軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 啓示

午後、叔母様たちとともにメルシエ伯爵邸へ向かう。

サロンには、メルシエ伯爵夫妻とメルシエ商会長夫妻にメノー様、そしてディアマンタと、商会長に似た若い女性が座っていた。

おそらく、ディアマンタの姉であるルビナ様だろう。ノエミ様の面影もある。

「みんな、昨日はお疲れ様。殿下もありがとうございました。あの通り大公家は皆拘束。城はユジヌ中央軍とフェリティカ軍によって一時的に封鎖されている」

メルシエ伯爵が切り出すと、ディアマンタの隣にいた女性が立ち上がった。

「クレマン=メルシエの長女、ルビナでございます。イオルム王子殿下、リリス王子妃殿下、ご挨拶が遅くなり大変申し訳ございません」

「ありがとう。大公妃付きの侍女だって聞いてるよ。大変だったね」

「恐れ入ります。昨日の事変によりしばらく休みとなりましたため、ようやくお目通りが叶いました」

「ご丁寧にありがとうございます。リリス=ウルフェルグです。お会いできて光栄ですわ。叔母のシャルロットがご迷惑をおかけしております」

「リリス?」

叔母様がこちらをにらんだけれど、気にしない。

「リリス妃はシャルロット様に大変よく似ておいでですね。お気遣いいただきありがとう存じます。お会いする機会は多くはございませんが、いつも良くしていただいております」

「ふふ、もっと崩して話してくれて良いんだよ?」

会話を聞いていたイオルムが、面白くなったのか口を挟んだ。

「大変失礼ながら、イオルム殿下、この話し方が一番落ち着くのです……ご容赦いただけませんでしょうか」

「へえ、そうなの?」

イオルムが大人たちの方を見ると、みんな苦笑いしている。

「事実です」

「ルビナは子どもの時からそうなのよねぇ」

伯爵とノエミ様が答えた。

「そうなんだぁ、わかった。ちょっと緊張してるのかなって思ったから。その話し方が落ち着くなら、それで良いよ」

「ありがとう存じます。緊張はしております」

「ははっ、そっか。この通り僕もリリスもだいぶ馴染んじゃってるから、多少のことは目こぼししてもらえると助かるな」

「かしこまりました」

「改めて、昨日は本当にお疲れ様。特にイオルム殿下とリリスは大変だったでしょう。今日は少しだけ話してすぐ解散にしますので、ゆっくり休んでください」

「ありがとうございますレイモン叔父様、助かります」

「ああ、特にリリスは疲れただろう。あの口上はスカッとしたな」

「そうね。近くにいた、どちらも愛人がいらっしゃると噂のあるご夫妻はとても気まずい顔をなさっていたわ」

「ええ!?どんなこと言ってたの!?」

ディアマンタが身を乗り出した。

「ディアマンタ」

ルビナ様がディアマンタを窘める。

ぼくたちー

ぼくたちいえるよー

精霊たちが飛び出してきた。

「ほんと!?教えて」

「あら、私も聞きたいわ」

昨日いらっしゃらなかったノエミ様も興味津々だ。

「私も聞かせていただきたいですね」

ルビナ様も静かに加わった。

うんめいはー

まいにちこうしんなのー

うんめいはー

そこにあるだけー

がんばるのはじぶんたちー

それでもうんめいっていうやつはー

わたしがあいてよ!

かっこいー

しびれるー

「なんとなく雰囲気はわかったわ、ありがとう」

ニコニコとディアマンタが精霊たちにお礼を言う。

「改めて言われると恥ずかしいわ……」

「殿下に腕輪が魔道具だと教えていただいて、全員の検査を行いました。該当の腕輪を着けていたものは全員拘束されています」

メノー様が報告してくださる。

「まだ汚染度は低い者が多かったようですが、中にはかなりひどく精神汚染されている者もいたようです」

「うん、だろうね。ありがとうメノー殿。大変だったでしょ」

「少々混乱しましたが、フェリティカの軍や護衛騎士がいたのでスムーズに進んだ方だと思います」

「だろうねぇ、ニコが出るってことは、かなりの人数を割いているはずだから」

「そういえば、夜会でも滅多に国を出ないと誰かが言っていたわね」

「ニコに何かあれば、精霊樹が黙ってないからね。慎重にもなる」

「……精霊樹?」

「フェリティカ帝国にある、精霊が宿る大きな樹だよ」

「へえ……」

せいれいじゅはー

ニコラスだいすきなのー

「そうなのですね、私も初めて聞きましたわ」

「ん?」

「あら?」

「ルビナって、イオルム殿下が魔法をかけてくださった日に家にいなかったのに、精霊たちの言葉がわかるの?」

マリエル様の言葉に、イオルム以外の全員がはっとルビナ様の方を見る。

「ええ。子どもの頃からずっと」

「えええ!?」

ディアマンタが大声を上げた。

「そんな素振り全然なかったじゃない」

「見えない方に知らせるものではないのですよ」

アデル様も以前、同じようなことをおっしゃっていたわね。

「でもみんながあなたたちを感じることができるようになって良かったですね」

そうなのー

よかったー

ルビナありがとー

「そうだったの……ごめんなさい、ルビナ」

「お母様が謝るようなことは何もございません。私は私で、精霊が見えるなりの楽しい人生を歩んでおりますよ」

ルビナ様がにっこりと微笑まれた。表情は豊かな方のようだ。

「ルビナ殿は契約してる子いないの?」

「そこまでの子はおりませんが、常にそばにいてくれる子はおります。……出てこられますか?」

ルビナ様が話しかけると、ペンダントトップから小さな光が恥ずかしそうに出てきた。

こ、こんにちは

「こんにちは。君の名前は?」

なまえ、ないです

「ルビナ殿につけてもらわないの?ネームドになれるだけの力はあるよね?」

……はずかしい

「あら、恥ずかしいのですか?」

ルビナ様が精霊に尋ねた。

はずかしいです

「そっかー。でもルビナ殿がユジヌ城で運命に毒されずに済んだのは間違いなく君の力だよ。これからもルビナ殿を護りたいなら、今じゃなくていいから、名前、つけてもらったら?」

「そうですね。今度二人で、ゆっくり話しましょうか」

ルビナ様がそう言うと、精霊は小さくうなずくように動いた。

「真名を決めて、別にあだ名をみんなに教える手もあるからね」

「真名、ですか」

ルビナ様がイオルムに尋ねる。

「うん。あまり使い分けてる人はいないけど、ゼロじゃない。たぶんこの子は、ルビナ殿だけと繋がる深い関係を求めている気がするから。どう?」

それ、すてき

「あら」

ルビナとの、ひみつ

いいなー

ぼくもひみつー

だめ、わたしとルビナだけ

「まあ、そうなのね。それでは後で、じっくりお話しいたしましょうね」

はい、あとで

「ふふ、良かったね」

イオルムさまありがとうございます、しつれいします

そしてまた精霊はペンダントトップに戻って行った。

「ありがとう存じます、イオルム殿下」

「ううん、これくらいなんともないよ。素敵な名前を相談して決めてあげてね」

「かしこまりました」

「精霊にも色んな子がいるんですね」

ディアマンタが感心している。

「あれくらいの精霊になると個性が強く出るんだ。それこそ、フェリティカに行けばたくさん会えるよ」

「へえ……!」

「他人事みたいに感心してるけど、ディアマンタちゃん、呼ばれる可能性あるよ」

イオルムの言葉に、ディアマンタが固まった。

「え!?」

「むしろその可能性は高いと思う」

「……なぜでしょうか」

ノエミ様がイオルムに尋ねる。

「政変の影響だろう」

メルシエ伯爵が答えた。

「それもある。あと、今回ニコラスが来たことで、フェリティカにドゥメルの存在を知られたと思う。一番の理由はそれ」

「ドゥメル、ですか?」

「うん。ドゥメルはかなり特殊な精霊だ。魔石の時点で明確に意思があり、そして契約に応えている。

『海竜の鼓動』そのものが国宝級って話もしたと思うけど、ドゥメルが狙われる可能性がある」

「ダメですそんな!わたし、行きません!!」

ディアマンタが立ち上がった。

〈でぃでぃ、どしたの?〉

ドゥメルが魔石から出てくる。

「落ち着いて。あくまで僕がいま話しているのは、予想であって確定ではない。

僕はディアマンタちゃんやメルシエ家のみんな、そして精霊たちの味方だ。これは誓ってもいい。その上で、もし、打診が来たなら、ディアマンタちゃんはフェリティカに行くべきだと思う」

「どうしてですか!?」

「理由は単純、フェリティカが一番安全だから」

「……安全?狙われるかもしれないのに?」

「狙われると言ったけど、一番狙ってくる可能性があるのはロゼナス教だ。ユジヌには今は僕がいるけど、それでも万全じゃない。

あと、フェリティカには学園があって精霊魔法を学べる。僕が教え続けるにも、正直言って限界があるからね。もっと強くなるには、しっかり学んだ方がいい。

そして何より、フェリティカにはユークリッドとルルティアンヌがいる。これだけで、狙われる可能性はかなり下がるんだ。

僕もフェリティカには顔を出せるから、いざとなればサポートもできる。

僕がすすめるのはそういう理由」

「え……」

「なるほど。確かにもう我々では守りきれない段階に来ているのかもしれないな」

「うん。メルシエ商会ってフェリティカにも支店あったよね?」

「ございます。中程度の店舗ですが」

「あ……」

「十分。学園は寮があるけど、メルシエ商会があるだけで、ディアマンタちゃんの安心感が全然違うはずだからね」

「イオルム」

「ん?何リリス」

「本人を置き去りにしないで。ディアマンタが動揺しています」

「ああ!ごめんごめん、またやっちゃった。まだ確定ではないし、今僕が言ったのもあくまで選択肢の一つだから、そこまで怖がらなくていい」

「……はい」

「要請があっても、言われてすぐ行くわけじゃないと思うから、準備はできるよ」

ディアマンタが黙り込んだ。

ドゥメルがディアマンタの頬にぴたりと張り付く。

〈でぃでぃ、だいじょうぶ?〉

「……大丈夫よ、驚かせてごめんね、ドゥメル」

「……もしそうなれば、私もフェリティカに参りましょう」

しばらくの沈黙を破ったのは、ルビナ様だった。

「お姉様!?」

「私もいれば、少しは安心できるのではありませんか?ディアマンタ」

「……うん、そうね。ありがとうお姉様。考えてみる」

ディアマンタが小さくうなずいた。

「ディアマンタちゃん、急に混乱させてごめんね。もし呼ばれた時は、これ以上ないって条件を脅してでも取り付けさせるから」

「……ふふ、イオルム殿下が脅すって言うと、冗談に聞こえないですね」

「イオルム、ディアマンタをフェリティカに連れて行くの?」

「うん。たぶんその方がいい」

イオルムがたぶんという場合、それは絶対に近い。

明らかな確信があるのだ。それは人を外れたものだからこその何かによる。

あの後、邸を伯爵と商会長が尋ねてきて、イオルムとディオン叔父様も交えて四人で話し合っていた。

メルシエ家としてはディアマンタをフェリティカ帝国に送り出すつもりで準備を始めるのだろう。

「んー、まあ僕にできることはあんまり多くないから、メルシエ家のみんなに頑張ってもらうよ。第一僕は、こんなことをするためにユジヌに来たんじゃない」

イオルムがわたくしの頭を自分の胸に抱き寄せた。

「リリスと心置きなく毎日いちゃいちゃするために来たんだからね」

「……イオルム」

「へへっ、ごめんごめん。ちゃんと、勉強して帰るよ。まあ、学校も今は政変の影響で慌ただしいから、休校の間は毎日リリスとべたべたするんだぁ」

「それは、学校があってもなくても、変わらないでしょう?イオルム」