軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

口座の中の100万円

朝、2件の通知が届いていた。

1件目は、専門オークションに委託しておいた魔核晶の結果だ。

手数料と日程を業者に確認したうえで、結局そのまま出品に踏み切っていた。

「落札価格:385,000円」

数字を見て、少し止まった。推定価格の下限に近い。

ここから業者の手数料が差し引かれた額が、後日口座に振り込まれる。

それでも、出品から四日でここまで動くとは思っていなかった。

2件目は、欠片3個を預けておいた魔核石の再圧縮完了通知だ。

業者から仕上がったという内容で、本日受け取り可能と書いてある。

業者に向かい、再圧縮された魔核石を確認した。

仕上がり次第そのまま買い取ってもらう段取りで、預けた時点で話はつけてある。

サイズは握りこぶしより少し小さい。

3つの欠片がひとつにまとまると、見た目がまるで変わる。艶がある。重さも均一だ。

「再圧縮料を差し引いて、185,000円になります。振込は本日中に行います」

買取明細を受け取って、店を出た。

電車に乗りながら、スマホで口座残高を確認した。

先ほどの振込も、すでに反映されていた。

ここ3週間の入金をざっと足してみる。

売却収益、配信収益、爪の精製代金、査定料、そして今日の2件。

残高は、1,012,400円だった。

「……」

画面を二度見した。三度目も同じ数字だった。

3週間前まで、来月の家賃をどうするか頭の中で計算していた俺が。

しばらく、何も言えなかった。

夜、5回目の配信を始めた。

アプリを開くと登録者は1,820人になっていた。

前日の終わりに急増して、そのまま積み上がっている。

配信ボタンを押した瞬間にコメントが流れ始めた。

『きた』

『今日はどこ行くの?』

『魔核晶いくらになったの?』

「魔核晶のオークション結果が出ました。385,000円でした」

『おい』

『は?』

『走りながら拾った石が38万』

『やばすぎる』

「言ったでしょう、踏まないように拾っただけって。鑑定したら値段がついてただけです」

『それで済む話じゃないんよ笑』

今夜の目的地はB3Fから B4F付近だ。

上層の中でもやや深い位置で、久しぶりに入るエリアになる。

通路を進みながら、コメントと話しながら拾っていく。

使い込まれた魔力補助具の残骸や、探索者が捨てていった道具の欠片。

鑑定しながら選別して、価値があるものだけ回収する。

この作業の繰り返しが、なぜか毎回コメント欄を盛り上げてくれる。

B4Fへ入ったところで、コメントに1件、目が止まった。

『B4Fの東側の壁際に、光ってるものがあった。先週通ったとき何か見えたけど何か分からなくて』

「……東側?」

俺は足を止めた。

『俺も見たことあるかも。なんだろって思ってスルーしてた』

『探してみてよ』

『回収屋さんが鑑定したらなんか出るかも』

「確認してみます」

東側の壁に沿って進む。

通路の幅が少し狭くなる区画で、懐中電灯の角度を変えながら壁面を確認していく。

最初は何も見えなかった。

一歩踏み込んだところで、壁の凹みに何かある。

手を伸ばして取り出した。

親指の先ほどの石で、表面がわずかに光っている。

【鑑定】を向けた。

――――――――――――――――――――

魔封石・埋蔵型(未使用)

希少度:A

現在価値:高

推定市場価値:8万〜12万円

備考:魔力を内部に閉じ込めたまま岩盤内に生成された希少鉱物

通常の採取では発見しにくく、流通数が少ない

推奨:専門鑑定機関または高級素材業者への直接持ち込み

――――――――――――――――――――

「……希少度A。推定価格8万から12万円」

コメントが一瞬止まった。

そして、どっと流れ始めた。

『えええ』

『情報提供した人すごくない!?』

『コメントで見つけたじゃん』

『回収屋さんと視聴者で発掘した笑』

「教えてくれた人のおかげです。俺一人だったら通り過ぎてました」

そのまま正直に言うと、また流れた。

『そういうとこ好き』

『次も情報持ってきていい?笑』

『もう視聴者も回収班の一員では』

「ありがたいです。気づいたことがあればいつでも」

石を布に包んでポケットに入れた。

配信を閉じて、ダンジョンの外に出た。

春先の夜風は冷たかった。

今日のピーク視聴者数は2,400人を超えていた。

数字より、コメントの流れが変わった気がする。

最初の頃は、俺が何かを見つけるたびにリアクションしてくれていた。

でも今日は少し違っていて、視聴者から情報が飛んできて、俺がそれを追いかける流れになっている。

いつの間にかただ見ているだけじゃなく、一緒に共同作業をしている気分になっていた。

ぼんやりと夜道を歩きながら、今日1日を整理する。

口座に100万円を超える金がある。

それは数字だ。

でもその数字にはしっかりと意味があり、自分の目で見てきたものの積み重ねの結果ともいえる。

誰かが捨てたもの、通り過ぎたもの、価値なしと決めたもの。

それを俺だけが拾ってきた。

俺は、回収屋でいい。

有名になりたいわけじゃない。

最強になるつもり…っていうかなれない。

でもこの目で価値を見つけ続けることは、やめるつもりはない。

ふと顔を上げると、駅の明かりが見え始めていた。

そのタイミングで、ポケットの中のスマホが短く震えた。

取り出して画面を見ると、鷹坂からの通知だった。

『真壁さん、またご相談があります。今度の件は少し規模が大きくなりそうで、できれば直接お話ししたいです。ご都合いかがでしょうか』

前回より、文面が少し丁寧になっている。

俺は通知をいったん閉じて、ダンジョンの出口へ向かった。