軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第557話 商神マーネの露店市場

アレンたちは、羅神の示す先へ神域の雲海の上を進んでいく。

神界にも上る日の光がもう東の果てから出てきた翌日になると、アレンたちの目的地に到着できた。

「あれが商神の神域か。なんか市場みたいな物が発着場の近くにあるな」

「市場? 神界に市場があるの?」

アレンは鳥Sの召喚獣であるクワトロに特技「万里眼」を発動させる。

商神マーネの神域は北海道くらいの大きさの島なので、1000キロメートル先まで見ることのできる万里眼なら全域を確認することができる。

発着場の周りに露店が立ち並び、地面からフヨフヨとわずかに浮いた天使たちがちらほらといる。

(特に敵対的な感じは全くしないし。安全と見た)

「みんな降りるぞ」

「ええ」

アレンの言葉に先ほどからセシルが返事をする。

商神マーネの神域であるそれなりに大きな島の隅に取り付けられた発着場で魔導船をアレンたちは降りる。

(基本発着場は神域の隅にあるな。今回は迎えの天使がいないが?)

原獣の園や歌神の神域では迎えの天使がいたが、ここには誰にもいない。

精霊の園に続いて2回目の出迎えなしの状況だ。

アレンは横にいる神界人で操舵士のピヨンを見る。

「商神様は人々が足を踏み入れることを拒むような性格をしていますか?」

ペロムスを降ろして、剣神の神域を目指そうと思っていたアレンだが、商神の神域にも興味を持つ。

立ち寄った先でお店を見かけたら、売っているものを確認するのは基本だ。

「いえ、そのようなことはないかと思います。あまり私たち神界人とはかかわりの深い神ではございませんので、詳しくは分かりませんが……。私たちはここに残りますね」

「そうね。私もそうするわ。ちょっと、魔導船の状況が心配よ」

(では、迎えに来ない理由があると。ふ~ん)

違和感を覚えたアレンは魔導書のカードを変更して知力を高めに変えていく。

操舵士ピヨンとララッパ団長らは、初めての神界での運行を一晩中行ったため、魔導船に問題がないか確認をするようだ。

アレン、セシル、ペロムス、フィオナの4人で露店市場に向かうことにする。

アレンたちが市場の方へ向かうと、碁盤の目のように縦横等間隔に、正方形の絨毯のようなものが敷かれており、絨毯の中央には、それぞれキューブ状の物体が浮いている。

絨毯の上にはなにやら商品が並べられているようだ。

天使たちがポツリポツリと広い露店の広場に散在しており、買い物をしているようだ。

(青空露店は懐かしいな。俺も売れるまで露店で叫んで物を売ったな。相場は操作するもの。値下げせずに強気に売るべし)

アレンは前世の頃を思い出す。

前世の頃、ゲームをする際、プレイスタイルとして生産職をほとんどしてこなかった。

敵を倒して手に入れたドロップアイテムや、ダンジョンで手に入れたアイテムはもっぱら露店で売ったり、他のプレイヤーと取引することが多かった。

こうやって露店市場には売っても良い位置が決まっており、そこでゴザを敷いてアイテムを並べて売ったものだ。

「へ~、天使も買い物をするのね」

結構広めの露天市場で品物を品定めする天使たちを見てセシルが感想を漏らした。

「……そういうことか」

「アレン、思ったことは口に出すのよ」

自分だけ納得しようとするアレンに声に出して考えを口にするよう伝えるのはセシルの仕事だ。

「……セシル。神であれ、天使であれ、無から有を造るのは難しい。だからここで買い物をしているんだろう。たしか、商神マーネにはお金をお布施する文化もあるようだし」

アレンは露店に並べられているランタンのようなものを見ながら言う。

神々の神殿の中を見たわけではないが、アレンは想像できる。

大理石で出来た壮大な神殿の中で、柱と壁しかない空間では味気がないのだろう。

ランタンなどで神殿内を飾るくらいの趣向は求めてもおかしくはない。

「ラブールで買い物すればいいのにね。せっかく神界人たちが店を開いているんだから」

神が人の物を買って、断られることもないだろうとセシルは言う。

「神が人から物を買うのは憚られる。だから、商神との取引に一本にまとめているんじゃないのかな」

セシルたちと共に露店市場を歩きながら、アレンは自らの考察を口にする。

神が人に奇跡を起こすことに対価を求める世界で、人から物を買うことにかなりのハードルがあるのかもしれない。

人と神が対等な関係ではないために生じる問題だ。

さらに、商神マーネは商売の神で、アレンは神々の中で商神は商人や信者たちから、お金をお布施に貰うと言う。

(集めた金で、神界人から物を買って、神々に売りさばいているとかそんな感じか。商神は商売の神だからそんなこと気にしないと)

神界人、商神、神々の関係が見えてくる。

「なんかややこしいことをしているのね。アレン、剣もあるわよ」

「お? これは、……ミスリルだよな」

露店には剣が売っていた。

アレンはペロムスに渡すと、鑑定のスキルを発動してくれる。

「うん、アレン。これはただのミスリルの剣だよ。何の効果も付与されていないみたいだね」

アレンがずっとミスリルの剣を握っていると、目の前のキューブ状の物体が話しかけてくる。

『ミスリスソード1本、金貨1万枚または、信仰ポイント1万ポイント頂きます』

(たけえな。神界価格かよ)

「申し訳ありません。見ているだけでした」

『畏まりました』

「ちなみに信仰ポイントはどのようにお支払いしたら良いですか」

ミスリルの剣をおいて、キューブ状の物体に話しかけることにする。

『信仰カードをそちらの魔導板に当ててください』

なんか、アレンの腰ほどの高さの台のようなものの天井の中央にカードのマークがある。

ここに信仰カードをかざすと信仰ポイントとやらが1万ポイント引かれるのだろう。

「何言っているのか分からないわ」

「信仰カードもないのですが、貰えたりしますのですか?」

理解のできないセシルを置いて、話を進める。

『信仰カードの発行には金貨1万枚または信仰値1万ポイント頂きます』

(信用の前払いね。デポジット制になっているのか)

「信仰値1万で、信仰ポイント1万ポイントということですね?」

『そのとおりです』

「ただ、信仰値もありませんので、今回はカードの発行もやめておきます」

信仰値は亜神以上の神が蓄積することができるものだ。

アレンたちの中に、信仰値を持っている者はいない。

セシルの分からないまま、話が進んでしまったが、どうしようもない話であることは理解できた。

「それでどうするの? 商神マーネ様の神殿を探すの?」

「いや、神殿というか目立つ建物はもう見当ついている。とりあえず、剣を探したい」

アレンはクワトロに特技「万里眼」を使わせ、共有して確認したところ、金ぴかの神殿が大陸の中央にあった。

「あら、そうなの。ここで神聖オリハルコンの剣を探すの? 売っているとは思えないけど」

「そうだと思うけど、とりあえず探してみよう」

(俺もそんな気がする。どんなものを神々が必要としているのか知るのも悪くないだろう)

アレンは、精霊の園での精霊獣との戦いでも生じた武器の強化を求めている。

こんなに広い露店市場なら何か良い武器があるかもしれない。

「ここは危ない物はなさそうなので、手分けして探し物してみよう。皆もオリハルコン以外に何か面白いものがあったら教えてくれ」

3人の肩に鳥Aの召喚獣を乗せる。

これで視界も共有できたし、何かあったら転移して向かうこともできる。

半日ほど露店市場を見て回る。

アレンたちは休憩のため集合して、市場の隅でゴザを敷いて飯を食べる。

「なんかパッとしないわよ。試練の塔でももっといい物があったわ」

サンドイッチ的な物を口にするセシルは良い物は売っていなかったと言う。

神界にきてS級ダンジョン以下の品ぞろえでガッカリしているようだ。

「たしかにそうね。これなら王都の方がましよ」

セシルとは生まれた街が同じ幼馴染のフィオナもお茶を飲みながら同意する。

(領主の館の庭先でお茶を飲んでいた時のことを思い出すな。このあと2人は取っ組み合いの喧嘩になったけど)

庭先で絡み合い草団子になるセシルとフィオナを、必死に制止しようとした従僕時代をアレンは思い出す。

「珍しい物といえば、魔導具や魔法具は結構あるね。神界人も結構作ってるんだね」

高すぎて買えなかったが、魔導具らしきものは王都ラブール以上の品揃えであった。

『そちらは、魔法神イシリス様より買い取った物でございます』

不意に知らない者から声をかけられたので、アレン以外の3人に一気に緊張が走る。

「これは。あなたはどちらの天使様でしょうか」

クワトロを空に飛ばしていたから、こちらに向かってくる天使がいることに既に気付いていたアレンが太めの天使に問う。

『私は商神マーネ様に仕える天使カルネと申します。迎えが遅くなりましたが、ペロムスさんを商神様の修行にご案内に伺いました』

商人が太っているのは定番なのかと思う。

そう言えば、商神マーネもふくよかな子供だったような気がする。

メルスから聞いた話だと、以前の商神は、人間世界でやりすぎて、裁かれてしまった。

今代の商神は、新たに着任したためか随分幼い姿をしているようだ。

ガリガリのペロムスも今後、丸まると太っていくのだろうか。

そして、子供にはポポロと名付けてくれることに期待をする。

「そうでしたか。よし、ペロムス。一緒に頑張って商神様の試練を乗り越えような。腕が鳴るぜ」

首をコキコキしながら、ワザとらしく、やる気に満ち溢れた表情のアレンが立ち上がった。

「え?」

「え?」

「え?」

『え!?』

ペロムスとフィオナの2人で挑戦すると思っていたので、アレンを除く3人が疑問の声を上げた。

だが、それ以上にのけぞるように驚いたのは天使だった。

「いやぁ、精霊の園では力をつけたからな。時間もないし、すぐに試練を越えような!」

腰の剣の柄を力強く握りしめ、さらにやる気を見せる。

『も、申し訳ございません。商神様からはペロムスさんと、あ、あと……フィオナさんだけを連れてきてよいと』

(おい、フィオナについては今考えただろ。てめえ、このやろう。神界人のエピタニに俺たち人間世界の情報を流したのてめえらだろ。よくぬけぬけと)

アレンは天使の態度を見て、色々納得した。

アレンは鳥Fの召喚獣を出して、自らの肩に載せ、特技「伝達」を発動する。

この特技は召喚士が3キロメートル以内の対象に対してのみ、召喚士の言葉を伝えるものだ。

『どうやら商神マーネはペロムスを使って、信者を増やしたいみたいだ』

目の前で驚く天使には聞こえないように話をする。

「ちょっと、どういうことよ?」

『あとで疑問に答えるから、とりあえず聞いてくれ』

「わ、分かったわ」

アレンは今起きている状況について説明をする。

アレンたちが金貨1億枚を求めて、神界人と取引を進めていることを知った商神マーネは、これを利用して、自らの信者を増やせないものかと考えた。

このままペロムスの取引が無事に進んでしまえば、商神に頼ることもないだろうと、自らに信仰する神界人のエピタニに人間世界の現状を伝える。

物価の違いを覆すために人間世界との取引に関税を導入させて、金貨1億枚の取引が成立できないようにした。

金策の手段を広げるため、アレンたちはペロムスを連れて商神の元に足を運ぶ結果となる。

なんだが、セシルたちにしか聞こえない話をしている状況に困惑しながらも、天使はさらに口を開く。

『……商人の修行は、商才を鍛えるもので、危なくありません。アレンさん方はお引き取り下さい』

「しかし、この神域にも霊獣がいるでしょう。才能の無いフィオナさんもこの場に居ますので護衛は必要でしょう。精霊の園ほどのことは起きませんので、ご安心を」

『ぶっ!?』

アレンの「精霊の園」という言葉に天使は吹き出しそうになる。

(ほう、やはり精霊の園については聞いているのか。まあ、あれから日数は経ったしな。だが、エピタニはそんな話していなかったな。緘口令でも敷いたか)

神界で人間が大暴れをして、神の神殿とも言える山を破壊したなんて神界人たちに言える話ではなかったのだろう。

それこそ、神々の信仰に関わってくる話だ。

ピカッ

「まぶしっ!?」

アレンと天使の会話に割って入るように1人のふくよかな男が瞬時に目の前に現れる。

ペロムスは思わず、手で目を覆い、声を上げてしまう。

『その辺にするホイ』

キラキラした金の大袋を背中に担いだ小太りの少年は特徴的な語尾をつけて話しかけてくる。

金太郎が着ているような真っ赤なふんどしのようなものを首から掛けており、この世界の言葉で「金の亡者」とデカデカと書かれている。

是非、キールに着せてみたいとアレンは思った。

「これは、商神マーネ様、自らお越し頂きありがとうございます」

『アレンよ。駆け引きはそれくらいにするホイ』

アレンの態度を見透かすように、取引の権化ともいうべき商神マーネは言う。

「駆け引きとは?」

アレンはとぼけて言う。

『お互い悪い話ではないということだホイ』

「では、金貨1億枚の目途は立てて頂けると?」

『その程度は貸すホイ。それにあと金貨5000万枚だろうホイ。あと、利子は払ってもらうホイ』

この会話でアレンは全てを理解した。

(神界では疎まれているみたいだからな。天空王も商売を蔑んでいたし。それにしても、エピタニの取引だけでなく、俺たちアレン軍が5大陸同盟の会議で賛成票を得るために入金した金額も引かれてしまっているな)

神界ではあまり立場の無い商神マーネは、商機を逃すわけにはいかなかったのだろう。

エピタニとペロムスを争わせて、商神の神域に誘導する。

力をつけたペロムスを遣って、自らの信者を神界や人間世界に広げたいのだろう。

「態々お越し頂きありがとうございます。少々、商神マーネ様に手伝っていただきたいことがございます。ペロムスが試練を超えた暁にはどうぞお力を」

『話の分かる男だホイ。後で詳しく聞かせろホイ』

アレンが悪い顔で話を持ち掛けると、商神もさらに悪い顔をして同意する。

お互いの目的が一致したのだろう。

「全然ついていけないわ。なんか、先が思いやられるわ。もうこれ以上暴れないでよね」

違う神域に行くたびにこんなことが起きるのかとセシルがため息をつく。

「そうね。セシルも大変だったのね」

セシルの言葉にフィオナが同意するのであった。