軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人はそれをフラグと言う

本格的な春が来た。

萌ゆる緑は青々と輝き、色とりどりの花々が視界を飾り、柔らかく温かな陽光が降り注ぐ。

だが、そんな芽吹きの季節が訪れて尚、ジャウハラの作物は育たない。むしろジャウハラにとってこの春の訪れは、望むべくものではなかったかもしれない。なにせ作物の不作は日照りが原因なのだから。

冬の間に流行りだした病も春になっても尚、収束しない。

不幸中の幸いというべきか、まだ死者はそう出ていないが、長引けば長引く程に 罹患(りかん) 者は増え患者の体力の消耗も激しくなるだろう。

さらにはジュエラル国内で起こってる民の小競り合い。

皇后様の指示で市中の見回りを増やしていることも功を奏し、大規模な被害は出てはいないが……時期を考えるにゲームに出てきた傷害事件の一端だろう。

ゲームでの不穏の足音が、着実に近づいていた。

「……爆発?」

「ああ、道端に落ちてた小包だ。拾った者が開いた途端に破裂したそうだ」

「被害は?」

「包みを開いた者が火傷をしたのと、飛び散った火の粉や破片で周囲の者が数人怪我を負った」

人気のない通路を進みながら振られた話題は中々に物騒なモノだった。

場所は王城。執務や会議などが行われる塔を過ぎ、王族の居住スペースとなる通路には護衛や警備、専属のメイドなど限られた者しか足を踏み入れることはない。

部屋までの数分を待てずに、話を切り出したのはティハルトも焦りを感じているからだろう。

「……爆発……」

思わず呟く。

ゲームにそんな展開は出てこなかった。もっとも重要な部分でないから細かく描かれなかっただけで、ジャウハラとの関係悪化の為に仕組まれた“傷害事件”の一端な可能性はあるが。

「爆発物っていうのはどんな?犯人は?捕まってるのかい?」

開かれた豪奢なドアを潜りながら矢継ぎ早に問いかける。苛立たしそうに首を振ったティハルトはどかりとやや行儀悪くソファに腰かけた。

「包みに入ってたのは液体状のナニか。犯人は捕まっていない、だが周辺で挙動の怪しい男の目撃証言があったため捜索させてるところだ」

液体状……ニトログリセリン的なアレだろうか?化学詳しくないから全くわからん。

「捕まえた所で情報を持っているかは怪しいところだがな。近頃 頻発(ひんぱつ) してる小競り合いといい、金で雇われてるだけの小物の可能性が高い」

それに、とティハルトが続ける。

「揉め事を起こした男たちとは別に、周囲でやたらジャウハラの民と思われる者達が目撃されてるのも不可解だ。珍しいとまではいかぬが……さほど多いわけでもないジャウハラの民が必ずと言っていいほど目撃されてるからな。服装といい、肌といい、あの国の民は目立つ。まるで 敢(・) え(・) て(・) ジャウハラの民に目を向けさせたいかのようだ。正直、キナ臭い」

瞳を 眇(すが) めたティハルトに内心で拍手した。

そうです、事件が頻発して民の不安や不満が高まったとこで「これはジャウハラの仕業だ!」って言い出す輩が現れるんだよ。

俺や皇后様と違って、ゲームの内容を知らないのに傷害事件の裏にある 陰謀(いんぼう) に勘づいているティハルトは優秀としかいいようがない。

俺が隠しキャラ疑惑抱いていた男・№1なだけある!

地位といい、キラッキラしい容姿といいスペックといい、マジでこいつが裏隠しキャラじゃねーの?

でもティハルト奥さんいるしな……ラブラブだしな……。うーむ。

「他の小競り合いはともかくとして、今回の爆発は裏になにか居るのは間違いないだろうな」

ティハルトの言葉に俺も頷く。

今までの喧嘩のような小競り合いとはわけが違う。まず、爆発物など一般の人間がおいそれと用意できるモノではない。

そもそもこの世界、火薬や爆発物の存在がさほど身近ではない。

武器にしたって、大砲なんてみたことないし、 銃(ピストル) はないわけではないが……飛距離も命中度も悪く、とても一般的な武器ではない。せいぜいコレクション的な存在だ。

これは時代背景的な影響というより、乙女ゲーム的な背景が大きいのかも知れない。剣の存在は譲れないとして、ゲーム内では魔術や異能を使った美しくド派手な戦闘シーンが攻略対象者たちの見せ場だったし。

さっき “爆発”という言葉に感じた違和感の原因はそこだ。

「少なくとも多少の専門知識のある者が居るのだろうね」

「ああ、今回は死者がでなかったが。もし、大規模な爆発物でも仕掛けられたらと思うと……」

眉を寄せ、そう言葉を濁したティハルトの心境はよくわかる。

「捕らえた男たちの数人は……見知らぬ男に金を渡され、場所とおおよその時間を指定されてから揉め事を起こすように頼まれたと証言してる。全員大した情報は持ってなさそうだが、それが取り調べの証言や事件の経緯だ。例の爆発の前に目撃されてる挙動が不審な男の特徴も載ってる」

差し出された資料を受け取り、素早く目を通す。

捕らえられた男たちと不審な男については、言葉通り有力な情報はありそうもない。

揉め事と直接関係ないが、周囲で目撃されたジャウハラの民にもいくつか聞き取りをした結果、決まった曜日にマーケットを訪れる常連などが多かった……。

場所と時間の指定があったっていうし、ジャウハラの民がよく目撃される瞬間を狙って犯行が行われたってとこかな?

ゲーム知識という事前情報があったから、市中の見回りを増やしていて揉め事を起こした男達は 殆(ほとん) ど捕まってるけど、もし無事逃げきれてれば「犯人はジャウハラの人間だ!」って煽る奴らにとって都合がいい。

……でも実際は捕まっちゃって、犯人がジャウハラの人間じゃないのわかっちゃってるけど……そこはどうなるんだろ??

「んっ?」

疑問を持ちつつ読み進めていると、ある一文で目が止まった。

「……子供?」

補足みたいなごく僅かな記述で、爆発事件の後、真っ青な顔で逃げ去る子供の目撃情報が記されていた。

「突然爆発があって周囲は大騒ぎだったが、それにしても取り乱しようが目についたようだ。真っ青で今にも倒れそうだったから、近くにいたご婦人が心配して声を掛けたところその手を振り払って逃げたらしい。その拍子にご婦人が転んで足を挫いたのを騎士が助けたそうだから一応報告に載ってるんだろう。まだ幼い子供らしいから犯行に関わりはないだろうけどな。念の為、事情を知らないか探させてはいる」

「そっか、なにかわかったら教えて。うちの人間にも市中で怪しい奴らがいないか、それとなく探らせるよ」

「ああ、頼む。お前の所の奴らはやたら優秀だからな。というか……マジで優秀すぎるんだが。王城の密偵を遥かに凌ぐとか……なんなんだ?」

胡乱(うろん) な目をむけてくるティハルトに乾いた笑いを漏らす。

なんなんだろうね?

敢えて言うなら、超優秀な忍者集団(ちょっと人間やめてる)としか言いようがないかな!

忍者とかいっても転生者以外に伝わんないけどね。

熱を失った紅茶が淹れ直され、小皿に盛られたクッキーなんぞが差し出され……ついでに新たな書類も差し出され。

流れるような動作でティハルトの従者から差し出されたそれを渋々受け取る。あ、これはさっきの予算会議のだね。

議論すべき話題は沢山、沢山あるのである。

気の 所為(せい) でなければ従者さんの側に他にもいくつか書類の束がある気がするだけど……。

気の所為かな?気の所為って言ってっ!!

そんな気持ちを込めてそろりと従者を窺えば、にっこりと綺麗な笑みを返された。これ知ってる、リフと同じやつ。

そもそもさー、俺もう当主代理じゃないんだけどっ?!

ベアトリクスたちに関係ある乙女ゲーム関連については幾らでも関与するつもりだけど、それ以外の仕事もふっつーに振られまくってる気がすんだけど!!

ねぇ、ちょっと、そこんとこどうなのよ国王陛下っ?!

くっそー!

乙女ゲームのアレやコレが解決したら絶対スローライフしてやるからなー!!!