軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89話 初めてのダンジョン⑧塔6階 羊と山羊とクマと

6階の探索が始まる。森のような中をしばらく歩き進めると、急に視界が開けた。草原だ。

白いもこもこの塊が点在している。一見、白い羊の群れだ。羊型の魔物だそうだが、彼らはひたすら草を食んでいる。

「赤い尻尾の見えるか? あれがリーダーだ。あいつが指揮をとってるから、先にやらないと手強いぞ。あと、もう少し近づくと敵視されるから、気をつけろ」

アークとソウショウが頷く。

わたしは問答無用でロイドに抱き上げられた。獣人さんは力が強いのだろう。12歳のわたしでも楽々腕に乗せる。よくこうして移動させてもらったな。

アークが飛び出した。羊たちが気付いて、こちらを見据える。その目つきの悪いことったらない。ソウショウがアークに続く。羊が戦闘前の牛みたいに、蹄を後ろに蹴っている。なんかやる気満々じゃないっすか?

アークとソウショウが羊の群れの中に駆け込んでいって剣を振るう。羊も応戦を始める。主な攻撃は頭から突っ込む体当たり。なんか戦闘時だけツノの角度が変わって大きくなってるように見えるんだけど、見間違いじゃないよね。見事に群れが2つに分かれ、アークとソウショウとに分かれて向かう。統制が取られている感じだ。

「しっかり、掴まってろ、赤子」

「赤子、違う。リィヤ」

そう言ってもロイドはにやりと笑うだけ。わたしは思い切りロイドの首にしがみついた。

だってアークとソウショウに散らされた羊たちが、こちらに向かって駆けてくるのが見えたから。でも、ロイドは身動きしない。近づくまで待って、咆哮をあげた。空気が震える。ぎゅっと捕まっていたのに、振動で離れそうになって、慌ててぎゅーーっとくっつく。その咆哮だけで、近くまできていた羊たちがパタパタと倒れ、ぽんぽんと音がしてお肉に変わっていく。

「あ?」

と間抜けな声をロイドがあげる。

「わたし、拾う」

スルスルとロイドから降りて、羊の肉を拾いまくる。そしてバッグにinだ。

「なんだこりゃ」

憮然とロイドが呟くから、わたしはこっそり鑑定をかけた。普通に羊のお肉だ。上質な。

「羊、お肉」

「いや、そうじゃなくて」

と、視界がブレて。え? と思ったときは山羊まみれだった。牛ぐらいの大きさの山羊の団体に囲まれていた。

何もこんなところにワープしなくても良くない? 一気に血の気が引く。

一頭の山羊がわたしに気づく。

「ンメェェェェェェェェェェ」

一頭が思っていたより高い声で鳴くと、会話しているかのように他の山羊も鳴く。

「メェェェェェェ」

「メェ?」

「メェェェェェ」

「メェェェェ」

「メェェェ?」

「メェェェェェェェェ」

ビブラートを効かせた鳴き方だ。

距離をとられ、わたしの周りに隙間ができてゆく。そしてみんな中央のわたしを見ている。

この数じゃ眠り玉は間に合わない。そうだ、光を出して、目眩しで逃げる。ただ足の遅さでどこまで逃げられるかはわからない。後ろ手でリュックから光玉の魔具を呼び出して、握りしめる。

飛びかかられるタイミングで、掲げる、そう決める。

その時、バタバタバタと後ろの方からヤギが倒れていった。そして弾けた音がして。

その道筋を作っているのはわんこじゃなかった、黒い狼のロイドだった。

山羊を蹴散らして、わたしの元に駆けつけてくれたロイドの首にすがりつく。

ロイドが中庸型になって、抱き上げてくれた。

「怪我してねーか?」

「怪我、ない。ロイド、ありがと」

ぎゅーっとしがみつく。ロイドは背中をポンポン叩いてくれた。

マジびびった。

山羊たちは標的をロイドに変えたけれども、倒されたのは山羊たちの方だった。ロイドが戦う邪魔になっていると思うので一度降りた方がいいか聞いてみたが、それでまた飛ばされたら本末転倒なので、抱えられていろと言われた。大人しくしておく。いいかげん山羊の数に辟易してきたところに、アークとソウショウが来てくれた。ふたりが加勢してくれると、分が悪いと思ったのか、山羊たちが散っていった。わたし以外のみんなでドロップ品を拾ってもらい、わたしがバッグに入れていく。山羊はお肉、ミルク、チーズ、それから糸みたいのも出てきた。

「なぁ、このドロップの多さはなんだ?」

ロイドがアークたちに尋ねる。

「そう尋ねるってことはロイドはこのダンジョンでこんなにドロップしなかったってことですね?」

そうか、このダンジョンが特別ドロップするってわけでもなさそうだ。

でもそれもそうか。もし、ドロップが多いダンジョンなんてのがあったら、人が殺到してそうだもんね。

わたしはこの階ではロイドから降りるな指令が出た。ロイドが重たくて申し訳ない。そういうと、羊肉がいっぱい食べられそうだからいいって。太っ腹だ!

ボス部屋とセーフティスペースがある。ここで食事を取る事にした。お昼はだいぶ過ぎてしまっていた。

ロイドのために羊肉をいっぱい焼いた。山羊のチーズを乗せたり、ミルクもいっぱい出たから野菜たっぷり、羊肉を柔らかく煮込んだシチューも作った。甘くするか聞いてみたけれど、わたしのご飯は、それはそれで好きだからそのままでいいって言ってくれたので、わたしの好きな味付けにさせてもらった。煮込む羊肉は内緒でちょっと熟成させた。お肉の酵素を活性化させてみたのだ。きっと、うまいと思う! 急いで作りたいから、ちょっとの発酵ですむフォカッチャもどきだ。ドライイーストはないし、油もくるみ油だけど、シチューと一緒にいただく、ちょっと添える炭水化物ということで。

羊肉の醤油とコンダイおろしのタレはロイドにも好評だった。シチューは間違いなく、おいしい。煮込んでこんなに柔らかく、そして味がいいのも初めてと言われた。熟成、正解!

お茶を飲んでからボス部屋に突入だ。

「お前からは森の匂いがするな」

ソウショウが驚く。

「古代種というのは鼻がいいんですね。私の一族は森の民と呼ばれていました」

「森の民?」

「森のことを知り尽くし、薬草を煎じて薬師になるものが多かったのでそう呼ばれたりしたんです」

「ソウショウも、薬草、知った、いる?」

「ある程度は」

「凄い!」

「私は褒められるのが好きじゃないんですが、リィヤに褒められると嬉しいです」

「ソウショウ、変わってる」

「変わってますか?」

「褒められる、大好き。頭、撫でる、もらう、好き」

「末っ子か?」

みんな年下だけど、17番目だから末だね。

うん、と頷く。

「「「納得だな」」」

「みんな大人、なる、わかる。大人、なる、撫でて、いない。子供うち!」

成長するに従って、褒めてもらうハードルが上がるからね、そうそう褒められたりしなくなるし、誰彼構わず撫でてくれるなんてことなくなっていくんだから。

「幼いんだか、達観してるんだか」

「赤子だろ」

「赤子、違う」

ロイドが大きな舌でペロンと隣に座るわたしのほっぺを舐める。

「ほら、やっぱり赤子の味……、なんで剣抜くんだよ?」

「なんで舐めるんだ! お前はリィヤを食う気か?」

狼って人食べるっけ?

肉食か。お腹が究極に空いていたら食べるかも……。

「羊、わたしより、うまい、絶対!」

わたしは羊をオススメする。ロイドが楽しそうに笑った。

「羊と赤子、喰べ比べてみなきゃ、どっちがうまいかわからねーじゃねーか」

「ううん。絶対、羊! わたし、わかる」

勢い込んでいうと、3人は盛大に笑い出した。

「大丈夫ですよ、リィヤ、人型のときは人を食べたりしませんから」

? マジか? 冗談だと思ったから、のったのに……。

人型じゃないときは、食べるんですか??

「お前さんも、何気に毒吐きだな。赤子、お前は喰わないでいてやる」

「ホント? 絶対?」

ロイドが頷いたので、ほっとする。それに、そうだよ。ロイドは最初に会った時とか、食べる機会ならいくらでもあったのに食べられなかったし、助けてくれたもん、食べるはずない。

けど、そうか、獣人は獣型のときは近寄ると危険なのか。ここではわたし限定みたいだから、成人すれば、食べられなくなるのかな。それともアークとソウショウが強いからかな? あとで確かめておかなくては。

ボス部屋のボスはクマだそうだ。最初が肝心だという。入ると最初に現れるのは子グマ5体ぐらい。ぬいぐるみみたいなふわふわもこもこの姿で人の気を緩ませるらしい。その時に確実に数を減らしておかないと、少しすると合体して大グマになる。1体なら、普通のクマぐらいに。2〜3だと、魔法も使ってくる大グマに。4体以上だと、とんでもなく強い何かになるようで。もし4体以上残ったら、部屋を出るか部屋を破壊しないと、全滅は免れないらしい。わたしたちはロイドに会えてラッキーだった。そんな情報知らないもん。ぬいぐるみみたいなクマなんて倒せなかったかもしれない。いや、ダンジョンでそんな甘いことを考えるのはわたしだけか。

扉を開けて、ボス部屋へ入る。ごちゃっといた子グマが無垢な目をして一斉にこちらに振り返る。その愛らしいこと!

「躊躇するな、行け!」

ロイドの掛け声にハッとする。ボス部屋に入ったので、わたしはロイドからおろしてもらう。

「大人数で入ると、自動的に子グマの数も跳ね上がるのか、厄介だな」

そう呟いてからロイドも戦い始め、わたしもラケットバットで一頭を叩いた。

え?

ん?

見間違い? いやね、ドロップしなかった。

それに、なんか子グマのサイズがね、さらにちーーーーさくなって消えたように見えたんだよ。

「どした、リィヤ」

「叩いた。ドロップ、ない。手のひらサイズ、小さく、なった、見えた」

10体いた子グマは、わたし以外順調にみんな2体ずつ倒し、あと3体だ。

「ドロップしないこともあんだろ」

アークに言われて、そうだよな、と納得する。

でもさっき小さくなったように見えたのはなんだったんだろう。

ロイドとソウショウがもう1体を共闘して倒しているが、時間切れとなったみたいだ。

1頭、2頭と集まってきて、子グマが合体して大グマになる。3体だから魔法を使ってくるはずだ。右手でアークを指差す。アークが飛び上がると、元いた場所に雷みたいのが落ちた。

アークとソウショウが合図しあって、左右に飛びながら剣を振るう。その隙にロイドがお腹にパンチを何発も打ちこむ。

ポケットに忍ばせた眠り玉を握りしめる。

自分でもなぜかはわからないけれど、ふと、部屋の角を見た。スモールサイズの子グマがいた! さっき見えたの見間違いじゃなかったんだ。わたし、倒してないんだ。

スモール子グマは合体グマに忍び寄っている。4体目が合体したら、全滅。

わたしは走った。でも、遅いからスモールに気づかれた。大グマにも気づかれて、手が伸びてきた。わたしは眠り玉を投げた。命中率100%だから当たり、スモールは本当のぬいぐるみみたいに動かなくなった。ただ、わたしは大グマに鷲掴みされた。もう少し力を入れられたら、わたしの中身が飛び出る。

「ロイド、ぬいぐるみ、4体目、壊す」

わたしは掠れた声でロイドにお願いをした。

ロイドがぬいぐるみを踏むと、白い煙が出て、何かにドロップした。

手が動かせないから、バットも使えないし、眠り玉も呼び出せない。

「リィヤ、捕まっとけ。俺を信じろ!」

わたしは捕らえられたまま、頷いた。うん、信じる。絶対助けてくれる。

動かないで、指示を待つ。指示されたらすぐにそう動けるように。

熊は左手で、指差す。そこに水柱が立った。3人のいる場所を狙って、水柱を叩きつけている。雷を出す手はわたしを持っているから出せないのだろう。

不思議だ。わたしの魔法とは違い、水柱の水はすぐに蒸発でもしたかのようになくなる。何でそんな器用なことが起こるんだ? 水と雷……だから、とか?

クマはわたしを右手から左手に持ち替えた。指先がソウショウのレイピアを狙ってる。

そうか。

わたしは魔法でクマを濡らしにかかる。

「リィヤ!」

何やらやり始めたわたしに喝が飛ぶ。

「水と雷。けど、わたしも、感電、ある」

どこかに雷を落とすよりも、濡れていたら、先にクマの方が感電するかと思うのだけど、問題は一緒にいるわたしも感電するってことだ。

「リィヤ、思いっきり、水出せ。あとは任せろ」

3人が顔を見合わせている。

「わかった」

わたしは、信じてる。なんの力もない子供の無謀なダンジョン挑戦に付き合ってくれたふたりを。困っていたら共闘を提案してくれて、本当に守り切ってくれたロイドを。

魔法のチョロチョロ水では思いきりに足りないので、カエルのボスのために井戸から汲んできて半分も使わなかった水を、アイテムボックスからクマの身体目掛けてかけてやる。びしょびしょだ。

ソウショウがチョロチョロ動いて、クマをいらっとさせている。

アークとロイドが高速で動いてダメージを与えていく。

合体グマが魔法を出そうとした時、わたしを抱えていた左手の肩から血が吹き出し、叫び声をあげた。

わたしは放り出され、アークにキャッチされる。

ひとところに固まったわたしたち目掛けて、右手を指差す。わたしは水のボールをイメージして、それを右手に突っ込ませる。ちょうどその時、雷を発動させて、濡れた自分の手から自身に伝わったようで、バチッバチッと大きな音がして、火花が散った。カクカクっと恐ろしい動きをして動かなくなる。焦げたような匂いが充満した。

ボンと音がして、大きな何かが現れて、ついでに階段も出てきた。

感電、ヤバイ。敵とはいえ、恐ろしいことをしてしまった。

あ、そうだ。

「ありがとう」

みんなにお礼をいう。

「偉かったぞ」

「……うん、信じた。絶対、助ける、くれる」

と、アークがキャッチした体勢のまま、わたしのおでこに口付けた。

ええっ?? 顔が赤くなっているかもしれないが、アークはナチュラリーだ……祝福みたいなものなのかもしれない。きっとそうなんだろう。

アークがおろしてくれる。

ソウショウが頭を撫でてくれて、ロイドにも髪の毛をかき回された。