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作品タイトル不明

58 アレシアの提案

「ファリルを除く周辺各国に絹布をひと巻きずつ配ったらいかがでしょうか。引き換えに有事の際は我が国と手を結んでもらうのです。あの布の力を知れば手を結び協力してくれるかもしれません」

「……そうか、しかし絹布とアレシアとが結びつけられたら君が狙われるだろう。アレシアに何かあっては元も子もなくなる」

「いいえ。各国に配ることによって互いに牽制し合って我が国に手を出しにくくなるかと。いくつかの国が共謀したとしても私一人を複数の国で使い回しするのは無理があるでしょうし。我が国と連携してくれるならという条件で毎年絹布を一本ずつ贈る契約でもいいでしょう」

「どこが攻めてきても他の国に軍事支援してもらえる、か。絹布は売ればいい。くれてやる必要はない」

あら、しっかりしてる。

「そうですね。我が国は輸出品が無くて困っているのですから、いずれ国が生産する絹布は外交の材料に使うという手もあります」

マークス殿下はうなずきながら聞いてくださっている。

「国が癒しの絹布を作り出せるようになったら、その絹布は我が国の特産品として輸出する手もあるか。我が国の外貨獲得に繋がるな。国同士の連携も図れる。重病も大怪我も治す布ならどの国も欲しがるだろう。その売り上げで貧しい我が国でも子供たちの教育に予算を回せるか」

「『知識は力』ですものね?」

「……アレシアはバルワラ語を話せるのか?」

「王家が図書館を建ててくださったおかげです」

一瞬、殿下の表情が硬くなった。どうしたのかと思ったが、もう重鎮たちとの話し合いの時間になった。さあ、私の案を聞いてもらおう。

アレシアの提案を受けて国王、マークス殿下、大臣たちだけの会議が開かれた。

「まずは各国にひと巻きずつ配って我がラミンブ王国との連携を深めてもらう、ですか」

「そうです。最初は絹布の見本を使って使者が実演して相手が連携してくれると確約した場合のみ、ひと巻き渡すのです。絹布はひと巻き十メートルありますので命に関わる重病人や重傷者を七、八人は救えるかと」

外務大臣が感心した顔になる。

「絹布に治癒魔法を込められるというのは実に便利ですな。魔法使い様ご本人がわざわざ出向く必要がないし、相手は使いたい時に使えるわけですから」

「確かに」

大臣たちが感心している。

本当は魔力を注いでるわけではないのだが、それはまだ置いておく。

アレシアの提案は重鎮たちの了承を得て、すぐにファリル王国を除いた周辺六国にラミンブを加えた『七カ国連携使節団』が送られることになった。警護役の兵士と外務部の人間で使節団が作られ、商人に変装して彼らは各国へと旅立った。

外務大臣が内務大臣に話しかけた。

「アレシア様は農民の娘、だったな?」

「ああ。だが……話しぶりもその内容も」

「まるで知将のような」

「魔法使いとは皆あのようなものなのだろうか」

「そんな話は聞いたことがないぞ」

「あの方の持って生まれた器だろうか」

二人はそこでため息をつく。

「貴族の娘だったアウーラでさえ王の婚約者になった時は身分で苦労したと祖父から聞いたことがあるが」

「農民ではなぁ」

「だがそれも陛下のご意向でどうにでもなるのではないか?あれだけ魔法が使える上にあの才気煥発ぶりだ」

それから一ヶ月ほどが過ぎた。

ファリル王国の周辺六カ国が突然「ラミンブ王国と我が国は盟友として国家間交流の活発化を目指し、非常時においては軍事的支援を約束する」と発表した。

ファリル王国の王城。

「どういうことだ?なぜ我が国にこの情報が入らなかったのだ?」

「陛下、どうやらラミンブ王国は極秘に使節団を六ヵ国に送り出したらしく。しかもどの国も上層部以外は何も聞いてなかったようです」

宰相の返答を受け、ファリルの国王は思案の後でヘルード第四王子を呼びつけた。

ヘルードは短期間で母国に送り返されただけでなく父の希望する土産も持ち帰れなかったことで肩身が狭い立場に置かれている。

「ヘルード、その娘の能力は?会ったのだろう?」

「雨を降らせることだと思います」

「だと思う?それだけか?」

「……」

「そんなことはとっくに想像してたわ!雨だけのわけがない!六つの国がラミンブの提案に従うような価値のある何かがあの国にあったのだ。それがその娘の力か否かも見分けられずにあっという間に送り返されおって。この役立たずが!」

各国に潜入しているファリルの人間に急ぎの指令が送られた。「あの公式発表の裏でどんな取引があったのか調べよ」と。

ファリルの手先たちは人脈を使い金もばら撒いて情報を仕入れようとした。だが苦労の割に手に入った情報はわずかだった。

『とんでもなく貴重な何かと交換に提携がなされた。貴族たちでさえも、それがどんなものかは知らされていない。だが、国王、大臣たち全員が手放しで提案を受け入れるほどの物だった』

それでは結局何もわからないのと同じだった。あの飲み水にさえ不自由するような国がどんな物を差し出せたというのだろうか。

「陛下、そういえばメダマバエの治療薬を魔法使いが作った、とは聞いております」

メダマバエは乾燥地帯にだけいるハエだ。水がないから動物の目を狙うのだ。今回ラミンブ王国との連携を宣言した六国にメダマバエはいない。

「差し出したのはよほど良い目薬だとでも言うのか。まさか。どの国も眼病の蔓延はない」

結局どの国の潜入者も確たる情報を手に入れられなかった。ただひとつだけ、ファリル王国の南東にあるハルタ王国から気になる情報が届けられた。

「ハルタ王国の第二王子は幼少時の高熱で耳の聞こえが芳しくなかったが、最近それが完治してよく聞こえるようになった。時期的には使節団が訪問した直後のことである」

ファリルではこの情報を重視してラミンブにいる手先に連絡した。

「ラミンブに最近現れた魔法使いは治癒魔法を使えるのではないか。魔法使いが密かに使節団の一員として訪問した可能性は?」

国王の問いにラミンブ王国の潜入者からの答えは「否」だった。

「魔法使いは毎日王宮で水を生み出している」

「ではラミンブのやつらはいったい何を使って連携を築いたんだ!ったくヘルードの無能ぶりには腹が立つ」