軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85話 初めてのダンジョン④塔4階 水の中の魔物

3階のボスを倒すと、そこに階段が現れた。階段を上るとすぐにセーフティスペースがあった。

そこでお昼ご飯にすることにした。なんか、ふたりとも暗い。どうしたんだろう? 果敢に戦っていたけど、実はカエル嫌いだったとか?

元気が出るようにコタンダのお肉と野菜でホットサンドにしよう。チーズも入れちゃおうかな。

コッテリ好きなアークはチーズたんまりで、あっさり好きソウショウには爽やかでさっぱりするセロリンのスープで、きっと満足してくれるはず。ホットサンドは上から押し付けて焼くようにするのが、おいしいのコツだ。パンをカリッとさせてこそ、中に挟んだジューシーな具と合うと思う。つけ合わせのジャガモとブロンコリも隣で一緒に焼いておく。

お皿にモリっと盛り付けて、いただきますだ。

コタンダのお肉は、脂が適度にのっていて、なかなかおいしい。醤油ベースが合うかもな。今度コタンダを料理するときにはそうしてみようっと。

すごい勢いで食べてくれるが口数が少ない。どこか元気がない。

「ふたり、元気、いない」

少し言いづらそうにアークがいう。

「お前さ、鑑定、できるのか? 明らかに知ってた情報じゃなくて、あのボスを見てから知った情報っぽいよな?」

「アイテム」

咄嗟に口から出ていた。

「アイテム?」

「わたし弱い。アイテム、補う」

「鑑定に似たアイテムがあると言うのですか?」

「申し訳ございません。秘密」

ふたりともわたしが弱っちぃ存在であることには異論はないだろうからね。

わたし自体に何かしらの能力があるとめんどくさそうなので、全ては道具に頼っていることにしようと思う。カウンター機能を持つ武器を持っていることを知っているだけに、嘘とは思われないだろう。

「お前、諜報員か?」

諜報員? スパイってこと?

「違う」

びっくりして、否定する。けれど、気になる。

「好奇心、聞く。ダンジョン、諜報する。いいこと、何? お金、なる?」

ひょっとしてダンジョンを探るとお金になったりするのかな? わたしでもできることかな?

アークが半開きの目でわたしを見ている。

「そうだよな、無謀なガキに、俺は何を血迷ってんだか」

「オーデリアは子供でも知識が高いと認めざるを得ませんが、あまりにも穴がありすぎますね」

馬鹿にされてる?

なぜか、アークに頭を撫でられる。

「ダンジョンを諜報する奴はいない。疑って悪かったな」

ダンジョンじゃなかったのか。それじゃあ、アークは何を対象として聞いたんだろう?

「炎は? お前、属性3つって言ってたけど、火も使えるのか?」

わたしは魔具を出してみせる。

「火の魔具。便利。こっち、光。魔力、込める」

アークに火の魔具、ソウショウに光の魔具を渡す。

つくづく魔具を作っておいて良かったと思う。命の危険から思わず魔法使っちゃって、属性多いのバレたら洒落にならないもんね。鑑定できたら何かを疑われるぐらいだし。こちらでは今までより気を引き締めないとだな。

ふたりは魔力を込めたのだろう。そしてレベルも高かった。

手加減しているだろうに、熱量がすごそうな、人ほどの大きさの炎が出たし、ソウショウのライトはあまりの眩しさに目を開けていられない。

「すげーな、お前。アイテム持ちだな。でも、大切なもんなら気をつけないと、取られるぞ」

わたしが頷くと変な顔をする。

「絶対、わかってないな」

「言葉、わかる。大丈夫」

「どちらを売っても船で往復できるぐらいにはなるでしょうからね、それを売らなかったぐらいです、大切なものなんでしょう。これも形見なんでしょうけれど、使うときは十分気をつけるのですよ」

え? 船で往復できるぐらい? 属性ひとつに特化しただけのスライムの魔石がそんな高く買ってもらえちゃうの? だったらさっさと売って。でも待て。普通の魔具と同じかな? わたしが作ったってバレないかな? それに価値がわからないから買い叩かれたり危ない目にあうかもしれないしね。売らなくてよかったんだ、きっと。でも、どうしても困った時はそれも手か。わたしは掌の上にのせたふたつの魔具を握りしめた。

草原の絨毯を踏みしめるよう少し歩くと、湖だ。4階には湖が広がっていた。

キラキラと湖面が輝き、風と共にさざなみだつ。

「伏せろ」

アークに頭を押さえ込まれる。

ビュンと何かが通った。鷹? 鷲? 猛禽類っぽい大きな鳥。

「大丈夫か?」

「リィヤ!」

身を起こしてとりあえず四つん這いになると、地面にポタポタと何かが落ち、地面に吸い込まれていく。鼻血か。リュックからタオルを出して、鼻を押さえる。大して高くない鼻なのに、地面とゴツンとしたら鼻血が出た。

「悪い、強く押しすぎたか」

「いや、ありがと」

アークは猛禽類のちょっかいから守るために、身を低くするよう押してくれたのだが、地面に思い切り顔面から入ってしまった。

探索かけていたのに。そっか。敵が速すぎるとこういうことも起こるのか。

鼻血でタオルが真っ赤に染まった。

「止まらないな。大丈夫か?」

「ただ、鼻血。止まった平気」

血は落ちにくくなるから、すぐに洗い流しておきたい。湖にタオルを浸すと、タオルから血が流れ始める。

水の色が濃くなった気がして、ん? と思った時には、首根っこを引っ張られてそのままぶん投げられ、わたしは後ろに飛んだ。マジで。

草むらに寝転がったまま、ふたりを見れば、でっかいワニと戦っていた。1匹じゃない。次々と水から上がってくる。わたしが血を流したから寄って来たんだ。

ふたりが連携プレイで次々とワニを屠っていく。

ここはわたしの探索と相性が悪いみたいだ。急にアラームと思って振り返った時には、大きなカバが口を開けたところだった。

「「リィヤ!」」

ふたりの声が重なる。

カバに向かってバットを掲げる。ラケットバットを食いちぎろうとしたカバの歯が軒並み砕けた。カバが恐ろしい声を上げて、わたしを見る。無理だ。バットを当てる前に、食われる。わたしはアイテムボックスから眠り玉を呼び出す。パチンコの反省点を詰め込んだ、こういう時に威力を発揮する眠り玉。元は木の実だ。パチンコに装備しなくても投げれば対象に必ず当たり、絶対に眠らせる眠り玉。ダンジョンに行こうと思った時に、こういったものをいくつもこしらえておいた。

口を開けて迫って来たカバに眠り玉を投げつける。

口の中に入った眠り玉はカバを眠らせ、カバはわたしの3センチ先で倒れる。

危なかった。

ラケットバットでカバを叩く。バフンと音がして、何かの塊がドロップした。

『レベル4になりました』

アナウンスが入る。

ふうと息をつく。

ラケットバットは当たれば威力を発揮する武器だ。だが、素早い敵だとわたしが対応できない。敵がバットを逸れて、アクションをかけてきたら、わたしはおだぶつだ。

ソウショウが駆けつけてくれる。

「倒せたのですね、よかった」

ワニの団体はふたりが片付けたらしい。

「ごめん、わたし血、魔物、呼んだ」

「元々俺が鼻血出させたしな。ワニいると思わなかったし。まぁ、やっつけられたから結果オーライで。気を引き締めないとだな」

流石に4階にもなるとふたりをもってしても油断ならない魔物になってきたようだ。

水音と思った瞬間、湖の中から恐竜のような何かが現れた。

3階建ぐらいの建物の大きさだ。

わたしの前にアークとソウショウが並ぶ。

「4階でポセッタンか。急に跳ね上がったな」

「ポセッタン?」

「水場で有名な結構強い魔物だ。頭がいいんだ」

「なんか、持ってる」

わたしがいうと、アークとソウショウが身を乗り出す。

「人、か?」

え?

「ソウショウ」

「リィヤはここで身を伏せていてください」

ソウショウはアークに呼ばれて頷いて、わたしに指示する。

わたしは言われた通り、身を伏せた。

ふたりが走り出す。

早い!

ポセッタンは近づいてくるアークとソウショウに気づいて短い手で小さな虫を追い払うような仕草をした。アークとソウショウは飛べるのかというぐらい空中で動く。あのふたり、水面を走っている? ふたりの位置が入れ替わり、きらりとした刃が光ったと思うと、ポセッタンに赤い傷が増えていく。

ヤツが咆哮をあげ、派手に動くと、湖の水が波になって陸地まで襲いかかってくる。身を伏せていたわたしのところまで水はやって来て、一気に引いていく時に足を持っていかれそうになった。なんでこんなヒキが強いの? マズイ、これ以上お荷物になりたくない。足をバタつかせ、何かに捕まろうとしたが空を切り、水に引き込まれごろんごろんと転がる。やめてぇ。

なんとか止まり、アークが一際高く飛んでいるのが見えた。ポセッタンの咆哮が上がり、真っ赤な血柱が見えた。また波がやって来て、完全にわたしは水の中に引き込まれた。

音も何もかも遮断された世界。泡と浮遊物の移動で水の流れを理解する。急流と緩やかな流れがぶつかり合って激しく泡が新しく作りだされて視界を遮る。

ぐるんぐるんと流れに転がされて、どっちが上かわからない。息が苦しい。

なんでダンジョンの中で溺れるとかあるんだ?

次に気づいた時、セーフティスペースで、知らない誰かのそばで横になっていた。

焚き火が温かい。

「目が覚めましたか。大丈夫ですか?」

またふたりに助けてもらった。わたしは体を起こす。

「ごめん、また、迷惑。ありがとう」

「お前、着替えろ」

ああ、ずぶ濡れだった。

「できたら彼女の服も脱がせてあげてくれませんか? このままだと風邪をひいてしまう」

ソウショウに言われて、気づく。

そうだ、彼女もずぶ濡れだ。金髪の巻毛を複雑に結いあげた、魔法使いっぽいカッコをしている。ポセッタンに捕まってた娘だろう。テントには運べないな。アークとソウショウはこちらに背を向けている。マントを脱がし、大きめのタオルを用意しながら、胸のボタンに手をかけたところにパチっと目が開いた。金色の睫毛に縁取られた瞳は、きれいな水色。モードさんみたいな色だ。

彼女はわたしを認めた途端、悲鳴をあげて、わたしの頬を叩いた。

「何をするのです? 意識のない女性の服を脱がそうとするなんて」

結構痛くてびっくりだ。わたしが固まっていると。

「誤解です。ずぶ濡れなのは体に悪いから私が頼んだのです。私がやるよりこの子がする方があなたが気にしないと思ったものですから」

ソウショウが説明してくれる。

女の子は顔を赤くした。

「そうだったのね。勘違いしてごめんなさい。ありがとう」

誤解が解けてほっとしているとくしゃみが出た。

「リィヤ、着替えてこい」

アークに言われて、わたしはテントを張って中に入った。体中ねとっとした何かで覆われているみたいで気持ち悪い。わたしはこっそり、自分にクリーンをかけた。気持ちタオルで体を拭きながら着替える。

テントから出ると、女の子はダブダブのアークの服に着替えていた。そっか、わたしはマジックバックの亜空間に入れているから溺れても荷物は濡れないが、普通は濡れるのか。だからアークが予備の服を貸したのだろう。

ちょっと見、そうは見えないけれど、アークはしっかりした体格だから、そんな彼の服をきると女の子の華奢さが際立つ。袖も裾も自分の長さに折っているのがまた可愛らしい。

複雑に結い上げた髪を下ろして。ダボっと着こなした服に女らしい曲線が丸わかりで、大人になりかけの少女の色っぽさみたいのが溢れ出ていて、なんかドギマギする。

わたしは軽く会釈をして、お湯を沸かし、お茶をいれる。お茶といっても、いろんな飲める葉っぱを乾かした茶っぱのブレンドティーだ。

用意をしていると、ソウショウにタオルで頭をゴシゴシやられる。

「濡れっぱなしにしていると風邪をひきますよ」

アークには鼻を摘まれて、口に何かを放り込まれた。

途端、体がカーッと熱くなる。

「 翔照丹(しょうしょうたん) だ。ジロウワニの住処だからな、どんな毒が体に入ったかわからんから飲んどけ。あんたも飲んどくか?」

「わたくしは毒消を持っておりますので、そちらを飲みます。ありがとう存じます」

座ったままきれいなお辞儀をした。

「ジロウワニ、毒ある?」

アークは頷いた。毒を持つワニか。なんて厄介なんだ。

「あのう、わたくし、メアリー・ドルナド・オグシェリーと申します。先ほどはポセッタンから助けていただき、ありがとう存じます」

「ただのついでだ、気にすんな」

「おひとりでこのダンジョンに?」

お茶の葉をこしながら、みんなの分のお茶をいれる。

お茶を出すと、メアリーさんから微笑まれた。美人といえば美人だし、可愛いといえば可愛く、どっちにもとれる。同性ながらどきっとする。

急にアークの手が伸びてきて、おでこに手が当てられる。

「やっぱ、毒に当たったか。熱が出てきてる。リィヤ、寝とけ」

自分でおでこに手をやる。少々熱い気はするが、これくらいならまだ大丈夫だ、動ける。

「ご飯作る、寝る」

「いいから」

「そういう、約束」

「いいから!」

強く言われて、ちょっとビビる。

「リィヤ、今日は携帯食を食べるから大丈夫です。ダンジョンでは体調を悪くするのが何より怖いのです。今日はすぐに寝てください」

わたしはわかったと頷いてテントに入る。

ああ、どうしよう。役立たずが露見した。アークもソウショウも呆れているのだろう。ドロップ品はかなりあるけれど、どれくらいの金額になるかはわからない。

明日で、ダンジョン攻略3日目、街に帰る日だ。そこで打ち切られるかもしれない。

とりあえず、今日はちゃんと休んで、明日の朝食を豪華にしよう。そんでいっぱい戦って。見直してもらわなくちゃ。