軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74.拒否

「いやいや、いきなりそんな拒否権はないとか言われても困るよ」

拒否権はないと言われたものの、俺はとりあえず抗議することにした。

「こっちにだって予定があるんだ。……いきなり明後日、一日空けてなんて言われても、難しいよ」

「へぇ。じゃあ、どんな予定があるの?」

「勉強」

「それは予定とは言わない。だっていつでも出来るじゃない」

「いつでもは出来ないよ」

俺はムッとした。

「夏休み期間中、俺は自分に毎日七時間の勉強を課しているんだ。睡眠時間十時間。勉強七時間。三食のご飯に二時間。お風呂や歯磨きとかに二時間。海水浴場で遊んでいる時間なんてないよ」

「ちょっと待ってよ。残りの三時間があるじゃない」

「そこは奏とお喋りする時間だから」

「せめて趣味の時間って言いなさいよっ!」

高垣さんは慌てた顔でツッコんできた。

「え? というかあなた達、毎日三時間もお喋りしてるの?」

「ううん」

え。

奏が首を横に振った。

「……そ、そうよね」

「昨日は四時間二十六分だった」

「余計長くお喋りしているじゃない!!!」

高垣さんは机を叩いて立ち上がった。

途端、店内の客が一斉に彼女を見た。

……高垣さんは、すみませんと謝罪した後、申し訳なさそうに着席した。

「綾香、いきなりどうしたの?」

「……くっ。ポンコツめ……っ」

「えー? いきなり酷くないー?」

門倉さんは少し寂しそうに俯いた。

「……とにかくっ、そんな予定だったら一日くらい空けてよ。皆で海に行きましょうよ」

「えー。……でもなぁ」

「勉強を一日しないくらいどうってことないでしょ。このクソボケ学年一位が……」

出た。

高垣さん、勉強のことになるとすぐに口が悪くなるんだよな。

「敦君。あたしは何も、あなたの勉強を阻害したいから海に誘っているわけじゃないのよ。海に行くことで、あなたにだってちゃんとメリットはある」

「メリット……?」

「まず……勉強だったら移動中の電車の中ですればいい」

「でも、俺、乗り物酔いしやすいんだよね」

「……あたしが酔い止め薬持参してくるから、それを飲みなさい」

「そうか。酔い止め薬を飲んだら移動中、ずっと勉強出来る……っ!」

その手があったか。

目から鱗だった。

……これからは通学の時も酔い止め薬を飲んで勉強をしよう(天才)。

「それでこれが一番のあなたが海に行くことのメリットだけど。……水着が見れるわよ」

「ん?」

「今回の海水浴の参加メンバー。あたしはともかく、残りの女子二人は間違いなく上玉。そんな子達の水着姿を合法的に見れる。男冥利に尽きる上、役得以外の何物でもないじゃない」

「いきなり色物な攻め方だなぁ……」

「何言ってるの綾香。あなたも滅茶苦茶可愛いじゃない」

「あんたは一旦黙ってて」

「酷い」

「……こっちは今、決死の覚悟で交渉をしているの。あんたの相手までは無理なの……っ!」

……確かに、さっきから高垣さん、すごい必死だなぁ。

そんなに皆で海に行きたいのか。

「……でもなぁ」

「今度は何?」

「人によっては俺の状況を役得と思うかもしれないけど……。でも、個人的にはそうも思えないんだよなぁ」

「なんでよ」

「……だって、恥ずかしいじゃないか」

「……ちっ。面倒臭いなこの男」

口わるぅ……。

「……敦君、あなた、いつまでも女子に対する耐性をつけないままでいいの?」

「ん?」

「あなたがこれまでの人生……。今、あなたの隣にいる女の子以外との女性経験が皆無であることはわかってる」

「女性経験なんて大層な言い方しなくても……」

「黙らっしゃい! ……とにかく、いつまでも女性に対する耐性がないままだと、後で苦労するわよ」

「苦労……?」

「あなただっていつか……その、想い人と結ばれる日がやってくるんだから」

高垣さんは恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。

「……そんな時、異性の柔肌に見慣れてないと困るじゃない」

「綾香ったら、意外とえっちじゃん」

「~~~っ。うるさいうるさいうるさ~い!」

……高垣さんは茹蛸のように顔を真っ赤にさせていた。

「と、とにかくっ。今回の海水浴に乗じて、女性に対する免疫をつけなさい! あなたは!」

「……えぇ」

「……そんなに奏ちゃんの水着、見たくないの?」

「え?」

奏の水着……。

……。

…………。

「……わ、わかったよ。仕方がないなぁ」

「上から目線の態度で来るの、めっちゃ腹立つ……」

高垣さんは俺を一睨みした後、疲弊したようにため息を吐いた。

「……はぁ。やっと面倒な男の承諾を得られた」

「さっきから高垣さん、容赦がない」

「それじゃあ決まりね。明日中に海水浴場を探して連絡するから。……敦君、必ず来なさいよ」

「わ、わかったよ……」

「奏ちゃんも、それでいい?」

「うふふ。とっても楽しそうだねっ!」

奏は微笑んで答えた。

「ごめん。水曜日は外せないようがあるから、三人で楽しんできてっ!」

そして、快活な笑みを浮かべたまま……奏は言った。

「……え」

高垣さんは、奏に断れると思っていなかったのか、目を点にしていた。

「あ、ごめん。あたし、これから少し行かないといけない場所があるんだ」

奏は立ち上がった。

「ご馳走様。お金は……ごめん。あっくん、後で払うから立て替えておいてくれる?」

「うん。わかった」

「うふふ。いつもありがとう」

奏は俺達に向けて手を振った。

「それじゃあ、今日はありがとう」

「バイバイ」

「バイバイ、奏ちゃん」

奏はお店を後にした。

「えええ~~~~~っ!??」

奏がお店を出た後、高垣さんの叫び声が店内に響いた。