作品タイトル不明
広がる汚染術式①
翌朝、品川のビルに向かった。
会議室には既に鷹坂と神崎がおり、テーブルの上に書類が数枚並んでいる。
鷹坂が書類の一枚をこちらに向けた。
「昨日の報告、ありがとうございました。管理局からうちにも確認が来ました。現地は既に封鎖されています」
「護符は回収できましたか」
俺の問いに、鷹坂が頷いた。
「はい。同型のものがその区画でさらに2点見つかったそうです」
「……3点か」
俺の呟きに、神崎がはじめて口を開いた。
「少し、情報をお伝えします」
書類を1枚こちらに向けた。クラン名が並んでいる。
「先月から今月にかけて、複数のクランで装備の不調報告が上がっています。全部が護符というわけではないですが、共通しているのは購入ルートが似ていること」
「同じ業者から?」
「同じではないです。ただ、仕入れ先の上流を辿ると、1か所に繋がっている可能性がある」
俺は少し考えた。
「護符の汚染を業者が知らずに流したのか、知っていて流したのか」
「そこがまだ分かっていないです。ただ、ダンジョン内に直接設置されているなら、業者の話だけじゃない」
「第三者が置いた」
「その可能性が高い」
会議室が急に静かになる。
鷹坂がコーヒーを置きながら、間を置くかのようにゆっくりとしゃべり始めた。
「真壁さん、率直に聞きます。この件、引き続き協力していただけますか。今後も同系統の汚染品が出たとき、鑑定をお願いしたい」
「協力します。ただし、見つけたものは配信に出します」
「もちろん。それを含めて、です」
神崎が付け加えた。
「あなたが配信で動いてくれた方が、広く周知できる。うちにとっても都合がいい」
「分かりました」
俺が頷くと、神崎は黙って書類をまとめ、ファイルに戻した。
◇
ビルを出たところで、スマホに通知が来た。
送信者:品川第七ふ頭ダンジョン管理局
『先日ご発見いただいた護符の件につきまして、鑑定士として正式にご協力いただきたく、書面をご準備しております。ご都合のよい日時をお知らせください』
「鑑定士」という単語が、少し引っかかった。
俺は鑑定スキルを所有しているだけで資格は持っていない。
そもそもだが、鑑定スキルは結構広く所持されているスキルで、応用範囲は相当に差がある。
現に俺が持っている鑑定スキルはまさしく『一般その他』レベルであり、とてもじゃないが深く鑑定が出来るレベルではない。いや、なかった、か。
それが今や俺の無資格の鑑定スキルが、他の鑑定士と同様に公的な場でも通用する判断材料になっている。
会社をクビになった1か月半前の自分に言っても、信じないだろうなと思った。
◇
夜、9回目の配信を始めた。
登録者は3,420人になっていた。
「今日は配信外でいくつか動きがあったので、報告します。ダンジョンに罠が仕掛けられていた件の続きです」
コメントがすぐ流れ始めた。
『待ってた』
『続報きた』
『あの護符どうなったの』
「管理局が現地を封鎖して、追加で同型のものが2点見つかったそうです。合計3点。全部、似たような場所に置いてあった。偶然じゃないです」
『やっぱり』
『誰が置いたんだろ』
『目的は何』
「目的はまだ分からないです。ただ、あれに触れた探索者は何が起きるか分からなかった。配信してなかったら俺も触ってました」
『そう考えると怖い』
『回収屋さん配信してて本当によかった』
「これ以上詳しいことは言えないですが、関係する人たちと話し合いは始まっています。何か動きがあれば報告します」
『信頼してる』
『続報待ってます』
配信を続けながら、今夜は上層の浅い区画を軽くまわるも目立った発見はなかったが、コメント欄は終始賑やかだった。
視聴者が「一緒に考えている」感覚がある。
このやり取りが新鮮で、前とは違っていた。
配信を閉じたあと、1件メッセージが届いていた。
榊からだった。
『真壁さん、罠の件、うちのチャンネルでも取り上げたいんですが。情報提供という形で協力してもらうことはできますか。コラボじゃなくていいです』
コラボじゃなくていい、というのが気になった。
あの榊にしては、珍しく控えめな申し出だった。