軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69話 君を想う⑤スラムのカレーさま

一度カレー脳になってしまうと、忘れるのは難しい。食べられないと思うと余計に食べたくなる。ウコンとパクチーがあればいいだけなのに。

でも、ふと思う。醤油や味噌はあった。日本と同じような調味料を使う国があったからだ。

ってことはだよ、ウコンやパクチーを使うような国があれば売ってたりするんじゃないだろうか。ウコンはインド?? パクチーはタイ、中国、台湾、ベトナム? とにかく暑い国。っていうか、どれも一番料理に使っているのは日本って聞いたことがあるけど。

「チャーリー、市場に一緒に行ってくれない?」

「市場に? うん、いいよ」

チャーリーを連れてアジトを飛び出す。

「暑い国の調味料を見たいんだ」

「暑い国、か。うーーん、トンイとか、マトマトかな。ごめん、それくらいしか知らない」

「ううん、十分だよ」

まず、トンイの国の調味料を売っている店に連れて行ってもらう。

キツイ香辛料の匂いだ。鼻がばかになりそう。

残念ながら、みつからず。

マトマトの物が売っているお店に向かう。3軒ほど先がそうだった。

八角とクミンをみつけた。クミンがあった。びっくり。カレーを作る4つ目のスパイスだ。

八角も何かで使うことがあるかもしれないから両方ともお買い上げだ。

そのお店で暑い国の香辛料を探していると言ってみると、裏の通りにハシドの国のを扱っていると教えてもらい、行ってみることにする。

さらに怪しげなハシドの店には、葉っぱを乾燥させたものがいっぱいあった。一つずつ匂いを嗅いで、ウコンをみつけた!

残念ながらパクチーはなかった。

少し高かったけれど、ウコンを手に入れた。

最後にイースターのお店に寄る。欲しいものがあるわけではないけれど、なんか落ち着くんだよね。

店員さんが液状のものを瓶から樽に移しているところで、辺りに酸っぱい匂いを撒き散らし、通る人が眉を寄せている。

これって、この匂いはお酢だ。

「これ、なんですか?」

「ああ、これはスッタイだよ。国ではよく使われるんだけど、ここでは全然売れなくて。っていうより嫌われてて。匂いがきついからな、捨てようかと」

「買います!」

「え?」

「捨てるはずだったんなら、安くしてくださいますよね?」

わたしは格安で大量のお酢を手に入れた。

思わぬ掘り出し物にホクホクする。

あとはパクチーだけなのに。

ん?

野菜売りの屋台に無造作に置かれた野菜。パクチーっぽい?

吸い付けられるように駆け寄って、匂いを嗅ぐ。パクチーだ!

「チャーリー、カレーが食べられる!」

「あったんだ、よかったね」

チャーリーはほっとした笑顔を浮かべた。

生ものってことは、これから取れなくなる可能性もある。わたしはあるだけ買い込んだ。乾燥させて、粉末を作っておけばいいもんね。

野菜の名前を聞くとコリダーという名前だった。他大陸から渡ってきた野菜だそうだ。種をもらったので撒いてみることにし、どんな土壌が良いかわからないので、4箇所で栽培してみたところ、1箇所だけ育ったそうだ。全部買ったのでおまけといって、種をくれた。強い日差しに弱く、たっぷり水をあげるのがいいのだとか。これは農家さんにお願いしよう!

スパイスは全体的に高いけれども、これが1回分ではない。これらだけでどれだけのカレーになるかの計算はチャーリーたちに丸投げにするとして、うん、赤字にはならない。と、思う。カレーが受け入れられればだけど。

カレーを作る時、パクチーはコリアンダーパウダーでしか使ったことがない。今日は生の状態だけど、そこまで変わりはしないだろう。生姜もニンニクも生で使ってるし。

諦めなければ、道は開ける。そしたらグリーンカレーもいつか食べられるかな?

わたしはあれも大好きだ。

台所が空いていたので、チャーリーに手伝ってもらって早速カレーを作ることにする。

丸ねぎをみじん切り。生姜とニンニクも。生姜はわたし好みにかなり粗くする。すじ肉の下ごしらえまでしておいたのを取り出しておく。

まず脂で丸ねぎを炒める。飴色になるまでじっくり炒めるのが定石だけど、わたしはいつも待ちきれない。透明になったぐらいでニンニクと生姜を投入していい香りがしてきたら、みじん切りしたスパイスたちを放り込む。

「うわー。独特の香りだね」

そうこの刺激臭はお腹にきゅっとくる。よーく火を通したら、お水をいれる。パクチーの香りがかなり強い。味をみてみる。うーーーん、少し違うな。スパイシーではあるけれど、ひとつの味が尖っている気がする。クミンを入れてみる。お、味が引き締まる。これはちょっと多めに入れるのがいいかも。もう少しクミンを足して味をみる。うん、いいんじゃない。まとまった感じになった。下ごしらえしておいたすじ肉をいれる。あとは塩を足して。水分を飛ばすようにして、味を整える。やっぱりわたしが今まで作ってきたスパイスでのカレーともまた違うけれど、これはこれで。いろんな野菜を入れてもまた味が深くなるかもね。

「食堂のメインにしようかと思ってるカレーだよ」

「今日のご飯で食べられるの?」

今日の当番の子と話し合う。今日はまだ何もしていないから、明日に振り替えてくれても構わないということだ。みんな興味津々なので、今日の夕ご飯にすることにする。

少し煮詰まってきたかな。

味見する。もうちょっと辛くていいな。

チャーリーに味見してもらう。

「もうちょっと辛くして平気かな?」

「おれはこれでもいいけど、もうちょっとなら平気かな」

「あ、ちびちゃんたちに辛いかな?」

「メイ」

チャーリーがメイを呼んだ。

小皿に少しだけよそったカレーをメイに味見してもらう。

こくんと小さな喉が動く。

「辛い?」

「辛いか?」

一瞬動きを止めたメイだけれど、ぱっと顔をあげると、瞳をキラキラさせた。

「ヒリヒリする。けど、おいしー。もっと食べたい」

わたしとチャーリーは顔を見合わせた。

お鍋を出して、この時点でちびちゃんたち用の出来上がりとする。

大きい鍋では、さらに唐辛子を追加だ。塩とね。

外から帰ってくると、みんな台所に直行してくる。素晴らしくいい匂いがしているからね!

お酢が手に入ったから、ドレッシングができる。

わたしはドレッシングのレパートリーをチャーリーに伝授する。

こうなってくると胡椒がないのが寂しいが。お酢があるだけでも全然違うしね。

ミントも手に入ったのでズッキーニもどきのサラダにする。ズッキーニもどきをざく切りして茹でる。風魔法をあてて冷まし、お酢とクルミ油と塩のドレッシングにつけて、ミントの葉をちぎっていれる。冷やしていただくとおいしい。ここでは冷ますだけだ。ミントの爽やかさを感じられるサラダだ。

それから密かに楽しみなヤングコーンだ! 元の世界で最初ヤングコーンを見かけた時は、なんじゃこりゃって思った。スーパーでとうもろこしのように皮に包まれたものが、袋の中に何本も詰め込まれていた。調理方法を書いたペーパーが入っていたから試しに買ってからの大ファンだ。

お手伝いに行っている農家さんでなんと、とうもろこしを育てていた。こちらではモロコシだ。大きく育てるために、間引いて捨てるというヤングコーンをたんまりもらってきた。

モロコシも育つのが楽しみ! コーンご飯はみんなきっと喜ぶ。おにぎりにしてもおいしいしね。

とうもろこしのレンチン技、考えた人本当すごい! そしてラップに包むだけではなく、皮ごとの発想をした人、神! それを世に知らしめてくれたことに心から感謝する! 皮のままの調理、水分量が神業だ。それはヤングコーンでも同じだった。ヤングコーンは、2、3枚皮をむいて、水にくぐらす。そしてこのまま丸焼きするだけ! 個人的には皮に焦げ目ができるぐらいが、一番おいしいと思っている。食べる直前に薄皮を剥いて、塩をかける。塩、胡椒、オリーブオイルがおいしいんだけどね! 好みによって、チーズをかけたり、七味唐辛子だったり、いろんなレシピがあった。オリーブオイルをかけてからまたちょっと火を入れると、ひげが香ばしくなって、めちゃくちゃおいしい! わたしは料理と呼ばないかもしれないが、こういうシンプルなのも大好きだ。皮と根元のところは残して、みんなにはバナナみたいにかじりついてもらおう。だから塩を振っておくだけだ。ヒゲがいい仕事するんだよ、口の中で。辛いカレーの箸休めにぴったりだ。この短い期間しか食べられない旬物だしね。

ヤングコーンはいっぱいいただいたので、相当の量ができた。これはおいしいから、農家さんにも食べてもらわないと。ただ、今日は市場に行ったので、今度はさらに距離のある農家さんまで行くとなると、気持ちが萎える。

外に出ると夕焼けが始まろうとしていた。

「ランディ、どした? また買い物か?」

エバンスが走り寄ってきた。本当にいつも駆けっている。どういう体力をしているんだろう。

わたしは風呂敷(わたしがそう呼ぶだけの布切れ)に包んだヤングコーンを掲げて見せた。

「農家さんにいただいた野菜を料理したから、これを届けてこようと思って」

料理ってほどじゃないけど、この美味しさを知ったら、捨てることはできなくなると思う。

「おれが行こうか?」

「遠いよ?」

「ランディが今から歩いて行ったら、夕ご飯までに帰って来られないだろ?」

うっ。

「エバンスも人が良すぎるね」

お使い要員になっちゃうよ。

「お前ほどじゃないけどな」

「わたしはお人好しじゃないよ」

というと笑われる。

「金も生活力もあるのに、ここに居て、まだ10歳未満なんだから働かなくてもいいのに率先して食べ物取ってきてさ、同じように働いて同じ飯しか食わないなんて、お前相当なお人好しだよ」

エバンスに頭を撫でられた。

「おれも、お前の兄ちゃんだからな。任せとけ」

ちょっとだけ、こそばゆく、嬉しく思う。

「じゃぁ、お願いします。よろしく! ありがとう」

わたしは荷物を手渡した。エバンスは風呂敷を持つと、行ってくると駆け出して、あっという間に見えなくなった。

いいやつだ!

あっという間に行って、あっという間に帰ってきた。すごく喜んでくれたらしい。よかった。

初めてのカレーは、辛っと思うのに、また食べたくなる『クセになる』を体得させたようだ。みんなかきこんで食べてくれて、おかわり続出だ。酸っぱ目のミントのサラダもヤングコーンも『おいしい』が止まらない。

大きなスプーンで、ご飯とカレーを半々ぐらい。口いっぱいに頬張っちゃう。

くーーーーーーーーー、おいしい!

そう、これが食べたかった!

辛さの後に野菜の甘さとお米の甘さが際立つ。パクチーがちょっと爽やかな演出を。生姜の、この食感も最高。うまい! すじ肉が口でとろける。たまらん!

サラダもおいしい。ズッキーニもどきが酸味と爽やかさを含んでいて、暑い時も元気が出てくる味だ。ミントがいい仕事をしているんだよ。この爽快感がいい。

ヤングコーンに言葉はいらない。とうもろこしになる前のおいしいがぎゅーっと凝縮されている。少し歯応えがあって、ひげが甘くて、ほんっとおいしい!

かなり大量に作ったカレーは一晩ですっからかんになった。お代わり続出で、お米が足りなくなったほどだ。

これを食堂のメインにするつもりだと話すと、みんなこれはいけると保証してくれた。