軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

術式汚染の装備品

朝、スマホを確認すると精製業者から通知が来ていた。

『灰毒蜥蜴の爪・精製完了のお知らせです。受け取り可能になりましたのでご来店ください。精製料を差し引いた買い取り金額は27,500円となります』

数日前に精製業者に預けた魔獣の爪だ。

鑑定では3万前後と出ていたので、若干の下振れだが想定の範囲内だった。

配信で「たぶん3万前後になります」と言った手前、結果を報告しないといけない。

それより今日、別の用事がある。

クラン《灰鉄の牙》への返信を、昨夜ようやく送った。

『お話は聞きます。場所と時間を指定していただければ』

一行だけ。

相手がどういう意図で接触してきたのか、まだ分からない。

乗り気なわけでもないが、無視するほど慎重な理由もない。

とりあえず話を聞いてみる。それだけだ。

指定された場所は、品川駅近くのビルの一室だった。

クランの事務所らしく、入口にロゴが入ったプレートが貼ってある。

フードは被ったまま入ると受付の女性が少し目を丸くしたが、特に何も言われることはなく案内された。

通されたのは小さな会議室だ。

テーブルを挟んで待っていたのは、30代半ばくらいの男で背が高く、落ち着いた印象がある。

スーツではなく、動きやすそうな探索者向けのジャケットを着ていた。

「回収屋さん、お時間いただきありがとうございます。《灰鉄の牙》で渉外を担当しております、鷹坂と申します」

「真壁です」

思わず本名を言ってしまって、少し後悔した。

だが鷹坂は特に反応せず、「よろしくお願いします」と頭を下げた。

「今日お願いしたいのは、装備品の簡易査定です」

「先日の配信を拝見して、鑑定スキルの精度に興味を持ちました。実は弊クランで先月、複数の装備品を業者から一括購入したのですが……どうも一部に不具合があるようで」

「不具合、ですか」

「使用した団員から、調子が悪いという報告が複数来ています。ただ、表面上は問題ないみたいなんです。我々が普段行っている通常の簡易検査では引っかからないので、本格的に鑑定スキルを通して調べてみようかと思い、今回ご連絡した次第です」

なるほど。

依頼の内容は分かるし、断る理由も特にない。

ただ、一つだけ確認しておきたいことがあった。

「鑑定結果はそのまま伝えます。都合の悪いことが出ても、結果を変えるつもりはありません」

「それでお願いしたいんです」

鷹坂は迷わず答えた。

その返し方が、思ったより誠実だった。

テーブルに装備品が3点並べられた。

軽装向けの短剣。腕輪。小型の護符。

どれも見た目は綺麗で、高級品の雰囲気がある。

外見だけなら、問題があるようには見えない。

「3点、鑑定してみます」

まず短剣に視線を向ける。

――――――――――――――――――――

魔鋼短剣・軽量型

希少度:B

現在価値:高

状態:良好

備考:特記事項なし

――――――――――――――――――――

「短剣は問題ないです。品質も良好、特記事項なし」

次に腕輪。

――――――――――――――――――――

魔力補助腕輪・二重刻印型

希少度:B

現在価値:中

状態:良好

備考:特記事項なし

――――――――――――――――――――

「腕輪も問題なし」

最後に護符。

手に取った瞬間、表示が出るより先に、わずかな違和感があった。

気のせいかもしれないが、重さが均一じゃない気がする。

――――――――――――――――――――

封護符・術式刻印型(術式汚染)

希少度:B

現在価値:低

状態:要注意

備考:刻印の一部に異質な術式が混入している

長期使用により所持者の魔力循環に干渉する恐れあり

推奨:即時使用停止 / 専門機関への提出

――――――――――――――――――――

俺は護符を静かにテーブルに置いた。

「これは使用を止めた方がいいです」

鷹坂の表情が、わずかに変わった。

「……どういうことでしょうか」

「刻印に異質な術式が混入しています。長期使用すると、持ち主の魔力循環に干渉するかもしれないと出ています。調子が悪いと報告してきた団員の方、この護符を使っていましたか?」

鷹坂はしばらく黙っていた。

何かを確認するようにスマホを操作して、顔を上げた。

「……3名です。全員、このロットの護符を使用しています」

「早めに専門機関に持ち込んだ方がいいと思います」

「分かりました」

静かな声だったが、目が険しくなっていた。

購入元の業者への怒りなのか、自分たちの確認不足への苛立ちなのか、おそらく両方だろうと思う。

「真壁さん、正直に言っていただいてありがとうございます。これがただの不具合で済まなかった可能性もある」

「見えたことを伝えただけです」

「それが難しいんですよ、普通は」

鷹坂は小さく息をついて、封筒をテーブルに置いた。

「査定料です。金額は5万円。こちらの落ち度を考えると、安すぎるとは思っていますが、まず今日のお礼として」

「受け取ります」

迷わず答えた。

仕事をしたなら、対価は受け取る。

それだけの話だ。

帰り際、鷹坂が立ち上がりながら言った。

「真壁さん、またお願いできますか。弊クランでは今後も装備品の調達が続きますし、今日みたいなことが起きないとも限らない。定期的に見ていただける方がいると、非常に助かります」

「内容によりますが、断らないつもりです」

「それで十分です」

握手をして、会議室を出た。

エレベーターを待ちながら、今日あったことを整理する。

外部からの仕事が一つ生まれた。

配信じゃない、直接の依頼だ。

金額も査定一回で5万円。悪くない。

ただ、今日の護符の件は少し引っかかっていた。

あれは本当に業者側の見落としだったのか。

それとも、意図的に混入させた術式だったのか。

鑑定では「混入」とだけ出て、経緯までは分からない。

深く考えすぎかもしれない。

でも、同じことが上層の回収品に紛れ込んでいたら、もっと広い範囲に影響が出ていた可能性もある。

精製業者に寄って、爪の代金を受け取った。

27,500円。配信で「3万前後」と言っていた数字に近い。

次は魔核石の欠片と魔核晶の処理だ。

業者に連絡を入れると、『欠片の再圧縮は三日ほどかかります』と言われた。

魔核晶の方は専門オークションへの出品を勧められたが、手数料や日程を確認してから判断することにした。

「今週中には動きが出るな」

独り言を言いながら、帰路についた。

今日だけで、査定料5万円と精製代金27,500円が手に入った。

配信を一本も回さない日に、だ。

それがじわりと、現実感を持って響いた。

俺は「回収屋」という名前で配信をしている。

でも気がつけば、配信の外でも動いている。

ダンジョンで拾って売るだけじゃなく、クランの依頼に応じて、装備の問題を見つけている。

どこに向かっているのか、まだ全部は見えていない。

ただ、会社をクビになった一か月前の自分には、今日みたいな一日は想像もできなかった。