作品タイトル不明
お、俺は無実ですっ!
逃げ出した子供を追って走り出す。
……なんてことはなく、子供が走り出した方向へ向かってゆっくりと歩き出した。
こんな人混みの中で追いかけっこなんて目立つことこのうえないし、そもそも走って追いかける必要なんてない。
まるで最初からいたかのように傍らを歩く男。なんの違和感もなく、元々三人連れでしたと言わんばかりに 何処(どこ) からともなく現れた男は影の一員だ。
そんな彼の先導に従って付いて行けば……細い路地を幾つか曲がった先の人気のないスペースで身をよじって暴れる子供の姿があった。
「放せっ、放せよっこのっっ!!」
後ろ手に押さえられて叫ぶ子供。その背後で表情に乏しい鈍色がこちらを見る。
俺の到着に合わせるように、幾つかの黒い影が周囲に音もなく降り立った。
「っ!?」
突如として現れた黒づくめの集団に、子供が引き攣った顔でびくりと身体を震わした。
吃驚(びっくり) するよね、ごめんねー。
怯える子供に内心で軽く謝り、サスケに「放してあげて」とそう告げる。
一歩踏み出せば、怯えたように子供が一歩後ずさる。噛みしめられた唇と、身体の横で小さく震える握り拳が目に入り……困り顔で足を止めた。
路地裏で幼い子供を取り囲む男たち。
うんっ!
完っ璧に、悪役そのものだねっ!!!
第三者的視点から現状を客観的に自覚し、意図して優し気な笑みを装備する。……そしてさらに警戒された。
う、 胡散臭(うさんくさ) かったっ………??
「こんにちは、どうしていきなり逃げ出したのか聞いてもいいかな?」
内心引き攣りながら、笑みはキープして問いかける。
「……白々しい」
聞き逃しそうな程に小さな声で吐き捨てられた。
子供……(背格好から見るに10歳を過ぎたぐらいの少年だろうか?)は、俯いていた顔をあげて憎々し気に俺を睨みつけている。
『こいつが……こいつが兄さんと義姉さんをっ!!こいつの 所為(せい) でっ……!!』
うん?!
え……待って。なんか不穏な心の声が聴こえるんですけどっ?!
兄さんと義姉さんをってなんのことっ?!
そもそも君のお兄さんたちとか知らないし、なんか誤解されてませんっ??
「先日の爆発について知りたいんだ。君は先日も現場に居ただろう?なにか知っていることはないかな?」
埒(らち) が明かないので、内心の動揺を押し隠しつつ単刀直入に問いかけたその瞬間……。
『っふざけんなっっ!!!』
心の叫びと共に子供の中のなにかが爆発した。
小さな拳を振りかぶって、突っ込んでこようとする身体をサスケが一瞬で押さえつける。だが手荒に拘束されてなお、子供は 我武者羅(がむしゃら) に暴れてこちらに向かって来ようとしている。
「お前がっ、お前が全部仕組んだんだろうがっ!!」
怒りと憎しみを籠めた、血を吐くようなその叫びに……。
「はっ?」
目と口を真ん丸にして、素でポカンとした声をあげた。
「えっ?お、私っ?」
思わず自分を指さしびっくらこ。
危ねぇーー!驚きすぎてつい「俺」って言いそうになったし。
言い淀みもあってか、間抜けな感じにも一層拍車がかかった。
『はっ?』
こちらの反応にポカンとする子供。目も口も真ん丸にした表情は、ついさっきの俺の再現のようだ。
束の間、お互いに目をぱちぱちしながら見つめ合っていれば、リフが一歩前へと踏み出した。
「なにか誤解があるようですね。今の発言はどういう意味ですか?やはりあなたはなにかご存じなのでしょうか?」
「えっ?あ、その……」
「私たちは例の爆発の犯人を捜しています。騎士の報告の一端に、ご婦人を跳ねのけて現場から逃げ去ったとされる子供の記述がありました。現場を訪れたところ、よく似た容姿のあなたを見つけ、そのあなたが逃げ出したのでこうして後を追ってきたんです」
簡潔にリフが説明すれば、子供は先の勢いを失くしていく。暴れるのを止め、困惑したようにその瞳がリフを、影を、俺を見た。視線が合い、本当だという意味を込めてコクコクと頷いた。
『騎士の報告……じゃあ本当に……?いや、騙そうとしてるだけかも……この人はいい人そうに見えるけど、あっちの黒い人達はなんか怖いし……。でもあの貴族、さっきすっごい驚いた顔してたし……でもでも…………』
めっちゃ警戒されてる……。
でもさっきの間の抜けた反応がどうやら功を奏してるみたいだ。うん、すっげぇ吃驚したよ。
……とはいえ、この状況じゃ警戒されるのも当然か。しかもなにやら訳アリっぽいし。
「場所を変えないかい?私たちは君に危害を加えるつもりはないし、ただ話を聞きたいだけだ。君も人目のあるところの方が安心できるだろう?」
提案すれば、まだ 若干(じゃっかん) 警戒しながらも頷いてくれた。
人目はあるけど会話は聞かれないところ……ということで、影が探してくれた近場のカフェへと移動した。
奥まった席は他の席とは間隔も空いてるし、隣の席もキープしてるので他の客に声が漏れることもないだろう。カフェには店員や客もいるし、ガラスに面した外を行き交う人通りもあるから安心感もあるだろう。
ただ、俺側だけは軽くカーテンを引いてもらった。なにせ目立つんでな。
カフェなど入ったことがないのか、見知らぬ男たちへの警戒か、はたまたその両方か。落ち着かなげにそわそわしながら子供が店内を見渡していると、トレイを手にした女性店員が震える手で注文を運んできてくれた。「ありがとう」と礼を告げると「ご、ごゆっくりどうじょ」と噛みながら真っ赤な顔と涙目でギクシャクと戻って行った。
「……で、早速聞いてもいいかな?まず、先程言ってた「私が全部仕組んだ」っていうのはどういう意味かな?君はなにを知っているんだい?」
コーヒーにミルクと少量の砂糖を入れ、スプーンでくるくるしながら問いかけた。
「……飲むんだ」
「ん?」
「こんな店の安物、貴族が飲むの?」
「別に。人によるんじゃないかな?私は全く気にしないけど」
普通に美味しい。
そりゃ、いつも口にしてる高級品とは質が違うんだろうけど……至って一般的なお店の美味しいコーヒーだ。元庶民な庶民派だしね。
オレンジジュースのグラスを両手で握った子供(名前はリオというらしい)は、じっと注意深くこちらを見つめている。
「アンタ、本当にアイツらと関係ないの?」
「そのアイツらっていうのは?」
「ギャスター」
顎(あご) に手をやりその名を 反芻(はんすう) してみるも、思い当る人物はいない。リフに目をやり、ハンゾー達にも目をやるが首を横に振られた。
いまの話題となんら関係のない、どうでもいい話ですが……ハンゾーが珍しく素顔オープン中です。
街中で口布とか目立つしね。なので影たちの忍者度がちょっぴり低下中。……とはいえ当たり前のように黒服だけど。
まぁ、俺も黒いから、これは他人のこととやかく言えた義理じゃねぇーけど。
話を戻して……ギャスターとやらはこの辺を締めてる悪党の方らしい。ふむふむ。
「一カ月ぐらい前、義姉さんが急に姿を消したんだ……」
涙を滲ませて唇を噛みしめたリオの話、 曰(いわ) く。
リオはお兄さんと二人暮らしだったらしい。お兄さんとは父親が違うそうで、しかもなんとリオの父親は貴族。
あれだ、父親がお遊びで手をつけたとかそういう……。
子供からそんな話を聞かされんの、めっちゃ気まずいんですけどー……。
お母さんは亡くなって、お兄さんと二人で暮らしてたけど……そのお兄さんには恋人が居て、さらにはその恋人さんは下級とはいえ貴族のご令嬢とのこと。珍しい。
身分違いとはいえ、愛し合っている二人は結婚の約束もしていたそうだ。
そんな恋人さん、もといリオにとってお義姉さんになる筈だった彼女が突如失踪した。
そして、二週間程前。
後を追うように、リオのお兄さんも姿を消した。