
長い睫毛に覆われた紫紺と濃茶の瞳が、俺を見て「くっ!」と悔し気に歪む。
そんな恨みがましい表情されても……。
そのままアイリーンに肩をゆっさゆっさ揺らされて楽器のように飾りの奏でる音を鳴らされたり、アイーシャに薄布を口にくわえて「きぃぃ~!!」という古典的芸風を見せられた。
どうやらガーネストたちに男として敗北感を覚えたように、俺のなにかが彼女たちの 琴線(きんせん) に触れたっぽい。
無為(むい) なお色気対決に強制的に参戦させられたうえ、勝利を勝ち取ったらしい。
何故(なぜ) だ、意味わからん……。
そもそもエントリーしてないって……。
「凄くお似合いです兄上」
「ありがとう。ガーネストたちも良く似合ってるよ」
何度目かの焦点を失っていた瞳に天使の言葉で光が戻る。
ゲームプレイ時は「けっ!」としか思わなかったキラキライケメンたちだが、俺の弟、超恰好いい!!何時間でも褒められるよ。
あ、もちろん紳士として弟以外もちゃんと褒めたよ?貴族社会のお決まりだし、お世辞じゃなく似合ってるしね。
……本来なら、貴族だの王族だのがこんなに肌をさらすのはあり得ないんだろーケド。元が絵面重視のゲームの世界感だけあって、露出もありだし、華やかだ。
そして、そんな華やかで賑やかな色彩に溢れた衣装ですが…………なんとっ、俺の衣装は漆黒ではないっ!!
ほぼ黒に近い群青の布地に、金の刺繍や真珠の縫い付けがされた暗めの紫や紫紺の薄布が重ねられている。ゆったりした衣装は、アラビアンというより着物や中国の民族衣装を思わせる造りだ。まぁ、アラジンと魔法のランプとか舞台は中国だともいわれてるし、アリなのか?
普段のきっちりした服装に比べると胸元もほんのりはだけてはいるし、袖口も広いから手を動かした際に肌が覗くことはあれ、他のメンツに比べたら圧倒的に露出は少ない。
普段 項(うなじ) の辺りで緩く括って肩から前へ垂らしている黒髪は、今日は括らぬまま右肩から垂らしている。そこへ右のこめかみから細い金の飾りがぐるりと覆う。
腕輪や服に取り付けられた飾りもあるが、黒髪に踊る幾つもの装飾がシャランシャランと音を鳴らす正体だ。
この恰好で全力疾走したらきっと俺、楽器になれる!
ツリーチャイムの 如(ごと) くシャラシャラいうよ!!
ちなみにお着換えが一番遅かったのは、この髪の装飾に時間かかった 所為(せい) だったりする。
さらには化粧。 眦(まなじり) に鮮やかな朱色をさされました。
衣装はね「これ着たい!」って希望はなかったんだけど、「ターバンとか似合わなくない?」ってのと「黒以外とかどうかな?」ってのをそれとなーく主張したらこうなった。
うん、群青とか紫や紫紺なんだけどね。
リフたちが超絶がんばって選んでくれたの知ってるし、感謝してるんだけどね。
手に取らなきゃ黒と見紛うばかりの群青に濃い目の紫や紫紺の薄布。
確かに黒じゃないけどね?色彩名、違うけどね?
でもこれ、遠目からみたらぱっと見、黒だよ。印象、絶対黒だよ!
「殿方に色気で負けるなんて……っ」
アイリーン、睨まない。アイーシャも握った布、ギリギリしない。
俺が憧れるのはガーネストたちみたいな肉体美と男の色気であって、キミらに悔しがられても嬉しくもなんともないんですけど……。
「カイザー様なんて……胸、まっ 平(たいら) な癖にっ!!!」
「そうですわっ!プロポーションなら、負けませんことよ!!」
……この人達、なに言ってんの??
ねぇ、なに言ってんの??
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「カイザー様ー、ガーくん、見てー!可愛い??」
朱色に金と緑の刺繍の入った踊り子衣装を纏って駆け寄ってきたマオが俺たちの前でくるんと回る。一拍おいて、頭につけたベールと飾りもひらりと揺れた。
可愛い、可愛いと褒めちぎる俺らにマオはない胸を張ってご機嫌だ。
やだー超かわいい。
どっかのおねーさんたちと違って超、癒されるんですけど。
ぽっこりお腹が可愛いね。
幼児特有のぽっこりお腹を眺めて数秒、「お腹冷やさないかな?」って心配したらソラに呆れた目を向けられた。