軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87話 初めてのダンジョン⑥ホリデの街 紅二点

メアリーさんも街に一泊していくという。同じ宿屋で、贅沢にひとり一部屋だ。

ドロップ品でかなりいい金額にいったからだ。流行ってないといっても、ダンジョンがある街だけあって、大きな宿屋だ。このご時世お客さんはさぞかし少ないだろうと思ったけれど、流通はなくせないからか商人さんがそこそこ泊まっているみたいだ。街自体もわりと賑わっている。

ギルドの買取カウンターでは、あんたたちはどれだけ潜っていたんだと言われた。

3人でそれぞれギルドにおろさない欲しいものを3つ選び、あとは売った。わたしは全部お肉だ。235万になった。そのうち10万は次ダンジョンに潜るための資金とする。残りの225万の3等分で75万もらえた。あと60万あればオーデリア大陸に帰れる。次はもっと上の階を狙うから、同じぐらいドロップすれば絶対に目標金額をクリアできるだろう。

今までクリアしたところまでは、なるべく体力を消費しないようにして、上に上がって行くんだそうだ。そうか、セーブポイントがあるわけでないから、続きからというわけにはいかないか。

ふたりは当たり前のように、次も一緒に潜ってくれるつもりでいる。ありがたかった。ダンジョンで一攫千金なんて目が眩んでしまったけれど、アークとソウショウがいなかったら、わたしは確実に死んでいた。

明日からまた潜るための買い物を終える。ほとんどがご飯の材料だが。わたしはこっそりアイテムボックスに井戸の水を収納した。3階のカエルのボスにはこれをくれてやる。

「じゃぁ、今日は慰労も兼ねて、メシ食いに行こう!」

わーい、外ご飯だ!

「いいですねー」

とメアリーさんは微笑んだ。メアリーさんは買い物についてきた。なるべくアークやソウショウと一緒にいたいみたいだ。

それじゃあ、1時間後に宿前に集合と決めて、各自部屋に戻ることにして一旦別れると、メアリーさんに腕を引っ張られる。

ふたりきりになった廊下で壁ドンされる。嬉しくない。

「遠慮しなさいよ。普通紅一点って言ったらわたくしがチヤホヤされるはずなのに、なんであなたが構われるわけ?」

わたしはジト目で見てやる。

「まず、どっちか、決める、いい」

「そんなにすぐに結論出せるわけないでしょう?」

「運命、言った」

メアリーさんはコホンと咳払いをする。

「好きにする、いい。わたし、ご飯、食べる、行くだけ」

「まったくなんだって、あなたみたいなどこにでもいそうな子供に目をかけるのかしら」

その通りだけど、失礼だな。

でも、わたしにはその本性を隠さないところは、なかなか天晴だ。ついでに聞いてみたくなる。

「どうして、会っただけ、一生懸命、なれる?」

「あのねぇ。女心を教えてあげる。恋に命をかけるのが乙女なの!」

そう言い切るメアリーさんは、凛とした強さがあった。

「知り合ったらすっごく好きになるかもしれないわ。せっかく会えたのにお知り合いにならなかったら、もったいないわ。どんなにいい人かもしれなくても、街に永住していなければ、別れたらもう会えるかもわからないのよ? 出会いに命かけるに決まってるじゃない」

そっか。こちらの世界ではもう会えないことは多々あるわけだから、そうなるか。

わたし、この娘、嫌いじゃないや。

「頑張れ!」

「なんで上から目線なの? なぁに、自分の方が好かれている自信?」

心から言ったのに、誤解された。

「違う。ほんと、そう、思った」

疑うようにわたしを見る。

外ご飯では、またまたアークが奢ってくれた。年齢は言わないけど、自分が一番年上だからだって。16ぐらいに見えるけど、20歳とかいってたりして。本当のところは絶対に、わたしが一番年上だけどね! でも、船代を貯めたいので、悪いけれどご馳走になる。

3人はエール、わたしはジュースで乾杯した。エールなんか羨ましくないもんね。わたしには壮大な計画がある。メアリーさんはお酒に強いのか最初に一気飲みだ。いい飲みっぷりと褒められ、3杯も飲んでいた。

子供のわたしは食事に集中。こちらの大陸の食事は煮込み系が多い。そして甘い味付けが好まれるみたいだ。もっと言えば甘いか辛いかの両極端。アークもソウショウも違和感がないみたいだから、こちらでは普通なんだろう。お酒もエール以外は度数の高いものばかり。まさに寒い地方という品揃えだ。

わたしはマットマとトンベェという魔物のお肉を煮込んだ料理に舌鼓をうった。トンベェは缶詰のウインナーみたいな味がする。全体的にかっらいけど、葛きりに似た透明のお蕎麦みたいのが入っていて、これで辛さが和らぐのだ。

この味付けに慣れていたら、わたしのご飯の味付けは薄いと感じるだろうに、みんな美味しそうに食べてくれた。いい人たちだ。

わたしの部屋にメアリーさんが飛び込んできた。鍵かけるの忘れてた。こっちはオートロックじゃないんだっけ。ひとりで旅していた時は気をつけていたのに、やはり誰かと一緒に行動していることで気が緩んでいるようだ。気をつけなくては。それにしても、ノックぐらいしてほしい。

メアリーさんの夜着なんだろう。黒のキャミソールとショートパンツをインナーに薄い透けた感のある白い上下を上から着込んでいる。いろっぺぇじゃないか。こちらの女性は足は見せないものだと聞いたけれど、膝がギリギリ隠れるぐらいのハーフパンツで可愛らしい。襟首が大きく開いていて、胸あてはハーフカップなのか、大きな胸が盛り上がって鎮座しているのが、透けた夜着からもわかって、そそる格好だ。なんだ、アークかソウショウに奇襲をかける気か?

「騙されたわ。あなた女の子だったのね!」

さっきお風呂ですれ違ってしまったのだ。騒がれるとめんどくさそうなので逃げてきたが。

バレちゃったものはしょうがない。

「だから、何?」

メアリーさんはわたしを正面から睨みつけた。別に怖くないけど。でもそれはただのポーズだったみたいだ。

「女の子なら、まぁ、いいわ」

何がいいのか知らないけれど、メアリーさんはベッドに上がり込み、わたしの正面に座り込んだ。

「リィヤって色白ね。それに肌が生まれたてみたいだわ」

ぷにっとほっぺを引っ張られる。

「触る、やめる」

わたしが嫌がると、メアリーさんはニタっと笑った。

「あら、12歳よね? もう胸、けっこう大きいじゃない」

わたしは眠る時はサラシは巻かない。部屋で眠るだけなので、夜着を着ているだけだ。

「大きく、いない。大きい、メアリーさんみたい、いう」

だって桃ぐらいたわわなのをお持ちなんだもの。

「柔らかそう」

思わず、感想が口から出ると

「触ってみる?」

と、首を傾げた。

「いいの?」

尋ねるとお許しが。人差し指でハーフカップ上に盛り上がったふくらみをつんと押させてもらう。

うわー、やわらかい!

「ふわふわ」

対して力を入れなかったのに、ふにっと第二関節まで指が埋まったからね。

ほぉ。これはこの柔らかさを堪能したいと思う人がいても、そうだろうなーと納得できる。

ほら、普通に暮らしていると、人様の女性の胸なんて触ることないからさー。大きさと柔らかさは因果関係があるのか? わたしのはここまで柔らかくなかったし、今回も育ったとしてもそこまで柔らかくはならない気がする。

「それは、何?」

わたしはベッドの上で作業をしていた。そしていきなりメアリーさんが入ってきたので、瓶をずらして背中に隠すようにしていたのだ。

大きい瓶を指さしている。見られてしまった。

「え? あ、ダメ」

わたしは瓶を抱え込んだ。

わたしは元の世界で下戸だった。相性が悪くてコップの上から2センチほど飲むと、気持ち悪くなって起き上がれなくなってしまう。アルコールを分解する酵素を持っていないのかもと思えてから、果敢に挑戦するのは止めてきた。

だが、毎年夏になると羨ましくてしょうがなかった。ビアガーデン。『とりあえずビール』での乾杯。暑くて喉が渇いたところに、一気飲みして、プハーってやる。食べ物でお酒を合わせ、どちらもよりおいしくなる相乗効果を狙う。枝豆とビール。スポーツ観戦しながらのビール。コップから溢れ出て升が受け止める日本酒。このワイン、何年もの?とか言ってみたい。なんなら記憶なくすまでの飲みとか、二日酔いとかも憧れの対象だった。

わたしは飲まなくてもテンションをあげることは可能だったが、やはり飲めないと飲み会には参加しづらかった。いくら飲まなくても食べるから大丈夫といってもね。酒代の方が高いという理由で、飲めないわたしは安くしてくれるとかで、やっぱりそれは参加しにくくなる要因のひとつだった。

でも夏になるとね。どうしても憧れてやりたくなって、お酒を買ってみたりするんだけど、やはり2、3口で、体が拒否しはじめる。お酒にあうレシピもいろいろ作ったけれど、お酒と一緒に楽しむことはできなかった。飲めないくせに果実酒なんかもよく作った。ひょっとして飲める何かがあるんじゃないかと思って。全部姉に飲んでもらうことになったけど。

そして今、ぶどうをみつけた時に、天啓を受けたと思った! これは神様が夢を叶えなさいといってくれているのだと。

ふふふふふ。今は12歳だけど、あと2回ぐらい成長すればわたしは成人する。そしたらお酒が飲めちゃう。わからないけど、この体はお酒が飲めたりするかもしれない!

ぶどうが手に入った。これだけでワインが作れちゃう! 日本だったら、ぶどうでお酒作ったら捕まるけどさ。あ、アルコールの度数が低ければよかったっけ? まぁ、ちゃんとは覚えていないけど。ここではそんな法律とかあるのかな? まぁ、いつか誰かに聞いてみよう。

ぶどうを軽く洗って水気を風魔法できり、瓶の中に入れて、上から菜箸で潰しまくった。そして、熟成イメージで瓶の中の菌の活動を活発化させてみた。無属性の魔法でできるかわからなかったけど、ちょっとやってみた。最初は瓶の中の時を早められないかと思ったんだけど、それはできないみたいだ。何も変わらなかった。なので、酵母を活性化させてみた。そうしたら、ぶくぶく泡がたってきたんで、できたんじゃないかと思う。そのまま熟成をさらに進めると、なかなかいい色になった。

ベッドの上でそんなことをしていたら、メアリーさんがやってきて。しまう時間もなかったので、背中で隠していたのに。

「ちょっと、見せて」

「ダメ」

「味見させて」

「ダメ」

「なぜ?」

「気持ちいい、なる。ずるい、ダメ」

鑑定してみると『かなりおいしいワイン〜ほのかに魔力を色づかせる〜』になっていた。魔力が色づくっていう比喩はよくわからないけど、ほろ酔いみたいな感じになるのかな、と思う。酔っ払っていい気分になるなんて許せない。大きくなってからわたしが最初に飲むはずなのに、それをメアリーさんに飲まれちゃうなんて言語道断だ。

「リィヤちゃぁん、さっき、わたくしの胸、触ったわよね」

「いい、言った!」

ひょっとして、瓶が見えていて、最初からそれを狙っていたのか?

「でも、触ったわよねぇ。少し舐めさせてくれるだけでいいから」

相当の酒好きだ。なんで見ただけでわかるんだろう。

「いや! わたしの。ダメ!」

と、部屋のドアが急に開いて、何人もの人が雪崩れ込んできた。びっくりしてメアリーさんと瓶を真ん中にひしっと掴み合う。

「な、何?」

何事? アークが顔を出した。ドアの外にもなぜか人だかりができている。

メアリーさんが呆然としているわたしから瓶を取り上げようとするので、わたしも必死に取り返す。わたしと彼女が瓶を取り合っているのを見て、アークがため息をつく。後ろにいる、多分他の泊まり客だと思うんだけど、ぽかんと口を開けている。

アークは倒れ込んでいるおっさんたちの首根っこを捕まえて、部屋からホイホイ投げ出した。

ソウショウが覗き込んでいる人たちを捌いて、ふたりで部屋に入ってくる。

「それで、何をしていたんです?」

ソウショウに尋ねられて、メアリーさんがわたしの抱える瓶を指差す。

「リィヤったら子供なのにお酒なんか持っているんですもの」

「酒?」

「グリープ酒、ですわよね?」

なんでわかるんだ。

「酒? なんでリィヤはこんなの持ってるんだ?」

「これ、わたしの」

わたしはキツく瓶を抱きしめる。

「グリープって、3階で収穫してましたね」

ギクっ。今作ったってバレる? すぐ熟成はしないよね、やっぱり。魔具を持っていたことにしよう。

「それより、何か、用、ある、来た?」

「人だかりができていたから……」

とアークが言葉を濁し、ソウショウが顔を赤くする。

そうだった。なんなんだ、あれは?

「何で、部屋、人、来た?」

「お前たちが変な会話してるからだなー、あ、いや。念のため、リィヤ、後でオレと部屋交換だ」

なんで? お酒がバレたから?

変な会話って、お酒を取られないようにしていただけなのに?

問い詰めたいが、こういう時、言葉が不自由設定が足を引っ張る。

と、メアリーさんに上から瓶を取られた。

「あ、ダメ!」

「ちょっとよ、ちょっと」

栓を引っ張ると、ポンといい音がする。

メアリーさんの抱えた瓶からグリープの芳香な香りが漂う。

「これはまた上質な」

「リィヤ、オレも飲みたい」

「私もです」

お世話になったふたりに言われたら断れないじゃんか。

「……ちょっと、だけ」

コップとお碗に少しだけ注ぐ。わたしの分も注ごうとすると、駄目と言われる。ちっ。

3人はまず匂いを楽しんでから、こくんと喉を鳴らす。

「すっごく美味しいですわ。甘いのに、深いわ」

「なんだ、こりゃ。混じりけなしって感じだな。味が濃くてうまい」

「不思議です。甘いのに、よく熟成された感じでまろやかだ。こんな純度の高いもの、初めていただきました」

そうだろう、そうだろう。気分が良くなったので、もう少しだけ振る舞ったところ、度数が高かったのか、皆さんうっすら顔を赤くさせて気持ち良さそうな顔してお眠りになってしまった。わたしの部屋で。

起きないし動かせなかったので、みんなの部屋から上掛けだけ引っ張ってきてみんなの上にかける。メアリーさんの部屋は鍵がかかっていたから入れなかったので、上掛けは2枚だ。

うーーむ。アークの足を持って、なるべくソウショウに近づける。背中を押して、ソウショウに近づける。よし。ソウショウとアークでひとつの上掛け。メアリーさんでひとつ。よしっと。

アークとソウショウの部屋には宿の人に鍵かけをお願いしたし、これで大丈夫だよね? わたしはひとり、自分のベッドで眠らせてもらった。

朝起きて、みんなに謝ってもらったが、別にそれはいい。

宿の朝ごはんをいただき、メアリーさんとはお別れだ。

別れがけにほっぺたを横にふにーっと引っ張られた。

「男の子の格好をしていても忘れないで。乙女は恋に命をかけるの!」

こそっと耳元で囁かれる。

「それ、メアリーさん、だけ」

気に入らない返答だったのか、もう1回ほっぺを引っ張られた。

アークとソウショウに丁寧にお辞儀をする。

「本当に助かりました。ありがとう存じます。またダンジョンに潜られるんですよね。お気をつけて」

メアリーさんはわたしたちに大きく手を振って、自分の街へと帰って行った。

「さて、オレたちも、ダンジョンに入るか」

メアリーさんを見送ってから、塔ダンジョンへと足を向ける。

「行きますか」

「よろしくってよ」

「お前さ、よろしくってよは気が抜けるからやめろよ。間違ってないが、いいとこの女が使う言葉だ。これからは、わかったって言え」

「わかった?」

よしとアークが頷いたので、わたしも大きく頷いてみせた。

「わかった」