軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

榊とフードの回収屋

朝一番に魔石専門店に向かった。

担当者がカウンターに魔力自然結晶を置いて、少し時間をかけて確認した。

途中で奥に引っ込み、別のスタッフと何か話している声が聞こえた。

「368,000円になります。うちでもここまでの完全体は年に1、2度しか来ない」

「ありがとうございます」

「また出たら真っ先に持ってきてください」

「はい。次出たら必ず」

その言葉は売却のたびに聞いているが、次がいつ出るかは誰にも読めない。

昨夜の結晶も、何年も踏まれ続けた末にようやく拾われた品だ。

歩いて、見て、拾い上げる。

俺のやることは今後も変わらない。

榊の事務所があるビルは、ダンジョン最寄り駅から電車で30分ほどの場所だった。

エントランスを入って待っていると、榊が降りてきた。

「来てくれてよかった。ずっと待ってたんで」

「約束しましたから」

「フードのままでいいですよ。カメラの設定は後で一緒に確認しましょう。顔が映らないようにするだけなんで、難しくないです」

エレベーターで上の階に上がった。

事務所の中は思ったより広かった。

撮影用のデスクがあって、照明機材が並んでいる。

机の上に布をかけた箱が置いてあった。

「今日の企画用のアイテムです。俺がネットの競売とかダンジョン近くの市場で集めてきた10点です。回収屋さんに鑑定してもらいながら価値を確認するコーナーにしようと思ってます」

「偽造品や汚染品が混じってる場合はその場で言いますが、大丈夫ですか?」

「もちろんです。それが面白いところなんで」

カメラの角度を調整して、俺の手元だけが映るように設定した。

フードをかぶったまま後ろ向きで座ると、画面には手と袖の部分しか映らない。

「これでいきますか」と榊が確認した。

「問題ありません」

「じゃあ、始めましょう」

榊の配信が始まった。

画面の隅で視聴者数のカウントが動き始めた。

告知済みだったのか、開始から数秒で1,000、2,000と数字が伸びていく。

「今日はスペシャルゲストを呼んでます。フードの回収屋さんです」

コメントが一気に流れた。

『え、本物?』

『声聞けるの初めて』

『うそやろ』

「本物です。今日は俺が用意した10点のアイテムを、回収屋さんに鑑定してもらいます」

軽く息を吸ってから、口を開いた。

「よろしくお願いします」

コメントの流れがまた速くなった。

『コラボ実現したのか』

『この組み合わせ待ってた』

『回収屋チャンネルからきました』

「ルールは簡単です。俺が出したアイテムを順番に鑑定してもらって、希少度と相場の値段を出してもらいます。汚染や偽造があればその場で指摘してもらいます。あと、俺がそれをいくらで買ったかも一緒に出すんで、得したか損したかもずばり指摘してもらいます!」

榊がテーブルの布を整えて、箱の蓋を開けた。

「じゃあ、いきましょうか」

最初の1点を布からテーブルに出した。

小ぶりな魔石だ。

青みがかった半透明で、見た目は悪くない。

「これからいきましょうか」

手を伸ばして【鑑定】を向けた。

「希少度C、2万〜3万円程度です。品質は普通ですね。ただ状態はいい」

榊が身を乗り出した。

「俺が買ったの12,000円ですよ、これ。倍以上じゃないですか! 1点目からいきなりプラス鑑定ですよ!! 皆さん、見てましたよね今の鑑定」

コメントが動いた。

『1点目から倍以上!』

『+18,000円スタートおめでとう』

『この企画もう当たりじゃん』

『次々お願いしますー』

2点目。古びた革製の腕輪だ。

「これは……修復が必要ですね。このままだと値段がつかないですが、専門業者に出せば4万〜6万円になります」

「マジですか?! これ、本気で捨てようか迷ってたやつなんですよ。それが4〜6万に化けるって、皆さん聞きました? 1点目に続いて2連続当たりです!!」

3点目は、一目で高価そうな護符だった。

細かい装飾が施されていて、封が丁寧にしてある。

【鑑定】を向けた。

「……これ、偽造品です」

榊が少し固まった。

「偽造?」

「見た目は本物そっくりですが、術式が飾りです。機能していない」

コメントが止まった。

『偽造!?』

『榊さん見事に掴まされてるじゃん』

『高そうに見えたのに中身ゼロはひどい』

『いくらで買ったか正直に言って!』

『この展開最高すぎる』

「8,000円で……」

「露店か競売でしたら業者に言えます。まだ接触できるなら返品できると思います」

『鑑定の精度が怖いくらい』

『偽造品流してる業者を潰す案件』

『8,000円で済んだの不幸中の幸い』

『俺も家にあるやつ見てほしくなってきた』

『回収屋さんに鑑定頼みたい人増えそう』

榊が小さく咳払いをして、3点目を脇によけた。

「皆さんすみません、後で業者には連絡します。気を取り直して4点目いきましょう」

箱から次のアイテムを取り出してテーブルに置いた。

砂のついた丸い石で、見た目はほぼゴミだった。

だが最近似たものを見ており、何となく違和感がある。

「どこで拾ったんですか、これ」

「ダンジョン近くの廃棄物の山です。面白そうだったんで」

【鑑定】を向けると、少し間があった。

「……希少度A。魔力蓄積型の原石です。精製すれば25万〜35万円になります」

スタジオが静かになった。

コメントが遅れて流れてきた。

『え?』

『ゴミが35万?』

『廃棄物置き場に35万が落ちてたってこと?』

「そうなりますね」

榊が両手でテーブルを叩いた。

「35万!? 35万ですよ皆さん!! 俺、あの廃棄物の山の前を何回通ったと思ってますか! 今すぐ走って戻って拾い直したい衝動が止まらないんですけど!」

『榊さん落ち着いてwww』

『気持ちは分かる』

『でも気づける目がないと意味ないぱたーん』

『回収屋さんの隣で叫ぶの面白すぎる』

榊が一度大きく息を吐いて、椅子に座り直した。

「……いや、すみません取り乱しました。回収屋さんがやってることの意味が、本当の意味で初めてリアルに分かった気がします」

残りの6点は普通の品が多く、相場通りの価値だったり修復案件だったりだった。

最後の10点目、大きめの護符が汚染はないが術式の構成が特殊で、専門家向けの希少品と出た。

「10点やってみて、偽造1点、廃棄物の山から35万の原石1点、修復案件2点、買値より上の掘り出しが2点、残りは相場通りってところです」

「いやあ……」

榊が椅子に座り直した。

「俺が今まで素通りしてきたものが、どれだけあるか考えたくなくなってきた」

コメントが流れた。

『全員そう思ってる』

『回収屋さんがダンジョン歩いてる意味がやっと分かった』

『もっとやってほしい』

『定期的にコラボしてください』

配信を閉じると、榊がコーヒーを2つ持って戻ってきた。

「お疲れ様でした。ありがとうございます」

「企画がよかったです。アイテムの選び方が上手い」

「一応バリエーション意識しました。……ピーク、2万超えてましたよ」

スマホを見ると、自分のチャンネルの通知も来ていた。

登録者が15,000人を超えていた。コラボ経由で流入している。

「回収屋さん」

榊が少し声のトーンを変えた。

「正体の件なんですけど、そろそろ限界が来ると思います。今日の配信で声が出ましたから。声と体格と活動場所が揃ってきてる。本人が動く前に、誰かが特定する可能性があります」

「分かってます」

「どうするか、考えておいた方がいいと思います。俺の方から何か漏らすことは絶対にないですけど、外で勝手に進んでる話なんで。いざ情報が出始めたとき、回収屋さんがすぐ動けるようにしておいた方がいいかなと」

「ありがとうございます。考えておきます」

コーヒーを一口飲んだ。特に何も言わなかった。

答えを持っていないわけではない。

ただ、答えを出すタイミングがまだ来ていない気がしていた。