作品タイトル不明
13 あなた方より運命です
あの夜会から二ヶ月。
マルグレーヴ侯爵を中心とした政変は、フェリティカ帝国の全面的な後押しもありスムーズに成し遂げられた。
現在はマルグレーヴ侯爵が暫定大公となり、国の立て直しを図っている。
そして、イオルムの予想通り、フェリティカ帝国よりディアマンタの留学の打診が来た。
打診が来た時にはディアマンタの心も決まっており、『わかりました』と力強くうなずいたという。
現在は来週の出発に向けて、留学準備をしたり、お別れ会を開いてもらったりと忙しそうだ。
そして社交界も徐々に通常に戻りだし、わたくしたちはとある夜会に招待されていた。
目の前には目をうっとりととろけさせ、腕を組み熱く愛を語る一組の男女。
「私たち運命ですの!」
「そうとも!僕たちは死後の世界でも結ばれ続ける運命なんだ!」
まあ、運命。
チラリとイオルムに視線を投げかける。イオルムはニヤリとわたくしに笑い返した。
やってしまいましょうか。
「まあ、素敵ですわね。ですがどちらかが先に亡くなった時のことは考えていらして?」
「……え?」
これから運命の愛を燃え上がらせていくのであろう二人の表情が固まった。
その間の抜けたお顔を眺め、次を繰り出す。
「わたくし、初めは万が一先にイオルムが死んでしまうようなことがあれば、後を追おうと思っていたのですけれど」
「まあ、まさに運命の愛!」
わたくしの言葉に、女性が水を得た魚のように勢いを取り戻す。しかし続く言葉に、再び顔を強張らせた。
「遺体の冷凍保存ができることを知りまして、冷凍保存も検討いたしましたの」
「冷凍保存、ですか」
「はい、冷凍保存です。ですが、気付きましたの。わたくしの死後もイオルムの美しいかんばせや肉体が他の誰かの目に触れるのは許せないと。ですのでイオルムが先に逝ってしまった時は、骨格標本にすると本人の了承も得ております」
「そ、そうなんですね」
標的その一、沈黙。
それを見てイオルムが男に狙いを定める。
「僕も色々と考えたんだ。薬剤に漬けて保存するのが医学的にはスタンダードじゃない?」
「え、ええ」
可哀想な殿方、先ほどのわたくしの話を聞いていたからか、すでに腰が引けている。
「剥製にすることも考えたんだよね」
「剥製っ!?」
あら大変、かなり大きな声で復唱されてしまいましたわ。近くの方々の視線がこちらに集まる。
イオルムはそれもわかった上で一気に畳みかけた。
「でも剥製だと触った時の感触が全然違うでしょ?だから、剥製にはするけど、その上から撫でたときにリリスの感触が再現できるような魔法を編み出したんだ!うっすらと膜を張るようにしてさ!体臭の再現ももうすぐできそうなんだよ。リリスの魂が肉体から抜けてしまっても、その肉体は僕が逝くまでそばにある。
え?ああ、もちろん他の何人にも触らせないよ。再現魔法は僕以外の人間が触ったら、触れた側の人間が触れた先から腐食していくようになってるからね。僕が魔力供給してる間は有効。つまり死んだときにそれも消えるようになってるから、一緒に埋葬してもらう手筈になってる。もちろんリリスの許可も得ているよ」
「……」
ああそんな、化け物を見るような目でわたくしたちをご覧になるなんて……まあ、少なくともイオルムは人ではないのですけれども。
そろそろ解放してさしあげましょうか。
「あなた方も運命なのでしょう?これくらいは当然、なさいますよね?」
語りかけながらお二人の目を一人ずつ、しっかりと見つめる。
「しっ……失礼します!!」
男性がパートナーの手を引き逃げるように去っていった。
周りでイオルムの熱弁を聞いていた方々も、一歩引いてこちらを見ながらざわざわと小声で話している。
パチン、と音を立てて扇子を閉じると、隣で涼しい顔をしているイオルムを見上げた。
ああ、やはり、あなたもわたくしと同じ、悪い顔。
「この程度で怖気付くようなら、その口がかたる運命なんてそよ風で飛ぶ羽のようなものですわね」
「そうだねぇ、誰かと運命談義をしたいものだけど、なかなかいないもんだねえ」
イオルムは小さく笑うと、わたくしに手を差し伸べた。
「僕の運命のお方、僕の愛を受け容れてくださいますか?」
わたくしはイオルムの手に自分の手のひらを重ねると、同じように微笑み返した。
「もちろんですわ。あなたはわたくしの運命。命が果てても共にありましょう」
ホールの真ん中でゆるやかにステップを踏み、次第に大きく、フロアの視線を集めて見せる。
ほら、ご覧なさいな、わたくしの可愛い唯一を。
時には最愛にも容赦なく咬みつく、猛毒を隠し持つ男を。
運命なんて馬鹿馬鹿しい。
運命は日々 更(・) 新(・) されるの。
それを認め受け入れ、乗り越えてこそのものなのよ。
ひとときの『運命』酔いしれ、時にすがる。
そんなあなた方より、よほどわたくしたちの方が『運命』ですわ。