軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シオの里帰り①

あの後、リンクプリズムは即時隔離された。

そりゃあそうだろうな、とは思う。

WEGの職員に詳しく話を聞くと、リンクプリズムは超有名企業が8年もかけて作られた魔道具で、この後大々的にお披露目を行う予定だったとのことだった。

WEG東京のプラチナスポンサーでもあるため、あんまり強く言えなさそうだな、そう思っていたが今回この呪術汚染されていたことを見抜いたのが俺だということが、話を余計にややこしくさせてしまっていた。

「真壁さんじゃなく、AICが見つけていれば話はまだ違ってたんですけど」

管理局職員は当事者ではないため他人事のように言ってはいるが、俺の専属支援チームからすぐに内閣府へ報告が上がっており、さらに広範に渡って影響しそうな術式効果をもってたことが追い打ちになって、総理官邸では大問題だ、と騒ぎまくっているそうだ。

現在AICが総力をもって解析に当たっているが、多分俺にも確認という意味で、後ほど動員がかかるだろう。

そしてその日は東京の滞在場所に戻り、そのまま1日を終えた。

それから数日後。

朝のミーティングで専属支援チームから報告があった。

「ダンジョン庁からの依頼が入りました。横浜みなとみらいのダンジョンが正式オープンするとのことで、そこのセレモニーに参加して頂きたいとのことです」

「みなとみらいとうとうオープンするんですね。うわぁ…めっちゃ行きたい…けどセレモニーに参加?」

「簡単に言うと広報としての依頼となります。真壁さんがセレモニーに参加することによって、報道各社はもちろん、ニュース系メディアも数多く集まりますし、そういった部分を頼りにお願いしたいとのことです」

「なるほど。それでセレモニーに参加、か。参加するだけ?」

「少々お待ちください。……セレモニー後にダンジョン内の浅い階を、マスコミと一緒に回るスケジュールになっていますね」

「マスコミと一緒に回るのか…」

「とても嫌そうなのは伝わります」

「ははは…わかります?」

「はい、とても」

俺は苦笑しつつ、手渡されたスケジュールを確認する。

確かに魅力的な仕事依頼なのだが、一方でマスコミと一緒に回るのは正直嫌だ。

そういうタレントというわけでもないし、そういう意味で俺はアマチュアタレント以下なのだ。

ただ、知名度がここ最近爆上がりしただけの、そこを抜きにすればそこら辺にいる一般人なだけであり、カメラを意識するとろくに話もできない。

深夜でこそこそ1人で浅い層での配信くらいしか経験がない俺は、こういう大手メディアとの絡み自体が経験がなく、そこがどうも引っかかってしまう。

「でもみなとみらいダンジョンは、風光明媚なダンジョンって言えばいいのかな。ダンジョン内が東京ダンジョンとは違って、観光向けなんですよね」

そこで俺は忘れてはいけない出会いを思い出す。

俺はソファーに目を向けて、まったりしているシオを見た。

「そうか…そうだったよな。シオ? 里帰りしたいか?」

里帰りの意味が分かってないのか、ただ殻を横に振るだけだった。

それを見て俺は一つの決断をした。

「わかりました。一つ条件があります。それを承諾してくれたら引き受けます」

俺の条件、という言葉に全員警戒する顔を見せた。

「条件を先にお伺いします」

「そんな警戒しなくてもいいですから。大したことじゃないです…………」

俺の条件を聞いた支援チームは皆、頭を抱えるのだった。

「真壁さぁぁぁぁぁん!!! 会いたかったですぅぅぅ!!!」

横浜みなとみらいダンジョンの新設された管理局内の会議室スペースで、榊がいつものテンションで駆け寄ってくる。

「あ、どうもです」

「なんでそんなに素っ気ないんですかぁぁぁ!」

「すいません真壁さん。この話もらってからウチのリーダーずっとこんな感じで」

苦笑気味のクランメンバーは、榊を取り押さえるかのように囲んでいた。

「榊、周囲見ろよ? お前の奇行に護衛もドン引いているぞ?」

護衛は俺の方を見て、やっていいですかと視線を送る。

「支援チームの皆さん、榊さんはいつもこんな感じなんで、そこまで殺気だてなくても大丈夫です」

「え、えぇぇぇぇ?! ここでやられる寸前だったんですかぁぁぁ?!!」

榊が率いるメンバーの一人、相良が頭を小突いた。

「うるさいっつーの。そろそろ落ち着け」

そして改めて本日のスケジュールを榊含めた全員で確認に入った。

「スケジュール自体は前に共有したものと変わりはありません。本日も予定通りにすすんでおります」

「わかりました。前半のセレモニーは俺とシオが参加するので、その間に準備進めてください」

相良の隣にいる唯一の女性メンバー、三枝真帆が頷いた。

「了解です! この後、成瀬と私でダンジョンTubeのディレクターさんと、打ち合わせしてきますので、細かい進行部分はお任せください!」

薄い胸をどん、と突いて大丈夫とアピールする。

「そういえば…三枝さんとは一番最初にあった配信事故以来でしたね。ご無沙汰しています」

「えぇー! 真壁さん覚えてくれてたんですかぁ!! あの時はそれどころじゃ無かったから絶対忘れられてたと思ってました!」

「いや、その後コラボのときメールで連絡とかしてたじゃないですか」

「あ、そうでしたね。えへへ」

「……打ち合わせは以上です。真壁さんはこちらに。このあとセレモニーのリハがありますので」

「わかりました。榊さん、また後程です」

「わっかりましたぁ!! 今日の配信はめっちゃ気合入れていくんで、最高のコラボ配信にしましょう!!」

俺はその後、セレモニー会場に向かい、始まるまで前室で待機していた。

「ダンジョンTubeの配信班は既に現地で準備完了で、今は入念に配信のリハを行っているとのことでした」

「了解です。でも色々とすいませんでした。わがまま言っちゃって」

俺の言葉に管理局職員は若干しかめっ面を見せた。

「…本当ですよ。まさかセレモニーの条件として回収屋チャンネルの通常配信をしたいって言われたものだから、ダンジョン庁はかなりパニくってました」

「ははは…品川で近況報告したので、まぁ大丈夫かなって」

俺が今回出した条件というのは、『横浜みなとみらいで回収屋チャンネルの通常配信を行いたい』だった。

前は近況報告だけだったし、最近お堅い仕事ばかりしているということもあって少しだけストレスが溜まっていたのか、ついあの場で口走ったのだが、ここまで大事になるとか思ってもいなかった。

だがそれから各所調整が入り、警備という意味ではもともとクローズ環境のままだったことからそこまで大変でもなく、セレモニーもあることから要人警備自体は計画に入っていたことがプラスに働いたようだった。

榊たちのスケジュールも問題なく押さえることができたため、すんなりいきそうだな、そう思っていた時、ダンジョンTubeが難色を示してきた。

なんでも前回の俺の配信で問題になったのが、一つの配信で多大なるトラフィックの輻輳が発生したということで、今回その準備が間に合わない、ということだった。

これまでの視聴者数を遥かに超えた数だったそうで、真壁専用配信サーバーを導入しようか検討する過程でこの件が舞い込んできてしまったために、俺も強くは言えなかった。

「それはしょうがないですね。じゃあ俺のスマホでやりましょうか」

違う、違う、そうじゃない、とばかりに周囲が「そういう問題ではないんですよ」と言ってきたが、俺はこの条件が飲めないとやらない、と押し通した結果、視聴制限有りの配信となった。

「でも視聴制限かけなくてもそこまで伸びないと思うんですよね」

「……それ、本気で言ってますか?」

管理局職員の視線が怖い。

「……とりあえずセレモニー頑張ります…」

「…全力を尽くしてください」

そして、リハは滞りなく進み、セレモニー本番を迎えた。

セレモニーは関係者だけの参加であったため、そこまで少人数で行われた。

だが、集まった報道各局の数は参加者の倍以上おり、至る所でカメラポジション争いが繰り広げられていた。

そしてセレモニーは始まり、俺は特に喋る出番はないため、壇上の椅子に座ってただただセレモニーの様子を見ているだけだった。

最後にテープカットが行われ、セレモニーは無事終了した。

セレモニー後、ダンジョンの入り口前に設けられた大きな広場では、この後入場する探索者で溢れかえっていた。

「現時点でおよそ3千人が集まっているそうです。ここは24時間開放型ダンジョンなので、恐らく数万人の探索者が本日集まるでしょう」

広場を一望できる管理局施設の展望台から、それを眺めていた。

明日以降は一般開放されるそうだが、今回は俺らの配信のために貸し切りとなっている。

「真壁さん、前回の配信ぶりですね。ディレクターの相馬です」

「前回はありがとうございました。そして今回無理いってすいません」

俺は頭を下げると、相馬は慌てて「頭を上げてください」と促す。

「何言ってるんですか! 真壁さんの要望に応えることはダンジョンTubeとしての使命でもあるので、ガンガン使ってください!」

「そう言っていただけると助かります」

そして俺は配信の簡単な流れを再度共有され、いざ本番配信へと臨む。

「お疲れ様です。ちょっと日が開いてしまいましたが、通常の回収屋チャンネルを再開します」

俺の締まらない第一声と共に配信は開始された。

瞬く間にコメントが埋め尽くされ、待機待ちの視聴者たちが次々と視聴開始していく。

「相馬さんっ! 同時接続数100万を超えましたっ!」

「想定はしていたが、それを超えてくるのか…恐るべし回収屋チャンネル…」

「んなこと言ってる場合じゃないでしょうが。配信サーバー上限を引き上げしていいかどうか、配信チームから連絡きてますよ?」

「お、おう。やってくれ。予定の70%まで来たら順次開放していってくれ」

「了解です」

「コメントの方は順調に監視できているみたいだな」

「はい、こっちは問題なく。ディレイも問題なく想定時間内です」

「わかった。護衛班に連絡を。そろそろ下に向かうと」

「そして、今回はなんとダイブチャンネルさんとのコラボ配信です。榊さん?」

「どうもー! 皆さん、お元気してましたか?? 真壁さんのコラボ相手と言えば、この榊ですよねぇ……ってコメント辛すぎじゃないっすか???!!」

『榊きたw』

『出たな保護者枠』

『真壁さんの通訳担当』

『ダイブチャンネル久しぶり』

『まさか再開一発目がまさかのダイブチャンネルとコラボとは』

『回収屋チャンネルが主体のコラボって初か?』

『また回収屋さんに振り回されるのか』

『シオぉぉぉぉぉ』

『今日もシオは尊い…』

『あれ?シオなんかでかくなっているような…』

「そして今回ですが、事前告知通りの横浜みなとみらいダンジョンにやってきました」

「今回は初開放なんですよね! いまここは管理局から借りている建物の屋上広場なんですが、ほら見てください! あの人の山っ! さっき管理局から聞いたんですが、すでに3千人も探索者が集結しているそうです」

「確かにすごい数ですね。新宿大入口前の広場みたいな活気です」

「今日は進入できる階層が決まってまして、10層までだそうです。そう言えば真壁さん、今日の回収屋チャンネルはいつもとは違うんですよね?」

榊は予定通りのフリを俺に渡す。

俺はとちらないように、落ち着いて声を出した。

「そうです。回収屋チャンネルといえば落ちている廃棄物を拾って価値あるお宝を見つける、これがメインのチャンネルなんですが、今日初日なので廃棄物など落ちてる訳もないです。なので、今回は再開1発目ということで、あそこに行こうかな、と」

「へぇ、真壁さん、どこに行くんですか??」

俺は肩の上でまったりしているシオを見る。

「俺の相棒、シオが生まれた場所に里帰りしようと思います」

『シオの里帰り!?』

『そうだよ!ここシオの生まれ故郷じゃん!』

『うぉぉ!まじか!!』

『急にエモいこと言うじゃん』

『まさかの帰郷とはwww』

『今日は久しぶりの平和回だな?』

「そうだった!! ここシオちゃんの生まれ故郷じゃないですかぁ!!」

「はい、そうです。心なしかシオもわくわくしているみたいです」

俺の言葉に反応するかのように殻を薄く発光させた。

「では、いきましょうか」