作品タイトル不明
第607話 霊石狩り①
アレンはアビゲイルたちに霊石を1億集めてほしいと伝えた。
「1億とはそれは随分な数だな」
先日12万個の霊石を集めたアビゲイルは言う。
「はい、神の試練を超えるためにはどうしても必要な数で、無理言って申し訳ありませんが、ご協力お願いできないでしょうか」
アレンはソメイとアビゲイルに深々と頭を下げる。
「いやいや、そんなアレン殿、頭を上げてほしいのじゃ。それは、このようなことをしてくれたアレン殿の願いは叶えて上げたいのじゃが。のう、アビゲイルよ。それは可能なのか?」
「かなり難しいです。そもそも、そんなに霊獣はこの神界にいない。何十年と待っていただけるならそれも可能だが、そうではないのだろう?」
(何十年どころか何年も待てません。1カ月以内に霊石1億個回収するんだからね)
霊獣1体を倒すと1個から5個の霊石が手に入る。
ただ、シャンダール天空国の霊障の吹き溜まりにいる全ての霊獣でも、それだけいるのか疑わしい。
「アレン、もしかして……」
セシルはここにきて、アレンの狙いが分かった。
先日まで、圧倒的に広大な大地に、溢れるほどの霊獣が跋扈している場所にいた。
竜人のように、霊獣を専門で狩ることを生業にしている種族もいないため、霊障の吹き溜まりからあふれ出してしまっている。
「そういうことだ。ここだと狩り効率が悪いからな。原獣の園へ行ってもらう」
アレンは幾度とアビゲイルから霊石を集めてもらっている。
今回の12万個という霊石は、決して少ない数ではないのだが、シャンダール天空国で狩り効率を考えると限界にきていると言える。
「まあ! それは良い考えですわ!! 霊獣には困っていると聞いておりますし、獣人たちも喜びますわ!!」
ソフィーも両手を胸の前で合わせ、アレンの案に賛同してくれる。
「原獣の園か……」
「はい、ここには半分ほど守人がいれば十分すぎるかと。現在、7つの族でどれほどの守人がいるのですか?」
「まあ、7部族合わせて40万もいないくらいだ。たしかに半分程度なら動員できなくもないぞ」
改めて現状の守人の人数を確認する。
(神界に900万人いると言われる竜人だけど、守人は40万くらいか。あと2つの部族を統合しても50万超えるかどうかくらいかな)
900万のうち才能があるものが1割の90万人くらいだろうか。
さらに戦闘に役立つ才能は半分くらいだろう。
食事を作ったり、医療従事者、防壁を作ったりと戦闘には向かない才能もそれなりの割合でいることも考えれば、40万人が守人というのは妥当な数字かもしれない。
竜人たちは霊障の吹き溜まりの、霊獣の沸きポイントに防壁を築き守備に当たっている。
アレン軍の協力もあり、竜人たちの転職が進んでいる。
守主を目指すアビゲイルに仕える竜人たちも増えているため、全体で見れば転職が終わった竜人は3割に満たないが、これからも転職は進めていく予定だと聞いている。
「ですので、20万人くらいは、原獣の園で霊獣狩りに協力していただけると助かります。神界の務めではありますが、神界人が頼んだわけでも何でもありませんが……」
装備を提供し、転職を進めているので、霊障の吹き溜まりには今の半分程度の竜人がいれば十分なはずだ。
霊石集めで多めに霊獣を狩っており、シャンダール天空国の守人の数を減らしても大丈夫だろう。
「1億個どうしても必要なのだな?」
「どうしても必要です。現状、あなた方にお願いするしかありません」
(さらに言うならもっと必要です。1巡目が終わったら2巡目がきっと始まるだろうから)
創生のスキルは1巡目と表示されている。
1巡目があるなら2巡目もあるのだろう。
霊獣を多く狩るなら人手が必要なのだが、アレン軍はほとんど神界に呼べない。
召喚獣はメルルたち大地の迷宮の攻略が休みの日なら、かなりの数投入できるが、それでも厳しい。
アレンがアビゲイルを見て、念を押している。
アビゲイルは竜人たちを思って、どうすべきか迷っているようだ。
アビゲイルの横でソメイが決心をしたのか、口を開く。
「アレン殿は、儂らのために行動したのは紛れもない事実。協力しようかの、アビゲイルよ」
転職を進めてくれたのも、石材を提供してくれたのもアレンだ。
自らが悪者になってまで、アレンは竜人たちをまとめ上げることに協力した義理を果たすとソメイは言う。
「はい、ソメイ様。そうですね」
アビゲイルは交渉の場から引いて、ソメイの最後の一言を待っていたようだ。
「だが、大事な竜人たちだ。1人も殺すことなく、この国に返してほしいのじゃ」
「安全面に配慮します。では、その辺りの作戦も踏まえて話を進めてもよろしいでしょうか」
「うむ」
アレンはトクガラたちのいなくなったこの応接間で、今後の霊獣狩りの作戦について説明をした。
作戦はとてもシンプルなもので、アレンの説明も分かりやすかったためか、小一時間後には次の行動に移ることになる。
前世でもそうだが、作戦が細かいと理解できずに死人が出るかもしれない。
できるだけシンプルに、それでいて確実に霊石1億個目指す方法をアビゲイルたちに伝えた。
***
その日のうちに、アレンたちはアルバハル村に向かった。
この場にはアビゲイルだけが来ており、ソメイはトクガラたちの動向を見るため、ボアソの街に残っている。
『ふむ、なるほど』
アレンたちの目の前には老齢なアルバハルが体を横にして、顔だけをこちらに向けている。
先日、シアと共に出て行ったアレンたちが戻ってきて会いたいと言ったら、ほとんど待たされることなく通してくれた。
たった今、竜人たちを、幻獣アルバハルに対して、霊獣狩りのため、迎え入れてほしいと言ったところだ。
「シアにも、隣村への霊獣討伐を依頼していたようですが……」
アレンは冗談交じりだったけど、という言葉も付け足す。
『確かにその通りだ。だが、何故そのようなことをしてくれるのだ?』
「それは私の神の試練を超えるために必要なことなのです。竜人たちはご協力頂けると……、感謝の言葉もありません」
『なるほど、そうか』
「ただ、竜人も……」
『ん?』
「これはアルバハル様にお伝えすべきか迷いますが」
何の話だと隣で話を聞いているアビゲイルがアレンを見る。
『いや、聞かせてくれ。大事な話ならギラン様にもお伝えしないといかぬからな』
「はい。実は私は神界の有り様について多くを語る資格はないのかもしれません。ただ、あまりにも竜人に対しての風当たりは強く。最近では一緒にやっていこうという竜人の動きについて……」
本日起きたトクガラたちの話をアルバハルにする。
竜人は神界では神界人に従い、危険な霊獣を狩る役目として存在していた。
生活は神界人に比べても貧しく、家を建てるための建材も不足している。
アレンの石材提供もあり、ソメイという1つの部族が全ての部族を統合しようとしたら、本日のような結末となった。
神界人の王家である天空王が、部族の監視と仲違いをするよう仕向けてきた。
『ふむ、そうか。だが、儂らは神々とも神界人とも敵対するつもりはないのだが……』
「たしかに、ご迷惑をかけるつもりは毛頭ありません。しかし、これから多くの霊獣を狩る形となります。それは原獣の園とそこに住まう獣人たちにとって利益は大きいかと」
『試練には対価をと言いたいのかの?』
「判断されるのはアルバハル様であったり、獣神様方かと存じます。ただ、これから拠点を築き、多くの竜人たちがこの大地のために霊獣を狩りましょう。彼らの居場所は1つでも多くあってほしいというのが私の願いです」
アルバハルはシアに試練を与えた。
自らの力を削り、その結果スキル「獣帝化」を与えたのだが、竜人はそのようなものを望んでいない。
竜人に必要なものは、尊厳のある暮らしだと言う。
1万年以上の長きに渡り、竜人は神界人に仕えてきた結果が、今の暮らしだ。
霊獣を多く狩った対価を考えるとき、尊厳のある「居場所」を竜人たちは求めていることを最初に知っておいてほしい。
何を与えるのか、どのように接するのか、獣神やアルバハルに対応は委ねるとアレンは地面に付くほど頭を下げて進言した。
「すまない……」
アビゲイルも一緒になって頭を下げたのだが、その目には涙が溢れる。
アレンが、竜人が霊獣狩りに協力すると言ったときには、今回のことを発言すると決めていたことを知る。
『場所は隣村の先であるのだな』
「はい、獣人の生活圏の未開の土地に拠点を築き、霊獣を狩りたいと思います」
今後は竜人の拠点が獣人たちの防壁となる。
『そうか、ではこの村と隣村に知らせを出そう』
「ありがとうございます。もう一点質問しても良いですか?」
(さて、こっちも同時並行で確認しておくか)
『ん? ほかに何かあるのか?』
「実は荒廃した魚神の神域を見たのですが、現在、聖魚様などはいないのですか?」
『……そうだな。今は幻魚も聖魚もいない。魚神様がはるか昔に亡くなった以降は、神無き領域よ』
「教えていただき、ありがとうございます。では、狩りの状況が進展すれば、報告にも伺います」
『そうしてくれ』
アレンの問いに、ソフィーもセシルもなぜ聞いたのかよく分からないと首を傾げた。
あとで、説明しようかと思う。
アレンたちはアルバハルに霊獣狩りの許可を取った。
そのまま、アルバハル村を移動し、さらにその先の隣村の上空も通り過ぎていく。
獣人たちは村の周り100キロメートル四方を自らの生活圏としているようだ。
隣村のさらに100キロメートル先へ上空から移動する。
「よし、この辺にするぞ」
アレン、セシル、ソフィー、アビゲイルは原獣の園の大地に降りた。
「では、私が拠点を作ります。土の精霊ピグミー様、堅牢なる要塞をお築きください」
ソフィーには契約した大精霊に土属性がいないため、土の精霊を顕現する。
『ふあわわっ、分かったよ』
山奥の豪雪地帯に住んでいそうな藁の靴に蓑を被った少年が、寝起きのような態度で現れる。
民族衣装を着た、深く帽子をかぶっており顔が半分見えないがヤンチャな言葉使いをしている。
ソフィーの10万を超える全魔力が吸い取られ、土の精霊ピグミーの両手に力が籠っていく。
メキメキ
ズッドオオオオオオオオオオン
最初は地面が波打ったかと思ったら、大地が一気に天井に押し上げるように上空へ上がっていく。
「よし、俺とセシルは、この周りの霊獣をいったん一掃するぞ。アビゲイルさんはソフィーの要塞作りを見ていてください」
「ええ、分かったわ。竜人たちに安全に移動してきてもらおうってわけね」
「うむ、分かった。守りを固めるには、どのような要塞が良いか意見を言えばよいのだな」
分散して行動を開始する。
アレンはセシルと鳥Bの召喚獣の上に乗って、ソフィーが築くであろう要塞の周りに移動を開始する。
「ハッチ。卵を産んで、陣を組んでくれ」
『ギチギチ!!』
巨大な蜂の姿をした虫Aの召喚獣は、表情は見えないが、役目が来たことにどこか嬉しそうだ。
覚醒スキル「王台」でハッチを1体、特技「産卵」で子ハッチ100体を産んで、数を増やす。
召喚獣たちはソフィーの作る要塞の近くにいる霊獣たちを一掃し始める。
竜人の守人たちを招く準備を進めるアレンたちであった。