作品タイトル不明
第875話 残された者、いなくなった者
「魔王と戦っただと!?」
「戦局はそこまで進んでいたの?」
アレンの言葉にクラシスのお世話をしていると思われるザイブルとミータが目を見開いて驚いて見せる。
「アレンさんたちと魔王との戦いにドベルグも一緒にいたのね」
「はい、ドベルグさんは別のパーティーですがその通りです。勇者ヘルミオスのパーティーに入り、私をリーダーとするパーティーも含めて複数のパーティーで魔王城を攻めました」
「それでドベルグはどうなったの?」
「……ドベルグさんは魔王軍幹部との戦いの際、命を落としましたが速やかに蘇生しました」
ペクタンから汲み取った1ヶ月で100万人ほどの蘇生した者たちの中にドベルグがいたことを知ってのアレンの発言だ。
だが、無事だから「怪我を負ったが無事である」など濁した言い回しにしようかとも思ったのだが、クラシスが嘘は見逃さないぞという強い視線を送る迫真の表情で見つめられたため正直に答えた。
「蘇生した……」
「私たちには蘇生するスキルや能力を持った者たちがいます」
「クラシス様、大丈夫ですか!?」
「ドベルグさんは、今でもクラシスさんのことを愛し、魔王軍に連れ去られたとあなたが生きていることを信じて戦っています」
「そんな50年も経ったのよ!? ああ、ドベルグ……。今も命懸けの戦いをしているのね」
「ドベルグさんと最初に出会ったのはラターシュ王国の学園での剣術の指南でした。一緒にS級ダンジョンも攻略した仲です。その後、合同で訓練をすることも何度かあり、ドベルグさんが何故魔王軍と戦う理由を聞いたとき、クラシスさんの話を何度か聞いたのです」
「ああ、ドベルグ。私のことはもう忘れて……」
「ドベルグさんはまさにラターシュ王国で読まれている英雄伝そのものの生き様です」
(農奴であったドベルグは黒竜を倒し英雄となり、贄となり命を落とそうとした村長の娘を助けだして結婚したとかそんな話だったかな。その村長の娘がクラシスさんだけど。クラシスさんはドベルグさんと一緒に魔王軍との戦いに呼ばれたがお腹に子供がいて……。てことは、イルゼの両親のどちらかが人族で、もう片方が魔族ってことかな。クォーターじゃなくてハーフね)
ドベルグとクラシスとイルゼの家系について理解する。
クラシスが、そんな中でも肩を震わせて泣いているのでミータが肩を引き寄せ抱きしめてあげている。
(このまま話を続けるよ。人間界での魔王軍の戦いはある程度知っていると思うから)
クラシスが暗黒界に飛ばされて50年の間にチラホラと魔王軍との戦いの知識を持った者たちが来訪者となってやってきたのだろう。
魔王軍、5大陸同盟、学園、勇者ヘルミオスなど主要な中央大陸の出来事は知っているだろうとアレンは判断する。
「万全に近い準備を整えての戦いで、初めて『忘れ去さられた大陸』に乗り込み、魔王城内に入りました。しかし、魔王軍の持つ力はそれ以上のものでパーティーリーダーの私は人間界から飛ばされ、暗黒界にやってきました。イルゼと出会い、現在に至るのです」
「なるほど、人間界の状況はいまいち分からないがお前の状況は理解できたぞ。リーダーとしての責任があるということだな」
「そのとおりだ、イルゼ。俺には魔王軍を攻略する計画を立てた責任がある。敗れた責任もな。戦いに戻らないといけない。時間もないからな。そのために暗黒神に『戻る』算段の話をしたってわけだ」
この時のアレンの眼には既に涙は残っていなかった。
「暗黒神? 暗黒神様だ。非礼は許さぬぞ」
ジワッ
クラシスの家に来ても、そのまま食堂に向かい鎧を脱いでいないイルゼの全身から漆黒の闇が僅かに溢れた。
「すまない。神を信頼していないんだ。気を付けるよ」
「ふんっ。次はないぞ」
アレンの謝罪の言葉を受け取ったイルゼの全身から闇が消える。
「それでアレンだったな。今『戻る』と言ったのか? 人間界に戻るって話があるのか!」
ようやく名前を覚えてくれたザイブルが、アレンの言葉を聞き逃していなかった。
「そのとおりです。厳しい試練を暗黒神様に与えられたようですが、達成すれば人間界に戻る見込みはありそうです。戻れば魔王軍と激しい戦いになれますが、今度こそ勝ってみせます。皆様も戻りたいのであれば、一緒に戻りましょう。ただ、暗黒界に再度帰れるか分かりませんので、この暗黒界でご家族ができたなら今の内に話し合っておいてください」
アレンはこの場に戻って話をしないといけないと考えていたことを口にする。
来訪者はアレンとクラシスだけではないようだ。
生存者最古と思われるクラシスが、声を掛け合い助け合って寄合を作り、暗黒界に生きていた。
「ああ、私も両親に会えるのね!」
魔導士のミータも目を輝かせ体を震わせて喜ぶ。
「魔王軍の侵攻は激しさを増しています。ギアムート帝国は壊滅状態でラターシュ王国が中心となって中央大陸では魔王軍と戦っています。それでも良ければという条件付きですが必ず人間界に戻るよう試練に臨みます。魔族と婚姻にあり配偶者も人間界に行かせたいとか2人の間に子供がいるなど、どこまで連れて行けるのか分かりません。ただ暗黒神様にはそのような細かい条件は受けていませんし、交渉はさせていただきます」
試練達成の折りには暗黒神に相談するとアレンは言う。
「……それで、明日から暫くこのアレンという者が暗黒神アマンテ様の命を全うするか側について行かないといけなくなりました。家には暫く戻れません」
「そうなのね。分かったわ。ささ、せっかくミータさんとザイブルさんが腕をかけて作った料理よ。頂きましょう。アレンさん、もう少しドベルグや人間界の話を聞かせて頂戴ね」
「もちろんです」
(ドベルグが学園武術大会で大人げもなくクレナにエクストラスキルを使った話をしてあげよう)
その日は随分遅くまで5人で食事を取って、アレンは片付けたリビングに布団を敷いて眠りについた。
イルゼの部屋はクラシスの家にあるようで夜は自らの寝室で眠りについた。
朝になり、アレンの様子を確認せんとばかりにリビングの様子を見に来た。
「もう起きていたのか」
「ああ、あまり時間がないからな……」
アレンはイルゼに視線を向けることなく答えた。
『コケッ』
『コケッ』
アレンはメルスと一緒に金の卵を作っていた。
アレンが創生と特技を発動させ、メルスが覚醒スキルと削除を発動させる。
人間大のサイズになったリオンと霊Aの召喚獣たちが金の卵を魔導書に収納にしていく。
「そうか……」
アレンは睡眠時間3時間でも草Gの召喚獣の覚醒スキル「アロマ」の効果で通常の6時間睡眠と同じ程度の疲労回復効果が得られる。
夜12時過ぎにお開きとなり、その1時間後に寝たが、4時には起きて作業を開始した。
なお、メルスは一睡もせずに黙々と創生スキルで率先して作業をこなしてくれている。
人間界にいたころとは別人とも言える変貌ぶりはルプトへの復讐の目的があるようだ。
「あら? もう2人とも起きていたの……」
寝室用に貸したリビングでアレンが創生スキルで金の卵を作る様子に一瞬驚いたがそういうものかと厨房へと向かっていく。
クラシスは、みんなの朝飯を作ってくれるようだ。
リビングを片付けると食事を必要としないメルスは小さな庭先に出て創生スキルの続きをリオンや他の召喚獣たちと行う。
(さて、クラシスさんの連絡用は暗黒神の大神殿と兼用にするかな)
テーブルに置かれた、前日作ったであろう歯ごたえのあるカチカチのパンをかじりながら、拡張スキル8のアレンの召喚獣枠90の割り当てを考える。
人間界と神界に設置した鳥Aの召喚獣の転移先用の「巣」の枠は解除した。
クエスト報告のため暗黒神アマンテの神殿入り口付近に巣を設置したが、クラシスの家の前にも設置しようと考える。
あまり増やし過ぎると創生スキルの使用枠が減り、時間当たりの効率が減ってしまう。
そんなことを考えているとイルゼがふいにアレンに話しかけてくる。
「急いでいるなら雷神船がザラフォイの街に今日の午後便があるはずだ。それに乗ってまずはブラキウス大陸へいくぞ」
コケトリスなら3時間もかけずにザラフォイの街に行けるとイルゼがこれからの話をしてくれた。
「ああ、分かった。ちなみにそこまで何で行くんだ?」
「何でそんなことを聞くんだ? アレンよ」
「俺は転移スキルや飛翔スキルがある。急いでいるから道中、コケトリスで移動するなら今後は俺のスキルで移動時間を短縮させたい。それにイルゼの飼っているコケトリスのようだし、発着場じゃなくて、どこかに預けた方がいいんじゃないのか?」
クワトロの特技「浮遊羽」なら空を飛ぶことができる。
街へ移動するなら事前に鳥Aの召喚獣を使って「巣」を事前に設置して覚醒スキル「帰巣本能」で一気に移動できる。
今も共有したメルスにお願いしてザラフォイの街へ巣を設置する算段をとる予定だ。
この暗黒世界は神界や人間界同様にかなり広いようだ。
今後の移動手段の話を軽くすると、イルゼは反論することはなかった。
「じゃあ、この街の兵舎に私のコケトリスは預けておくとしよう。この家だと手狭だからな。1時間ほどで帰ってくるから」
「その前にザラフォイの街の大まかな場所を教えておいてくれ。転移できるようこちらも準備しておきたい」
「なんかぶっ飛んでいる奴だな。この島と世界地図を持っているんで読んでおいてくれ」
「ああ、分かった」
イルゼが少しずつアレンにやり方に合わせられるようになっていく。
朝食を簡単に済ませると貰った地図で場所を確認し、上空に飛んだクワトロの特技「万里眼」で正確な情報を掴むと鳥Aの召喚獣を飛ばす。
巣を設置してほどなくすると自らのコケトリスをこの街の兵たちに預けたイルゼがクラシスの家に帰ってきた。
「よし、出発するぞ」
「ああ、各大陸へ回って生命球を届けに行くぞ」
狭い庭先で創生スキルを上げるアレンにイルゼは再び声をかけるのであった。