軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70話 君を想う⑥ジャンクフード

「この街の子供か?」

王子の影だ。なんでこんなところに。あ、噂が届いたのか?

「……はい、そうです」

一瞬、目を泳がせてしまった。

「領主の家はどちらだろうか?」

メイが貴族街の方を指差す。

「領主様のお屋敷は貴族街の丘の上にあります。貴族街はあちらです」

メイの指さきと続く道を確かめて、黒マントの銀髪の人は頷いた。

マントの中も長袖だ。もうずいぶん気温は上がってきているのに、暑くないのだろうか。

「ありがとう。君、私とどこかで会ったことがあるだろうか?」

「いいえ」

それは本当なので目を見て答える。

「本当みたいだな。時間を取らせて悪かったね」

メイは手をブンブン振っている。

本当みたいだなって何? スキルかなんかでわかるの?

最初に驚いちゃったのがバレたのかも。

「ソレイユが大人になったのかと思っちゃった」

わざとらしくなっていないことを祈りながら、少し大きな声でメイに話す。

「髪の色が同じねー」

メイがいい反応をしてくれる。

影がやってきたということは、噂がアルバーレンに届いたのだろう。でも、王子たちも意味不明だろうな。探している側室が、姿を変え、いつの間にか子供を産み、聖女と崇められている。聖水まで作って。そして容姿も性格も誰だそれ?というようなどこにも接点がないものなのだ。ハナがいるとは思わなくても、聖水のウソはほおっておかないでくれればいいのだが。

そうは思っていたけれど、実際に影が来ると少しおっかない。どうなることやら。

わたしとメイは昼食のおにぎりを配達して、途中ベルンとクリスと合流してアジトへ戻った。このおにぎり配達も、なかなかいい収入だ。他の仕事も入っているので、これは週2日だけだ。

リックが洗濯してくれて乾いた洗濯物を畳んで棚にしまい終わり、畑にでも行くかと元気よく歩き出したら、ナッシュの背中にまともに衝突してしまった。

「ごめん、よそ見してた」

「こっちこそ、ごめんね」

言いながら、ナッシュが首を傾げた。

「どした?」

「ん、いや」

といいつつ、首を傾げ、背中を気にしている。

どうしたんだろうと思っていると、ふと、ソレイユに手を引っ張られる。

「ランディ、買い物に行こう」

「買い物? 何を?」

「いいから」

さっき街に行ったから、もうそんなに歩きたくないのだが。ソレイユに引っ張られるまま、大通りまでくる。

「ランディ、お金持ってる? ないなら僕が買うんで全然いいんだけど。その場合、僕の好みで買っていい?」

??

「何を買うの?」

全然わからないのだが。

「胸あて」

「え?」

「大きい声で言って欲しい? 女の子はね、たとえささやかでも胸が膨らんできたら胸あてをするんだ」

「そ、ソレイユ何言ってるの。わたしは」

「違うなら触れて確かめていい?」

「こんな道の往来で何言って」

「じゃぁ、ふたりきりになれるところならいいの?」

思わず言葉に詰まる。

「いじめすぎたかな。ほら、買っておいで。大丈夫だよ、普通の下着が売ってるから」

服屋の中に追い立てられる。

何でバレたんだろう? 確信してるね、あれは。メイと眠っているからかな。カルランに続きソレイユにもバレたか。

「何が入り用だい?」

「あの……胸あてを」

どこから見ても男だと思われるだろうし、買いたいものを口にして言わなくちゃいけないところも恥ずかしい。それにたいして膨らんでもいないのに大げさすぎる。驚いた顔をした20そこそこのお嬢さんの後ろから、恰幅のいい女性が現れて、手招きした。

「こっちにおいで」

部屋の中に招き入れられる。

「そうだね、あんたぐらいだと、これかね」

白っぽいワイヤーなしのブラって感じだ。ああ、よかった。以前見たこの世界の下着が強烈だったけど、本当にアレがおかしかったのだ。ソレイユの言うことは本当だった。

胸あてをふたつと、サラシをふたつ購入する。

「これで抑えつけるのかい? 成長期にはオススメしないけどね。まぁ、生きていくためにはそうも言ってられないか」

お金を払って、外に出る。

外では全年齢の女性から熱い視線を注がれたソレイユが待っていてくれた。

「買えた?」

「うん、買った。……ソレイユ、ありがとう」

「どういたしまして」

ソレイユは微笑む。変な方向から黄色い声があがった。

罪作りな皇子さまだこと。

わたしたちはアジトに向かって歩き出した。

「ソレイユはさ、赤いか緑か黄色で水分の多い野菜で、中にちっちゃな種がいっぱいあってね食べられるんだけど、その周りがちょっとドロドロで。酸っぱい野菜なんだけどさ。そんなの知らない?」

「……ごめん、わからない」

「そっか。いや、いいんだ、ありがとう」

ここのところ、ジャンクフードが食べたくてしょうがない。

あれ、なんなんだろう。体に良くないってわかっていても定期的に食べたくなるのだ。カップ麺とか、ポテチとか、アメリカンドックとか。味はすっごいジャンクなのに。30をすぎるとその数もガクンと減ったが、やっぱり時々食べたくなる。さらに40を過ぎると、体調のよくない時だと食べるともたれたりして後悔したりもした。食べたくはなるけど、体が受け付けなくなっていく。

体が子供に戻った今なら、食べ放題なのに!

というわけで、わたしは今ホットドックが無性に食べたいのだ。

お酢も手に入ったからキャベツの酢漬けとかも作れるしね。

なんちゃってソーセージも作れるから、足りないのはケチャップだ。

欲をいえば辛子も欲しい。確か種を擦って溶いた気がする。なんて植物だったっけ。辛子そのままだなって思えた名前だったような。辛子はなくても許せるが、ケチャップは外せない。

その肝心なトマトを見かけないんだよね。

「水分がそんなになくていいなら、赤くて酸っぱい野菜ならあるけど」

「なんていうの?」

「マットマ」

「それだ!」

「え?」

わたしはソレイユの手を取って、市場へ向かって駆け出した。マットマって絶対トマトだよ。

「ランディ、その笑顔恐いんだけど」

隣のチャーリーから指摘が入る。

「恐がってくれて、全然かまわないよ」

だって、食べたいと思うときに、食べられる幸せったらないよね。顔がにやけてしまう。

まずはケチャップ、トマトソース作りだ。ケチャップを作ったことなんてないから適当だけど。

基本の丸ネギみじん切りだ。ニンニクもみじん切り。

トマトは湯むきが面倒だから、皮に十字を入れるところまで一緒。ヘタのところにフォークをぶっ刺して、直接火に当てる。皮がひとりでにめくれてきて面白い。

マットマはトマトをぎゅっと凝縮して水分をなくしたような野菜だった。味はトマトのまま。

皮がめくれてきて熱くなったマットマをお水につけると、皮がさらにめくれあがる。皮をむいたらざく切りだ。

お鍋にマットマ、丸ネギ、ニンニクを入れる。さらにスッタイ、アグレシの蜜を入れて、弱火でグルグルかき混ぜる。塩で味を整えれば、いかがでしょう? ひと舐めしてみる。トマトの水分が少ないからか、堅めのソースになってケチャップっぽい。ふふふ。

次はソーセージもどきだ。

と、ある企画の仕事をやってから、加工肉に手が出しにくくなってしまった。発色剤が体に良くないという記事で、それを読んでから気が引けて。うちの近所のスーパーだと発色剤の入っていない加工肉の種類が少なくて。で、まぁ、なんちゃってソーセージをつくるようになった。羊腸を買うのは面倒なので、そこまではやったことがない。

ひき肉とハーブ、塩胡椒をしてこねこね。それをラップで飴つつみして、茹でる。それだけ。

ここではラップがないから、お肉を細かく切ってひき肉っぽくなるまで叩き、スパイスと軽くこねてソーセージの形にしてジュージューと焼く。キャベツの千切りもスッタイで炒めて塩をしてある。チャーリーにソーセージもどきを焼いてもらって、わたしはコッペパンに縦に切れ目を入れる。パンも少し温めて。キャベツの酢炒め、ソーセージを挟み込み、マットマソースを上からかける。おいしそーーーー。チャーリーがごくんと喉を鳴らした。

「ね、おいしそうでしょ」

味見したいけど、我慢だ。

みんなの分を作って、バッグに入れる。

野菜の具沢山スープに、玉ねぎを輪切りにしてフリッターぽく揚げてみた。

炭酸があったら、ジャンク極めりなのに、残念だ。

ホットドックはとても喜ばれた。この暑くなり始めに、ちょっと酸っぱいものってのは体に効くよね。だからおいしいも倍増だ。

スープは野菜の甘味がたっぷり。食べたくて仕方なかった、ホットドック。

一口頬張れば、ソーセージからジュっと脂が出る。プリっぷりの歯応えに、しゃくっとした少し酸っぱいキャベツと甘酸っぱいトマトソースが混ざり合う。

くーーーーーーーーーーーー、うまい!

揚げた丸ねぎも、甘さが際立つ。さくっとした中にねっとりした甘さだ、次々と手が伸びる。

みんな嬉しそうに頬張っている。口に詰め込んで食べるのも、ジャンクフードだったら正義だ!