軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

登録者数1700万人の配信者②

品川第七ふ頭ダンジョン周辺では、様々な人がある目的を達成するために激しく動いていた。

それは、『真壁遼特別配信』である。

本人が出した要望は、大人たちを振り回し、そして一つの形を作ろうとしていた。

「相馬さん、機材搬入はOKです。これからチェックに入ります」

「おう、わかった」

時間はまもなく21時になろうとしていた。

予定であればそろそろ真壁遼本人の到着時間である。

「真壁さん、まもなく移動の時間ですのでこちらへ」

「あ、はいわかりました。シオ、行くぞ」

俺は促されるがままに、部屋を出て地下駐車場まで降りる。

EVを出た直後、俺は大事なものを忘れていることに気付いた。

「あ、配信用のスマホ持ってきてなかったです。すいません。もう一度部屋に戻ってもいいですか?」

周囲は微妙な空気が漂う。

そこに護衛が口を開いた。

「あー真壁さん、それは必要ないんじゃないですか?」

「え? いやだってこれないと配信できないじゃないですか」

「あの、真壁さん。配信機材は全て現地に用意されてますので心配はいりません」

「そうなんですか? すいません。何から何まで用意してもらって。俺のスマホも遠慮なく配信で使ってもらっていいので」

この場にいる全員が、これどうしようか、という目でお互い見合った。

「配慮いただきありがとうございます。ですが、これも我々の任務ですので」

「そうですか。じゃあお言葉に甘えさせていただきます」

永遠に埋まらないであろう、認識の違いをそのままに送迎車両に乗り込み、そして出発した。

「連絡がありました。真壁氏いまホテルから出発とのことです。到着予定時刻は5分後です」

「わかった。受け入れ準備は済んである。外の警察と連携してお出迎えしてくれ」

「了解です」

臨時の指揮所はピリっとした空気が漂った。

これからが本番とそう、皆の顔が語っている。

一方のB1F入り口前のディレクター相馬にもこの一報が届いた。

「ありがとうございます。配信準備は整っています。あとは本人との打ち合わせだけですね」

「到着したらまた一報いれますので、よろしくお願いします」

「わかりました」

ダンジョン庁職員は足早に去っていく。

「よし、最終チェックを行うぞ。ネット班と繋いでくれ」

俺が乗った送迎車両は一度も止まることがなく、品川の駅前を通過していく。

窓からそれを眺めていると、車だけでなく周辺の歩行者まで足止めしており、大量の警察がその交通整理を行っていた。

「………まじ?」

普段通い慣れている品川第七ふ頭ダンジョン周辺は、違和感があるほどに警察によって規制されており、そのままノーチェックでダンジョン横にある管理局の前まで侵入し、そして停車した。

「周辺の確認をしています」

「あ、はい」

本日何度目か数えるのも忘れる程の周辺チェックを済ませ、俺は送迎車両から降りた。

見慣れているはずの管理局前は警察関係者や、管理局職員と思える人だかりで一杯になっていた。

「あれが…真壁さんか」

「結構ここに来てたんだってな」

「俺も担当になってれば…」

半分は野次馬気味だったが、少しだけ離れた場所で知った顔を見かけてしまう。

「あ、浅田さん」

移動の足を止めて、職員がたむろしている場所に近づくと、まるでモーゼの十戒のごとく人が割れていった。

「お久しぶりです、真壁さん。お元気そうですね」

「こちらこそご無沙汰しちゃっててすいません」

「真壁さん、ここでは立ち止まらず進んでください。そちらの方も一緒に」

「そうですね。真壁さん、行きましょう。本日のB1F配信場所に案内します」

「ありがとうございます」

周囲が「あの人は?」などの声が上がるも、護衛は数少ない知人であることを考慮して、そのまま連れていく判断をする。

帯同している管理局職員も、浅田が接待役ということは把握していたため、頷いて先を進んだ。

そしてB1Fに到着すると、俺の想像を遥かに超えるものがそこにあった。

「初めまして、真壁さん。ダンジョンTube所属のディレクターを務めております、相馬と申します。本日のディレクション責任者です」

「は、はい。真壁と言います。よろしくお願いします。そして…ディレクション??」

「簡単に言うと今回の緊急配信の指揮責任者みたいなものです。立ち話もあれなので、そちらで座って本日の配信について打ち合わせをさせてください」

俺はどうなっているんだ、と助けを求めるような視線を浅田に送った。

その視線を見て浅田は全てを悟る。

「恐らく真壁さんの考えている配信と、今この目の前にある状況が一致していないんだと思います。まずは相馬さん、その辺りから説明してはどうでしょうか」

浅田の指摘に相馬は、えっ? そこから? という顔を見せる。

「あーそうですね。まずは今日の配信の概要から説明します」

相馬は本日の配信の流れを工程表を出して説明する。

「…という流れで本日は『真壁遼、緊急配信』をダンジョンTube総力を挙げて配信させていただきます」

「………はい」

俺は思わず心の中で頭を抱える。

説明を受けたが、まだ理解が完全に及んでいない。

「あ、あの。少しだけ質問いいですか?」

「はい、何でも聞いてください」

「あのですね。俺は、その、ここまで大きな配信とかは考えて無くってですね、いつものスマホでちゃちゃっと配信出来ればいいなーって思ってたんですよ」

「ははは。面白いですね!」

「あ、いや、冗談ではなくですね…」

そこに浅田が助け舟をだした。

「真壁さんのおっしゃることもわかるんですが、もうそういう配信は無理かと」

「浅田さん…」

「真壁さんが考えていることは分かります。ですが、本当に真壁さんの言う通りにやってしまうと、関係する多くの人に責任がのしかかってしまいます。そこはわかりますよね?」

浅田の言うことが心に染みる。

俺はこの期に及んでまた、見たくないものを見ないようにしようする悪い癖が出ていた。

昨日からお腹いっぱいの状況に、随分と後ろに向いていたんだなと浅田の言葉で気付く。

「そうですね…その通りです。まだこの期に及んで俺は逃げようとしていたみたいです」

「こういうことを真壁さんに言う日が来るとは夢にも思いませんでしたが、一方で私は真壁さんが、こうして世の中の中心に出てくる日がいずれ来るんじゃないか、とも思っていました。あなたほど変わった鑑定士は見たことありませんでしたから」

浅田の言葉に俺は苦笑いを浮かべた。

「そこまで俺って変わってましたか?」

「はい、かなり」

そう言うとお互い笑みを見せた。

「相馬さん、すいませんでした。むしろ色々と場を整えてくださって感謝します。もちろん、この場にいる皆さんにも感謝です」

「いえ、わかってくださればそれで」

そして今日話す内容を相馬は俺に尋ねようとした。

「最初はまぁ、わかるんです。その後の話ですが…その…」

相馬は管理局職員の方へ視線を向けた。

それに対して頷いて返す。

管理局職員は下手なことを聞くなよ、と視線で訴えかけていた。

「………あ、はい。……わかりました。1点だけ確認させてください。本日はコメントも本社のネット配信チームが即時反映ではなく、ディレイ対応で危ないものは弾いていきます。ですが、配信だけはディレイができません。なので、こちら側が見て、配信に適する内容ではない、そう判断した場合は強制的に配信終了とさせていただきます。ここだけはご了承ください」

「わかりました。その辺りの判断はお任せします。なるべく簡潔に伝えられるよう、がんばります」

「もちろん、こちらからでも話す内容についてカンペだしたりして補助するので、遠慮なく、思う存分に配信してください」

「ありがとうございます」

「お話し中すいません。配信開始5分前になります」

「あぁ、わかった。…では真壁さん、最後に配信前の色味チェックと照明の当たり具合だけ確認させてください」

そう言うとスタッフがこちらに寄ってきて、立ち位置などを含めて確認を行った。

「この✖のとこに立って話せばいいんですね」

「そうです。カメラはセンター、そして左右に1台ずつ配置してますが、基本的にあのセンターのカメラに向かって喋ってください。何かありましたら都度、このカンペで指示出しますので、よろしくお願いします」

「わかりました」

「真壁さーん、いちど声もらってもいいですか??」

遠くからスタッフの声が飛ぶ。

「あ、はい。……ではいきます。お疲れ様です、回収屋チャンネルです……」

そんな感じで確認が進む一方で、ダンジョンTubeのHPではトップページが変更されていた。

『緊急配信! 真壁遼氏が21時30分から回収屋チャンネルを緊急で配信します!!』

ZやSNSも追随するかのように、告知を流した。

この緊急告知にネットは勿論、地上波も一斉に速報テロップを入れた。

『えっ?????』

『真壁さんの回収屋チャンネルやるの?』

『これ嘘じゃないよな』

『真壁死亡説がガセだった件』

『ダンジョンTubeがトップで臨時配信とかほぼ無いからガチだなこれ』

『やべぇ。一度駅降りないと』

『何時からだ?』

『この後すぐだよ!!』

『仕事やってる場合じゃねぇ!』

『何喋るんだろうか』

そして21時30分。

回収屋チャンネルは緊急配信を開始した。