軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76.どうでも良くねえよ

高垣さん達との解散後、俺は一直線に家へと帰宅した。

今日はまだ勉強時間のノルマを達していない。

だから、さっさと家に帰って勉強を始めようと思ったのだ。

「奏、レストランから一人先に帰って、一体どこに向かったんだろう?」

帰宅途中の電車の中、シートに座る俺はそんなことを呟いた。

先程、レストランで高垣さんに海水浴に誘われた奏は、今日、この後予定があるからと一人先に帰ってしまった。

果たして、奏は一体、どんな用事があったのだろう。

……正直、今になって思えば、少しだけ違和感を感じる。

そもそも奏は今日、高垣さんに食事に誘われていた。そんな中、一人用事があるから先に帰ったということは……奏は高垣さんの予定と誰かの予定を、うっかりダブルブッキングさせてしまったということになるのだ。

あの奏が、そんなしょうもないミスを果たしてするだろうか。

するかもしれない。

何故なら、話に聞いている限り……高垣さんが今日、奏を食事に誘ったのは、直前のことだったみたいだし。

直前に予定が入ったのなら、ダブルブッキングさせてしまうこともありえなくない。

……でもなぁ。

もし本当に予定がダブルブッキングしていたとするならば、奏なら高垣さんに、予定が被ったから少し早く抜ける、と一言言っておく気がするんだよなぁ。

でも、高垣さんの仰天していた様子を見る限り、そんなことを言われたわけではなさそうだったし……。

ただそうなると、あの時、一人先に帰路についた奏は……まるで。

「逃亡」

……あの場に居続け、海水浴にしつこく誘われ続けることを忌避して、逃げたように見えなくもない。

……奏は一体どうして、そこまで海水浴に行きたくないのだろう?

真っ先に思い付くのは、先程浮かんだように俺達との関係を憂いて。

不仲な人間と長時間一緒にいることは、それだけで強いストレスを感じてしまうものだ。

そういう強いストレスから、人と言う生き物は本能的に逃げたがるもの。

奏は……不仲、もしくは嫌っている俺達との長時間一緒にいることを避けたのではないだろうか?

「……うーん」

でも、それは高垣さんが否定していたしなぁ。

勿論、高垣さんの言葉を全て鵜呑みにするわけにはいかないことはわかっているし、奏が俺達との関係を疎ましく思っていないという確証もない。

とはいえ……あの時の高垣さんの姿は、どこか確信めいたものがあったことも事実。

「……じゃあ、他には一体、どんな理由が想定出来る?」

……わからん。

こういう時は……素直に本人に話を聞いてしまった方が早い。

「明日、勉強会の時に話そう」

というわけで、俺は翌日、高垣さんの要望に応えるためというわけではなく……彼女が海水浴に行きたくないと思った理由を知りたい。ただそれだけのために、今日の話を奏とすることに決めた。

まもなく電車が自宅最寄駅に到着し、俺は一人茹だるような暑さの中、家を目指して歩いた。

「ふー……」

自宅に到着後、俺はエアコンの効いたリビングに入り、ソファに深く腰を下ろした。

今、座っているソファの位置は、エアコンの冷風を全身に浴びることが出来るベストポジション。

額に溜まっていた汗が、一気に引いていくのが体感でわかった。

「あっくん。シャワー浴びたら?」

「うん。そうしようかな」

ある程度汗が引いたところで、俺はソファから立ち上がった。

「……奏、先にシャワー浴びてもいいよ?」

「大丈夫。もう浴びた後だよ」

「そっか。それなら良かった」

俺は微笑み……違和感に気付いた。

「あれ、奏」

今更ながら、先程予定があるからと一足先にレストランを出た奏が……俺のTシャツとハーフパンツを着て、ソファに腰を下ろしていた。

……一体、どうして彼女がここにいる?

彼女は予定があるから……一足先にレストランを去ったのではなかったのか?

そんな疑問は、この際どうでも良かった。

「……奏」

「何? あっくん」

「髪の毛、ちゃんとドライヤーで乾かした?」

それよりも、奏の少し湿った髪の毛が気になって仕方がなかった。

「うん。乾かしたつもりだけど……」

「まだ湿ってるよ」

「……そう?」

「うん。ちょっと待ってて。乾かすから」

俺はシャワーより先に、彼女の髪を乾かすべく、ドライヤーを取りに脱衣所に向かった。