軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

86話 初めてのダンジョン⑤塔5階 非常口

夜中に熱が上がった。体の表面は熱い気がするのに、内側は寒くて震えがくる。毛布にくるまっていてもまだ寒い。

「リィヤ、入るぞ」

そんな声が聞こえた気がした。

「熱、高いですね」

「リィヤ、お水ですよ。飲んで」

何か指示されたり、何か言われた気がしたけれど、実はあやふやだ。

明け方に起きて、驚く。わたしはアークとソウショウに挟まれて眠っていた。わたしのテントの中だ。

「目、覚めたか?」

アークがピクッとして起きて、わたしのおでこに手をやる。

「熱も下がったな」

起きたての声はいつもよりちょっと低くて、気怠そうな仕草もセクシーだ。

「熱、ひきましたか。よかった」

目を擦りながら微笑んだのは美人さんのソウショウで。美人は起きたても美しい。

「ふたり、看病、くれた?」

「熱が高くて震えてたからな」

そうだったんだ。

「ありがとう」

「おはよう、です」

彼女のテントから出てきたメアリーさんに声をかける。

彼女は目を伏せて答えた。

起き抜けは機嫌が悪いのかも。

沸かしたお湯にノープラン出汁のモトを入れて、マットマと丸ねぎをいれる。丸ねぎに火が通ったら、火を止めてお味噌を溶く。いい匂い。

炊き立てご飯に、チーズオムレツ。塩漬けにしたコタンダのお肉を薄く切ってしゃぶしゃぶ風にお湯で熱を通し、醤油ダレとアーモンドみたいなモッツを砕いて上から振りかける。さっぱりしてるからソウショウが好きそうだし、モッツの食感でアークも楽しんでくれると思う。

メアリーさんの好きなものはわからないから、ミリョンの蜂蜜漬けを口直しにつけておく。女性受けはいいはず。

支度を整え各自のテントから出てきたアークとソウショウにメアリーさんは愛想よく挨拶をした。

わたしは呆然とする。わかりやすっ。目当て以外に気を使わないタイプか。

「お、今日もうまそうだな」

大盛りにしてご飯をよそう。みんなで揃っていただきます、だ。それぞれの食前の感謝の言葉を口にする。

コタンダ、やっぱり醤油だれが合う。モッツの食感も楽しい。丸ネギを薄切りにしてお水でさらしたのと合わせて、サラダ感覚で食べても美味しいかも。

チーズオムレツは大好きだ。この卵ととろりとしたチーズたんまりがたまらん。ご飯をすかさず放り込んで味わい、マットマと丸ねぎのお味噌汁を流し込めば口がさっぱりする。

あー、幸せ。

わたしが食べ終わったときには、みんなももう食べ終わっていた。

慌てて、ブレンドティーをいれる。メアリーさんも蜂蜜漬けまで残さず食べてくれていた。よかった。

「俺たちは5階に行くけど、あんたどうする?」

アークが尋ねれば、メアリーさんは上目遣いで尋ね返した。

「わたしも5階に行きたいです。ご一緒させていただいていいですか?」

この階のボスはポセッタンだったみたいで、ポセッタンを倒すと、湖の一角に階段が出現していた。時間が経つと解除されちゃうんじゃないかと思ったが、階段はそのままあった。

メアリーさんはCランクの冒険者だった。ギルドの依頼で、ポセッタンのヒゲを取りにきたそうだ。ポセッタンはこの辺だとこのホリデのダンジョンにしかいないので、ここに来たそうだ。眠り薬を使ってポセッタンを眠らせヒゲを1本もらい、引き返そうとしたところで、眠り薬が切れてしまい、捕まってしまって、もうダメだと思ったそうだ。

長いまつげをビシバシ言わせて目を頻繁に瞬かせ、ふたりに丁寧に頭を下げる。

「あんたみつけたのはリィヤだから、お礼言うならこの子に言って」

メアリーさんが頭をあげた。

恐っ。

口元は微笑んでいる。

「まぁ、そうでしたの。リィヤ君、ありがとうございました。あなたはわたくしの恩人ですわ」

口調も心底そう思っていると思えただろう。目を瞑って聞いていたら。

でも、目が雄弁に語っている。あんた邪魔って。

「いえ。わたし、何も、する、いない。助けたの、ふたり」

事実を言っておく。めんどくさっ。近寄るのやめておこう。

「ところで、お3人はどういったご関係ですの?」

「乗り合い馬車で一緒になったんだ」

「リィヤがダンジョンに行きたいというので、ついてきたんです」

「ただそれだけの関係だな」

合ってる。いや、間違ってないけど、その通りなんだけど、何かしらの言葉が足らない気がする。

案の定、メアリーさんの眉が微かに上がった。わたしは彼女から目を逸らした。

テントを片付けていると自分のはあっという間に片付けたメアリーさんが手伝ってくれるという。

取り込みに来たか。

「わたくし、運命を感じたんですの」

唐突に彼女は言う。

「どっち?」

尋ねると沈黙する。絞り切れてないのか。それで運命を感じただって?

「わたくし、リィヤ君に応援して欲しいのです」

「わたし、メアリーさん知らない。アーク、ソウショウ、応援、いる」

にこりと微笑んでおく。

「手伝い、ありがと。感謝」

テントをバッグにしまいこみ、バッグを背負う。

5階に登る。この階は最悪だ。虫ぜめだった。

洞窟みたいなフィールドで、ムカデ、ダンゴムシ、クモ、そういった節足動物ばかり。しかも、全部体長1メートルぐらいとでかい。わたしとメアリーさんは声をあげまくる。良くないのはわかっている。でもああいうのみるとゾワワってなっちゃって、みた瞬間に声をあげてたりするんだよ。もちろん死にたくないから、攻撃する。けれど気持ちで負けている。積極的にはなれなくて足を引っ張った。

「あなた男の子のくせに虫がダメなんて、男の風上にもおけませんわ」

「虫、だめ、男、女、関係、いない」

そういっている間にも、どんどん虫が湧いて出る。これ、いっぱい過ぎでしょ! 1階のマッドバットといい、数が半端ない。初心者用でこれなの? その認識間違っていると思う! レベル高くなきゃ、わたしじゃなくったってすぐ死んでしまいそうだ。出てくる魔物自体のレベルはそう高くなくても、こんだけ団体でこられたらたまらない。

「これは分が悪いな」

アークがひとりゴチると、ソウショウが手で指差す。

そちらを見てわたしは目を疑う。だって、非常口によくある、逃げる人のピクトグラムだ。

脱出用のワープ口だそうだ。天然物になんでそんな人くさいものが作られるのか意味がわからないが、あるのだからそういうものなんだろう。

「脱出でいいか?」

尋ねられてメアリーさんも頷いた。わたしたちはワープ口から外へと脱出した。