軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

広がる汚染術式②

品川のビルの会議室は、前回より人が多かった。

神崎と鷹坂に加えて、見知らぬ男が一人いた。

40代くらいで、スーツ姿だ。管理局の人間か、別の組織の人間か。紹介はなかった。

神崎が話し始めた。

「今日お伝えしたいのは、汚染の範囲についてです」

テーブルに地図が広げられた。日本地図だ。

いくつかの都市に印がついている。

「品川だけじゃありません。大阪、名古屋、仙台、福岡——現時点で確認できているだけで5か所以上のダンジョンで、同系統の術式を持つ物品が確認されています」

俺は地図を見ながら、少し整理した。

「全部、同じグループがやっているという前提で話が進んでいますか」

「手口が一致しすぎています。偶然ではない」

「……目的は?」

「まだ分からないです。ただ、実害は出ています。装備の不調で怪我をした探索者が複数いる。重篤なケースはまだないですが、時間の問題かもしれない」

スーツの男が初めて口を開いた。

「真壁さん、あなたが品川で最初に検出して報告した鑑定結果が、この件の最初の物証になっています。正式な調査が動き出したのは、あの報告がきっかけです」

「…そうなんですね」

俺が発見しなければ、護符の汚染はそのまま流通し続けていたかもしれない。

そう考えると少し気が重かったが、口には出さなかった。

「今後の捜査は管理局が主導します。真壁さんには今後も情報提供をお願いしたいですが、前線に立っていただく必要はありません。これまでの協力に感謝します」

「分かりました」

少しだけ肩の力が抜けた。

終わったわけではないが、ひとつの区切りが来た。

昼過ぎ、修復業者に大剣を持ち込んだ。

担当者が刀身の折れ口を確認して、少し眉を動かした。

「魔鋼の純度は高いですね。折れ方も綺麗なので、再鍛造での接合は問題ないと思います」

「費用と期間は」

「38,000円で5日ほどいただきます」

「お願いします」

領収書を受け取って店を出た。

仕上がりが楽しみではあった。

夜、12回目の配信を始めた。

登録者は5,410人になっていた。

今夜はB3FからB4Fを回る。

先日は中層の境界まで行ったので、今夜は浅い層をのんびり回る。

進みながらいくつか拾っていたところで、後ろから声をかけられた。

「あの、もしかして……回収屋さんですか」

振り返ると、20代半ばくらいの男が立っていた。

探索者の装備をしており、その姿からまだ探索者のランクは高くなさそうな雰囲気がある。

「…そうですが?」

「榊さんの動画で見て。フードで分かりました」

コメントが一気に流れた。

『えっ』

『遭遇した』

『声かけて大丈夫か笑』

「何かありましたか」

男が少し迷ってから、鞄から小さな布袋を出した。

「これ、先週ここで拾ったんですが。見た目が綺麗なので売ろうと思って業者に持ち込んだら、値段がつかなくて。何か分かりますか」

配信中であることを確認して、「鑑定してみます」と答えた。

布袋の中には護符が入っていた。装飾が凝っていて、高級品に見える。

【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

封護符・装飾型(偽造品)

希少度:該当なし

現在価値:なし

状態:外見のみ模倣、機能なし

備考:高価な護符を模倣した偽造品

術式の刻印が本物に似せて施されているが、機能は一切組み込まれていない

購入・使用は無意味。販売した業者への問い合わせを推奨

――――――――――――――――――――

「……偽造品です」

コメントが止まった。

「見た目は本物そっくりですが、術式が飾りだけで機能していないですね」

男の顔色が変わった。

「すみません、本当はここで拾ったんじゃなくて……。ダンジョン近くの露店で、3,000円で買ったんです。本当のことを配信で取り上げられたら恥ずかしいかと思って、つい」

「その業者に話をしに行った方がいいです。まだそこにいるなら、返品か返金を求められます」

コメントが再び流れ始めた。

『露店の偽護符か』

『鑑定なかったら気づかないやつだ』

『業者に詰めに行け』

男は「ありがとうございます」と頭を下げて、足早に去った。

配信を続けながら、少し考えた。

偽護符の件は呪詛の件とは別の話だ。

でも、見た目と実態が違うものを見抜く、という点では変わらない。

俺の目はそういうものに向いている。

配信を閉じると視聴者は5,400人を超えていた。

増え方がここの所想定よりも多く、正直戸惑っている部分もある。

自分がやっていることが、少なくともこれだけの人々に支持してもらっているという感覚が、俺にはまだ実感出来ていない。

でも、悪い感触はない。

少なくとも気持ちだけは上向きになっている気がする。

帰り道、SNSの正体特定スレを開くと、新しい書き込みがあった。

『配信の背景音や段差の音から、品川第七ふ頭のダンジョンで間違いない。あのダンジョンの常連に聞けば分かる人がいるかもしれない』

具体的になってきた。

名前ではないが、場所が絞られている。

世の中には随分と意味のないことに熱心になる人がいるものだな。

スマホをしまいながら、今日の打ち合わせのことを思い返す。

俺の最初の一件が、全国5か所に繋がっていた。それは想定外だった。

でも今夜やったことの方が、俺らしかった。

知らない探索者が持ち込んだ偽物を見抜いて、正しい方向を教えた。

そういう距離感の方が、自分には合っている気がした。