軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

88 ジョナスさんの新作パン

ふと目が覚めると、窓の外は少しずつ白み始めている。

ハルトとユウマを起こさない様にベッドを抜け、井戸の水を汲みに行く。

今朝はまだ、トーマスさんもオリビアさんも起きてないみたいだ。

「ちょっと瞼が腫れぼったいかな~……」

冷たい水で洗ったけど、なんだか瞼がまだ重たい気がする……。

昨日ははしゃいで泣いて忙しかったけど、心の中はスッキリとしていた。

*****

今日からお店の新メニューが始まるから、僕はお店のキッチンに入り、買い出しのチェック。

週替わりメニューになるので、休み前に肉屋のエリザさんには大量のミンチを予約しておいたし、パン屋のジョナスさんには食パンと白パンの他に、バンズをお願いしておいた。

「あと 茄子(エッグプラント) とズッキーニも忘れない様に……、と」

ハワードさんの牧場で作ってるモッツァレラチーズも新メニューに使うから、パスタ生地の他にピザ生地を仕込む事になるけど、大量に作って冷凍しておけば大丈夫だし……。

まぁ、残る事ないだろうけど……。

僕が冷蔵庫の中身を確認していると、トーマスさんとオリビアさんが入ってきた。

「おはようございます。トーマスさん、オリビアさん」

「おはよう、ユイト」

「おはよう、ユイトくん。昨日はゆっくり眠れた?」

「はい、朝までぐっすりでした!」

僕が笑ってそう言うと、トーマスさんが不意に僕の頭をゆっくりと撫で始める。

「そうか、眠れないときはオレたちの所に来てもいいからな」

「……はい!」

なんだか少しだけむず痒いけど、前より素直に甘えてもいいのかなと思うと、心がぽかぽかと暖かくなるのを感じた。

「じゃあ僕、朝食の前に先に買い出し行ってきます。注文してたお肉とパン、取りに行きたいので!」

「分かったわ、お願いね」

「オレが行ってこようか?」

「いえ、大丈夫です。ハルトとユウマが起きてきたら、そっちをお願いします!」

「ハハ! 分かった。そっちは任せてくれ」

「ふふ、じゃあ行ってきます!」

「いってらっしゃい、ユイトくん。気を付けてね」

「いってらっしゃい」

*****

「おはよう、ユイトくん! 注文してたの出来てるよ!」

「おはようございます、エリザさん! この前はありがとうございました!」

定休日前にブレンダさんが持ち込んだお肉を、ムリ言ってミンチ肉にしてもらったんだよね。急な事だったのに笑顔で了承してくれて本当に助かった……。

奥で旦那さんのネッドさんがお肉を捌いているのが目に入る。

「ネッドさ~ん! この前はありがとうございました! すっごく助かりました!」

するとネッドさんはにこりと笑みを浮かべて頷いた。

ネッドさん、あんまり喋ってるの聞いた事ないんだよね……。エリザさんがお喋りが好きだから、ちょうどいいのかな……?

お肉を受け取り、今度はパン屋のジョナスさんのお店へ。

いつも薄力粉やベーキングパウダーなんかをお願いして、一緒に注文してもらってる。今度専門のお店を紹介してもらえる事になってるから楽しみ!

「おはようございます! 注文してたパン、受け取りに来ました~!」

お店の扉を開けると、ふわぁ~っと焼き立てパンの美味しそうな匂いが……。僕、この瞬間が堪らなく好きなんだよね。うぅ~、でもお腹が空いてくる……。

「あ、ユイトくん! おはようございます! もう準備出来てるから持ってきますね!」

「お願いします!」

対応してくれるのは、ジョナスさんの長女のミリーさん。いっつも笑顔で、男性のお客さんから人気だとエリザさんから教えてもらった。

エリザさん、ホントなんでも知ってるな……。

「ユイトくん、おはよう。ちょっとこっちに来てごらん」

僕がいつも通りレジの前で待っていると、ミリーさんではなくジョナスさんが顔を出した。なんだろう? 珍しいな。

「ユイトくんが色々お願いしてくるからな、オレも新作を焼いてみたんだよ。ちょっと味見してくれ」

「わぁ! いいんですかっ!? やったぁ~!」

連れて行かれた先にあったのは、今まさに焼き立てのパンの山……!

「これはな、砂糖で煮詰めた 林檎(メーラ) とカスタードのデニッシュパンだ。ちょっと砂糖を多めに使うから割高なんだけどな。食べてみてくれ」

そう言って手渡されたパンの美味しそうな匂いに、僕のお腹がぐぅ~っと鳴った。周りの従業員の人たちがクスクス笑っているのが分かるし、ジョナスさんも笑って遠慮せずにがぶっといけ! と言うけど、ちょっと恥ずかしいから待ってほしい……。

気を取り直していただきます! 僕は口を大きく開けて、出来立てほやほやのデニッシュパンを口いっぱいに頬張った。

「ん~~っ! ほぃひぃ~~~っ!!」

デニッシュパンのバターの香りと、サクッとした食感が堪らない!

メーラも甘すぎなくて、少し残ったシャクシャクした食感がアクセントになっているし、カスタードも焼き立てであったかいから卵と牛乳のまろやかで優しい香りが口いっぱいに広がって最高にしあわせ……。

「どうだ? 感想は?」

ジョナスさんは心なしかソワソワしている様に見える。僕に訊かなくても、答えは分かっているはずだ。

「ジョナスさん! 最っ高~に美味しいです! 焼き立ても美味しいけど、これなら冷めても絶対に美味しいと思います……!」

おやつにこれが出てきたら、テンション上がると思うんだ、絶対!

僕が力いっぱい答えると、ジョナスさんはホッとした様に肩の力を抜き、そうだろう? 絶対美味いと思ったんだ、と満面の笑みを浮かべた。

「そうだ、ユイトくん。いつも小麦粉を卸してくれる商店が来月、新しい商品を持ってくるんだ。その時に紹介したいんだが都合はつきそうかい? 他の村にも行くから、たぶん九時課の鐘が鳴った後くらいに来ると思う」

「本当ですか? 是非お願いします!」

新しい商品だって! ワクワクしてしまう! 僕がデニッシュパンを頬張っていると、ジョナスさんは付いてるぞ、と僕の口元についたパン屑を手で払ってくれる。

ちょっと恥ずかしい……。

「分かった。また詳しい日にちが決まったら連絡するよ」

「はい! 楽しみにしてます!」

注文していた食パンと白パン、そしてバンズと粉類を受け取り、今日はごちそうさまでしたと伝えると、ジョナスさんが紙袋を渡してきた。

「これ、持って行って弟くんたちにも食べてもらってくれ」

中身を確認すると、さっき試食したメーラとカスタードのデニッシュパンが袋いっぱいに詰め込まれていた。

「え? こんなにたくさん!? こんなに受け取れません……!」

「いいんだよ、弟くんたちに感想を訊かせてほしいからな! 気に入ってもらえたら子供にも大人気! とか宣伝出来るだろ?」

ジョナスさんは僕が遠慮しない様に気を利かせてくれたみたい。ハハハと笑って奥の作業場に戻って行った。見送りの際に、食べてもらえるとお父さんが喜ぶから、とミリーさんがこっそり教えてくれた。

*****

「うわぁ~! いいにおい! めーら、いっぱいです!」

「にぃに、これおいちちょ! たべてもいぃの~?」

帰宅すると、ハルトとユウマも起きてきたみたいで、パンの匂いを嗅ぎつけるとぴょんぴょん跳ねて紙袋の中身を見たがった。

「まぁ~! とっても美味しそう……! しかも、こんなにたくさん! 今朝の朝食はこれに決まりね!」

「焼き立てか……。ジョナスの店の新商品なのか?」

オリビアさんもトーマスさんも、やっぱり焼き立てパンの魅力には抗えないようで、早く食べたいと顔に書いてある。

「はい! ハルトとユウマに感想を訊かせてほしいって言ってました!」

「ぼくとゆぅくん、ですか?」

「かんしょ~? ってなぁに?」

「このパンを食べて、ハルトとユウマが美味しかったかどうか教えてほしいんだって」

できる? と訊ねると、二人は鼻を膨らませ、まかせて! と張り切っていた。

「さ、冷めないうちに早速頂きましょ! ユイトくんも座って座って!」

「はぁーい!」

「本当に旨そうな匂いだな……。早く食べよう」

「さぁ! 皆、座ったわね? では、いただきます!」

「「「「いただきます(ちゅ)!」」」」

「「「「「おいし~~~!」」」」」

これはジョナスさんに、いい報告が出来そうだ。