軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第376話 シアのけじめ

シアのアレン軍への参加を獣王は完全に否定する。

そして、アルバハル獣王国に一緒に帰るぞとシアに告げた。

その様子を見ていたゼウ獣王子がまさかそこまで言うとはと、立ち上がり絶句する。

各国の協力を取り付けるアレン軍の話について、一切触れることなく獣王は自らの考えを通すようだ。

会議室が静まり返り、その経緯を伺う。

「私は既に成人しています。自らの行動には、けじめを通したく存じます」

シアはあくまでも自分の考えを曲げないと言う。

「ほう、騎士ごっこをしてきた小娘が言うようになったな。テミの試練を乗り越えると態度は大きくなるものなのか。では、どうする? どうけじめを通すと言うのだ?」

もう誰もシアと獣王の会話に割って入る者もいない。

アレンの態度に業を煮やしたギアムート帝国皇帝も黙ってしまった。

(ギアムートの皇帝もビビっているな。すぐに手を出す脳筋系の王らしいしな)

勇者ヘルミオスを、各国の首脳の前でボッコボコにした獣王に、異論をはさむ者などいるはずなかった。

「獣王陛下と果し合いをしたく存じます。それでよろしいですか?」

既に用意していたようにシアはすぐに答えた。

(シアはこうなることが分かっていたのか。まあ親子だしな。っていうかよくあるみたいだし)

誰よりも鬼気迫る思いで5大陸同盟の会議にシアは参加していた。

父である獣王の性格を分かっていたようだ。

そして、アレンもシアから獣王の性格をよく聞いている。

獣王は大臣が気に食わない政策を上げてきたら絶対に通さないと言う。

どれだけ、必死に説得しても首を縦に振らない。

どうしてもその政策を通したいなら、自らと決闘でけりをつけろと言うらしい。

それだけの覚悟があるなら、政策を通しても良いと言う。

実際に年に数回、大臣との決闘が行われる。

そして、これまでに何人もの大臣を決闘場で葬ってきたとシアから聞いている。

「面白い。ギアムート帝国の皇帝よ。少し、闘技場を借りるぞ」

(闘技場? そういえば近くにあったな)

魔導船から降りてくるときに、王宮に隣接した四角い訓練施設のようなものが見えた。

闘技場だったのかとアレンは思う。

「な!? 今からか?」

ギアムート帝国の皇帝はこのような状況で、今から自らの娘と戦うのかと驚愕する。

「ああ、アレンとかいう奴の話は終わったんだろ?」

立ち上がるとアレンより頭2つ分以上デカく、縦にも横にもドゴラよりもかなり大きい。

アレン軍の話は終わったが、まだまだ話し合わないといけない議題は残っているというギアムート帝国の皇帝の言葉に耳を傾けず、会議室から出て行く。

「多分勝てないよ。というか無事には済まないよ。止められるなら止めないと」

以前獣王と戦ったことがあるヘルミオスがシアの身を案じる。

「そんなにですか?」

「そんなにだよ」

アレンが聞き返すと、ヘルミオスが即答する。

以前、獣王に5大陸同盟会議の席で敗れたことを聞いているが、獣王はとんでもない強さらしい。

シアも獣王の後を追って会議室を出て行く。

「……私たちもアルバハル獣王国の行く末を見ないといけませんね」

落ち着いた口調で、見に行きましょうと言いながらローゼンヘイムの女王が立ち上がった。

獣王は、シアはもちろんのこと、獣人のアレン軍の参加を拒絶した。

これからアルバハル獣王国としてどうしていくのか。

魔王軍と結束して戦う5大陸同盟の今後を決める話になるかもしれない。

ヘルミオスに案内されて、王宮から少し離れた所にある闘技場に移動した。

闘技台の側でシアが拳を握りしめ、目をつぶり戦いのイメージを改めて確認している。

シアは獣王の戦いは幼少のころからずっと見てきたつもりだ。

「こういうことになってすまないな。もっと前に言っておけばよかったぞ。アレン」

「いや、親子喧嘩だからな。止めはしないが無理はするなよ」

「分かっておる。と言っておくぞ」

こういう話に絶対なるとシアは予感していた。

しかし、それを誰かに言うとけじめにならないと思って黙っていた。

(獣王は装備なしか)

闘技台の中央で獣王に似合う、赤と金を基調とした毛皮のマントを脱いで上半身何も装備してない獣王が闘技台の上に立っている。

鳥Eの召喚獣で細かく装備を確認するが、武器も鎧などの防具も装備していない。

そして、指輪や腕輪などのアクセサリーも装備していない。

完全に素のステータスのみで獣王はシアと戦うようだ。

(獣王家の子供は基本的に拳聖が生まれるんだっけ。そして、獣王になるとさらなる力が宿るって話だよな)

そんなシアは、無理な戦いになると覚悟をしているようだ。

「クレナ。聖珠を貸してやってくれ」

「うん」

アレンはけじめよりも確実な勝利を優先する。

クレナに渡したバスクからの戦利品の聖珠をシアに渡すように言う。

「よい。獣王陛下も何も装備していないからな」

アレンがクレナに渡した聖珠など装備を渡そうとするが断るとシアは言う。

親子のけじめであり、勝ち負けはどうも二の次のようだ。

防具もステータスが上がる指輪なども装備していないシアは闘技台に上がる。

アレンがシアと話しているうちに、各国の代表たちも、5大陸同盟の盟主たちも観客席への移動が終わった。

アルバハル獣王国の行く末に立ち会うようだ。

「別れの挨拶はしてきたか?」

結構待たされたことには触れずに、アレンたちに別れの挨拶はしたのかと獣王はシアに問う。

「これからです」

シアはまだ別れの挨拶をしていないと言う。

「何?」

「私は獣王国最初の皇帝になります。そのためにアレンたちと歩みを共にする。私はそう決めたのです。父上、別れを告げに来ました」

獣王に命じられてここまで生きてきた。

獣王に試練を与えられて邪神教の教祖討伐に向かった。

しかし、これからは自らの判断で決断して行動すると獣王に告げる。

獣王は一瞬寂しい顔をした後、目に力を込める。

「まだそのような世迷言を口にするか。力づくで連れ帰るぞ」

そう言って、手の力を抜いた無防備な姿勢となる。

かかってこいということだろう。

もし自らの意志を通すなら、獣王を倒していけという話だ。

審判もいない闘技台の上で、父と娘が対峙する。

シアのけじめの戦いが始まった。

眼光鋭くなったシアは一気に距離を詰め、獣王の腹に拳を叩き込む。

ズムツ!

何かとても硬く弾力のあるものを殴った感触だ。

拳がそのまま狙ったところに当たった。

「な!?」

獣王は避けることもなく、もろに攻撃を受けたことにシアが驚愕をする。

獣王ならこんな攻撃造作もなく避けられるはずだ。

「やはりな。覚悟も半端なら、拳に魂が乗っておらぬわ!!」

「がは!!」

そして、獣王はシアを蹴り上げてしまった。

とっさに片腕を使い防御したが勢いを殺すことが出来ず、闘技台の遥か彼方まで飛ばされる。

吹き飛ばされながらも、体を回転しながら闘技台にうまく着地し、獣王の元に駆けていく。

痛みを堪え、自らの覚悟を示す。

しかし、攻撃を受けてくれたのは最初の一撃のみであった。

その後は獣王の一方的な攻撃が続いていく。

シアの攻撃は簡単に躱され、獣王の攻撃を受ける。

「どうした! やはり騎士ごっこを始めた時に止めておくべきであったぞ!!」

何度も殴られ、蹴られ満足に立ち上がれなくなったシアに対して獣王は口にする。

元は獣王の家臣であったルドを、シアは自らの隊長にして部隊を持ち始めた。

自分の思想に感化された者は傭兵だろうと冒険者だろうと受け入れながら、部隊は千を超えどんどん大きくなった。

そして、各国からは戦姫と呼ばれ始める。

どこかでシアを止めるタイミングは絶対にあった。

騎士ごっこかと放置してしまったため、獣人の帝国を作るとか言って、誰かよくわからんものの軍隊に参加するなど好き勝手やるようになった。

自らの拳を赤く染め、もっと早めにこうしたらよかったのかと獣王は口にしながら考える。

一切武器も防具も装備していないが、シアは拳聖でレベルとスキルレベルをカンストしている。

邪神教の教祖を追いながら、実戦経験もつけてきた。

決して弱くはないシアであるが、そのまま親子ほどの力の差がある。

「ぬぐあ!?」

獣王の拳が深くシアの腹に食い込み、その勢いのまま闘技台の端まで吹き飛ばされていく。

「シア、もう、よせ。獣王陛下に謝るのだ!!」

何度となく吹き飛ばされるシアを見て、ゼウ獣王子が思わず声を上げた。

自らの妹の身を案じているようだ。

「ふん。ゼウよ。シアがいなくなった方が良いのではないのか?」

「いえ、そんなことはありません。妹を許してあげてほしい」

そう言って、ゼウがシアに代わり頭を下げた。

「ふん。妹の身を案じるか。甘い、甘いぞ! ゼウよ。そんなことで獣王が務まるのか。壮絶な人族の支配の中で我ら獣人は生きてきた。ぬるい考えなど許されるはずはないわ!!」

(なるほど。だからベクを獣王太子に推薦したのかな。獣王には厳しさが重要であると)

中央大陸の侵攻すら考えているベクを獣王太子という次期獣王の立場にしたのは獣王だ。

甘い考えを許さず、獣人のために生きることを最も大事に考えているようだ。

ベク獣王太子はアルバハル獣王国の繁栄のためなら、獣人の血を流すことすら厭わない。

甘い態度のゼウ獣王子よりも、夢を見るシアよりも、獣王国の現実を見てきたベク獣王太子を次期獣王にしようとしてきた。

そんな中、ゼウ獣王子もシアも獣王の課した試練を乗り越えてしまった。

この場も1つの獣王に成るための試練ではという考えがアレンの頭をよぎる。

「た、たしかにそうですが……」

「ふん。ゼウよ。お前もバウキス帝国や中央大陸にほだされ勘違いをしているのではないのか?」

バウキス帝国ではS級ダンジョンを攻略した英雄と、中央大陸では魔王軍からの侵攻に対して十英獣と共に戦ってくれた同胞としてギアムート帝国に迎え入れられた。

そんな状況で何か獣王に意見できるなど勘違いをしているのではないのかという。

なお、王宮から騒ぎを聞きつけ、十英獣たちもこの戦いの経緯を見つめている。

「いえ、そのようなことは……」

「だったら、貴様がシアの代わりにこの闘技台に上がってもいいのだぞ」

そう言って吹き飛ばされた先のシアの胸倉を掴み、ゼウにお前が戦えばシアを許すと言う。

「な!? 私がでございますか」

「そうだ。貴様に我を屠り、獣王の座を奪う覚悟があるのか!!」

闘技場は獣王の独壇場になっており、ゼウ獣王子が代わりに自らと戦うと言うのであれば、シアを許すと言う。

獣王が叫んだ『自らを倒してみよ』という言葉が、アレンにはどこか願望のように聞こえた。

「な!? こ、これは私の戦いだ!」

既に何度も殴られ過ぎて、意識がもうろうとする中、シアは拳を獣王の顔面に叩き込む。

しかし、拳は顔面にめり込むこともなく、獣王は涼しい顔で一切動じない。

獣王に胸倉を掴まれているから立てているが、既に足には力が無く宙に浮いた状態だ。

全身を打ち付けられて、シアの拳は力がもう入らないようだ。

「そうだ。どうするのだ! ゼウよ。貴様が戦うのか! それともシアか!!」

そう言ってシアの胸倉を掴んだ反対の手に力を込める。

攻撃を受け続けたシアに、これ以上の暴力が降り注ごうとしている。

本当にこれ以上は命に関わるかもしれない。

それほどの力が獣王の拳に込められている。

「ぬぐ、は、はなせ!!」

シアは気力だけは折れないでいる。

しかし、絶望的なまでの力の差があるようだ。

「わ、分かり……」

ゼウは死を覚悟し、シアの代わりに戦うと口にしようとする。

その時だった。

アレンが、もしもの時、召喚獣を使ってでも横やりを入れようかと待機していた。

そのアレンの隣のジャガイモ顔の男が真っ赤になって闘技台どころか、観覧席の各国の代表全員にも聞こえるほどの声で叫んだ。

「てめえ! シアを離しやがれ!!」

「ん? なんだ?」

「シアを離せつってんだ。俺が戦ってやるよ!!」

目を充血させ、怒りに身を包んだドゴラの足が闘技台を踏みつけたのであった。