軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75.完璧な人選

高垣さんが叫び声をあげた後、店内の客の視線がまた彼女に向けられた。

「す、すみません……」

高垣さんは大層、居心地が悪そうにしながら、頭を下げて着席した。

「あ、あなた達……どうして奏ちゃんを普通に帰しちゃったの」

「え……」

「何か問題あった?」

俺と門倉さんは顔を見合わせて小首を傾げ合った。

……なんだろう。

思ったよりも、門倉さんとは意気投合が出来そうな気がしてきていた。

「いやいや、海水浴に行こうって言って、行かないって言っているんだから、問題しかないでしょ」

「えー……」

「高垣さん、さすがにそれは。……無理強いすることじゃないと思う」

「あんた達、息ピッタリね」

高垣さんは呆れたため息を吐いた。

「……敦君はそれでいいの?」

「え?」

「このままだと奏ちゃんの水着姿、見れないけど……」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「どうしよう。それは困った……」

「……はぁ」

確かに高垣さんの言う通りだ。

このままだと俺……勉強の時間を割いてまで海水浴に行くと言うのに、奏の水着姿を拝むことが出来なくなるではないか。

「……やっぱり俺の参加はキャンセル、ということにはさせてもらえない?」

「えー。あたし、萩原君との海水浴、楽しみにしてたのに」

……まあ、さすがに駄目、か。

しかし、だ。

そうとなれば俺は……一体、何をしに海水浴に行くのだろう?

「……どうしよう」

来週の水曜日の海水浴のことを考えるだけで、辟易とする気分だった。

「どうしようもこうしようもないでしょう?」

途方に暮れる俺に、高垣さんはまたまたため息を吐いた。

「……奏ちゃんを海水浴に参加させるの」

呆れた様子の高垣さんが言った。

「それが出来れば一番だけど……。でも、奏は来週の水曜日に用事があるって言ってたよ?」

「あるわけないでしょう」

「え」

なんで高垣さん、奏の予定を知っているんだ……?

「……釈然としないって顔ね」

「まあ」

「……ま、あの子の言う通り、奏ちゃんには実際、来週の水曜日に予定があるかもしれない」

「え、どっち?」

「でも、それって海水浴に行く行かないに関係なくない?」

どうして?

俺は小首を傾げた。

「……突発的に来週の水曜日にって言ったけど、まだどこの海水浴場に行くかも決まってない状況だよ? 決行日の変更くらい全然可能よ」

「ああ、確かに」

「抜け目ない奏ちゃんがそれに気付かないはずがない。つまりあの子、心の底から海水浴に行きたくないと思ったから、予定があるって嘘をついた上で、この場から立ち去ったのよ」

……であれば、奏は一体、どうして海水浴に行きたくないと思ったのか。

……。

…………。

まさか……。

「……俺、奏に嫌われた?」

「ないない」

「……あたし、奏ちゃんに嫌われた?」

「あんたもかよ……」

奏に嫌われた疑念が脳裏を過ったのだが……どうやら門倉さんも似た疑念が過ったらしい。

「……安心してよ。敦君があの子に嫌われるなんてことはありえないから」

「いや、そんなことはないだろう?」

「ないはずがないでしょ。黙ってて」

……高垣さんが冷たい。

「あんたはまあ……ありうる」

「ち、ちょっと綾香!」

「ただ、あんたと海水浴に行きたくないからこの場から立ち去ったことはないと思う」

「どうして?」

「敦君が海水浴に行くからよ」

……どういう意味だろう?

俺は門倉さんと目を合わせて、首を傾げ合った。

なんだか……ほとほと門倉さんとは息が合うな。

「……まあ、奏ちゃんが海水浴に行きたくない理由はわからないけど、この後に何をするかは決まったわね」

高垣さんは頷きながら続けた。

「敦君、あたし達、海水浴場を決めておくから」

「……決めておくから?」

「あなたは奏ちゃんに海水浴に行くように説得して」

「……えぇ、そんな無茶振りな」

「無茶振りじゃない」

「……適材適所ってもんがあるだろう?」

「完璧な人選じゃない」

「……俺に奏を海に連れていくよう説得なんて無理に決まってる」

「あなたがごり押しすれば、多分応じるってーの」

……本当、なんだか今日の高垣さん、いつにもまして冷たいな。

こんなにも彼女が冷たいのは、テスト期間中、バチバチに言い争いをしていた時か。いや、あの時以上だ。

「とにかくっ、一回奏ちゃんと話してみて」

「……わかった」

「駄目なら連絡して。その時にまた作戦会議をして、どうするか決めましょう」

「わかった」

「萩原君、よろしくお願いねっ!」

「……うん」

気が重いなぁ。

……色々な不安を抱きながら、俺達はレストランを後にして、解散した。