軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

みんなが踏んで通り過ぎた石が、40万円だった

翌朝から業者回りを始めた。

最初に馴染みの魔石専門店に紅魔石を持ち込んだ。

担当者が受け取るなりルーペを取り出して、しばらく無言で見ていた。

「どこで手に入れましたか」

「ダンジョンで拾った袋の中に入っていました」

「……袋の中に」

少し間があった。

「268,000円でいかがでしょうか。純度と保存状態が揃っている上位種は滅多に出ないので」

「お願いします」

続いて銀魔合金製の腕輪を装備買取の業者へ、旧式術式書を古物商へ持ち込んだ。

腕輪が65,000円、術式書が18,000円だった。

3点合わせて351,000円になった。

ボロ袋の中身が35万円を超えた。

次元収納袋そのものは劣化が進んでいて売却は難しかったが、入っていたものだけでこの数字である。

近所のコンビニに寄って、缶コーヒーを1本買うと外のベンチに座って、特に何もせずに飲んだ。

最近、動き続けていた気がする。

管理局の手続き、依頼の初仕事、配信、業者回り。

立ち止まる間がなかった。

缶が空になるまでの五分くらい、何も考えない。

それだけでいい時間だった。

夜、19回目の配信を始めた。

登録者は11,430人になっていた。

入口に近づいたとき、入口の外に人が数人いるのに気がついた。

探索者の装備をしていない。

スマホを出して、こちらに向けているような動きがある。

フードを深めに被り直して、入口に入った。

受付で手続きを済ませていると、中年スタッフが通り過ぎるさいに小声で語りかける。

「さっきから2、3人うろついてる。配信ファンか正体特定かは分からんが」

「見えてました」

「まあ、今のところ中には入れてない」

それだけで足を止めずに立ち去った。

そして俺は配信準備を済まし、配信を開始する。

「お疲れ様です。今日はB4Fを丁寧に回ります」

『いつもありがとう』

『今日も楽しみにしてた』

『外に人いた?』

「少しいましたね。配信見てくれてる人かもしれないので、問題ないと思います」

B4Fに入った。

今夜は確認ペースを落として、一区画ずつ丁寧に見ていく。

照明の届きにくい壁際、通路の折れ曲がり、段差の下。

探索者の多い上層では、こういう場所に素通りされたものが残っている。

40分ほど進んだとき、通路の真ん中に石が落ちていた。

拳よりひとまわり大きい、灰色の石だ。

つるっとしていて、表面に凹凸がない。

一見すると何の変哲もなく、実際に何人かが踏んで通り過ぎた跡がついている。

だがほんの少しだけ違和感があり立ち止まった。

これまでの経験上、こういうものが意外と化けたりすることが多い。

「拾ってみます」

手に取ると、ずしりとした重みがあった。

見た目のわりに密度が高い。

【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

魔力自然結晶(完全体)

希少度:A

推定価値:32万〜40万円

備考:ダンジョン内の魔力環境が長期間かけて自然に結晶化したもの

人工的な精製や加工の工程を経ておらず、完全体に達した状態

外見から価値を判断することは困難で、発見されずに踏まれ続けるケースが多い

完全体は数年に一度の発生頻度とされる希少素材

推奨:魔石専門業者または高額取引可能な買取業者への持ち込み

――――――――――――――――――――

「……32万〜40万円です」

コメントが止まった。

「見た目はただの石ですが、ダンジョンの魔力が何年もかけて固まったものらしいです。人工で作れないので、自然に出てくるのを待つしかない素材みたいです」

『踏んでた石が40万?』

『何年もかけて?』

『それ全員踏んで通り過ぎてた』

「足跡がついてますね。何人かに踏まれてます」

『普通の人間にはぜったいに分からないぞそれ』

『回収屋の目がないと一生発見されなかった』

『拾ってくれてありがとうって石が思ってる』

最後のコメントで笑いそうになった。

こらえながら袋にしまう。

配信を閉じると視聴者は12,900人を超えていた。

登録者も配信中に300人近く増えていた。最近のどの回よりも伸びが大きい。

ダンジョンの外に出ると、さっきの人影はいなくなっていた。

深夜になって引き上げたのか、別の目的だったのか。

帰り道、榊からメッセージが届いていた。

『ずっと前から言ってたコラボの件なんですが、そろそろどうでしょうか。条件は何でもいいです。顔出しなし、音声だけ、フードのまま、テーマも自由です。一緒に配信するというより、俺の配信にゲストで来てもらうイメージで』

少し考えた。

今まで断り続けていたのは、注目が広がるほど正体特定が早まると思っていたからだ。

ただ、業界メディアに記事が出て民間鑑定士の登録もした今、注目はもう勝手に動き出している。

顔を出さず声だけ、内容も事前に確認できるなら、これ以上崩れる範囲は限られる。

俺は榊にスマホで返信した。

『声だけ、フードのまま、事前に内容を確認できるなら』

少し待つと、返信が来た。

『もちろんです。日程調整しましょう』