軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンに、誰かが罠を仕掛けていた

神崎への返答を、3日間考えた。

断る理由は、やはり出てこなかった。

ただ、無条件で受けるつもりもなかった。

『条件を追加させてください』

鷹坂経由でメッセージを送った。

3点だ。

1点目:月の依頼は上限2回まで。

2点目:配信が入る日は優先できない。

3点目:依頼内容によっては断れる権利を持つ。

返答は4時間後に来た。

神崎本人からで、『承知しました』の一行だった。

交渉でも何でもなかった。

最初から断るつもりがなかったのだろう。

「大人の交渉ってやつか」

ミミックの外殻を素材業者に持ち込んだ。

担当者が手に取って、少し目を細める。

「これ、どこで手に入れましたか」

「B5Fで脱皮片が落ちてました」

「……触ってないですよね」

「本体には触れてないです」

「それが一番大事です」

鑑定書を作成してもらい、29万円で売却した。

推定の範囲内に収まる額で、現物を見てからの提示額としては妥当だと思う。

夜、8回目の配信を始めた。

登録者は2,680人になっていた。

今夜もB5Fでの配信で、前回はミミックを見つけた区画を迂回したが、今日はその先の通路を確認したかった。

『また来た』

『今日もB5?』

『ミミックいる?』

「今日は先週とは違うルートです。同じ区画にはいないと思いますが、念のため遠回りします」

進みながら、壁際と床を丁寧に確認していく。

B5Fの中でも端の方で、探索者の往来も少ない。

放棄品も少ないが、残っているものの質が違う。

30分ほど進んで、通路の分岐に差し掛かった時であった。

行き止まりに近い側の壁際に、小さな布包みが置いてあった。

落ちているのではなく、置いてある。

包みの辺が壁にぴったり沿っており、誰かが意識して置いたように見えた。

「……これ、落としたんじゃなくて置いてありますね」

『え』

『なんで?』

『忘れ物?』

「分からないですが、鑑定してみます」

包みを開けると中に護符が入っていた。

見た目は普通の封護符だ。傷もない。

【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

呪詛付き護符・設置型(起動待機中)

希少度:C(素材としての価値は低い)

現在価値:なし

状態:危険

備考:通常の護符に呪詛術式を重ねて封入したもの

拾い上げた者の魔力に反応して術式が起動する仕組み

術式の構造が先日確認された汚染護符と同系統

推奨:即時設置元に戻す、または専門機関へ提出

――――――――――――――――――――

「……」

俺はそっと護符を包みに戻した。

「これ…汚染されてますね。それも故意に、です」

コメントが止まった。

「拾い上げた人に術式が起動するように作られてる。置き去りにしたんじゃなくて、意図的に仕掛けてある。しかも術式の構造が、前に確認した護符の汚染と同じ系統だと出ました」

数秒の間。

そしてコメントが全速力で流れた。

『は?』

『罠ってこと!?』

『意図的に置いたやついるの』

『それやばくない普通に』

『管理局に言うやつじゃん』

「触らずに済んでよかった。このまま置いておくのは他の探索者に危ないので、管理局に報告します。今日はここで引き返します」

『正解』

『他に仕掛けてある可能性あるよね』

『回収屋さんだから気づいたんだよな……』

配信を閉じながら、管理局のアプリを開いた。

管理局への報告は、アプリの『危険物発見』フォームから送った。

位置情報と写真を添付して、鑑定結果の内容も文字に起こした。

10分もしないうちに返信が来た。

『確認のため担当者を現地に派遣します。発見場所から動かさないようにしていただきありがとうございます。追ってご連絡します』

続けて鷹坂にもメッセージを送った。

護符の件だけ、端的に。

『B5Fで意図的に設置された呪詛護符を発見しました。術式の構造が、先日確認した汚染護符と同系統です』

返信は珍しく早かった。

『確認します。詳細を教えていただけますか』

今日初めて、鷹坂の文面から落ち着きが少し消えた気がした。

帰り道、配信後のコメントがまだ流れていた。

ピーク視聴者数は3,100人を超えていた。

登録者数も2,950人近くまで伸びている。

スマホを見ながら歩いて、少し考えた。

護符の汚染が一業者の問題なら、在庫を引き上げれば話は終わる。

でもダンジョンの中に仕掛けが置いてあるなら、話が違う。

それは探索者全員に向けた何かだ。

クランへの嫌がらせじゃない。

もっと広い話かもしれない。

鷹坂からメッセージが来た。

『神崎も同席で、明日改めてお話しできますか』