軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 フェリティカ帝国からの賓客

「ニコラス……フェリティカ皇子?」

「ほとんど帝国から出たことがないと聞いているが……」

ざわめく観衆には見向きもせず、ホール中央までやってきたニコラス=フェリティカ皇子殿下は足を止めると、わたくしとイオルムの方を向くと、左胸に右手を当て恭しく礼をした。

「イオルム=ウルフェルグ王子殿下ならびにリリス=ウルフェルグ王子妃殿下。我が従属国の諍いに巻き込んでしまい大変申し訳ございません。お二人のご活躍、しかと拝見いたしました」

「……ふふ、やっぱりニコラスかぁ」

わたくしとニコラス殿下にしか聞こえないくらいの声で、イオルムが笑った。

〈ニコは魔法が一切効かないんだ〉

〈一切……?〉

〈うん。だから結界の中で何をやってたかも、あいつには丸わかり〉

「久しぶりだね、ニコラス殿下。それで、フェリティカ帝国が政変を後押しするって、本当なのかな」

「事実です。間もなく開かれる議会にて、不信任決議案の提出と、宗主国である我々フェリティカ帝国による即時可決が行われるでしょう」

ニコラス殿下の言葉に、ホール内のざわめきは一層大きくなった。

「そんな!ニコラス殿下!!」

大公がニコラス殿下にすがろうとするも、マルグレーヴ侯爵派の貴族がそれを止める。

「貴国は色々と、驕りと侮りが過ぎたようだ」

ニコラス殿下は静かに大公に語りかけた後、ホール全体に響く高らかな声で告げた。

「我々フェリティカ帝国は、マルグレーヴ侯爵派の矜持ある告発のもと、政変を承認した!

『運命』などと不確かなものに翻弄された者は恥を知ると良い。フェリティカ帝国にはいつでもユジヌを併合する準備がある。……ゆめゆめ、忘れぬように」

その後、大公夫妻はフェリティカ帝国の軍に引きずられていった。おそらく議会までは監禁、そのあとは……なるようになるのでしょう。

「空気をぶち壊しちゃってごめんね。せっかく食事もあるから、みんな楽しい記憶に塗り替えて帰って」

イオルムが満面の笑みでそう言っていたけれど、果たして楽しい記憶に塗り替えられるのは、このうちの何割ほどかしら。

「イオルム」

イオルムと二人でホールの様子を眺めていると、ニコラス殿下が近付いてきた。

「やあニコ。来るなら君だろうと思ったよ」

にこにこしながらイオルムが言うと、ニコラス殿下が深く長いため息をついた。

「『イオルムはやる気だ』と聞いた時の皇城の動揺を見せてやりたかったよ、イオルム。ユークリッドが殴り込みに行きそうな勢いだったから、さすがに止めた」

「へへへ。でも、ここにユークの気配、あるよね?」

イオルムがそう尋ねると、ニコラス殿下は胸元のブローチに目を向ける。

「ああ、通信魔道具だ。ユカの魔力で満たされているからな。通信に使う動力なら、雷属性であるユカの魔力が一番速くて確実だろう?」

「だねえ」

イオルムがとても嬉しそうだ。イオルムは本当にユークリッド殿下が好きなんだから……。

「して、リリス=ウルフェルグ妃殿下。お初にお目にかかります。フェリティカ帝国第二皇子、ニコラスと申します」

「先にご挨拶をいただいてしまい大変な無礼をいたしました。イオルム=ウルフェルグが妃、リリスでございます」

「弟であるユークリッドから、リリス様のお話はかねがねうかがっています。なんでも、イオルムの首根っこを掴んで深淵の森から引きずり出してきたとか」

「まあ、そんなお話を!語弊がございますわ、ユークリッド殿下にも後で詳しくご説明させていただかなくてはなりませんね……」

「ふふ、ニコもね、ユークのことが大好きなんだよ、リリス」

「そうなのですね。ユークリッド殿下は豪快な方ですがとてもご家族や仲間思いの方ですわよね」

そういうと、ニコラス殿下の表情がわずかに明るくなった。本当にユークリッド殿下のことがお好きなのね。

「それでは私はそろそろ。イオルム、あまり暴れてくれるなよ」

「はいはーい、任せといて!」

イオルムの言葉に肩をすくめると、ニコラス殿下はホールの奥、マルグレーヴ侯爵たちの元へ歩いていった。

「ニコラス殿下、不思議な雰囲気の方でしたわ」

「うんそう、ニコも僕と同じか、それ以上に異質なやつだから」

「……なるほど」

「リリス!!」

シャルロット叔母様が駆け寄ってくる。叔母様、高いヒールでよくそれだけ機敏に動けますわね。

「大丈夫だった!?」

「ええ、何事もございませんでした。イオルムがおりましたので」

イオルムを見て微笑むと、イオルムも微笑み返してくれる。わたくしたちの表情を見て、叔母様は安堵のため息をついた。

「それは良かった……運命坊やが大声をあげた時もそうだけど、公子が出てきた時には肝が冷えたわ」

「だから大丈夫だと言ったろ?」

後から追いついたディオン叔父様が叔母様の肩に手を置いた。

「お疲れ様でした、イオルム殿下、リリス妃殿下」

「ありがとう、ディオン殿。程よいところで我々は帰るよ」

「かしこまりました。今夜はどうぞ、ゆっくりお休みください」

邸に着くと、玄関からイオルムに抱きかかえられる。

「ちょっとイオルム!?」

「まずはたくさんの下衆な視線を浴びちゃったリリスを検めないと」

あっという間に寝室まで運び込まれていた。ベッドに寝かされ、イオルムを見上げると、舌なめずりをしながらクラヴァットを外している。

「イオルム、ちょっと待っ」

バーンと勢いよくドアが開き、デボラとターニャが入ってきた。

「はいはーい殿下、まずは湯浴みです」

「ええっ」

「下衆な視線に晒されたのがお気に召さないのであれば、まずは綺麗に洗い流してしまうのがよろしいかと」

「……ええー、でもー、リリスのドレス……」

イオルムはぐにょぐにょとごねていたが、結局わたくしは連れ出され、髪を洗い身を清めてから寝室に戻ったのだった。

翌朝。

イオルムと少し遅めにダイニングに向かうと、叔父様と叔母様が食後の紅茶を飲んでした。

「おはようございます。叔父様、叔母様」

「おはよう、リリス。イオルム殿下もおはようございます」

「うん、おはよう二人とも。昨日はお疲れ様」

「いやー、久しぶりのユジヌでの夜会があれはなかなか痺れたな」

叔父様が笑っている。

「リリスの啖呵、カッコよかったよ」

「ありがとうございます、叔父様。ああいう時、わたくし心の中にいる叔父様にお力を借りるようにしておりますの」

「ええっ!?」

「何それリリスどういうこと?」

叔母様が驚き、イオルムが悲鳴をあげている。

「ふふ、叔父様の豪胆さにあやかっているのですわ」

「ははは、それは良かった」

「良くない!!」

叔母様とイオルムの声が重なった。

「心にディオンを棲まわせるだなんて、いくら姪でも許しません!」

「僕だって上手に啖呵切れるよぉ……だから僕にしてよリリス!僕以外の男を心の片隅に置くなんてダメダメ!!」

大騒ぎする叔母様とイオルムを見て、叔父様と顔を見合わせると、叔父様と二人、声を上げて笑った。

「笑い事じゃない!!」とそこに叔母様とイオルムの声がまた重なった。