軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

WEGってなんですか?(前編)

頬に、何かが当たった。

つん。

しばらくして、もう一度。

つん。

「……ん」

目を開けると、枕元にシオがいた。

小さな体をこちらに向けて、じっと待っている。

「……おはよう」

返事の代わりに、また頬をつつかれた。

つん。

どうやら、挨拶ではないらしい。

俺は管理局が用意したホテルのベッドで、しばらくシオを見つめた。

シオは動かない。

ただ、『ごはん』という感情がはっきりと伝わってくる。

「………もうそんな時間か」

シオが、ほんの少しだけ揺れた。

俺は体を起こそうとして、そこでようやく自分の体が妙に怠いことに気づいた。

寝た、とは思う。

ただ、体を休めたというより、電源を落として再起動しただけに近い。

シオから催促され続けている俺は、ベッド脇に用意されているシオ用の魔力液を小皿に注ぐ。

シオは『おそいぞ』と感情をこちらに投げてきて、小皿へ駆け寄っていった。

「ごめん、ごめん」

その後ろ姿を見て、少しだけ息を吐く。

シオはいつも通りだ。

最近は昔よりも自我みたいなものが、はっきりと芽生えてきている。

腹が減れば容赦なく起こすし、食べる量にも細かく注文をつけつつ、色々な感情と共にこちらへ投げてくる。

「ずいぶんと成長著しくて、親としては嬉しいかぎり、だな」

シオは俺の『親』という言葉に反応したのか、こちらを見る。

だがそれもほんの一瞬で、すぐさまご飯へ視線を戻した。

ソファーに腰を下ろして、ゆっくりと昨日のことを思い出す。

「昨日は…思わず話してしまった…」

明らかに反社会的勢力、いや、テロ集団に対しての挑発、そして宣戦布告…のような買い言葉。

ただでさえ狙われている立場であり、それを政府が必死になって守ってくれているところに、本人からの爆弾発言。

そりゃ管理局職員たちが俺を囲んで早口で1時間、文句と説教が入り混じった話し合いに発展する訳だな、と。

護衛が助け舟出してくれなかったら平気でお代わりがきていたと思う。

ここ最近、TVをつけることすらしていなかったが、何気なくリモコンの電源をいれると、ホテルHPが表示される。

そこには本日のニュースヘッドラインなど、タイトルだけ表示されている項目があるのだが、そこに昨日の続きばかりと文言が目に入った。

『真壁遼氏、宣戦布告! あのテロリスト集団に生配信中、堂々と宣戦布告を行う!!』

思わず咳き込んでしまう。

そりゃそうだろうな、と流石の俺でも納得してしまう。

となると今日のニュースも…、そう思った俺は意を決してTVボタンを押した。

『……ですよね。もちろん生きていてそれは安心したんですが、ああいったテロ行動を起こす集団に売られた喧嘩をまさか買うとは…こういう展開は予想していなかったです』

『いや、本当にそうですよね。そういう荒事には対極の位置にいる人じゃないですか。だって鑑定士ですよ? 武力を持っていないのに喧嘩を買うって』

本当に、おっしゃる通りで。

100%その通りで。

「気が高ぶっていた、それだけなら説明がつくんだけど。なんであんなこといっちゃったんだろうか」

TV画面ではスタジオで昨日の俺の配信について、コメンテーターが意見を言い合っている。

その中で、ダンジョンTuberもその1人として入っており、ここに座っている中では一番若くて、きれいな女性が映っていた。

『でも、俺の目で必ず炙り出すってあの台詞、めっちゃ痺れましたよ! ダン博であんな目に合わされてた後で、こんなこと言えますか?! 命かかってるのにこれを言えるって、ある意味ヒーローよりヒーローしていると思います!』

俺はソファーに倒れこんだ。

ここまで恥ずかしいことがこの世にあったなんて、いま初めて知ってしまう。

「ううう……誰か俺をころしてくれぇぇ」

その時、頭に何かがのしかかってくる。

そして、ぽんぽん、と頭をつつかれた。

「……シオ…優しいなぁ」

俺の言葉に返って来た感情は『ごはん、もっとくれ』だった。

扉の方からノック音が聞こえてくる。

「はい、どうぞ」

「失礼します。真壁さん、面会の時間ですので移動をお願いします」

「わかりました」

今日は午前中にダンジョン庁副長官、瀬尾との面会予定が組まれていた。

昨日の配信の件もそうだが、一番は世界探索者競技大会の件も話を進めないといけない。

ただ、瀬尾副長官が来る話はその職責の大きさ故、だいたい大きい。

そして最近の俺は、その大きい話に流され続けている。

ホテルのミーティングルームまで移動すると、すでに厳重警備が敷かれていた。

俺はそのまま部屋に通され、少しだけ待つと瀬尾副長官が護衛とともに部屋に入ってきた。

前見た時と同じく、落ち着いた表情だった。

ただ、その表情には、いつもより少しだけ疲れが見えた。

「真壁さん、お待たせしました」

「いえ、さっき来たところなので」

お互い軽い会話を交わすと、やっぱりあの配信について切り出された。

「……昨日の件ですが」

「…はい」

「配信そのものは、ご存じの通り、非常に大きな反響を呼びました」

「……今日、朝のニュース番組は見ました」

瀬尾副長官は後ろに控えている職員に目を向けると、机の上にタブレット端末を置き、こちらに向けた。

そこには、同時視聴者数、アーカイブ再生数、切り抜きの数、海外ニュースの引用、SNS上の反応などが並んでいた。

「登録者数1700万人という数字は、国内では非常に大きい。ですが、世界で見れば、それだけで最大級というわけではありません」

「それは昨日も聞きました。一億人を超える配信者もいるとか」

「います」

「じゃあ、俺はまだまだですね」

「普通ではありません」

即答だった。

「数字だけの問題ではない、ということです」

瀬尾副長官は続けた。

「ダンジョン万国博覧会事件のあと、真壁さん本人が初めて、自分の言葉で無事を伝えた。それが最も重要でした」

「……そう、なんですか」

「はい。あの配信は結果としてですが、ただの近況報告ではありませんでした」

「国内の不安は、少し落ち着きました。海外メディアも、真壁さんが管理下に置かれているのではなく、自分の言葉で発信していると受け止めています。ですが、最後の宣戦布告、あれには正直、見ている者全員が驚きました」

「……すいません。つい…」

瀬尾副長官は手で制止をして、俺の言葉を止めた。

「謝る話ではありません。あの者たちは正直言ってやり過ぎた。政府としてはここまでやられて何もしない、では世界に対してもっと舐められてしまう。それは断じて受け入れられない話です」

「…ですが」

「…本来の筋書きでは、本日、国民に向けた臨時放送を行う予定でした。内容は首相が今回のダン博事件について、断固たる措置を取る、そういう内容です。その予定だったんですが、昨日の真壁さんの配信で予定が変更になりました」

「変更、ですか?」

「首相はこう仰っておられました。『政府に変わって英雄が断固たる決意を見せた。国民を守る国がその後背を追ってはならぬ、先頭に立って反撃せよ。完全壊滅せしめよ』、と」

「は?」

「真壁さんの宣戦布告について、色んな意見がありますが、政府としてやることは一つです。国民を守り、そしてその敵を討つ。これが日本国としての決定です」

いつの間にかとんでもない話になっていた、これが俺の正直な感想だった。

「もちろん真壁さんの警備レベルは1段階引き上げます。多少窮屈な生活を強いるかもしれませんが、命には代えられないので何卒、ご理解ください」

「……はい」

これ以上の窮屈な生活が待っているのか、そう思うと泣けてくる。

とは言え、今回の件は俺にほぼ100%責任はあった。

だから文句言いようがないし、何よりも俺の命を守ってくれることは大変ありがたかった。

「配信の件はこれぐらいにしますが、もし、ああいうことを言いたくなったらまずは我々に相談してください」

「…それは、はい。そうします」

瀬尾副長官は職員に目を向けると、次の資料を映し出した。

「さて、本題に入ります。世界探索者競技大会・東京について。本日はこの説明にやって参りました」