軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仕上がった大剣と、深い層の発見

折れた魔鋼大剣を修復業者に預けてから5日目の昼、仕上がりの連絡が来た。

『仕上がりましたので、お時間のあるときにどうぞ』

午後に受け取りに行った。

カウンターに置かれた大剣を見て、少し息が出た。

折れていた刀身がきれいに繋がっている。

接合部が分からないくらい滑らかで、刀身全体に鈍い光沢がある。

見た感じはとても刀身が折れていたとは思えない仕上がりだ。

「仕上がりはいかがでしょうか」

「想像より綺麗です」

「魔鋼は丁寧に扱えば応えてくれる素材なので」

担当者が折れていた箇所を指さした。

「ここが接合部です。見えますか」

言われなければ分からない。

うっすらと線があるが、均一に磨かれていて段差がない。

「普通の鉄だと再鍛造しても継ぎ目が残るんですが、魔鋼は熱を入れると素材同士が馴染んでいくんです。職人の腕もありますけど、素材の性質が仕事をしてくれる」

「そういう材質なんですね」

「これだけ純度が高い魔鋼は久しぶりでした。どこで拾われたんですか」

「B4Fの通路です。落ちてました」

担当者が少し目を細めた。

「捨てた人は後悔するでしょうね。修復できると知っていれば」

受け取り証に署名した。

大剣を担いで、馴染みの買取業者に向かった。

しかし重い。

こんなものを軽々と振りまわして魔物に対峙する人がいるわけだが、俺には想像もできない世界だった。

「同じ探索者なのに、こうも世界が違うんだな…」

そんなことを考えつつも、1メートルを超える刃物を抱えて電車に乗るわけにもいかないので、きょろきょろと視線を泳がせながらタクシーを探した。

すぐに見つかり、乗ろうとしたときに何も言わずトランク側のドアが開いた。

ここに入れろ、という無言のメッセージを受け取り、素直にそこに置く。

運転手が何も言わずに対応しているのは、この界隈では珍しくない荷物の範囲に入っているのかもしれない。

買取業者の担当者は、テーブルに置かれた大剣を見て一度立ち上がった。

「鑑定書、お持ちですか」

「はい。修復業者が出してくれました」

書類を渡すと、担当者は大剣と書類を交互に確認した。

刀身に光を当てて、角度を変えながら眺める。接合部に指を這わせる。

「……見事な修復ですね。これは」

「いい業者でした」

「魔鋼の純度A相当。修復後でこの状態なら文句のつけようがない。出せる上限で出します」

提示は305,000円だった。

修復費用の38,000円を引いて、267,000円の利益になった。

拾ったときは折れた剣だった。折れた剣が267,000円になった。

「また何かあればぜひ」

「お願いします」

帰り道、手ぶらになった感覚が少し不思議だった。

夜、13回目の配信を始めた。

登録者は5,870人になっていた。

「今日はB5Fの深部を進んでみます。先日は境界の手前で引き返したので、その先を確認したい」

『おっB5F深部』

『どこまで行くの』

『楽しみ』

入る途中、搬入口で中年スタッフに会った。

「今日は奥の方か」

「B5Fの深部を見てきます」

「気をつけろよ。あの辺、探索者がほとんど入らんし、段差あるから廃棄物運搬トラックからゴミがよく落ちる。微妙な場所だから管理局もたまにしか清掃しておらんし、床も整備されてない」

「分かりました」

いつも通りの一言だったが、その一言があるのとないのとでは気の持ちようが違う。

いつも以上に慎重に歩きながら、奥に進んだ。

B5Fの深部は照明の間隔が広く、区画と区画の間に暗い通路が続いて足元が見づらい。

探索者がほとんど入らないせいか、落ちているものも少ない。

「見た目は何もなさそうですね。ただ、あまり人が来ない場所は意外なものが出ることがある」

『期待していいの』

『いつも言う割に出てくるんだよな』

「出るかどうかはやってみないと分かりません」

20分ほど進んだところで、床に小さな金属の破片が落ちていた。

装備の欠片か、工具の一部か。

【鑑定】を向けた。

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金属破片(魔鋼・端材)

希少度:D

現在価値:数百円程度

備考:魔鋼製品の加工時に生じた端材と思われる

素材価値はわずかにあるが、買取価格は低い

――――――――――――――――――――

「魔鋼の端材みたいです。ただ価値はほぼないので、今日は置いていきます」

『拾わないの珍しい』

『線引きがある』

『コスパで判断してる』

「全部拾うと荷物になりますし。価値があるものだけ持ち帰ります」

さらに奥に進んだ。

30分ほど経ったところで、壁の窪みに何かが詰まっていた。

石のようなものだ。でも、岩盤の一部ではない。色が少し違う。

周囲の岩より濃い青灰色をしていて、表面がほんのり光を帯びている。

「これ、なんだろう」

『また壁に何かある』

『よく見つけるな』

「この色が周りと違うんですよね。岩盤じゃないと思う」

手を伸ばして引き出すと、握りこぶし大の塊が出てきた。

見た目以上に重く、手のひらにずっしりとした密度を感じる。

【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

魔力結晶塊(未成熟)

希少度:B

現在価値:低(未成熟のため)

精製後推定価値:6万〜9万円

備考:ダンジョン壁面に蓄積した魔力が結晶化したもの

現状は不純物が多く価値が低いが、専門業者による精製で純度が上がる

成熟した完全体は希少度Aに達することもある

推奨:魔力精製業者への持ち込み

――――――――――――――――――――

「……今の状態だと価値が低いんですが、精製すると6万〜9万円になる素材です。壁に詰まってた」

コメントが動いた。

『壁から掘り出した』

『地味にすごくない?』

『精製前後の差がえぐい』

「壁面に溜まった魔力が固まったものらしいです。ゴミっぽく見えるけど、分かる人には分かる。近くに同じものがないか確認してみます」

周辺の壁を丁寧に見て回った。

同じ青灰色の変色がないか、窪みがないか。

五分ほどかけて確認したが、追加のものは見つからなかった。

「この1点だけみたいです。もっと奥に行けば別の場所にあるかもしれないですが、今日はここまでにします」

『また来て』

『次は複数見つかるといいね』

『精製後の報告してほしい』

「します。業者に持ち込んでみます」

今日はそんな感じで慎重に来た道を引き返した。

配信を閉じると視聴者は6,100人を超えていた。

初めて6,000人を超えた。

「今日は6,000人超えました。ありがとうございます」

コメントは流れた後だったが、アーカイブには残る。

数字を見ながら、少し前のことを考えた。

初配信のとき、視聴者は0人だった。

配信を始めた理由も、今とは少し違う気がしていた。

でも今夜やっていたことは変わらない。

ダンジョンを歩いて、目に映るものを鑑定して、価値があるものを拾い上げる。

それだけのことを、6,000人以上が見ていた。

少しだけ気分も高めになりつつダンジョンを出た帰り道、あまり見たくはないが正体特定スレを確認した。

『フードと体格の特徴からかなり絞れてきた。品川で配信しながら動いてる30代くらいの男性、一人で来て一人で帰る。知ってる人いませんか』

名前はまだ出ていない。

でも範囲が確実に狭まっている。

何か対策は必要かな、と思うも配信を行っている以上どうしても付きまとうリスクとも言える。

スマホをしまって、魔力結晶塊の入った袋を持ち直した。

見た目はただの石だ。

知らなければ誰でも素通りする。

そういうものを見つけて、価値を引き出す。

それが続く限り、チャンネルは続けられる気がした。