軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2万人と2度目の横浜

朝、スマホを開くと数字が増えていた。

横浜みなとみらいの調査から4日。

その間にアーカイブの再生数は品川の回の倍を超え、コメント欄は『こんなダンジョンがあるのか』『品川と全然違う』という書き込みで埋まっていて、登録者は19,400人になっている。

浅田からは『管理局の次の正式調査は来月以降になります』という連絡が来ていた。

横浜みなとみらいのダンジョンは一般開放前だが、民間鑑定士の証明書があれば個人での単独探索許可が取れる。前回の調査時に、その点は管理局に確認してあった。

今日もう一度、みなとみらいに入ってみるか。

前回潜りきれなかった奥のエリアが気になっていたし、配信としても伸びている流れを途切れさせない方がいい。

手続きを終えて、昼前の電車に乗った。

みなとみらいの駅で降りると、すでに昼間を過ぎていた。

観光客が写真を撮っていて、港の方向からきもちのいい風が通る。

昼食はまだだったな、とコンビニでサンドイッチを一つ買って、ベンチに座って食べた。

品川からここまで30分だ。

距離としては大したことはないが、場所が違うと同じ昼でも感じが変わる。

食べ終えてから立ち上がり、ゴミをまとめて捨ててからダンジョンの入口へ向かった。

入口の受付で民間鑑定士の証明書を提示すると、確認に少し時間はかかったが、問題なく通された。

中に入ると、前回と同じ青緑色の壁と、湿り気を含んだ塩の匂いが迎えた。

今回は一人なので、自分のペースで動ける。

スマホを取り出して配信を始めた。

「今日は一人で横浜に来ています。前回の調査で気になっていた場所があって、もう少し奥に進んでみようと思います」

コメントがすぐに動く。

『横浜また来た!』

『アーカイブ見て来ました』

『一人なの?』

「一人です。品川は深夜の配信が多いんですが、今日は動きやすい時間帯ということで昼に来ました」

前回確認したB4Fを通り過ぎて、さらに下の層へ進んだ。

B5Fに入ると、通路の幅が狭くなる。

足元が濡れていて、壁の青緑がより濃く照明の数も減っている。

「B5Fです。品川のB5Fと雰囲気が全然違います。こっちの方がやけに湿度が高い気がします」

『なんか深海みたい』

『足元大丈夫?』

『進んで進んで』

「気をつけながら進みます」

15分ほど進んだところで、壁の質が変わった。

前回見た潮魔石がそこここに張り付いている。

密集している。5センチ、10センチと大きなものもある。

「先週見た潮魔石、ここにもたくさんありますね。サイズも大きい。もっと奥にいくと、さらに大きなものがあるかもしれない」

壁をたどりながら進んだ。

潮魔石の密度が上がっていく。

床にも小さなかけらが落ちている。

通路が広い空間に開けた。

壁一面が、潮魔石だった。

結晶が重なり合って、床から天井まで青白い光を放っている。

小さなものから大きなものまで、数えきれないほどの潮魔石が壁に張り付いていた。

この光景に息を飲む。

連動するかのようにコメントが止まり、しばらく誰も何も書かなかった。

「……すごいですね」

それ以上の言葉が出なかった。

周囲をたっぷりと鑑賞したあと、壁の中心部に向かって【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

潮魔石母岩(生成核)

希少度:S

採取可能部分の推定価値:18万〜25万円

母岩全体の推定価値:算定困難(工業用途・研究用途で高需要)

備考:沿岸ダンジョンの深層に稀に存在する潮魔石の生成源。

この母岩から放出される魔力が周辺に潮魔石を生成し続けている。

母岩自体の採取は一部のみ推奨——生成機能の維持のため全採取は非推奨。

管理局への報告を強く推奨。

――――――――――――――――――――

「潮魔石の生成源です。この壁から魔力が出ていて、それが固まって潮魔石になっていく。希少度Sです」

コメントが遅れて一気に流れた。

『S?』

『希少度Sって初めて見た』

『壁全体がそれなの?』

「全部採取はしない方がいいと出ています。生成機能が止まってしまうので。一部だけ持って帰って、場所を管理局に報告します」

『正しい判断』

『持ち帰るより残した方が価値があるってことだ』

慎重に端の部分だけを切り取った。

手のひらに乗る大きさで、ずしりとした重さがあった。

表面が微かに温かい。

「これを持ち帰ります」

来た道を戻りながら配信を続けた。

B4Fまで上がったとき、スマホに通知が来た。

ダンジョンTubeからだ。

『おめでとうございます。チャンネル登録者が20,000人を超えました』

「……2万人になりました」

コメントが沸きに沸く。

『おめでとうーーー!』

『遠征中に2万!』

『横浜で達成するのエモい』

『ここにいてよかった』

「ありがとうございます。横浜で達成するとは思ってなかったです」

流れていくコメントをしばらく眺めた。お祝いの言葉が次々に上書きされていく。

「いつもありがとうございます。これからも続けます」

ダンジョンの外に出て、浅田に電話した。

母岩の場所と状況を伝えると、電話の向こうで浅田の返事が少しだけ遅れた。

「それは……かなり重要な発見です。来週、専門の調査チームを入れていいですか。場所の詳細を共有してもらえれば」

「問題ありません」

「真壁さん、本当にいつも助かります」

電話を切って、港の方を見た。

夕方になっていて、海の向こうが赤くなっている。

持ち帰った母岩の欠片をポケットの中で軽く握ると、まだ微かに温かかった。