軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知名度

朝、起きると一番にスマホを確認した。

正体特定スレに新しい書き込みはなかった。

昨夜の『真壁』という投稿はそのまま残っていて、その下に批判のレスが十数件積み重なっている。

投稿者本人はそれ以降何も書き足していないようだ。

一息ついてスレを閉じた。

動きとしては小さい。

それでも、苗字が出た事実は記録として残ってしまう。

次に何かが動くとしたら、スレの中なのか、品川の現場なのか、それとも昔の知り合いなのか。

そこまでは分からなかった。

午前中に榊から通話があった。

「真壁さん、おはようございます。スレ、また見てます」

「昨夜の流れから何件か追加されてました。さっき自分でも確認したところです」

電話の向こうで、榊が短く息を吐いた。

「今は何もしない方がいいです。返事をすると、それ自体が本人確認になりますから」

「そう思って動いてないです」

「ただ、現地側の動きは少し気にした方がいいかもしれません。スレが伸びると、品川の現場まで確認しに来る人間が出てくることがあります」

言われれば確かにそうだ。

ネットの話だからと静観していても、足を運んでくる者は出てくる。

「入り口の時間帯と動線を変えます」

「それがいいと思います。何か動きがあれば、こちらからも連絡します」

「お願いします。助かります」

通話を切った。

昼過ぎに浅田へメッセージを送った。

『ネット上で苗字が出てしまいました。今後の公式依頼での接触方法や時間帯について、何か対応を入れた方がよさそうですか』

返信はすぐに来た。

『入口周辺の不審な動きがあれば管理局側でも対応します。ただ、ネット上の噂自体を止める手段はこちらにもありません。公式依頼の方は、時間を夕方以降にずらすか、別の入口を使う手順に変更できます。次回以降の調整で対応しますので、日程が決まり次第こちらから連絡します』

『助かります。よろしくお願いします』

返信を読み返してから、スマホをテーブルに置いた。

夕方、品川のダンジョンに向かった。

いつもは使わない西口の入口から入った。

配信の機材は同じで、装備も変えていない。

変えたのは経路と時間帯だけで、15分ほど余分にかかった。

大した差ではない。

入口に見覚えのある顔がいなければ十分だった。

B1Fの廊下を確認して、中へ進んだ。

夜、23回目の配信を始めた。

「今日は品川です。少し早い時間に始めています」

コメントがすぐ動いた。

『今日早いな』

『なんかいつもより静かな入りだ』

『どうした』

「特に何もないです。時間帯を少し変えてみました」

それ以上の説明はしなかった。

B2Fに入って、壁際を確認しながら進む。

B3Fの奥の通路を歩いていたとき、金属光沢のようなものが見えた。

近寄ってみると、壁側の地面に錆びた筒が横たわっている。

直径が5センチほどで、長さは30センチ程度。

外装が全体的に変色していて、継ぎ目のあたりが潰れている。

見た目はガラクタで、取り出そうとした形跡もなかった。

「壁側の地面に何か落ちてますね。確認してみます」

拾って【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

旧式封印筒(初期型)

希少度:B+

外装素材:魔力安定合金(初期鍛造品・現在は製造されていない)

内部残留物:触媒片×2(劣化なし)

推定売却価値:外装 42,000〜56,000円 / 触媒片 28,000〜36,000円(計 70,000〜92,000円)

備考:旧式のダンジョン管理設備に使われた保管容器。

外装素材の価値が認識されないまま廃棄されたと見られる。

内部の触媒片も劣化なく残存している

――――――――――――――――――――

「外見はかなり傷んでいますが、外装素材と中身に価値があります。合わせて7万〜9万円ほどになりそうです」

コメントがゆっくり動いた。

『これがそんな値段なの?』

『見た目じゃ絶対分からない』

『鑑定なかったら素通りしてた』

「素通りした人の気持ちは分かります。見た目で判断すると、明らかに持ち帰る理由がない」

袋に入れて周囲を伺うも、何も落ちてはいなかった。

「他には何も落ちてませんね。先進みましょうか」

配信を終えたのは2時間後だった。

視聴者ピークは7,100人。静かな回だった。

部屋に戻ってスレを確認した。

昨夜の『真壁』という書き込みへの反応は少し増えていたが、決定打は出ていない。

フルネームも、職場の名前も書かれていなかった。

画面を消そうとした時、通知バーのアイコンが目に止まる。

別のアプリに通知が来ていて、古い連絡先からのメッセージだった。

会社を辞めてから一度も連絡を取っていない相手だ。

一行だけ入っていた。

『あの鑑定しながら配信しているのって、真壁だよな?』