軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第377話 獣王戦①

ドゴラが闘技台に上がり獣王の元に向かう。

シアがボコボコにやられていることが見てられなかったようだ。

獣王が拳を振るえば、直ぐに届く距離まで平然とやってくる。

「ほう、貴様が娘の代わりに戦うと?」

あまりに堂々とした態度に一瞬本気か改めて尋ねてしまう。

これはシアが自由に活動するためのけじめの戦いだ。

そして、未来の獣王を決めるためのものでもある。

だから、獣王は戦いながらもゼウにもシアにも問い続けた。

そこに割って入った縁もゆかりもない。

ただの仲間に過ぎないドゴラであるが、そのことを口にするのをためらうほどの堂々ぶりだ。

「そうだ。シアを離せ。親父なのに娘を殴りやがって」

獣王に対して、一切の敬語はない。

そもそも敬語はあまり好きではなく、慣れてもいない。

敬語が必要な状況ならアレンが対応したらいいとドゴラは思っている。

ドゴラは父が娘に手を出すことが許せなかったようだ。

ドゴラの父は武器職人で職人気質で寡黙であった。

アレンと出会う前はガキ大将で、クレナ村で暴れていたドゴラは、父から怒られたことは一度もない。

武器が欲しいといえば、翌日にはドゴラのために丸太から削った、こん棒のようなものが枕元に置いてあった。

どこか背中で語る父を見て、父とはそういうものだと思っていた。

父が娘を、その上、自分の仲間に手を上げた者を許せるはずがなかった。

「ああ、分かったぞ。たしか、火の神の加護を持つ者だな」

漆黒の板に表示された鑑定結果と、その結果をもたらしたドゴラのことを獣王は思い出す。

火の神の加護を持つ男くらいには憶えていたようだ。

胸ぐらを掴んで持ち上げていたシアを手放す。

地面に落ちたシアをドゴラが抱きかかえる。

「な!? これは余の問題だ。下がるのだ」

朦朧としながらも、ドゴラに闘技台の外に出るように言う。

「関係ねえ。仲間が殴られているのを黙って見てられるか」

そう言って全身を打ちすえられ、満身創痍で立てそうにないシアを抱きかかえ闘技台の外まで運んでいく。

「……」

その様子を獣王は止めることもなく見守る。

「キール、すまないがシアの回復を」

「ああ、分かった。オールヒール」

キールが回復魔法をかけるとシアは瞬く間に回復する。

そんなシアを見ることもなくドゴラは自らの鎧を外し始めた。

シアと同様に防具やステータスを上昇する指輪を外した状況で戦うようだ。

「ドゴラ君、装備しないと負けちゃうよ」

ヘルミオスは武器と防具を装備したほうがいいと言う。

「いい。カグツチはこんなことに使う武器じゃねえんだ」

勇者の忠告ということもあり、やや丁寧な口調だ。

神器カグツチは待合室に置いてきたし防具も装備しないようだ。

上半身裸の状態で闘技台に上がり、改めて獣王の元に向かう。

「ヘルミオスさんが獣王に敗れたのって、もしかしてこの闘技場だったとか?」

「そうだよ。アレン君」

獣王の元に向かうドゴラを心配そうに見ながらアレンはヘルミオスに尋ねる。

何となく、その時の状況が分かったような気がする。

獣王は勇者であり全世界の英雄を語るヘルミオスを、ギアムート帝国の帝都でボコボコにしたようだ。

「もしかして、獣王は何も装備していなかったってことですか?」

「そうだよ。僕はオリハルコンの武器と鎧を着て、勝てなかったんだ」

「スキルは使いましたか?」

「いや流石に使ってないかな。僕のを使うと試合が殺し合いになっちゃうし」

(俺には学園で使っただろう。って言っても一発だけだったかな。まあ、あの時も渋っていたか)

勇者だったころのヘルミオスのスキル「鳳凰剣」は、鑑定結果が職業レベル5で覚える強力な攻撃スキルであったと分析する。

クレナの使うスキルレベル5の覇王剣と同じ特性があるのだろう。

一撃必殺に近く小回りが利きにくい。

おそらくクールタイムもそれなりの長さなのだろうと予想する。

ヘルミオスがシアじゃ勝てないという話の意味が、シアと獣王の戦いで分かったような気がする。

そして、勇者ヘルミオスと獣王の戦いの状況がよく分かった。

何でも、ヘルミオスも武装を解こうと思ったところギアムート帝国皇帝に、フル武装で戦うように言われたらしい。

完全武装の勇者ヘルミオスに武器も防具も持たない獣王は完全勝利を収めたようだ。

さっきのシアほどではないにしろ、ほぼ一方的にボコボコにされたという。

結局は負けて皇帝にこっぴどく怒られてしまったが、流石にスキルを使って殺しても問題になる。

「獣王の鑑定は出来ますか?」

勇者ヘルミオスは鑑定スキルを持っている。

「ん? できないよ。それでいうとアレン君やドゴラ君も完全に表示されないかな」

(お? それって?)

獣王のステータスは勇者ヘルミオスには低く表示されるようだ。

そんな話をしている間にドゴラが獣王の元にたどり着いた。

「そうか。貴様がシアを引きこんだのか。よ、よりにもよって、人間が俺の一族に手を出したか。こ、殺す!!」

明らかに獣王の言葉に怒気が籠っている。

「ん? 何の話だ?」

ドゴラには分からなかったが、獣王はドゴラがシアを獣王の元から引き離したと思ったようだ。

「とぼけるか。貴様も一撃は受けてやる。それが戦いの合図だ。覚悟をして向かって来い」

かかって来いという獣王の様子を見ながら、どうやら一発殴って良いルールなのかとアレンは思う。

「そうか」

そう言ってドゴラは獣王の腹に大きく振り上げて拳を叩き込む。

「ふぐ!?」

装備のない素のステータスでも1万を超えた攻撃力を持つドゴラが遠慮のない全力で殴ったため、獣王の顔が歪む。

すると、獣王は大きく息を吐き天を見上げる。

獣王が思った数段以上に痛かったようだ。

「き、貴様には渡さぬ!! ぬ!?」

そう言ってドゴラの顔面に向かって、獣王が拳を叩き込む。

しかし、ドゴラも獣王のように避けなかった。

顔面から凶悪な獣王の一撃を受け吹き飛ばされてしまい、何メートルと飛ばされてしまったが、その先で踏ん張り留まる。

口元から血が出るが、獣王を睨むその視線からも士気は一切落ちていない。

一発殴らせてくれたから、一発殴らせたようだ。

「……もういいな」

「人間が、そのような小癪な真似を!!」

手で無造作に血をぬぐいながら、これで貸し借りなしで戦えるなとドゴラはつぶやく。

拳を振り上げ全力で向かっていくドゴラと獣王の戦いが始まった。

あまりに堂々としたドゴラの戦い方に、獣王の拳にさらに力が入る。

こいつを倒さねば、シアが自分の元から離れていくとはっきりと理解できた。

(む? ステータス的には獣王の方がやや優勢か? いや、ステータスによってといったところか。攻撃力は獣王の方が上で素早さもか。これは厳しい戦いになるな)

ドゴラの拳の衝撃に獣王は耐えられず吹き飛ばされてしまう。

しかし、ドゴラの攻撃は躱され始めた。

獣王はシアのように近接戦闘系のスキルである拳術や組手を駆使しているからだろう。

攻撃力、素早さでやや獣王が優勢な上に、動きが獣王に比べたら素人のように思える。

避けられたり、いなされたりすることも多くなり、ドゴラの動きが見切られ始める。

「ぐ!?」

また大きな一発をドゴラが受けてしまった。

表情からも声からもかなり痛そうだが、歯を食いしばり我慢をする。

「どうした。そんな力では娘はやらんぞ!」

「うるせえ。今思い出してんだ。ってああ、そうか」

ドゴラはこの劣勢の状況下の中で、何か思い出そうとしていた。

そして、何かがドゴラの記憶に中に蘇ってくる。

「何を分からぬことを。って、ぐふ!!?」

獣王が久々に、腹に深く食い込むほどの重い一撃を受けてしまう。

ドゴラはクレナのように天才肌でもない。

アレンのように前世の知識で戦う知略もない。

それでもずっとずっとアレンとクレナの騎士ごっこに付き合ってきた。

学園での斧術の指南、S級ダンジョンでのドベルグの指導を必死に思い出す。

英雄になりたい凡人は全てを真面目に吸収し続けてきた。

一歩一歩築き上げた経験が、獣王とのステータス差とスキル差を埋めようとしている。

(なるほど、これがドゴラの戦い方のベストか。耐久力はドゴラの方がかなり高いんだろうな)

アレンも納得の戦い方をドゴラは選んだ。

躱され続けるドゴラは獣王の攻撃を避けるのを止めた。

それは、剣聖ドベルグに教わったことがある戦法だった。

ドゴラのような重戦士が、敏捷であったり、巧みに動く敵と戦うコツを剣聖ドベルグに習ったことがある。

それは、攻撃を受けるつもりでのカウンター攻撃だ。

攻撃を受けながら、敵の体力を削る戦法だ。

これなら、一番敵が接近したとき、敵の攻撃後に最大の攻撃を加えることができる。

敵が近接戦闘を好むなら諸刃だが抜群の効果を発揮すると教わった。

攻撃力と素早さに偏り過ぎている獣王のステータスをカウンター攻撃が完全に封印する。

ドゴラは耐久力で獣王の拳を必死にこらえ、渾身の一撃を叩き込み始める。

攻撃を全て受けるつもりで戦うドゴラの拳は強かった。

あとはどちらが先に音を上げるかの戦いになる。

ドゴラの捨て身の攻撃によって、ドゴラも獣王も全身打撲し、血まみれの状況だ。

拳を振り上げるたびに血しぶきが舞う。

お互いを殴る度に闘技場全体に衝撃音が響く。

激しい戦いを見てアレン軍が本気で獣王女を取りに来たと、各国の代表は固唾を飲んで見守る。

「もう終わりか?」

ドゴラのフックがわき腹をえぐったようだ。

内臓を痛めた獣王の口から吐血する。

そんな獣王に追い打ちをかけず、負けを宣言させるようだ。

「負けられぬ。絶対に負けられぬ」

そうつぶやく、獣王もずいぶんと朦朧としてきた。

闘争本能だけでドゴラと対峙しているようだ。

そんなドゴラもフラフラになっている。

(勝負ありだな。つうか完全にエクストラモードじゃねえか。獣王になるとエクストラモードになるのか?)

ステータス差を考えたドゴラの作戦勝ちといったところだろう。

獣王のレベルがいくつか知らないが、このステータスの高さはノーマルモードでは出ないように思える。

武器も防具も持たずドゴラとこれだけの戦いをする獣王のステータスは既にノーマルモードの域を完全に超えている。

なお、勇者ヘルミオスの鑑定スキルでは、エクストラモードやヘルモードのステータス上昇の加護やスキルは上手く表示されないようだ。

ちなみに以前に魔神は全く鑑定できないと勇者から聞いたことがある。

これは以前メルスからAランクの召喚獣ではSランクの魔獣や魔神は鑑定できないという話にも通じる。

「ふう。シアは連れて行くぞ」

負けを認めないが膝までついてしまった獣王を、これ以上追い打ちをかけるつもりはないようだ。

しかし、ドゴラのその言葉がどうやらスイッチになってしまったようだ。

「な、ならぬ! それだけはならぬ。シアは行かせぬぞ!!」

すると、獣王の体がみるみると獣のようになっていく。

体毛が伸び、獣らしさを増していく。

これはゼウ獣王子の時も、シアの時も見たが、完全に獣王化だ。

「て、てめえ……」

(え? 獣王化するのか?)

『グルルルルル!! ワレハカツノダ!!』

そして、その状態のままドゴラに襲い掛かった。

「ぐあ!!」

ぎりぎり2足歩行を保った巨大なライオンの姿に変えた獣王は、ドゴラに横殴りの一撃を食らわし、闘技台の隅へ吹き飛ばしていく。

既にフラフラのドゴラは腕でガードしたが、腕の骨が折れてしまった。

それでも闘争本能をむき出しにした獣王が迫る。

こっちは武器もスキルも使っていないのにと悪態をつくが、この状況ではそんなことを思っている余裕もない。

ボロボロのドゴラに片言の言葉で吠える獣王化した獣王が強靱な脚力で迫る。

直ぐに立ち上がろうとするが、打ち所が悪く立ち上がれないドゴラに対して、まさに凶悪な爪の生えた手が迫ろうとした時だった。

「何、ドゴラの覚悟に水差してんだ。死にさらせ!!」

アレンが獣王の耳元で叫んだ。

獣王は反応しようとするが、アレンは振り向くことすら許さなかった。

『ガハ!?』

ドゴラも何が起こったのか一瞬分らない。

獣王の死角から現れ、そして一気に距離を詰めたアレンが獣王の後頭部を蹴り上げた。

不意を突かれた獣王はバウンドしながら吹き飛ばされていく。

「おい、アレン!?」

「選手交代だ。下がっていろ、ドゴラ。あれは俺がなんとかする」

(さて、3回戦といこうか)

心の中で、シア、ドゴラに続いて自ら戦うことを宣言する。

各国の代表が何事かと驚愕する中、飛翔したアレンが闘技台の上に舞ったのであった。