軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08 真夜中のジュリセンワシ

『どういうことだ! 何が起こっている、ディディ!』

「わかりません、急にパリンと音がして、結界が解除されて」

『どこか隠れられるところはないのか!?』

ヒューン

笛のような音とともに上から何かが降ってくる。

とっさに避けると、それは先端に発煙筒がついた矢だった。

立ち上がりあたりを見回す。

迎賓館が燃えているので夜でも明るい。しかも開けているここにずっといては格好の的だ。

「……伯父様。敵に見つかったようです」

『ディディ!?』

「森に入ります」

『向こうの思うツボだぞ』

「普段から着けている認識阻害と護身用の魔道具があるわ」

『なんとかなるのか』

「します」

即答した。そもそも即答以外に選択肢はない。

『……わかった。必ず迎えに行く。それまで持ちこたえてくれ』

「はい」

護身用の魔道具が起動していることを確認すると、スカートの裾を持って森の中へ入る。

あまり奥に入ると本当に危険だ。

認識阻害の効果を活かして森に隠れる、たぶんこれが最善。

しばらく進むと、太い幹の木に背中を預け、ふうと息を吐く。夜露に濡れた木の幹はひんやりとしていた。

ベルサンさん大丈夫かなぁ……と考えて、いや大丈夫だな、よくわからないけどすごく楽しそうだったし、と思い直す。

思っていた以上に大変なお仕事になっちゃったから、お土産たくさん持って帰ってもらわなきゃ……ベルサンさんとご家族と、あとみんなに中毒症状が出ていないか診てもらうからメドゥス製薬の方たちにも……メドゥスの方には干し銀灰茸でいいかしら、何か添加してるわけでもないだろうからきっと薬の開発にも使えるわよね。

身体が冷えてきたので肩を動かし首を回す。

「……あら」

ちょうど頭のあたりにある木のうろがぼんやりと光っている。背伸びをして覗き込むと、中にはびっしりと生えた銀色の茸が光っていた。

「銀灰茸って、こんなところでも育つのね」

森の精霊が好むと言っていたっけ。確かにこんなところに棲んでいそう。

葉っぱの布団をかけて眠る姿を想像して、ふふっと笑みがこぼれた。

「騒がしくしてしまってごめんなさいね。もうすぐ終わるだろうから待っていて」

そう言った瞬間、中からふわっと何かが飛び出した気がした。

「えっ」

髪や服が急に何かに引っかかる。

……もしかして、本当に精霊が寝てた?だとしたら起こしちゃった?

「ご、ごめんなさい。起こすつもりはなかったの、とっても可愛かったから、つい」

引っ張られる髪の本数が増える。認識阻害の魔道具であるペンダントトップの周りに、なんだかゾワゾワとした気配が集まっている。

精霊にとって認識阻害はあまり気分の良いものではないのかもしれない。

「ごめんね、すぐにここを離れるから……!」

慌てて木を離れて別の隠れ場所を探す。

どこもぼんやりと銀色に光っていて、銀灰茸が生えている。近付いたらきっとまた精霊たちを怒らせてしまうだろう。

ウロウロとしているうちに、開けた場所に出た。

銀灰茸は見当たらないけど、ここだと丸見えだわ。

フウウー!!という鳴き声とともに、大きな影が走る。

恐る恐る上を見上げると、鮮やかなピンクと黒の羽が月明かりに照らされている。

「ジュリセンワシ!?」

鮮やかな羽が高く売れるので乱獲されて絶滅危惧種になっている。シルヴァロンに生息してるとは聞いてたけど、まさかこんな場面で出くわすなんて……普通に鑑賞したい……。

ジュリセンワシは肉食で、動物や魔獣の肉を食べると言われている。

そして、人が襲われた事例もある。

「……もしかして煙が服についてた……?」

矢についていた発煙筒。服に魔獣を誘う匂いがしっかりついていたとしたら。

背中を嫌な汗が流れる。ダメだ、逃げなきゃ!!

森に向かって走り出すと、ジュリセンワシが上空からフウウー!!!と鳴きながら一直線にこちらに向かってくる。

「きゃっ!」

突っ込んできたジュリセンワシを避け、ゴロゴロと草むらに転がる。

あのくちばしや爪にやられたらひとたまりもないわ!

急いで空を見上げると、ジュリセンワシは首をかしげるような動きをしている。

魔獣に対して認識阻害の効果を確認したことがないけれど、人ほど効果がないにしてもゼロではなさそうだ。

おそらく実際にわたしがいる場所より少しズレた位置にいると認識しているのだろう。

「……これも戻ったら確かめなきゃね……」

森の中へ逃げ込もう。

精霊たちには申し訳ないけど謝りながら過ごさせてもらうわ!

森まであと数メートル、というところで、木々の間に大きな影を見つけた。

それもひとつじゃない。ふたつ、みっつ……。

「嘘でしょ……」

ジュリセンワシの鳴き声が魔獣を呼んでしまったのだろう。

シルエットから明らかにクマとわかるものがパッと見ただけで三頭、あとはオオカミくらいのサイズの目もたくさん光っている。

シルヴァロンに生息するクマはミズグマ、オオカミはシロクロオオカミだ。

もしかしたら見えていないだけで、さっき迎賓館に突っ込んで行ったホムラウマやミツノイノシシもいるかもしれない。

じり、じりと後ろに後退する。

フウウウウー!!

この状況でアゲアゲな鳴き声出してくるジュリセンワシ、ほんと腹立つわ。

確かにこの鳴き声をずっと聞いていたらどうにかして黙らせたくなるかもしれない。

そっちはパーティーかもしれないけど、こっちは大ピンチなんだから。

「……そんなに大勢で来ても、分け前は少ないと思うわよ……」

ぼそりとつぶやく。

わかっている。そもそも彼らの棲家を騒がせたのは 人間(こちら) だ。そしてここにいる格好の餌は、わたし。

フウウウー!!フウウウウー!!!

ジュリセンワシが大きく鳴くと、魔獣たちが森の中から草原にじわじわと出てくる。

さすがにこの数、障壁では防ぎきれない。

反射的に彼らに背を向け走り出す。

「あっ!」

石につまづいて顔から転んでしまった。

「……ったぁ……」

足を挫いてしまったらしい。動かないでいる間に、周りをぐるりと取り囲まれる。

フウワアアアアー! と高らかにジュリセンワシが鳴いた。

嫌だ、まだ、死にたくない。

運命野郎の鼻をあかしてないし、ティズリーの新作ケーキも試食してない。

大切な家族よりも先に、死ぬわけにはいかない。

思わず目をつむり、らしくもなく叫ぶ。

「助けて!!!」

次の瞬間、耳をつんざく轟音が響き、世界が白くなる。目が、熱い。

何かがぶつかったような衝撃に身体が吹き飛び、地面に叩きつけられて意識を失った。