作品タイトル不明
あれ? 俺なんかやっちゃいました??
「真壁遼です。よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、御厨も丁寧に頭を下げた。
ここで下に見られるかと思ったが、一般的な対応を取ってくる限り、社会的な素養はそれなりに持ち合わせているようだ。
「父から話は聞いています」
「父??」
俺の言葉に御厨はジロリと視線を向けた。
「この大会に関する全ての鑑定はここ、AICが担っています。ですので、言うまでもないことですが、こちらの指示に従っていただきます」
「あ、はい。もちろんです」
何かをする前にしっかりと釘を刺されたようだ。
別に何かをしでかそうなんて思ってはいないのだが、向こうはそう思ってないらしい。
この嫌な空気を悟ったのか、事務総長は咳払いをし、話題を強引に変えた。
「ここではあらゆる鑑定をおこなっており、今日も大型の魔道具が鑑定に運び込まれてまして…あれかな?」
事務総長は手をむけると、その方向に大型の機材が並んでいた。
「御厨くん。あれがその魔道具かな?」
「はい、事務総長。今朝運び込まれた放送連携魔道具【リンクプリズム】です。さきほど最終確認完了しました」
「そうか。それで結果は」
「申請内容と一致。外装、刻印、基本術式、放送連携機能、通信制御、魔力消費、すべて規格内です。問題なしで通せます」
リンクプリズムか。
名前や説明からして、放送系の魔道具らしい。
10面以上のサイコロみたいな見た目のその魔道具は、色んな線で繋がれていて、家のこたつよりかは遥かに大きく、半透明の外装の中心部には淡い光がランダムで色を変えていた。
外側には細い魔導回路が幾重にも走っており、ぱっと見だが、すごく繊細な魔道具に見える。
「どんな魔道具なんですか?」
俺が声小さめで聞くと、管理局職員が説明してくれた。
「WEG東京で新導入予定の放送連携魔道具です。公式配信、国際放送、会場内大型ビジョン、ダンジョンTube連携枠の映像同期に使われます」
「へぇ…映像同期、ですか」
「競技映像に魔力反応や選手位置、鑑定注釈、公式解説用の補助情報など競技ごとに別の内容を専門の部署で個別にリアルタイムで重ねていたんですが、この魔道具を使うと一元的に作成、管理ができてコストもそうですが、人が行う手間を大幅に減らすことができる画期的な専用魔道具です」
「それは…すごいことですね」
正直意味がわかっていないのだが、聞く限りはとても凄そうな魔道具だってことは分かる。
そんな俺を無視するかのように御厨は、鑑定士の報告書を確認する。
「では、AIC判定は問題なしで通します」
そして俺は中心部に様々な発光している部分を見ていた時だった。
俺の中で、何かが引っかかる。
俺のただならぬ気配に、さっきまで殻に籠っていたシオが顔を出して、俺の視線の方に目を向けた。
「……シオ、どう思う?」
表面的な術式の流れは何も問題がない。
申請内容と一致しているというのも、たぶん間違っていない。
だが、中心部の淡い光の奥。
そこに、薄い染みのようなものが見えた気がした。
シオも同時に何かに気付いたのか、少しだけ前かがみになる。
俺は思わず、鑑定台へ一歩近づいた。
周囲の視線が集まる。
「真壁さん?」
管理局職員が小さく声をかけてくる。
その声に反応したのか、御厨がこちらを振り向いた。
それに合わせて事務総長や、周囲の職員、鑑定士たちも同様に視線を向けた。
俺は声を無視して更にリンクプリズムに近寄り、深く見た。
表面を通り過ぎ、外側の回路を抜け、基本術式をすっ飛ばす。
もっと奥。
中継核の更に深いところ。
俺が僅かだけ捉えたあの、最近何回も見る羽目になった、あの残滓を。
通常の放送術式…ここじゃない。
補助同期術式…ここも違う。
ノイズ除去術式…ここも違うが、近い気がする。
シオが俺に対して感情を飛ばす。
『その奥を見ろ』
シオの指摘に俺は更に深く鑑定を通すと、明らかに偽装目的と思われる薄い膜を発見する。
「これか…」
「ま、真壁さん?」
俺はリンクプリズムがおかれてある台へ前のめりになっていた。
明らかにおかしい所作に、周囲はどうすればいいのかわからず、あたふたするだけだった。
そして辿り着く。
――――――――――――――――――――
放送連携魔道具【リンクプリズム】
希少度:A
申請用途:公式配信・国際放送・会場内大型ビジョン・ダンジョンTube連携枠の映像同期
基本機能:正常
申請内容:一致
状態:中継核深層に非申請術式あり
非申請術式:呪詛系統・思念波混入術式
構造:放送同期術式とノイズ除去術式の間に偽装層を形成。中継核深層に汚染核を封入
効果:映像信号へ微弱な思念波を上乗せする。単体効果は極小
後続起動:対応魔道具による追加干渉で、認識誘導状態を誘発する可能性あり
耐性:魔力保有量の高い対象には効果低。一般視聴者への広域散布を想定した構成
備考:過去に確認された術式汚染および呪物系統の構成癖と一部類似
推奨:即時隔離。放送系統への接続禁止。開発・搬入経路の再調査が必要
――――――――――――――――――――
護符の汚染。
ダンジョン内に仕掛けられていた呪詛。
大阪で見た、あの呪物。
同じではない。
だが、嫌な癖が嫌なくらい似すぎていた。
「すみません」
俺は自然と声を出していた。
「これ、中心部をもう一度見てもらえますか」
御厨さんがこちらを見る。
「中心部?」
「はい。中継核の奥です」
報告をしていた鑑定士が、眉を寄せた。
「そこは確認済みです。申請上の中継核で、放送同期術式の中心部にあたります」
「その奥に、別の術式が隠れてます」
俺の言葉にAIC鑑定士たちはざわつく。
「別の術式、ですか」
俺は頷いた。
「汚染術式です。たぶん、呪詛系統に近い」
誰も、すぐには動かなかった。
さっきまで俺を冷ややかに見ていた鑑定士たちが、今度は別の意味で俺を見ている。
「真壁さん、場所を示せますか」
「はい」
「誰か解析を」
すぐにAIC鑑定士が鑑定士が主に使う解析用魔道具を持ってくる。
「中心部に込められた術式を3Dで表示できる魔道具です」
対になっている黒い板の上に、術式のモデリングが浮くように表示されていた。
「すごいですね。こんな魔道具があったなんて。俺が見ている鑑定スキルに結構近いです」
俺の言葉に周囲が固まった。
「……この術式3Dモデリングが鑑定スキルで見えている、そういうことですか?」
「そうですね。実際にはもっと多くの情報が鑑定スキルを通して表示されているんですけど、無駄なものを弾いてなるべく自分が見たい情報にそぎ落としていくとこんな感じですかね。あれって結構神経削っていやですよね」
周囲に嫌な空気が流れる。
すると管理局職員が慌てて小声で俺に話しかける。
「ま、真壁さん…それが出来ないからこの魔道具があるんです…」
「……あ。じゃあ皆さんどうやって鑑定しているんですか?」
再び周囲に重い空気が満ちていく。
あれ? 俺なんかやっちゃいましたか??
「……そ・れ・で。この術式を使ってどこに仕込まれているか説明してください」
「……わかりました」
俺はこのすさまじく空気の悪い中で術式の3Dモデリングを見ながら、実際に見えている鑑定内容と照らし合わせて指示をしていく。
俺は鑑定台の横に立ち、リンクプリズムの中心部を指した。
「外側から見ると、放送同期術式とノイズ除去術式が重なっているだけに見えると思います。でも、その間に偽装層があります。すごく認識しづらいですが、中心に汚染核があります 」
「ここに偽装層がある…と? しかし…ここには何も表示されていないですが…」
俺は鑑定スキルで注意深く、偽装層を通していく。
「あぁ、なるほど。この偽装層自体が、この鑑定魔道具から目を欺くように出来ているんですね。よく考える…」
「……この魔道具はそういった術式妨害系に対して強い、いわば特効みたいな効果がある最新式の鑑定補助魔道具です。それを欺くとは正直言って信じがたい」
「そうですね…ちょっと待ってください。シオ、あの偽装層なんだけど系統は呪い系に属しているから、何とか消し飛ばせないか?」
シオは殻を少しだけ振って、淡い光を殻全面に走らせた。
『やってみる』
シオから飛んできた感情とともに、一瞬だけ光を走らせた。
『けした』
シオから感情が混じった返事が返ってきたと同時に、俺の目にも偽装層が消失されていることが確認できた。
「おっ! シオ! さすがだな!! えらいぞ!」
シオは肩の上で少しだけドヤ感を出す。
鑑定補助魔道具にも変化があり、先ほどまで示されていなかった新しい術式核を捉えたと同時に、コンソール画面から『CAUTION』が表示された。
「御厨さん! 新しい術式が検知されました!! 内容は……汚染術式、それも厄介な呪詛系統と一次判定がでています!」
「なんだとっ!」
御厨は慌ててコンソール画面へと向かって、結果を確認していた。
周囲の鑑定士たちも慌ててコンソール画面を見に行き、そして渋い表情を見せた。
「ま、真壁さん、これはどういうことかね?」
事務総長はこの結果に一番驚いており、俺に歩み寄って一番に尋ねた。
「詳しいことはまだこれからですが、このリンクプリズム内の奥に汚染術式が意図的に仕込まれていました。この型は随分最近見てまして、恐らくダンジョンコアと同系統だと思います」
「……なんだとっ!」
俺の言葉に護衛が反応し、すぐに傍に寄ってくる。
「真壁さん、一時避難を…」
「あ、いや、この術式自体が我々に直接何かを及ぼすことはないかなと。こいつは放送を中継することによって効果を発揮するように出来ているので、いまは特にいても危険はないと思います」
護衛はその言葉を聞き、そして周囲の護衛と短い会話を交わすと、少しだけ離れた。
「御厨君っ! これは…どういうことだね?! 鑑定の目をすり抜けた、そういうことかね?」
事務総長から飛ぶ叱責にも近い言葉を浴びて、御厨は苦々しい表情を見せた。
「申し訳ございません…」
事務総長はその言葉に満足はしていなさそうだったが、すぐに周囲に侍る職員に向けて指示を飛ばす。
「すぐに流入元を洗うんだっ! すり抜けたと周囲にバレたら大変なことになるっ! すぐにこのエリアを厳重管理に移行して、徹底的に出入りする人間の身元を洗えっ!」
「しょ、承知しましたっ!」
そして慌ただしく職員は動き出す。
今日の視察はこれまで、と強制的に打ち切りになり、明日改めてこの魔道具についての見解を伺いたいと事務総長から直接要請があり、俺はそれに対して頷くしかなかった。