軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

登録者数1700万人の配信者③

「皆さんお疲れ様です。最近配信が出来ていなくてすいませんでした」

いつものように配信しているつもりなのだが、周囲には今まで見たことがない量の人で囲まれており、その視線が気になって落ち着かない。

照明はすごく眩しいし、自撮りじゃないことに違和感だって覚える。

「えーと。今日は、その。まずは俺が生きてますよって報告をしなきゃなって思い立って、周囲に迷惑をかけつつもこうやって配信しました」

配信コメントをいつも見ながら配信しているのだが、今日に限ってはその反応を確かめながらできないのでペースが掴み切れない。

「今日はいつもと違って自撮りで配信してないので、コメントがどうなっているのかよくわかってないんです。なので反応できなくてごめんなさい」

俺の言葉に相馬は「あっ」と声を出してADに指示を出す。

そしてカンペに何かを書いて俺に見せた。

「ん? コメントサーバーがパンクする勢いで書き込まれてます…えっ??」

まさかカンペをそのまま声に出して読まれるとは思っておらず、慌ててディレクターは予備モニターを俺に見えるように設置しだした。

「あ、相馬さんすいません。……えっ?? これがコメント欄ですか? 速度が速すぎて全然見えないんですけど…」

『相馬ってだれやねん』

『相馬草』

『そ・う・まwwwwwww』

『有名人になれてよかったな相馬さん』

『まって。ソーマかもしれないっ!』

『この配信見て誰があのダン博事故配信と同人物だと思うだろうか』

『これは間違いなく本人ですわ』

『この素人感はプロには出せん』

「もちろん本人です。シオだって元気です。ほら、シオ。みんなに挨拶して」

シオはやれやれ、という感じで殻を震わせ、そして光を強く殻前面に巡らせて行った。

「えっ?シオ、そんなこともできるの?」

『飼い主が驚いてるじゃないかww』

『シオwwww』

『シオシオシオシオォォォォォ!!』

『シオちゃん尊すぎ…』

『あれは間違いなく本物のシオ』

『元気そうでよかった!』

「とまぁ、色々とありましたが、俺らは元気です。生存しているかどうかは、こんなとこでいいと思います」

俺は短く息を吐いた。

「まずは今回犠牲になられた方に改めて謝罪します。すいませんでした。俺の力が足りないばかりに、いろんな方に迷惑をかけて、そして…いらぬ犠牲者を増やしてしまいました」

俺はこれまでの人生で一番深いお辞儀をした。

謝罪に相応しい角度よりももっと深く、自分の気持ちが伝わるように、深く。

『おいおいおいおい!謝んな!!!!』

『それは違うぞ、真壁さん!!!』

『頭上げろっ!!』

『あんたがあそこに居なかったらこんなもんじゃ済まなかったぞ!』

『まじでやめろ!!』

『シオが逆さになってて草』

『うーん、これは本物の真壁遼ですねぇ』

頭を上げて、再度カメラに向き直す。

「コメントありがとうございます。でもこれはけじめなんです。自分にとっても。そしてあのダン博事件にかかわった者としての」

同調するかのようにシオが殻を震わせた。

「あの時は必死で、自分が生きて帰れるのかとか、ダンジョンコア止められるのかとか、そんなことばかり考えてました。自分の人生の中で、初めて死を意識した瞬間でもありますから」

『そりゃ当たり前だろうがよ』

『俺だって同じ状況だったら自分の身が一番に考える』

『あの時ダン博にいたものです!みんなそうだと思います!』

『むしろあれだけの被害で済んだことが奇跡』

「だけど、冷静になって……自分にあれだけの鑑定スキルがあったのに、それを自分の中で軽く見て、その程度だろうって深く見ないふりをして……結局逃げていたんです。自分から。もう少し自分のことを本気で考えていたら、もっと早くダンジョンコアを解除出来てただろうって」

ぷに、と頬に何か当たる感触があった。

横目で見ると、シオが足で俺の頬を押していた。

「ありがと、シオ。でも事実なんです。ここの事実からは逃れられない。そして訳の分からない男に襲われて、いいようにされて、そして……目の前で人を死なせてしまいました」

俺は無意識に手を深く握りこんだ。

「そして去り際にこう言われました。『次は、もう少しこちらも準備して伺います』、と」

俺の言葉に周辺の管理局職員が驚いた表情で、相馬に向かって何か指示していた。

「正直、そいつらは何者かは分かりません。ですが、あれだけのことをした奴らです。生半可な人たちではないんでしょう」

モニターの横にいたADはカンペで指示を出す。

俺はそれを見て、あえて見ない振りを決め込んだ。

「終わった後に、あいつが言っていた言葉が凄く頭の中でモヤモヤして、そして何とも言えない気分になって。どうしてそんな気分になってんだろうって」

ADは「あれ? 伝わってない??」、そう呟くと相馬の方を見た。

相馬は横から管理局職員に早口でまくし立てられていた。

「でも、この配信をやろう、そう決めてわかりました。俺は、悔しいんだと思います。めちゃくちゃにやられて、あんなに楽しかったダン博を壊されて、俺は悔しかったんだと思います」

相馬は再度ADへカンペを出すよう指示を飛ばす。

だが時すでに遅し。

俺は指示を無視して口を開いた。

「だから、俺はこの配信でお前たちに伝えたい。『こちらも準備してお待ちしております』と。次は絶対にお前たちの思い通りにはさせない。俺の目でおまえたちを必ず炙り出す」

相馬は天を見上げていた。

横で管理局職員は動きを止めていた。

護衛は笑いをこらえていた。

「俺の大事な人たちに手を出したんだ。覚悟はできてんだろうな?」

シオは頬を突っつくのはやめて、いつのまにかドヤポーズを取っていた。

「………とまぁこんな感じです。ダン博で今も事後対応に追われてる皆さん、被害者の皆さん、関係する全ての皆さん。ここから終わりを始めましょう」

ここから遠く離れた病室で、おもわず噴出したものがいた。

「ぷっ…ぷぷ…真壁さん、やるぅ」

俺はふと、遠くから声がしたような気がした。

「……今日伝えたかったのは以上です。今後の配信なんですが、こういった状況なので中々回収屋チャンネルで配信するのは難しい状況ですが、やれるタイミングでやろうかと思っています。今日は皆さん見ていただいてありがとうございました」

俺は深々とお辞儀をした。

『おおおおおお!まさかの宣戦布告っ!!!』

『回収屋チャンネルとあの不審者たちの戦争じゃい!』

『うほーー!!みなぎって来たぁぁぁ!!』

『この展開は想像してなかった件』

『真壁さん…かっこいい…』

『シオがやばい、尊過ぎる…』

『いつの間にかシオがいろんなこと出来ていて草』

『真壁さんいつの間にか邪気眼持ちでwwww』

俺は頭を上げてふとモニターを見ると見慣れぬ数字を見て、「おや?」と少しだけ考え込む仕草をとる。

「あれ? あそこにある数字って登録者数ですか??」

ADは俺の言葉に頷いた。

「でも、あれって数字の桁、おかしくないですか? 1、10、100、1000………あれ? やっぱり桁おかしいですよ。1000万人? え? 1700万人?? ホントに??」

俺の言葉に頷くAD。

周囲を見渡すとスタッフも同じく頷いていた。

『まさか自分の登録者数知らなかったのは草』

『その数字は本物だよ!』

『回収屋チャンネルは日本でも有数の配信チャンネルになったのだよ、真壁君』

『生配信中の視聴者数はそんなもんじゃ無かったぞ』

『品川でゴミ拾う配信チャンネルがまさかの1000万オーバーな件』

『この配信視聴者数もえぐいぞ』

『もはや回収屋チャンネルはビックコンテンツの仲間入り』

「ま、まじか…いつの間にそんなことに…」

そんな時、相馬の周辺に人が集まっていた。

何やら警察の制服が見えており、何かあったことだけは分かる。

「ん? なんかあったんですか??」

ADが相馬の方を見て、再度こちらを見て「?」と首を傾げた。

そこに高速で流れるコメント欄を一瞬だけ言葉を読み取ることができ、その読み取った言葉に「え?」と呟いてしまう。

「いまコメントに書いてあったんですが、品川第七ふ頭ダンジョン周辺に人が集まっている、っていうのが見えました。これ我々関係者のことですかね?」

そこで相馬がこちらを見て声を発した。

「真壁さん、いま周辺に人が集まって大変なことに…」

「人が?? なんでです??」

「この配信を見て集まってきているそうです。報道各社も集結しているみたいでして…」

なにやらとんでもない状況になって来ているということだけは分かる。

「こちらの配信を見ていただいている皆さん、あの、もう配信は終了しますので、ここに集まってもなにもありません! なので絶対にここに来ないでください!」

『あれだな。行けってことだな』

『行くなって言われてるだろ』

『押すなよ理論やめろww』

『現地勢、頼むから落ち着け』

『真壁さんに迷惑かけるな』

『今回テレビ局必死だな』

『あるいみ今回の事件では置いてけぼり状態だし』

『品川第七ふ頭がイベント会場になってる』

『これ近況報告配信だよな?』

『本人が来るなって言ってるんだから行くな』

『警察の指示に従え』

『真壁さんが困ってるだろ』

「あの、本当に無理に来なくて大丈夫です。今日は短い配信です。ダンジョンは普通に使う人もいます。現地にいる方は警察や管理局の指示に従ってください」

同時に配信画面には固定テロップが表示される。

『現地来訪はおやめください』、という案内だった。

「では、今日はここまでにします。見てくれてありがとうございました。真壁でした」

シオが最後に殻を揺らす。

そして配信が終了した。

俺は大きく息を吐いた。

「……ありがとうございました」

「……お疲れ様でした」

相馬が近寄って声をかけるも、微妙な顔をしていた。

「色々とクレームというか注文が我々に来ているので、そこはまぁ後で話をさせてください」

相馬の後方に目を向けると、管理局職員が大量に集まっていた。

雰囲気的に正直よくない気がする。

そこで俺の傍で色々と対応してくれている管理局職員が寄ってくる。

「……真壁さん、お疲れ様でした。色々と言いたいことはありますが、まずはここを脱出することを第一に考えたいと思います」

「……脱出??」

「はい。外ではとても多くの野次馬が集まっています。品川第七ふ頭ダンジョンの入り口周辺では、既に数えるのも嫌になるくらいの人で埋め尽くされています。現在警察が現地の整理を行っていますが、辛うじて裏口からのルートを確保している状況です」

「…………」

そこに護衛が割って入る。

「あー話し中のところすいません。すぐにここを出るように本部から指示が出ています。移動しましょう」

「わかりました。真壁さん、いきましょう」

俺はそのまま護衛に囲まれ、そして裏口まで到着した。

『こちら護衛班、VIP送迎車両に到着。いつでも出発可能です。どうぞ』

『……本部了解。出発開始の指示があるまで待機せよ。どうぞ』

『護衛班了解』

「真壁さん、少しここでお待ちください。出発指示が出たら行きます」

「わかりました。……そんなに人が来てるんですか?」

護衛はニッコリと笑みを浮かべる。

「はい。既に数万の規模に達してるということです」

「数万…?!」

一方で品川第七ふ頭ダンジョン最寄りの品川駅では、現地を一目みたい人が続々と集合していた。

「すっごい人…」

「年末年始の明治神宮みたい」

「初詣ならぬ真壁詣でか」

「あそこなんか中継してるな」

「あぁ…あれはネット系の配信じゃね?」

「あっちは民放だな。全局そろってる」

「上空もヘリめっちゃ飛んでんな」

「この騒音はヘリのホバリング音か」

「つーか警察が規制線張ってるぞ」

「まじ?ダンジョンの方いけないじゃん」

『こちら品川駅周辺の状況です! 先ほどから真壁遼氏の配信が始まっていますが、現地はご覧の通りです。人で溢れかえっています。そして警察が現地の誘導や整理を行っています。えっ? ここで中継するな?? 警察から?…』

そして品川指揮所でも想定をしていなかったパニックぶりに頭を抱えていた。

「なんでこんなに人が集まってんだ!」

「いやすごいですね。真壁さんの注目度」

「んなこと言ってる場合じゃないだろーが!」

「あ、上空のヘリからです。……報道のヘリが集結しているとのこと」

「上空にも規制エリアを設定しろっ! いまから1時間は半径2キロ圏内航行禁止と通達しておけっ」

「それだとクルーズ周遊系も巻き込みますが…」

「いいっ! いまはこっちが優先だ!」

「了解です」

「外を管轄している品川署からです。早く真壁遼氏を出してほしいと」

「……周辺の状況はどうだ?!」

「えーどんどん人が集まって来てますね。これ早く出さないともっとひどいことになるんじゃないですかね」

「………護衛班どうぞ! まもなく出発開始するっ!」

一報が入った護衛は全体に指示を出す。

「まもなく出発だっ! 全員態勢を整えよっ!」

周囲の護衛や特務隊から派遣されている探索者たちは武器を利き手に添えた。

「俺たちは先に外に出る。お前ら行くぞっ」

そう言うと一瞬で姿が消えた。

「……すごいですね。いきなり姿が消えました。あれが一流の探索者か」

「あいつらは車よりも走った方が早いですからね。機動力を生かして建物上部から見張ります」

その説明に現実味が湧かないが、真壁は黙って頷いた。

「むっ! 各局!! 出発する!」

そして送迎車両は動き出した。

品川第七ふ頭ダンジョンの裏口を出た瞬間は関係者しか見えなかったが、通りに出た瞬間、とんでもない量のフラッシュがたかれた。

「めっちゃ光ってる…」

「報道系のカメラマンですね。しかし量が多いな」

歩道には人が溢れかえっている。

手をふったり、声を出したりとしているが、車内は防音性がかなり高いのかあまり聞こえてこない。

「あれ? 今の人、手にシオみたいな人形もってたぞ?」

シオは俺の視線の方向に目を向けるも興味ないのか、頭を殻の中に隠した。

「シオちゃんはいまや真壁さんの相棒ですから。すごく人気がありますよ」

「へぇ。お前も有名テイム枠になったみたいだな」

シオは殻に籠ったまま殻をふりふりとさせる。

「……でも今日配信できてよかったです」

俺の言葉に管理局職員はすぐに反応した。

「ホテルに帰りましたら、今回の配信についてじっくりと話させてください」

管理局職員の真剣なトーンに思わずたじろいでしまう。

「……はい」

俺の夜はまだこれから長そうだ、そう思った。