軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

波乱だらけのお茶会 4

「そうだったんですね。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。実は私、事故で少し記憶を失っていて……過去、皆さんに失礼なことをしてしまっていたらごめんなさい」

申し訳なさを全面に出しながら、過去のグレースの分まで謝罪する。

「まさかグレース様に謝られる日が来るなんて……」

すると彼女達は信じられないという顔で、私の顔を凝視した。

グレースは端役のため、細かな悪事については小説に描かれていなかったものの、よほど過去とのギャップがあるのだろう。帰宅後、やけに物知りなエヴァンに色々と聞いてみなければ。

これ以上空気を壊したくなくて、私はぺこりと頭を下げると、その場を後にした。彼女達はマリアベルに対しては好意的だったし、問題ないはず。

「分かっていたことではあるけれど、やっぱり嫌われているって辛いわ……」

悪女だったグレースの爪痕は今も残っていて、この先もまだまだ苦労しそうだ。

とはいえ、ゼイン様と生きていく以上、悪いイメージは少しでも払拭したい。

へこんでいる暇があるのなら、積極的に行動すべきだろう。そう思った私は、近くにいた小柄で穏やかそうな令嬢に声をかけてみることにした。

「あの、このお菓子、美味しいですね」

「はあ?」

「…………すみません、何でもありません」

けれど彼女の方は私と交流する気などないらしく、一瞬にして空気は凍りつく。

たった一言の返事から、とてつもなく強い怒りと拒絶を感じ、過去のグレースは彼女にも一体何をしでかしたのだろうと気になった。

とほほと肩を落としながら、テーブルに置かれていたグラスを手に取る。

「きゃっ」

「あら、ごめんなさい。わざとではないんですよ」

すると後ろから来た令嬢とぶつかり、ドレスに中身のジュースがかかってしまった。

振り返った先には先程マリアベルが「とてもお優しい方」と言っていた、桃色のドレスを身に纏う、ダナ様という令嬢の姿があった。

「グレース様も手が滑るくらいは許すべきだと、以前仰っていましたよね?」

嫌味が感じられる謝罪からは、私に対しての敵意がひしひしと感じられる。飲み物を手に取った瞬間ぶつかったのだって、きっとわざとだろう。

嫌がらせに腹が立つよりも、とても優しい方だとマリアベルが言っていた彼女にこんな行動をさせるほど、グレースが彼女に対して何をしたのか、やはり気になってしまう。

先程の令嬢達と挨拶を終えたらしいマリアベルが、慌てて駆け寄ってきた。

「お姉様、大丈夫ですか……?」

「ええ、大丈夫よ。これくらいならシミにならないでしょうし」

私のせいで嫌な思いをしてほしくなくて、笑顔を向けて明るい調子で答える。

けれどシャーロットや聖女について調べるよりも、悪女だった元のグレースの尻拭いをする方がよっぽど骨が折れそうだと、内心がっくりと肩を落としていた。

改めて自身のやるべきことの多さを実感して、目眩がしそうだ。

「……あ、そうだわ」

我に返った私は近くにいたメイドに声をかけ、濡れた布をすぐに用意してもらう。

布を硬く絞った後は濡れてしまった部分をつまみ取るようにして、とんとんと叩き始めた。

「何をされているんですか?」

「こうするとね、簡単にシミが取れるの」

ゼイン様に頂いた大切なドレスを汚したくない一心ですぐに行動に出たものの、マリアベルを含めた周りにいた令嬢はきょとんとした顔で私を見ている。

冷静になるとこういうのは、使用人がやることに違いない。その上、グレースが怒りもせずに自らシミ抜きをしているとなれば、驚くのも当然だろう。

「子ども達を誘拐事件から救ったというし、少しは改心したのかしら」

「記憶喪失と聞いたけど、それが原因だったり……?」

ひそひそとそんな話し声が聞こえてきて、いたたまれなくなる。

やがてドレスが綺麗になったのを確認した私はマリアベルを連れて、逃げるように人気のない方へと移動したのだった。

二人で会場の端にあるベンチに座り、息を吐く。

「ごめんなさい、私のせいでマリアベルも気まずい思いをしているわよね」

マリアベルはまだ社交界デビューをしていないため、きっとグレースの悪行について知らないものの、聡い彼女は周りの態度から何かを察しているに違いない。

とはいえ、私も「記憶を失う前は、男好きの強欲悪女だったの」なんて、純粋なマリアベルに説明できるはずがなかった。

「そんなことはありません。私はお姉様と一緒にいられるだけで嬉しいです」

「マリアベル……! ありがとう。本当に大好きよ」

「ふふ、私も大好きです」

それでも何も聞かず、慕い続けてくれる彼女を心から大切にしたい。今日も天使すぎるマリアベルを抱きしめ、ゼイン様と同じ色の柔らかな銀髪を撫でる。

食生活がかなり改善されたことで、嬉しそうに抱きしめ返してくれるマリアベルの身体は以前よりも肉付きが良く、健康的になっていた。

「きゃああっ!」

本当に良かったと安堵したのも束の間、不意にそんな悲鳴が辺りに響き渡る。

声がした方へ視線を向けると、そこには地面に尻餅をつくダナ様の姿があった。