軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59 エドナ妃殿下の贈り物

アレシアが提案した使節団のおかげで、ラミンブ王国では平和な日々が訪れている。

ファリル王国は連携国側を相手に揉め事を起こす気にはならなかった。なぜならそれで手に入れられる物が何なのか、いまだにわからないからだ。

絹布の秘密を知る者は少ない。どの国も数人ずつだ。情報が漏れたとなれば容疑者は限定される。誰も自分や家族が奇跡の布の恩恵から外されたくない。秘密は固く守られた。

アレシアは十五歳になり、この国では成人になった。同い年のエドナ殿下は十五歳になってすぐバルワラ王国の第二王子へと嫁いだ。迎えるバルワラ王国では、血が繋がっているとはいえ貧しいラミンブ王国との縁組は利益がないと異議を唱える者もいたらしい。

しかし使節団が訪問した後は王家がそれを全て抑え込んだ。

「ラミンブから第二王子の妃を迎え入れられたことは、我が国にとっては大変な幸運である」と国王自らが公の場で明言した。そしてエドナ妃殿下はとても大切にされているそうだ。

そのエドナ妃殿下からアレシアに手紙が届いた。

「アレシアちゃんのおかげで周りの人たちにとても大切にされています。素晴らしい贈り物に感謝しています。本当にありがとう。お礼にささやかだけれどバルワラで人気のお店のドレスと小物一式を贈ります。やっとアレシアちゃんにアクセサリーを贈ることができて、嬉しいわ」

高級な箱に詰められた高価そうな、いや、高価なこと間違いなしのドレス、靴、アクセサリーが宰相経由で農園に届けられた。

「ありがたいけど、嬉しいけど、これを着てどこに行けと……」

両親に「着て見せてほしい」と言われてそれらを身に着けて苦笑するアレシアだが父と母は涙ぐんでいる。

「な、なんで泣くの!」

「花嫁みたいだからさ」

「ここまで無事に大きくなってくれたことが母さんは嬉しくって。アレシア、すごく綺麗よ」

「もう……泣かないでよ」

農園では祝い事があった。

ハキームの結婚が決まったのである。

「びっくりしたわ。ねえハキーム、お相手は?」

「市場の八百屋で働いてる人だよ。わりと近所に住んでいてさ、彼女は幼い頃に父親を亡くしていて。俺の家も父さんがいないから二人でよくお互いを励まし合っていたんだ。俺、ここで働くようになって貯金ができたから。家を借りて二人で暮らすためのお金が貯まったら結婚しようってずっと前から約束してたんだよ」

一方こちらは王家の陛下の私的な部屋。

「ですから父上、婚約はもう少し時間が欲しいと何度も申し上げているではありませんか」

「しかしマークス、どんな貴族の令嬢よりもアレシアがいいじゃないか。不満を言う者がいたらわたしが意見するさ」

「そうよ。アレシアなら願ってもないことだわ。あんな素晴らしい魔法使いな上に人柄も良いのだし」

マークスは困った顔で両親を 諌(いさ) める。

「父上、母上、農民のアレシアが魔法使いであることを国民も貴族たちも知らないのですよ?それにアレシアの気持ちが……」

「マークス、アレシアはなぜ魔法使いであることを知られるのをあんなに嫌がるのだ?」

「理由はいろいろ思い当たりますが、間違いないのは王家の権力で無理強いされるのは本人も両親も喜ぶことはなく、怖がるだろうということです」

モーシェ第二王子がそこに加わった。

「そもそも兄上はアレシアに気持ちを伝えてないんでしょ?モタモタしてると横から持っていかれちゃうよ?農園には若い男が二人もいるんでしょう?」

「イーサンは心配ないさ。アレシアにとっては弟みたいなものだよ……」

だがハキームのことをアレシアがどう思っているかは自信がない。ハキームは男から見ても好ましく思えるような、誠実で頼りになる男だ。

「マークス、さっさと結婚して跡継ぎを見せてくれんか。この父とていつまで生きていられるかわからないのだぞ?」

「父上は間違いなく長生きできますよ。もうすぐ国が作る絹布が織りあがるのですから」

マークスが立ち上がる。

「ちょっと農園まで行ってきます」

「いってらっしゃいマークス」

「頑張ってね兄上」

「魔法使いであることを公表させてもらえるといいがな」

「ですから!やめてくださいよ、ちょっとアレシアとおしゃべりをするだけですから!」

ギルと衛兵を連れて農園に向かったマークスはアレシアの家のドアをノックしようとして拳が止まる。

中から切れ切れに聞こえて来る会話にハッとしたのだ。

『花嫁……アレシア……綺麗よ……ハキーム……結婚……二人で暮らす……』

(え?ハキームと結婚?)

ドアの前で立ち尽くすマークス王子。耳の中で弟の言葉が甦る。

『モタモタしてると横から持っていかれちゃうよ?』

ガチャ。

中からドアが開いて畑に向かうアレシアの両親がドアの外で呆然としているマークス殿下に驚いた。

「殿下!失礼いたしました。どうぞ、アレシアがちょうどドレスを着ているので見てやってください。とても綺麗なんです」

「あ、ああ」

顔から表情が抜けてしまったマークス王子が家に入ると、淡い水色のドレスを着て豪華なネックレスを着けたアレシアが困ったような顔でこちらを見ていた。