軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

落ち着かない日

朝、横浜で回収した潮魔石と母岩の欠片を持って出た。

まずは魔石専門店に潮魔石を3点持ち込むと、担当者が並べて確認しながら産地を聞いてきた。

「横浜みなとみらいのダンジョンからです」

「まだ一般開放前じゃないですか」

「民間鑑定士の証明書で入りました」

「なるほど」と言って計算し、3点まとめて142,000円になった。

母岩の欠片は別の業者に持ち込んだ。

海洋系素材を扱う店が品川にあって、浅田から前に教えてもらっていた。

店の主人が欠片を光にあてて、手の上で重さを確かめる。

「これ、母岩から切り出したものですか」

「そうです」

「なかなか来ないですよ、母岩由来のものは」

しばらく確認してから、220,000円の提示が出た。

お願いします、と返して欠片を渡した。

これで午前中に2件の売却が終わったことになる。

午後は特に用事がなかった。

駅前の公園に入り、空いていたベンチに腰を下ろした。

缶コーヒーのプルタブを開けると、小さな音が昼の静けさに混じる。

平日の午後だからか、人は少ない。

向かいのベンチでは年配の男性が新聞を広げており、ページをめくる音が風の切れ目にだけ聞こえた。

午前中で、横浜の回収品は全部片付いた。

口座に入る金額も、以前なら何度も見返したと思う。

それなのに今日は数字を見ても、思ったほど気持ちは動かなかった。

空を見上げると、薄い雲が建物の上をゆっくり流れていた。

雲の端が日差しに溶けて、少しずつ形を失っていく。

それを特に意味もなく目で追った。

缶の中身がぬるくなる前に飲み干し、立ち上がってゴミ箱に捨てる。

用事がない時間は、思ったより落ち着かなかった。

俺はベンチを離れた。

夜、22回目の配信を始めた。

「今日は品川に戻ってきました。先週は横浜が続いていたので、久しぶりという感じです」

コメントが流れた。

『横浜またいつか行ってほしい』

『品川も好き』

『2万人おめでとうございます(遅れましたが)』

「ありがとうございます。まだ実感が薄いです」

B3Fを中心に回った。

壁際を丁寧に見ながら進むが、大きなものは出なかった。

低品質の欠片が2点、廃棄物が1点。回収はするが、値段のつくものではない。

それでもコメントは動いていた。

『静かな回だ』

『こういうの落ち着く』

『毎回大発見じゃなくていいんだよな』

「ほとんどの日はこんなものです。見てくれてありがとうございます」

2時間ほどで配信を終了した。

視聴者ピークは8,200人だった。

外に出て、駅への道を歩きながらスマホを開いた。

正体特定スレを確認すると更新が多かった。

少し前から書き込みが増えていて、スレッドが伸びている。

何件かスクロールしたところで、一つの書き込みで指が止まった。

『もしかして某社の真壁さんでは。今は鑑定関係の仕事をしていると少し前に聞いたことがあって、背格好も一致する気がします』

真壁、という苗字がそのまま出ていた。

画面を凝視したまま、しばらく動けなかった。

文字の並びを何度か目で追って、先頭から読み返すも、書かれているのは間違いなく自分の苗字だった。

スマホをポケットにしまうと、指先が少し冷たくなっているのに気づいた。

顔を上げると、駅へ向かう人の流れはいつも通りに動いていた。

誰もこちらを見ていない。

当然のことのはずなのに、その当然さが妙に意識された。

歩き出した。

歩幅もペースも普段と変わらない。

ただ、ポケットの中のスマホの重みだけが、はっきりと意識に残った。

部屋に帰ってから、もう一度スレを開いた。

書き込みへの反応は分かれていた。

『苗字だけで特定できないだろ』『証拠もないのに出すな』という書き込みが続いていて、投稿者本人はそれ以上何も書いていなかった。

榊から着信が来た。

通話を取ると、榊の声が普段より少し早かった。

「真壁さん、見ましたか」

「見ました。さっき」

「俺も見てました。フルネームじゃないし、会社名も書いてない。今の段階では確定情報にはならないです」

「……とりあえずですが、静観します」

「俺もそれが正しいと思います。何かアクションを取れば、本人確認と受け取られちゃいますし、批判の書き込みが続いてるのでこのまま流れると思います」

「分かりました。連絡ありがとうございます」

「いえ。何か動きがあったらすぐ言ってください」

電話を切った。

スレを閉じたが、何か気になりまた開いた。

批判の書き込みが増えていて、最初の投稿は埋まっている。

もう一度、冒頭の書き込みを読んだ。

仕事の内容、体格、活動時間帯——書き方に具体性があり、推測で書かれた文章ではない。

スマホを置いて、寝っ転がった。

今日の夜はやけに静かだった。