軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第606話 アレンの政治②

アレンがソメイに話を進めるように言う。

ソメイが頷いたところで、その様子を厳しい視線で睨みつけている2人の族長は、戦いが始まるのかと言わんばかりに、お互いの守人長に目配せをする。

コンコン

ノックが鳴り、館で働く使いの竜人が数人、盆にお茶、お茶うけのお菓子を持って入って来る。

先ほど、トクガラが「茶を淹れ直せ」と言ったので、淹れ直した。

目の前に置かれた神界由来のほのかに甘いお茶菓子をアレンは口に運ぶ。

(うむ、うまい。さて、「人は食べた物」で出来ているとはどこの世界で聞いた話か。俺が政治をすることになるとはな)

この世界に来て、あと数か月で17歳にアレンはなる。

ずいぶん長く生きてきたためか、前世の記憶は随分ぼやけてしまった。

前世ではしがないサラリーマンをしてきたのだが、この世界では、従僕時代に王家の抗争に巻き込まれ、隣にいるセシルと攫われたのは今では思い出だ。

そのころは「学園派」と「王国派」が次期国王の座や大臣のポストをめぐって争っていた。

アレンには、それに近い何か政治的なにおいをこの場で感じた。

ソメイはアレンの回想を他所に、自らの役目かと口を開く。

「遠路はるばるご苦労であったの。手紙にも書いていた通り、お二人には儂を首長として接して欲しいとそういうわけなのじゃが……」

「ちょっと待て、やってきて早々になんじゃ」

「はて? 何かの。すでに6つの部族とは話がついておるのじゃが」

ソメイをトクガラの発言を疑問符で答える。

「石材をばらまいて得た地位だと聞いておるが?」

(まあ、嘘ではないが。さっきからのこの大きな態度には根拠があるのか?)

「誰がそのようなことを。儂らは竜人たちがもっと豊かになってほしい。それだけなのじゃ」

「シャンダール天空王に決まっておろう。のう、ダッカイよ」

「はい、そのとおりでございます。守護方トクガラ様」

「ん? 守護方?」

「そうだ。ダッカイよ。皆に見せてみよ」

トクガラの族の守人長のダッカイが隣で強く相槌を打つ。

巻物のようなものをテーブルの上に出し、仰々しく縛った紐をほどき、ソメイに開いて見せる。

ソメイの両隣りにいるアレンとアビゲイルも身を乗り出して覗き込んだ。

そこにはシャンダール天空国の国王によって、族長のトクガラを守護方に、族長のノンフラを守護方補佐に任命されたように書かれてある。

「ほう、王都ラブールに館を構え……」

ソメイも目を見開き、驚きの厚遇ぶりが書かれていた。

トクガラは守護方として王家を守る勤めをし、ノンフラは守護方補佐として、王都の防備と治安を守るための警務に当たるよう書かれていた。

(はい、首長を目指すソメイさんを、天空王が邪魔にしに来たぞ)

元々、現在王家と最も関係の深いトクガラと、トクガラが子分のように従うノンフラを囲い込みにかかったようだ。

これはソメイが全ての竜人族を取り込み、族長として神界で巨大な力を持つことを天空王が危惧したことを意味する。

王都への受け入れを拒んできた竜人であるトクガラとノンフラの一族のために、専用の区画を与え、そこには館を提供する旨も書かれてある。

「そういうわけだ。これから儂らは一族を転居せねばならぬ。忙しい身であるから、ソメイ殿、今回の話はなかったことにしてくれぬか」

トクガラがはっきりとソメイを首長として接することはないと断言し、他の3人も強く頷いた。

「トクガラ様、少しよろしいでしょうか!」

アレンは最初に決めておいた打ち合わせのとおり立ち上がる。

「む? 人族のお主が何だと言うのだ?」

「はい。このような紙切れ、王家のことです。きっとすぐになかったことにするでしょう。神界人に竜人はどれだけの迫害を強いられたかお忘れでしょうか!!」

アレンはトクガラたち4人に王家の狙いを説く。

そもそも、務めを果たさないため、王都ラブールから竜人たちを追放したのは天空王だ。

また、9つの族に分けたのも、竜人たちが必要以上に力を持たせないためだし、今回の守護方任命も、竜人を仲違いさせるためだ。

アレンは竜人に力を与え、天空王からの解放を目指すと力強く訴えた。

「……、そ、そんなこと、分かっておるわ。ふん、アレンと言ったな。竜人を使ってお主の狙いはなんだ。なぜ、儂らを誑かす」

「私は、竜人のあまりに劣悪な状況が見ていられないと……」

「どうだかな!」

(あの、そろそろ、打合せどおり話に入ってきて)

「ま、まて、待つのじゃ!!」

若干、棒読みの口調でソメイが間に割って入る。

「人族に良いように使われて、ソメイ殿は必死だの」

「もちろんじゃ。実は儂も、自らを首長にするのは心苦しいとも思っておったのじゃ」

「は? 何を急に。それでどうしたのじゃ」

「それで、王家とも関係深いトクガラ殿には、ぜひ副首長の地位についてほしいと思っておる」

「な!? ソメイ様、話が違います。副首長の座は族長全員の推薦で決めると言われていたではありませんか!!」

アレンはわざとらしくも絶句する。

「それは、この任命書を見る前の話じゃ。天空王の信も厚いトクガラ殿にこそ相応しい」

「待つのじゃ、なに2人で話を進めておる!!」

トクガラが大声で割って入る。

「だから、申しておる。急に9つの族を統合しても、儂だけでは上手くやっていけぬ。だから、儂を補佐してほかの族長たちとの間を取り持ってほしいのじゃ」

「副首長とは……、トクガラ様、いかがされますか?」

「ノンフラよ、何を焦っておる!」

ソメイが相応の地位を用意すると言うので、ためらいが生じる。

「ソメイ殿、お考え直しを。推薦になれば、お2人が首長補佐になることはございません。お2人は竜人であることよりも天空王を選ばれた方々なのですよ」

「アレンよ、黙れと言っておる。儂らは天空王の元、神々のために霊獣を狩るのが本分じゃ。

そうだ、ダッカイ殿たちよ、それでは、霊獣を狩るのに苦労しよう。これ、誰か!!」

「む? ソメイ様?」

トクガラの守人長のダッカイが何の話だと疑問の声を上げる。

ソメイが手を叩いて声を上げたのと同時に、竜人たちがキラキラ輝く鎧を持って部屋に入ってきた。

ダッカイの目の前にはオリハルコンの鎧が、もう1人の守人長にはアダマンタイトの鎧が置かれた。

さらに、2人のためにオリハルコンの槍とアダマンタイトの剣も用意される。

「ソメイ殿よ、これはどういうことかの」

「トクガラ殿よ。儂らは霊獣を多く狩り、神界での役目を果たさねばならぬ。 政(まつりごと) はそのためにあるのではなかろうか」

「綺麗ごとじゃ。このようなあからさまな買収で竜人の誇りを忘れたのか」

(まあ、武器と防具を用意したのは俺らなんだけど)

「トクガラ様、あまり悪い話ではないのでは……」

目の前に巨大なオリハルコンの鎧を置かれ、正面から見えなくなったダッカイが、トクガラの説得に出る。

「貴様! 買収に飲まれおって!!」

「王家とも関わり深いお2人を決して悪いようにはしない。こちらに一筆ほしいのじゃ」

別の竜人が書面を盆に乗せて入ってくる。

ソメイを首長とし、トクガラを首長補佐に任命する旨、書かれた誓約書だ。

「このようなもの、書くわけ……」

トクガラの横に並ぶ3人の視線が集まり、言葉が詰まる。

(さて、断れば竜人は完全に分裂するかな)

「いかがされるかの」

「このような大事な話、即答などできぬわ! 宿に帰らせてもらうぞ」

トクガラたちはソメイの館に泊まるという誘いを断って、ボアソの街の宿に泊まっている。

「そうか。色よい返事を待っておるぞ」

ソメイの言葉に返事をすることなく、トクガラは2人の守人長に目が行った。

「貴様ら、何持って帰って……、もうよい!!」

帰りに貰った饅頭を持って帰るが如く、ダッカイともう1人の守人長が、自らに与えられた鎧と武器を抱きかかえる。

断ればいつこのようなものが手に入るのか分からないので、ダッカイは首を振ってトクガラの言葉を制止した。

バタバタしたが、4人はソメイの使いの竜人に連れられ、街の宿へ向かってしまった。

しばらく空気に飲まれていたアビゲイルが、意識を取り戻し口を開いた。

「アレン殿、これで良かったのですか?」

「もちろんです。結構、上手くいったのではないでしょうか? 思いのほか天空王の動きが速くて助かりました」

アレンは今回の交渉事は上手くいった方だと考えている。

「本当にアレンの思った通り動くかしら?」

「まあ、セシル。正確には何も動かないが正しい表現だな。天空王は必ず油断する」

アレンは、半信半疑な皆に、立場が違うそれぞれの思惑と、話し合いの結果予想される動きについて解説する。

まずは、神界人たちの王である天空王は、このまま話が順調に進めば、自らの手先として守護方に任命したトクガラが、首長補佐となったことを知るだろう。

天空王の目的は竜人族が命令に従い、霊獣を狩ることだ。

竜人の部族の中でも、ソメイの1つ下の役職にトクガラが就いたら、竜人族の情報は聞きたい放題となって天空王は安心する。

ソメイ側に何か反乱の動きがあればすぐに察知できる。

「じゃが、結局は誓約書に何も書かず帰ってしもうたの。上手くいくじゃろうか」

「トクガラの立場を考えれば、断る道理はないでしょう。あそこで即答しなかった理由は……」

今度はトクガラだと、どう行動するか話をする。

唯一の天空王と取引ができる立場だったが、ソメイが首長を名乗り一気に力をつけ始めた。

その際、天空王から特別な立場を与えられる話を持ち掛けられる。

守護方の立場を利用すれば、すでに力をつけ始めたソメイの元で、強い立場に就くこともできるだろう。

即決しなかったのは、ソメイに足元を見られるのを避けるため。

または、さらなる譲歩を求めるか、天空王に誓約書にサインする前に伺いを立て、筋を通すくらいはするかもしれない。

「譲歩かの」

「はい、例えば、天空王との間で、石材など全ての取引はトクガラを必ず通さなくてはいけないくらいは言ってくるかもしれませんね」

それくらいなら譲歩してあげてくださいとアレンは言う。

「なるほど、結局は我ら竜人が割れる話ではなかった。監視役を潜ませたことで、天空王様も、これ以上何かしてくることは考えにくいということか」

神界人が神々に仕え、竜人が霊獣を狩るという立場に変わりはなかった。

上手くことが進んだと思うものは疑うことを知らない。

その中で、それぞれの立場で最も良い結果はなんなのか模索しただけの話だとアビゲイルも理解ができたようだ。

「じゃが、アレン殿は、何か悪者にしてしまったの。頂いた武器や防具も儂が渡したことになったし……」

竜人側に入り、ソメイの良いように部族を統合し、アレンの好きにやりたいように、トクガラは見えただろう。

この存在のおかげで、トクガラはソメイを首長にする判断を早める結果になるのだが、わざわざ悪評をつける必要もない。

「ふむ、そうだ。我らに何かできることがあれば言ってほしいのだ」

アビゲイルも同意する。

この話の流れにセシルがため息をついた。

「え? 良いんですか?」

アレンの顔がどんどん悪くなっていく。

最初からこの言葉をもらうため、悪役に徹したとも言える。

「も、もちろんじゃ」

アレンの顔に若干引いているが、ソメイは出した言葉を引っ込めることはしなかった。

「そうだ。我らにできることなら何でもするぞ」

「では、霊石を1億個用意していただきたいです」

「1億!?」

「1億!?」

驚愕の数字に2人の竜人は絶句するのであった。