軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89 新メニューとユイトのモヤモヤ

「う……、ちょっと食べ過ぎちゃったかしら……?」

「だからあんなに、二つまでですよって言ったのに……」

二度目の買い出しを終え、僕は現在オリビアさんと二人で新メニューの仕込みの真っ最中。

オリビアさんは僕の助言も大丈夫、大丈夫と言ってジョナスさんのデニッシュパンを四つも食べていた。トーマスさんだって二個までにしてたのに……。

そのトーマスさんは今日は体を鍛えると言って、さっき見たら庭でハルトとユウマを背中に乗せて腕立てをしていた。……58歳って、あんなに筋肉あるものなのかな……?

「だって、焼き立て美味しかったんだもの~……」

「あ、そうだ! ジョナスさんへの感想に、オリビアさんが一気に四個も食べてしまうくらいの美味しさでした! って、言えばいいんですよ!」

僕が 揶揄(からか) い半分でそう言うと、オリビアさんは僕の肩をガシッと掴み、

「ユイトくん……! お願いだからそれだけは止めてちょうだい……!」

とっても真剣な顔でお願いされてしまった。

冗談だったんだけど、僕が言うと冗談に聞こえないらしい……。

営業を再開してまだ日は浅いけど、よく食べに来てくれる近所の人や、ハルトとユウマのおかげで冒険者の人たちも増えたし、オリビアさん曰く出だしは好調らしい。

今まではご近所さんか知り合いの人くらいしか来なかったから、そう考えると以前の倍以上の売り上げらしく、冒険者の人たちの効果って凄いんだな、と改めて実感した。

「これは、ハルトちゃんとユウマちゃんにも感謝しなくちゃね~!」

「そうですね。まさかあんなに来てくれるとは思いませんでしたけど……」

「私もよ~! 凄かったものね~……」

僕とオリビアさんは、イドリスさんたちが来てくれた日の事を思い出していた。トーマスさんは気にするなと言ってくれたけど、僕たち二人だけだったらもっと待たせてしまっていたと反省したし、頼ってほしいと思っていた自分の力不足に落ち込んだ。

「それでね、昨日アイスを作りながらずっと考えてたんだけど、この状態が続く様なら一人お手伝いしてくれる子を雇おうかなと思ってるのよ」

「このお店に、ですか……?」

「そうなの。まぁ、この状態の売り上げが維持出来れば、の話なんだけどね?」

オリビアさんはそう言ってまた仕込みに集中してしまったけど、僕は少しだけモヤッとしたものが心の奥につっかえたままだった。

この気持ちが何なのか分からないまま、営業の時間となった。

*****

「あ! メニューが新しくなってる~!」

「ホントだ! あ、いい匂いする……! これなんだろ?」

どうやら来店してくれたこのお客様は、隣のグループが注文したピザの匂いが気になっている様子。

「この匂いは新メニューのピザですね! 一人だと少し大きいので、皆様でシェアしてお召し上がり頂くのがお勧めです」

「へぇ~! じゃあこのマルゲリータ? っていうの一つと、オレはハンバーグのチーズあり、セットで!」

「私は 茄子(エッグプラント) とズッキーニのトマトパスタ!」

「かしこまりました!」

オリビアさんの読み通り、一組頼むと後から来たお客様もどんどんピザを注文してくれる様になった。

やっぱり、このチーズの匂いが食欲をそそるらしい。

「あ! アイザックさん! いらっしゃいませ!」

扉の鐘がチリンと鳴り、扉の向こうには警備兵のアイザックさんが。

その後ろには、若い男性が二人立っている。

「おぉ~? なんだ? いい匂いだな?」

「本当ですね、これは堪らないです……」

「隊長~! オレこの匂いの食いたいです!」

入って来るなり鼻をスンスンと鳴らし、店内に広がる香ばしいチーズの匂いを嗅ぐアイザックさん。

お連れ様二人も同じ様に、皆でスンスンしながらお腹を押さえている。

「この匂いは今日からの新メニューで、ピザのチーズが焼ける匂いです! 皆さんもどうですか?」

僕が席に案内しながらお勧めしてみると、お連れ様の一人が食いたい食いたいとアイザックさんに強請っていた。それを、呆れながらもアイザックさんは分かった分かったと手で制しているが、その表情は和やかだ。

「じゃあ、このマルゲリータと……。このハンバーガーっていうのは?」

アイザックさんが指で示したのは例のメニュー。

「バンズにミンチ肉の焼いたものと、野菜を挟んでます。これは以前、アイザックさんが夜番の時に片手で食べられるものは何だろうなぁと思って、メニューに提案してみたんです。肉汁もたっぷりで美味しいですよ! チーズ入りと、あとコロッケバーガーもあります」

僕が説明すると、アイザックさんと部下らしいお二人が目を丸くして驚いていた。

「俺たちの為に、考えてくれたのか……?」

「夜番って寝ずの番なんですよね? オリビアさんが皆さんのおかげで安心して寝れるって言ってたので……。片手で食べれて満足出来るものって何だろうなぁ~と思って……」

お持ち帰りも出来ますよ!

そう言うと、アイザックさんはハァ~っと深い溜息を吐いて黙ってしまった。

お二人もなんだか苦笑いしている様な……。

「……これは、聞いていた以上、でしたね」

「ん~、こんなお人好しっぽいの、大丈夫か……?」

なんだか馬鹿にされている様な……。

僕の顔に出ていたのか、アイザックさんは僕の髪をわしゃわしゃと撫でて、違う違うと笑っている。

「ハハ! まさか俺たちの事を考えてメニューが出来てるとは思わないだろう? トーマスが引き取ったっていうのもあるが、ユイトたちはこの辺りでは結構有名人なんだぞ?」

え? 僕たちが? なんでだろうと思ったけど、やっぱりトーマスさんが強くてカッコいいからかも……! それなら納得だ!

「私もアイザック隊長に聞いたときは半信半疑でしたが、成程、納得です」

この人も納得って言った……。被っちゃったなぁ、なんて考えている僕を、マジマジと観察するのは部下のリックさん。周りの女性がチラチラとこちらを気にするくらいにキラキラしているイケメンさんだ……。

「オレもオレも! オーウェンたちに聞いてた以上にお人好しっぽいから、トーマスさんも騙されないか心配だろうなぁ~!」

明るくて人懐っこい雰囲気の彼は部下のヒューゴさん。新人パーティのオーウェンさんとは幼馴染らしく、今でもよく会うそうだ。

「俺たちの事を考えて作ったとなれば、食わねぇ訳にはいかないよなぁ?」

アイザックさんがリックさんとヒューゴさんに訊ねると、お二人はうんうんと深く頷いた。

「そうですね、是非とも食してみたいです」

「隊長~! オレはピザもハンバーガーも食いたいです!」

「分かった分かった、頼んでやるから」

「やったぁー!」

「アイザックさん! これ、トーマスもお気に入りのメニューなのよ!」

その様子をキッチンから見ていたオリビアさんがカウンター越しに呼びかけると、アイザックさんは大笑いして、なら間違いないな! と早速注文してくれた。

「これは美味しいですね……! 本当に肉汁がたっぷりです……!」

リックさんもお口に合ったようで、美味しいと呟きながらパクパクと大きなハンバーガーを何度もお替りしていた。

「これすっげぇ~! 隊長! めっちゃ伸びます!」

ヒューゴさんはピザとチーズ入りのハンバーガーを気に入ってくれたみたい。ピザのチーズが伸びるのが楽しいみたいで、皆で笑ってしまった。

アイザックさんにまたお替りを強請っているし、アイザックさんもこれはいいな、とまた追加で注文してくれた。

勿論、ハンバーガーのお持ち帰りも含めてね。

「今日はごちそうさん! また食べに来るよ」

「はい! こちらこそありがとうございました! またお待ちしてます!」

「アイザックさん、あんなに食べて大丈夫なの? 途中から心配しちゃったわ」

「まだまだ若い奴らには負けられないからな! あ、そうだ。これトーマスに渡しておいてくれるか?」

「あら、何かしら?」

オリビアさんと僕が、アイザックさんに手渡された袋の中身を確認すると、これはハルトとユウマが喜びそうなやつだと一目見て確信した。

「ありがとう、アイザックさん。これはあの子たちはしゃいじゃうわ」

「どっちかって言うと、トーマスが張り切りそうじゃないか?」

「あ、確かにそうかも……!」

「ふふ、想像できるわねぇ」

僕たちは三人でトーマスさんの張り切る姿を想像して笑っていた。

先に店を出たリックさんとヒューゴさんが、遅いアイザックさんを呼びに店に入ってきたけど、笑う僕たちを見て首を傾げている。

「ありがとうございました! お気を付けて!」

最後のお客様をお見送りして、本日も無事閉店。

新メニューのピザはなかなかの売れ行きで、仕込んだ生地も残りわずかだった。

「ユイトくんの考えてくれたメニュー、かなり好評ね! 明日も頑張りましょうね!」

「はい! 明日もいっぱい来てくれるといいですね!」

お店の外に出している看板を片付けながら、ふと、今朝オリビアさんが言った新しい人を雇う話を思い出した。

このまま順調にいけば……、か……。

もうちょっと僕に力があればなぁ~なんて、今更考えても仕方ないんだけど……。

僕はなぜだか晴れないモヤモヤを打ち消す様に、翌日の生地作りに精を出す。

明日はこのモヤモヤが無くなっていればいいな、と必死に願いながら。

あと、アイザックさんたちが宣伝してくれたのかは分からないけど、次の日から夜番の警備兵の人たちが、お持ち帰り用のハンバーガーを注文してくれる様になった。

少しはお腹の足しになればいいな。

いつも村を守ってくれてありがとう、という感謝の気持ちを込めて。