作品タイトル不明
「他人の振り見て、我が振り直せ」
「……本当に……」
肯定の言葉は多分に疲れを孕んでいた。
「容姿で言えば私は父上似なのでしょうが、内面や雰囲気は間違いなく母上似ですね……」
くしゃりと前髪を掴む。
ぶっちゃけ、かなり不本意だがなっ?!
目元、口元とかパーツで言えば父さんとよく似てる筈なのに……全体的な印象を見ると男前でダンディーだった父さんとは全然系統が異なる不可思議。
くそぅっ、俺の男前遺伝子どこ行ったっ?!
そして雰囲気と性格はまごうことなく母さん似。
薄々気づいてはいたけど……予想以上に母さん似だった。『日記』を読んでそう確信した。すっげぇ深く確信した。
日記の中身は主にアレだった。俺や父さんに関するデレ。
「ウチの子、天使だし天才過ぎでは?!」「ウチの旦那様世界一恰好いい!!」「いや、カイザーも世界一恰好いいから世界一が決められないっ!!!」って感じで、テンション高めの主観交えたエピソードは正直読むのがちょっと辛かった。
血の繋がりを妙に再確認したが……あれだ、このテンション自分に向けられるとめっちゃ恥ずかしい上に痛いなっ?!
マイエンジェルたちへの猛りを8割方胸中で自重してて良かったっ!!
思春期の子たちにやったら、これ絶対ドン引きされるやつだわー。
アレだ、「他人の振り見て、我が振り直せ」とはよく言ったものだ。
いや、ブラコンとシスコンは止められないケド。むしろそれを失くしたらもう俺じゃないケド、でも心の叫びは心の内に封印しとこう。
自重、大事!!
ブラコン、シスコンは節度を持って!!
はい、ココ、テストに出ますよーー!!!
「カイザー様……?」
遠い目をする俺にリフが訝し気に呼びかける。ガーネストやベアトリクスたちも目をぱちくりしつつ不思議そうだ。
その後は、蓋の開いた宝箱の中にチラ見えする品や絵姿に興味津々だったベアトリクスたちに「見てもいいですか?」と 強請(ねだ) られて、幼い俺の姿に「可愛いっ!」ってきゃきゃする「むしろキミたちのが可愛いからね!」っていう姿を堪能したり、無難な想い出話を幾つか披露したりして。
話も一段落したところで夜も遅いからと「おやすみ」を告げ、部屋へと戻るガーネストたちを見送った。
そして部屋に残ったままの俺はリフに軽食を用意されてる。
すきっ腹に酒を入れるな、とばかりにいつの間にやら酒の瓶とグラスは片付けられ……代わりにテーブルの上にはフィンガーサンドイッチと冷製ポタージュが並んでいた。
あっと言う間に用意されたし、きっと夕食を辞退した俺の為に予め用意してあったんだろう。ウチの使用人たちマジ優秀。あざーっす。
もぐもぐしつつ、溜息の代わりにそれらを飲み込む。
現在、こんなに精神的に疲れ切っているのは……なにも母さんの愛情の重さにドン引きしたからだけじゃない。
もっと重くて、重大な、母さんの秘密。
その身に刻まれた、『呪い』の正体_________。
『相手の心の声が聴こえる』という『異能』。
はい、デジャヴー。
あれーー?
俺、その『異能』知ってるよー?(棒読み)
思わず瞳を閉じて、瞼を開いて、また瞳を閉じて、頭をふるふる振ったり、辺りを無駄に見回したりしてみた。そんな現実逃避的な無駄な行動をしたところで現実は変わらず……再び日記帳に戻した瞳に無情に映る文字。
『相手の心の声が聴こえる』という『異能』。
暫(しばら) くのフリーズを経て、身を乗り出し一心不乱に続きを読むべく目をかっぴらいた。あの時の姿は、誰かが見てたら引く程に鬼気迫った感を醸し出してたと思う。目も 若干(じゃっかん) 血走ってたんじゃないかな?
母さんの日記をまとめるとこうだ。
母さんことセレネは俺と同じく『相手の心の声が聴こえる』という『異能』を有していた。ただ、同じ『異能』といえど、その能力は俺を遥かに凌いでいたっぽい。
母さんの『異能』が発現をしたのは、神殿で『異能』の判定を受ける6歳よりずっと前の2歳頃。ひっきりなしに聴こえてくる心の声に幼い母さんは恐慌をきたし、情緒不安定な子供時代だったらしい。
………だろうね。
早い子は神殿での判定前に『異能』に目覚めることもあるが、一般的には神殿での判定で自らの『異能』を知らされてその自覚に伴い能力が目覚めることが多い。
幼少期には目覚めてる筈の『異能』を、神殿で『無能』判定を喰らったうえ、 何故(なぜ) か22歳で超遅咲きの謎の『異能』デビューを果たした俺だからこそ母さんの辛さはよくわかる。
初めて他人の心の声が聴こえてきた時の恐怖と恐慌。
自分の頭が可笑しくなったかと思う恐怖。
すでにいい大人だった俺でさえあんなにも恐ろしかったのだ。
しかも俺はさほど能力が高くなかったらしく、数日後にはある程度それを抑える事に成功したけど……母さんの場合は抑えて尚、直接接触なしでも相手の心の声が聴こえる感度だったらしい。むしろ抑えない状態だと、誰の声かわからないレベルでその場の全員の心の声が無作為に聴こえてたみたいだから……。
……怖すぎる。
下手したら発狂案件である。
病弱だったのも本当だけど、母さんが人前に出なかったのはそういう経緯がデカかったっぽい。だから極力人前に出ず、屋敷の中で使用人も最低限の生活。
感情をあまり出さず控えめに微笑んでるだけだったのも、王都から離れ別荘地でひっそり出産したのも全て『異能』の 所為(せい) 。
人前で儚げに微笑むばかりだった……ってのは、苦痛やツッコミに耐えてたんだろう。よく俺が面倒な相手とかに内心で毒づきながら見掛けだけはパーフェクト(当人的には引き攣ってる)な笑みで流してるアレ。
貴族お得意の作り笑い。
にこやかに微笑んどきゃ大抵流せる便利なやつだね!
別荘地で隠れるように俺を生んだのも、噂されてるみたいに不義の子だから人目を避けてひっそり出産、とかじゃなくて……純粋にただでさえ体調悪い時にさらなるストレスとか耐えられなかったんだろうな。避けてたのは人目じゃなくて人そのもの。
ちなみに、母さんの『異能』を知っていたのは今は亡き母さんの両親、つまりは祖父母と父さんだけ。現存している存在では俺のみ。
ここで可笑しいことにお気づきだろうか?
知っているのが現在、 俺(・) の(・) み(・) ということに。
通常なら、どれ程に異能を隠しても本人や家族を除いてもそれを知っている筈の人間が存在する。
そう、『異能』の判定を下す 神(・) 殿(・) の(・) 人(・) 間(・) が(・) 。
だが、母さんはやりおったっ!!
日記によると、母さんは誰にもこの『異能』を知られたくなかったらしい。その気持ちはわかる。俺だって知られたくない。
そして運がいいのか悪いのか、母さんつきのメイドの一人に『消却』という『異能』を持つ者が居たらしい。効果は、記録、記憶の抹消。
ここまでくればもう、お分かりだと思う。
本来は神殿の判定には付き添うのは家族ぐらいだが、母さんは己の病弱さを口実にそのメイドを伴った。そして……神殿の記録と、立ち会った神官の記憶を部分的に消した。
なお、メイドがやったことは祖父母は知らないらしい。
だろうね。知ってたらさすがに止めてるだろう。
だって犯罪だもんっ!!!国が関わってる判定の儀の記録と神官の記憶消すとか結構な重罪じゃん?!
それにも関わらず 躊躇(ためら) わず実行したメイドは母さんへの忠誠心がMaxだったんだろうな……。
前にも言ったことがあるが、神殿での『異能』の判定は個人情報になるので元々口外はされないし、記録も犯罪を犯したりしなければ見直されることもない。
何故(なぜ) か俺の『無能』の噂は瞬く間に広がったがな……。
そんなこんなで母さんたちの完全犯罪は成功した。
人的被害はないし、気持ちはすっごくわかるんだけど……身内がしれっと国に犯罪かましてたことも疲労に拍車をかけてたりする。
まさかの『異能』、そしてその隠蔽行為、読んでて恥ずかしかった親バカ&バカップル全開……それだけでは終わらなかった。
日記に記されていたのはこの国の貴族や他国の恥ずかしいアレやコレや、国家機密じゃねぇの?っていうようなヤバめのアレコレ。
それらは母さんが自身の『異能』によって知ってしまったモロモロで、もし俺や父さんの敵がいたら使用しようとしていた裏情報。不倫や事業の失敗に汚職などまだ可愛らしいモノから「これ知ってたら命狙われんじゃねぇの?」って情報と、明るく書かれた「いざって時には使ってね!」という母さんのメッセージにも気が遠くなりかけた。
読み終わった時の俺の気持ちわかる?
いやぁ、綺麗に燃え尽きてくれてよかった。
……ってかさ、『異能』って能力の有無は遺伝しても能力自体は遺伝しないじゃん?!親子二代揃ってこれとかなんなのっ???
呪い?
ガチでこれ呪いなの??
脳内では頭を掻き毟りつつ、平静を装ってスープを飲み干す。
あははー、この脳内パニックなのに 似非(エセ) 冷静なのも俺ってば母さんそっくりー。笑えない頭でそんなことを思いながら、心底「父さんに似たかった!!」とそう思う。
「ご馳走様」
食事の皿が下げられ、代わりに差し出されたのはハーブティー。
この後は寝るだけなのを考慮してカフェイン控えめなのか、平静を装いつつ隠しきれない心労を読み取ってか。……多分両方だな。
気遣い溢れるそれを口にしてほっと息を吐く。
「この年になってあけすけな愛情や賛辞を向けられるのは 面映(おもは) ゆいというか……正直結構居た堪れないものだね。…………両親の恋愛事情をつまびらかにされるのも……」
疲れの原因の全てを告げることは出来ないけど、嘘も通用するとは思えないのでそれだけを口にした。実際、それらもお疲れの原因だから。
少しだけ目を丸くしたリフは、一瞬おいて困ったような笑みを浮かべた。
「それは……そうですね」
「正直、我が身を 顧(かえり) みた」
額を押さえて呟いた言葉に、ぷっと小さく笑う声が漏れた。
「ガーネスト様たちは、カイザー様からの愛情を 疎(うと) まれることなどございませんよ」
「うん、でも限度って大事」
自重をするつもりはないけど、最低限の自重は大事。
琥珀色の瞳が柔らかに細められてフォトフレームの中の家族を見やり、それからこちらへと向けられる。それはそこに映る両親と同じ、大切な相手へと向ける眼差しだった。
「カイザー様によく似ておられたというお母上に、私もお会いしてみたかったです」
「……」
口元を引き攣らせ、微笑みをキープする。他意のないその言葉に「絶対、会わせたくねぇ」という言葉を飲み込んだのは内緒だ。